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2012年3月

2012年3月31日 (土)

感じる科学

著  者:さくら剛
出版社:サンクチュアリ出版
出版日:2011年12月10日 発売
評  価:☆☆☆(説明)

 出版社のサンクチュアリ出版さまから献本いただきました。感謝。

 はじめに言っておきますが、この本は、バカバカしい本です。冒頭から直截な物言いで失礼したけれど、これは本書の「まえがき」の1行目の文だ。本書は「光の性質」「相対性理論」「量子論」「宇宙」「進化論」など、物理学などの「科学」の各分野をテーマとした本。その本がどうして「バカバカしい」のかと言うと、「その方が楽しく読んでもらえる」と著者が考えたかららしい。

 その反面として、学校の物理学の教科書はつまらない、市販されている「○○学入門」には、「「○○学入門」入門」という本が必要だ、と著者は言う。私を含め、物理学の授業に落ちこぼれてしまった人は多いだろうから、ここの部分は首肯する人も多いだろう。でも「バカバカしい」のは「楽しく読める」だろうか?

 例えば光の性質を説明するのに、「照明から発射された光の粒は、少女のしっとり首筋に当たるとそこでプヨーンと跳ね返り...」とか、「...ある意味これはA子ちゃんの唇と俺の眼球との間接キスということに」と妄想全開の例え話をする。どうだろう?楽しく読めそうだろうか?かなりのキワモノには違いない。性に合わない人にはオススメできない。私?私はこういうのが嫌いではないので、楽しく読めた。

 ただ「楽しく読めた」としても「よく分かった」とはならない。本書で取り上げたテーマはどれも奥深い研究課題で、「よく分かる」ためには、知識をひとつひとつ積み重ねる必要がある。だから難しくてよく分からないことはやっぱり分からない。著者自身もよく分からないこともあるようで、それももちろん分からない。

 つまり本書は「よく分かる入門書」ではない。本書の役割は「よく分かる」ことはではなく、取り上げたテーマのうちの1つでも、「なんじゃそりゃ~~!!」と思って興味を持ってもらうことだ。

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2012年3月29日 (木)

人質の朗読会

著  者:小川洋子
出版社:中央公論新社
出版日:2011年2月25日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。

 地球の裏側にある村の山岳地帯で、反政府ゲリラに拉致され人質となった、日本人ツアー客と添乗員の8人。百日以上が過ぎた後、人質が拘束されているアジトへ特殊部隊が強行突入。結果、犯人グループは全員射殺、同時に人質8人も全員、犯人の仕掛けたダイナマイトで爆死した。

 本書は、その拘束された生活の中で、人質たちが自ら書いた話を朗読する声を録音(盗聴)したもの、という設定だ。それぞれが「僕」「私」という1人称の物語になっていて、自らの過去の物語、未来がどうであろうと決して損なわれることのない「過去」を語っている、とされている。

 こんな設定ではあるが、まぁ人質8人と+1人分の全部で9つの短編集だ。同じツアーに参加したという以外には共通点がない人々が、自分の過去を語っているのだから、物語にもつながりはない。ただ、「人質」という共通の状況からか、「死」というものが遠くに近くに見える話が多い。

 本屋大賞にノミネートされているし、私の周囲からも良い評価が聞こえくるのだけれど、私はそれほど良く思わなかった。いやいや、それぞれの物語は、情景が思い浮かぶような、静かな余韻を残す著者らしい物語ばかりで、なかなか良かった。

 単純な短編集としてなら良かったのだけれど、本書のキモは「人質がそれぞれの過去を語る」というシチュエーションにあると思う。未来どころか明日をも知れない状況で話す一言一言は、それだけで特別な重みがあるはずだからだ。問題は、そのシチュエーションに、読者がどれだけ感応できるか、というところにある。

 私にはその感応力が無かった、ということなのだ。上に「著者らしい物語ばかりで..」と書いたが、これには皮肉もこもっていて、言い換えればどれも著者が書いた物語に思えてしまった(もちろんそうなのだけれど)。これでは「それぞれの過去を語る」という受け止め方ができなかった。

 「人質がそれぞれの過去を語る」というシチュエーションは、類稀なるセンスだと思う。年齢や職業を付記するというアイデアも良かった。だからこそ、それぞれの人物の個性を感じる物語や語り口が欲しかった。

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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2012年3月25日 (日)

ルーズヴェルト・ゲーム

著  者:池井戸潤
出版社:講談社
出版日:2012年2月2日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 熊本日日新聞他に順次掲載された新聞小説に加筆修正し、単行本にしたもの。昨年上半期の直木賞受賞作で、ついでに言うと私の「2011年の「今年読んだ本ランキング」」1位の「下町ロケット」の著者の、受賞後の単行本第一作。

 舞台は、年商500億円の中堅電子部品メーカーの青島製作所と、その野球部。5年前に外部のコンサル会社から営業部長として入った細川が、創業者である現会長の青島から社長を引き継いで2年。細川の営業部長としての手腕で業績を伸ばしてきた同社も、金融危機を契機とした不景気のあおりを受けて、青息吐息の状況。

 主要取引先からは取引量の減少や値下げを言い渡され、ライバル会社はなりふり構わぬ営業攻勢をかけてくるし、銀行は運転資金の融資の条件としてリストラを迫る。当然、野球部にもその影響はおよび、役員会で廃部さえ言及される。何と言っても、野球部には年間3億円かかっている。おまけに前監督がライバルチームに移籍する際に、エースと4番打者を引き抜き、成績は芳しくない。

 物語は、青島製作所の経営と、野球部のチーム運営のそれぞれを、時に交錯させながら描く。それぞれには、さらに厳しい試練が待ち構えていて、存亡の危機に立たされる。野球の試合のように、起死回生の逆転劇はあるのか?(そいういう英語の言い回しがあるのかどうか不明だけれど、帯に「奇跡の大逆転劇」に「ルーヴェルト・ゲーム」とルビが振ってある)

 物語の趣向は「下町ロケット」と同じ。危機に瀕した中堅企業が、身の内に葛藤を抱えつつ、その技術力とチームワークで危機に立ち向かう。これですべてが解決したわけではなく、(「下町ロケット」よりも、さらにストレートな感じでもあり)現実はもっと厳しいはず、という指摘もあるだろう。でも、ところどころに仕込まれている「いい話」に、「あぁ、仲間っていいなぁ」とホロッとする。(私と同じように)そういうのが好きな人におススメ。

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2012年3月21日 (水)

決起! コロヨシ!!2

著  者:三崎亜記
出版社:角川書店
出版日:2012年1月31日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 昨年6月に「これはハマってしまった」とレビューに書いた「コロヨシ!!」の続編。月刊小説誌「野生時代」に連載された「コロヨシ!!シーズン2」を書籍化したもの。

 主人公は高校3年生で「掃除部」の主将の藤代樹。「掃除」はこのシリーズでは、芸術性や技術の高さを競うスポーツになっている。前作で樹は「掃除」の全国大会に出場し、個人競技第3位になった。これまでは、政府直轄校が上位を独占していて、一般校の樹が3位に入ったことで注目の受けている。

 樹が注目を受けるのには他の理由もある。この国では先の敗戦によって、国技を持つ権利を失った。「掃除」も理由は定かではないが、政府の厳しい規制の元にあった。それが、敗戦から40年がたち、新国技の候補となって、脚光を浴びているのだ。ただ「居留地」「西域」という名の、この国を取り巻く国々は、その動きに警戒感を募らせている。

 このような説明から、独特の世界観を少し感じてもらえただろうか。この世界観を理由として、前作のレビューで「普通の青春小説とは一味違う」と書いた。逆に言えば一味違うとは言え、前作は「青春小説」だった。友情、家族との葛藤、挫折と克服、淡い恋。

 しかし、本作では「青春要素」は背景に引いて、陰謀渦巻くアクションサスペンスになっている。著者が作り上げた世界観も、前作では「一風変わった設定」にしか感じなかったが、ストーリーに深く関わって生きてくる。前作の延長線上にはない、思わぬ大がかりな展開。タイトルの「決起!」と樹が叫ぶ時には、読者は遥か遠くまで連れて来られている。

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2012年3月18日 (日)

誰かが足りない

著  者:宮下奈都
出版社:双葉社
出版日:2011年10月23日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。沼田まほかるさんの「ユリゴコロ」と同じく、私にとっては著者の初めての作品。私は本屋大賞を、新しい作家さんとの出会いに使っている。

 駅前の広場に面した「すごくおいしい」と評判のレストラン「ハライ」。本書はこのレストランにまつわる6つの物語からなる。と言っても、レストランそのもののシーンはごくわずか。それぞれの物語の主人公たちが「ハライ」へ食事の予約を入れる、という形で関わっている。さて、人はどんな時に「すごくおいしい」レストランで食事をしようと思うのでしょう?

 それは例えば、何かのお祝いであったり、歓迎会や送別会であったり、慰労や激励のためであったりと、何かの節目を迎えた時に思うことが多いだろう。6つの物語は、お祝いでも歓送迎会でも慰労・激励会でもないけれど、主人公たちが新しいことに向かう節目を迎え、「ハライ」に予約を入れる。物語はそれぞれの「節目」に至る様子を描く。

 主人公たはみんな、変わり映えのしない平凡な日常を生きている。その平凡な日常を平凡に描くだけでは退屈してしまう。正直に言って退屈しかけた。しかし、平凡な中にも小さなトゲは存在するし、変わり映えがしないこと自体が重荷にもなる。本書は、その小さなトゲや重荷を丁寧に描くことで、その退屈さを免れ、「節目」に至ることで、小さな暖かさを読者の胸に残す。

 6つの作品はそれぞれ「予約1」「予約2」...「予約6」とタイトルが付けられている。後ろにいくほど退屈さを感じることなく、物語に引き込まれた。「予約5」はあっさりとしたユーモアと意外な展開があり、「予約6」はそれまでとは異質な緊張感が漂う。

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2012年3月14日 (水)

炎路を行く者

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2012年2月 初版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の代表作の一つ「守り人」シリーズの外伝。「炎路の旅人」という220ページの中編と、「十五の我には」という50ページ余りの短編が収録されている。

 「炎路の旅人」は、同じ出版社から出ている「「守り人」のすべて」で明らかにされて(「あとがき」によると、もっと前に「精霊の木」の再販時の帯でも予告されているそうだ)、そのレビューで私が「あぁ、それも読みたい」と嘆息した作品。「蒼路の旅人」で、主人公チャグムをさらったタルシュ帝国の密偵、ヒュウゴの少年時代の物語だ。

 ヒュウゴは、故国のヨゴ皇国を滅ぼしたタルシュ帝国の皇子の密偵という役柄。何故に、故国の仇敵の皇子に仕えることになったのか?それがこの物語で明らかにされている。その「種明かし」的な役割は、もちろんこの物語の大きな魅力なのだけれど、私は別のことにも魅かれた。それは、武人の子でありながら市井に生きる、少年ヒュウゴの内に溜めたエネルギーの危うい有りようだ。

 彼は「武人の子」という強い意識を持っていて、その正義感から少年たちの抗争に身を投じることになる。武術の訓練を受けた彼は、街のゴロツキなど相手ではなく、たちまち頭角を現す。しかしそれは、「武人の子」として正義感と同じように持っている、「祖国や民を想う心」にはつながらず、自らの思いと力を完全に持て余してしまう。見ていて本当に痛々しい。さらに「蒼路の旅人」に至っても、その思いと力を果たすには、「未だ路半ば」といったところだ。

 「十五の我には」は、「守り人」シリーズの主人公のバルサの15才の頃の物語。「天と地の守り人」の頃のバルサが回想する形になっている。実は「炎路の旅人」もヒュウゴ自身の回想。2つの物語は良く似た構造になっている。そして構造が似ているだけでなく、「十五の我には」の中で、バルサの養父のジグロが歌う「十五の我には見えざりし...」と始まる詩が、「炎路の旅人」にまで響く。さすがに上橋さん、お見事です。

 コンプリート継続中!(単行本として出版された小説)
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2012年3月11日 (日)

仙台ぐらし

著  者:伊坂幸太郎
出版社:荒蝦夷
出版日:2012年2月18日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今日は、あの震災からちょうど1年。昼間に行ったスーパーでは2時46分に黙とうした、新聞やテレビではたくさんの特集が組まれている。しばらくは、「あの日」を思い出す日になるのだろう。この本が「震災の本」としてひとくくりにされることを、著者は恐れていることを断った上で、敢えて紹介すると、本書では著者が、震災とその後についてその心の内を語っている。

 「仙台学」という雑誌に、2005年からおおむね半年に1度の割合で、2010年まで連載されたものを中心に15本のエッセイと、「ブックモビール」という書き下ろし短編を収録。著者は、仙台の街の喫茶店を転々と場所を変えて、その一隅で小説を書いている。つまり、行動範囲は広くないながらも、毎日のように街に出ているわけだ。

 エッセイの多くは、そうした時に街で出会った人や、その時感じたことを書いている。そこには、著者の観察眼の鋭さや優しさ、そして微笑ましいほど心配性で自省的な性格が表れている。「あの」と声をかけられると、「この人は本を読んでくれているんだな」と思ってしまい、そうでなかった時に赤面する著者が、私はとても好きだ。

 さて、震災について。著者は震災当日からの1カ月ぐらいの出来事や、感じたことを書いている。震災の後は多くの人が「自分には何ができるのだろう」と自問した。何らかの意見や態度を表明しなくてはいけないような気もした。作家という立場の著者は、そうした気持ちをより強く抱いたようだ。

 生活は落ち着きを取り戻しても、元通りになったわけではない。著者も「小説を書く」ということの意義や意味が分からないままらしい。意義や意味など分からなくても良い、著者が描く物語を読みたいと思う読者がいる、それで十分だ。著者もそれに気付いてはいるようで、安心した。

 Keep going, and keep doing what you're doing.....keep dancing. 著者の友人に海外から届いたメールにあった言葉だそうだ。「自分には何ができるのだろう」という自問への1つの答えが、ここに書いてある。

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2012年3月 7日 (水)

一瞬の風になれ 第一部 第二部 第三部

著  者:佐藤多佳子
出版社:講談社
出版日:2006年8月25日(1)、 9月21日(2)、10月24日(3) 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2007年の本屋大賞、吉川英治文学新人賞の受賞作。私が本屋大賞を意識しだしたのが、2007年からで、その年のノミネート作品は「夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦」「風が強く吹いている/三浦しをん」「終末のフール/伊坂幸太郎」「図書館戦争/有川浩」「鴨川ホルモー/万城目学」「失われた町/三崎亜記」等々。

 現在の私が大好きな作家さんの作品が目白押しで、本屋大賞が出会いのきっかけとなっって、私の読書傾向が形作られたのは明らかだ。その特別な年の大賞作品にも関わらず、これまで読まなかった理由は、1つには図書館で借りようと思ったら貸出中で、読むタイミングを失したのと、もう1つには3巻もあるので、ちょっと読むのを躊躇したことだ。その躊躇を今は後悔している。

 主人公は神谷新二。高校生。中学まではクラブチームでサッカーをやっていたが、高校で陸上部に入って短距離の選手になった。第1巻はその1年の春からシーズン中を描き、第2巻は1年生のシーズンオフから2年生のシーズン中、第3巻はその後から3年生のシーズン中のインターハイ予選を描く。

 読み終わって清々しい気持ちになった。陸上の経験や知識がある人が読めば、さらに違った感想や感慨があるのだろうと、少し悔しく思う。陸上は基本的には個人競技。新二は100、200mを走る短距離選手なのでタイムの更新が1つの目標。つまり過去の自分が相手なのだ。

 ところが、物語は個人ではなく、人と人との関係を徹底して描く。新二を中心にして家族、親友、陸上部の同級生、先輩、後輩、顧問、他校の選手、監督...。短距離にも「4継」と呼ばれる100m×4の400mリレーがあって、これは正に団体競技だし。100mだって1人だけで競技するわけではないことがよく分かる。

 新二と周囲の関係という広がりを空間軸、高校生活の3年間を時間軸として、新二(とその周囲)の逞しい成長を体感した。「3年間」を体感するためには、3巻分の長さが必要だった。

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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2012年3月 3日 (土)

夢違

著  者:恩田陸
出版社:角川書店
出版日:2011年11月15日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 2010年から2011年にかけて、東京新聞ほかに掲載された新聞小説。

 舞台は、人が寝ている間に見る「夢」を記録できるようになった世界。主人公は、その記録を元にした夢の解析を職業とする「夢判断」の浩章。学校で子どもたちが集団白昼夢を見る事件が頻発し、浩章は他の「夢判断」たちと共に、その解明のために子どもたちの夢の解析を始める。

 集団白昼夢事件は、1クラスの子どもたち全員が「何か」を見て、ひどく怯えて教室を飛び出したのに、誰も「何を」見たのか覚えていない、といったものだ。その他には、行方不明の子どもが、何日かしてフラッと戻ってくるなど、超常現象とも言える出来事の数々が起きる。

 不思議な話だった。解析のため他人の夢を見る主人公も、時々現実からすべり落ちるように白昼夢を目にする。出来事の多くも常識的にはあり得ない、まるで夢の中の出来事のようだ。この物語全体が誰かの夢のようでもあり、「夢を見ている夢」のように、「彼我」と「夢と現実」の輪郭が曖昧で実に頼りない感覚が続く。

 以前に「人間の意識は「個人の無意識」のさらに奥で「集団の無意識」につながっていて、夢はそこへアクセスしている。予知夢や共有夢などがこれで説明できる」という説を読んだことがある。出版社のサイトによると、著者はずっと「夢は外からやってくる」と感じていたそうだ。恐らく同じようなことを言っているのだと思うが、著者が表現すると短く直観的に分かるし、こんなにも豊かな物語にもなるのだ。

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2012年3月 1日 (木)

ユリゴコロ

著  者:沼田まほかる
出版社:角川書店
出版日:2011年3月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。私にとっては著者の初めての作品。

 主人公は亮介。20代半ば。犬のためのドッグランを備える会員制の喫茶店を経営している。父母と弟の4人家族で、将来を共に考える女性にも恵まれていた。ところがわずか半年足らずの間に、彼女の失踪、父親の末期癌の診断、母親の死に相次いで見舞われる。物語はそのショックから、幾分立ち直った夏の日から始まる。

 父親の癌はともかく、彼女の失踪も母親の死も謎が残るものだった。彼女はなんの前触れもなく居なくなってしまったし、母親は赤信号でふらりと道路に踏み出し、トラックにはねられている。ミステリーに謎は不可欠なのだけれど、この謎は本書では背景に過ぎない。読者にはもっと鮮烈な謎が突きつけられる。

 それは、亮介が実家の押入れの中で見つけた段ボール箱の中にあった。ひと束の黒髪と、「ユリゴコロ」とタイトルが付けられた4冊のノート。「私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通とちがうのでしょうか」で始まるそのノートには、信じがたい告白が書いてあった。このノートに書かれていることは真実なのか、これを書いたのは誰なのか?

 乙一さんの「GOTH」を読んだ時の感覚が蘇った。「GOTH」のようなグロテスクな描写は少ない代わりに、心理的な圧迫感は大きい。描かれているのは、人の死や「人を殺すこと」に惹きつけられてしまう、冥く乾いた欲求。それに対して感じるのは(道徳的な)嫌悪感。ただ、その奥でチラチラと(不道徳な)興奮が揺らめく。その揺らめきを肯定するか否かで、本書の評価は分かれると思う。

 私としてはどうしても肯定できない。にも関わらず、読み終わった後味が妙にさっぱりしていたのは「GOTH」と同じで、不思議だ。

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