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2011年9月

2011年9月28日 (水)

もっと論理的な文章を書く

著  者:木山泰嗣
出版社:実務教育出版
出版日:2011年9月10日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 まずは、「こんな本をよく出したなぁ」と感心した。「こんな本」とは「論理的な文章の書き方を書いた本」という意味だ。論理的な文書の書き方を書いた本の文章は、当然論理的でなければならない。万一そうでなければ、本も著者も自滅してしまう。
 そうすると読む方も、「どれどれ、どれだけ論理的か見てやろうじゃないか」と、意地悪くなりがちだ。意地悪く読めば、アラの一つや二つは見つかる。こんな本を出す著者はよほど勇気があるか、自信があるか、浅薄なのか。弁護士で法科大学院で文章セミナーの講師を務めるというから、この著者は「自信がある」のだろう。

 私も実は意地悪く読み始めた。いくつかの「論理的でない(少なくとも私はそう思う)」文章も見つかった。それを書評に書けば、弁護士の著者の鼻を明かして、ちょっと気分が良かったかもしれない。しかし3分の1ぐらい読んできたところで、著者のこんな文章が目に留まった。

 「でも、しかし」とは考えずに素直にお読みください。

 そうなのだ。素直に読むことが肝要なのだ。意地悪く読めば気分が良いかもしれないが、素直に読めば得るものがある。どっちを取るかは読む人次第なのだ。
 以前に読んだものにあった、「講演会に来て「目新しいことがなく、得るものがなかった」という人がいますが..」という話を思い出した。いわゆる「エリート」は勉強熱心な人が多くて、本もよく読んで講演会などにも顔を出す。だから大概のことは知識として知っている。けれども、知っているのと実行するのは別のこと。
 学ぶべきは「目新しいすぐに役立つHowTo」ではなく、如何にして実現するかということ。それを実現した当人が目の前にいても「これはもう知っている」と、感覚をシャットアウトしたら何も学べない。ざっと言うとこんな話だった。

 今回の私の場合は、最初っからアラ探しをしていたわけだから、「これはもう知っている」以前の問題だけれど、「学ぼうとする態度次第」という部分は共通する。そう思って読み返すと、この本は結構内容豊富だった。やや「カタチ」に重点が置かれ過ぎな感じがするが、著者は、「すぐに役立つHowTo」の提供を意識したのだと思う。

 少しだけ本書を補足したい。本書の本当のテーマは「説得力のある文章を書こう」なのだ。本書でいう文章とは、小説などではなく主にはビジネス文書の文章のこと。そしてビジネス文書は「説得するための文章」だ。著者は「論理的な文章」=「説得力のある文章」だと考えている。だから「論理的な文章を書く」ようにしましょう、とタイトルにつながっている。

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2011年9月25日 (日)

バスジャック

著  者:三崎亜記
出版社:集英社
出版日:2005年11月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者が描くのは「当たり前でないことが当たり前の世界」。本書もそんな物語が7つ収められた短編集。すべて「小説すばる」に2005年に掲載された作品ながら、短いものは3ページ、長いものは約90ページと、長さはまちまちだ。

 「当たり前でないことが当たり前」で、現実を歪んだレンズを通して見ているような落ち着かなさを感じる。そこまではどの作品も共通なのだけれど、読後感で二分される。読み終わってスッキリとした作品と、そうでない作品だ。

 スッキリした作品は、まず最短の3ページの作品「しあわせな光」で、これは希望の中で終わる。次に短い4ページの作品「雨降る夜に」は、何となくホッとする。表題作の「バスジャック」は18ページ、ピタリと着地が決まった感じ。「動物園」は52ページ、幾分ムリ目な設定を何とか描き切った。
 そうでない作品は、まず冒頭の30ページの作品「二階扉をつけてください」。「歪んだレンズ」を一番強く感じる作品、著者には珍しいブラックユーモア。「二人の記憶」は17ページ、ハッピーエンドに見えるが、本当にそうだろうか?

 最長の約90ページの作品「送りの夏」は、著者の作品のもう一つの特徴である「喪失と回復」を描いたものだ。「喪失」を抱えた人々の寄り添うような暮らしを、小学生の少女の目を通して描く。ただこの物語は、着地がうまくいかなかったように思う。

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2011年9月21日 (水)

感動の条件 序章

著  者:田原実 絵:笹原金賀
出版社:インフィニティ
出版日:2011年7月30日第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は、株式会社インフィニティが発行している「感動コミック」シリーズの第8弾。株式会社インフィニティ様から献本いただきました。感謝。

 このコミックは、大分県中津市の「天’sダイニング 陽なた屋本店」他の飲食店を経営する永松茂久さんの物語。小さいころからの夢だったたこ焼き屋「天までとどけ。」を26歳で開店し、その後、生涯納税額日本一の大商人、斎藤一人氏と出会うまでを中心に描いている。

 一見してサクセスストーリーだ。小学生の頃から「絶対たこ焼き屋になる」と決めていた永松さんが、様々な「ビジネスの先輩たち」(一番の先輩は永松さんのお父さんだ)の導きによって、全国からお客さんが集まる繁盛店のオーナーになっていく。
 もちろん、何もしない若者を導いてやるほど、ビジネスの世界は甘くない。永松さんに、「たこ焼き屋になる」という、がむしゃらとも言える真っ直ぐな熱意と努力があればこそだ。時には厳しく時には優しく力になってくれる大人を、永松さん自身が引き寄せたと言える。

 私としては、このサクセスストーリーだけで十分に面白いのだけれど、これだけでは「感動コミック」には物足りないらしい。詳しくは言えないけれど、感動の勘所は別にある。店の名前の「天までとどけ。」は、ある人に向けたメッセージだ、とだけ紹介しておく。(このブログで何度か書いているが、こういうのは私は必ずしも良しとしないのだけれど)

 永松さんには「感動の条件 」というDVD付の著書がある。私は読んでいないのだけれど、想像するに、本書はその著書に至るまでの部分に焦点を置いた物語、という意味で「序章」なのだろう。

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「感動の条件 序章」 固定URL | 5.ノンフィクション, 52.感動コミック | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年9月19日 (月)

これは、どうしようもないのでしょうか?

 私は、友だちや読書関係のブログを、RSSリーダーに登録して、更新を見逃さないようにしています。そんな中の1つ「プリオシン海岸」に「自分のブログの記事が丸ごと盗用されている」という記事が載っていました。

 私も、3年前に「書くかどうか迷いましたが、書きます。」という記事で、同様の被害に遭ったことを書いています。それで気になったので、いくつかの記事の中の、少し長めのセンテンスを選んで、Googleで検索してみました。

 そうしたら苦もなく見つかりました。続けているとゾロゾロと、感覚的にはいくらでも出てきそうでした。これ以上やっても気分が悪くなるだけだ、と思って止めたぐらいです。これは、どうしようもないのでしょうか?この記事を書いているうちに、また腹が立ってきました。せめて簡単に発見できるツールなり方法なりがあるといいのですが。

 3年前の記事の時に見つけたブログは、私のブログともう1人の方のブログの記事を、丸ごとコピー&ペーストした「読書ブログ」でした。今回もそんなブログが多かったですが、ちょっと違うものもありました。それは、そもそも「読書ブログ」の体を成していないものと、私の記事の一部分だけが使われているものの2種類です。

 前者は、ベタテキストの段落末にネットショップへのリンクが挿入されていました。ブログ名が「アルファベット数文字+数字」で、数字の部分だけが違うものが大量に見つかりました。アフィリエイト目的なのでしょうね。

 後者は、記事の一部分に私の記事の一部分が、語尾を変えて使われていました。数行なので偶然の可能性があることは否定しませんが、語尾以外の言い回しと文章の順番がピッタリ一致しています。
 もしかしたら、ウィキペディアを引用して学校のレポートを作るように、ネットから引用して記事を書いたんじゃないかと思います。悪い事だとも思っていないし、ましてや「自分で感じたことを表現することが大事」だなんて、思ったこともないんじゃないかと、盗用された憤りと同時に、心配にもなってきました。

 下に、見つかったブログや記事を挙げておきます。そのブログのページランクに寄与するのも腹立たしいので、リンクは貼っていません。また、時間のある時に、プロバイダに削除依頼をするつもりです。URLの先が無くなっていれば、それが功を奏したと思ってください。

(2011.10.20 追記)
1ヶ月経ったところで、経過報告をしました。「これはどうしようもないのでしょうか?その後

------------------------------
http://dokusyonowadai.seesaa.net/
元の記事:「銀竜の騎士団」「楽して成功できる非常識な勉強法」「西の魔女が死んだ」「チョコレートコスモス」「夜をゆく飛行機

http://blog.livedoor.jp/z9ww8163/
元の記事:「戦国武将ゆかりめぐり旅」「武田双雲にダマされろ

http://blog.livedoor.jp/fnaiki/archives/51754941.html
元の記事:「飛ぶ教室

http://04185614.at.webry.info/201007/article_5.html
元の記事:「モチベーション3.0

http://tatppag56.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-5f45.html
元の記事:「エデン

http://blogs.yahoo.co.jp/tatppag56/287942.html
元の記事:「新世界 国々の興亡

http://blog.livedoor.jp/tatppag58/archives/1573925.html
元の記事:「上と外

 
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「これは、どうしようもないのでしょうか?」 固定URL | | コメント (4) | トラックバック (0)

2011年9月17日 (土)

島国日本の脳をきたえる 島からの思索

著  者:茂木健一郎
出版社:東京書籍
出版日:2011年8月22日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 著者のことはテレビで時々見かけていた。脳科学者で、人間の行動を脳の働きと関連付けて、ちょっと興味深げな話をする。そんなイメージの人だと思っていた。

 まず、「世界から孤立し、国内の絆もくずれ始めた島国日本。絶対絶命のマウンドに立った脳科学者が投じた渾身の勝負球とは?」という書籍紹介に大変興味を魅かれた。あの茂木健一郎さんは、今の世の中に対してどんなことを言っているのだろう?と。

 結論を先に言うと「~渾身の勝負球とは?」という書籍紹介は、本を売るためのコピーだから仕方ないが、意気込みすぎだったようだ。その「渾身の勝負球」として書かれているのは、「コミュニティを取り戻すこと」と「クリティカル・シンキング(論理的に分析する能力)を獲得すること」の2つ。
 「国内の絆もくずれ始めた」という問題に対して、「コミュニティを取り戻すこと」というボールを投げ返しても、あまり意味がないだろう。震災以後、幾分情緒に流され気味なので、バランス上「クリティカル・シンキング」を言うことは必要かもしれない。ただ、期待したような「渾身の勝負球」という言葉に相応しい熱は感じられなかった。(「どんなことを期待していたのか?」と問われても、私自身答えがないのだけれど)

 このように「渾身の勝負球」を前提にすると、期待外れの感があるけれど、つまらないというわけではない。本書は三部構成で、第1部は、「3.11以後、僕が考えたこと」、第2部は、講演のために出かけた島での体験をもとにした「神津島で、僕が考えたこと」、第3部は、神津島での質問に答える「脳をきたえる方法」だ。
 短い散文の積み重ねなので、前後で辻褄の合わないものもある。しかしそのそれぞれは、私が本書を読む前に感じていたとおりの「人間の行動を脳の働きと関連付けた、ちょっと興味深げな話」だった。

 気になった点が1つ。著者は「安全基地(セキュア・ベース)」という心理学の概念を基に、様々な意見を展開している。言うまでもなく、著者は脳科学者であって心理学者ではない。しかし、心理学と脳科学が混然となって語られていて、専門外の「安全基地」についても、専門家の意見であるかのような錯覚が起きてしまう。

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「島国日本の脳をきたえる 島からの思索」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年9月16日 (金)

新聞社の紙面モニターが終わりました

 3月31日の記事「新聞社の紙面モニターになりました」で、お伝えした某新聞社の紙面モニターの期間が終わりました。4月2日から始まってほぼ2週間に1回、1週間分の記事についてのアンケートに、全部で11回答えました。

 思っていたより大変でした。毎回締切前の日曜日に1週間分の新聞を並べて、片っ端から読み直していました。毎日その日の分をチェックしておけば良いように思いますが、それはできそうでできませんでした。リビングに1週間分の新聞が積み上がったあげく、日曜日には広げられて散らかる、という繰り返しで、妻と2人の娘には迷惑だったと思います。

 いつもよりじっくりと批判的に新聞を読んで感じたことは、「新聞には「真実」は書かれていないのだな」ということでした。「新聞に書いてあることなんてウソばっかりだ」と言いたいのではありません。「真実とは何か」という命題に深入りするつもりもありません。新聞に書いてあることが「真実(本当のこと)かどうか分からない」ということなんです。

 新聞をよく読むと「○○が□□と言った」という記事が多いことに気付きました。そのようには書いていなくても、基本的に新聞は、記者が誰かに取材をして、つまり聞いたことを基にして記事を書きます。ですから新聞は伝聞の巨大な集積、ほとんどの記事は「誰かから聞いてきた」ことなのです。そしてその「誰か」が「真実」を言っている保証はどこにもないのです。

 実際に真実ではなかったことも少なくありませんでした。1週間分の記事を通して読むことで、前の情報を否定する記事を何度か見つけました。前の情報は、真実ではない「誤った情報」だったわけですが、そのことに触れることもありません。伝えられたものが「誤った情報」であっても、「○○が□□と言った」ことは事実ですから「誤報」ではないのでしょう。しかし、この理屈が通るなら、伝聞の巨大な集積たる新聞なんて信用できなくなります。

 さらに取材源の「誰か」が、何らかの意図、あるいは悪意を持っていると感じられる場合もありました。発言の一部だけを報じることで、意味合いが全く違ったものになっていた記事もありました。最近、失言が原因で辞任する閣僚が後を絶ちませんが、その理由の一端にはこうした報道姿勢も関係していると思います。

 ここまでは否定的なことばかりになりましたが、全体としては、そう否定的な印象を持ったわけではありません。上に書いた「前の情報を否定する記事」も、実は「真実」に近づこうと取材を続けた現れでもあるのです。1週間分の記事を通して読むと、徐々に物事の核心に近づいていることが分かる、記者の努力が感じられることがありました。

 「真実かどうか分からない」としても、情報源としての新聞の重要さを再認識した紙面モニター体験でした。

 
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「新聞社の紙面モニターが終わりました」 固定URL | | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年9月15日 (木)

おまけのこ

著  者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2005年8月20日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「しゃばけ」から始まるシリーズの第4作。今回も短編集。表題作「おまけのこ」を含めて5つの短編が収められている。どの物語も問題の原因は妖ではなく、欲や疑心や病、自分でもよく分からない心の縛り、といった人間の内にあるものだった。

 前作「ねこのばば」で、「ハッピーエンドなのかどうか微妙だ」と書いた。本書の冒頭に収録の「こわい」は、その思いが一層進んだ物語だった。「狐者異(こわい)」は、仏にさえ厭われる妖の名前。関われば自分だけでなく、周囲の人間にまで災いを招く。
 それは「狐者異」が何か悪さをするからではなく、「狐者異」がそういう者だからなのだ。一太郎が一太郎であるのと同じで、本人にも変えることができない。ましてや、誰かの力で変えることなどできはしない。それでも一太郎は「受け止めよう」とする。

 これに比べて「おまけのこ」はハッピーエンドと言って良いだろう。他の作品が「妖の力を借りて問題解決」の一本道なのに対して、この作品では2本の物語が並行する。1本は人間が起こした事件、もう1本は「鳴家」の物語。「鳴家」は、恐ろしい顔をした小鬼なのだけれど、これが何とも憎めないかわいいヤツらなのだ。

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2011年9月10日 (土)

格闘するものに○

著  者:三浦しをん
出版社:草思社
出版日:2000年4月14日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 2006年に「まほろ駅前 多田便利軒」で直木賞を受賞、。「風が強く吹いている」「仏果を得ず」「神去なあなあ日常」などのヒット作で知られる、人気作家の著者のデビュー作、2000年の作品。

 主人公は藤崎可南子。就職活動中の文学部の学生。就職希望先は出版社。漫画編集者になりたいのだ。可南子が情熱を持って取り組んだことと言えば、漫画を読むことぐらいで、漫画については一家言ある。
 ただし就職活動には向いていないようだ。「平服で」を「ファッションセンスを見るのだな」と解釈して、気合を入れて黒ずくめに豹柄のブーツで面接に出かけたり、ちょっと立ち寄った古本屋で、高値で取引されている「キン肉マン」を見つけて、嬉しくなって面接を忘れて帰ってしまったり。

 さらに、可南子には妄想癖がある。ある時、集団面接で「学生時代に一生懸命やったこと」として、「彼女を大切にすることかな」と向かいに座った男が答えた。可南子は男の「襟首をつかんで背後の窓に何度もたたきつけ、べっとりとガラスには...(過激な表現のため自粛)」と、自分も面接の椅子に座ったまま思い浮かべてしまう。
 就活以外にも、さまざまなものと「格闘する」可南子だが、ちょっと空回り気味だ。まぁ、それがまた「格闘してます感」を醸し出しているのだけれど。

 こう紹介するだけでも、ゴムまりが弾むような勢いと面白さが、少し伝わるだろう。しかし、デビュー作にかける著者の意気込みは、さらに何重にも面白い設定を、主人公の可南子に施した。可南子の家も弟も友だちも恋人もちょっと普通じゃない。普通じゃないけれども、みんなひっくるめて「いい話」になっている。

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2011年9月 7日 (水)

官僚の責任

著  者:古賀茂明
出版社:PHP研究所
出版日:2011年8月30日 第1版第5刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は経済産業省の現役の官僚、その告発の書だ。著者は、2009年12月に「大臣官房付」になってからの3年近く、職務を与えられていない。この役職は、次のポストが決まるまでの、普通は数カ月以内のつなぎのための「閑職」なのだ。そうなった理由は、「国益」のために著者がやったことが、経産省の「省益」や公務員全体の利益、次官の意向に反したためだと解説されている。

 この解説が偽りではないだろうと、本書を読めばそう思う。本書には、官僚たちの「省が大事」「御身が大事」の振る舞いと、政治家たちのへダメ出しが、あふれるように詰まっているからだ。こんなことを外に向かって言えば、「ムラ」の中で制裁を受けるのは想像に難くない。

 著者自身が「国益のため」と言ってやってきたことも紹介されている。現在話題になっている「発送電の分離」も、著者は15年近く前に仕掛けたことがある。著者が唱える「国家公務員制度改革」の内容は「あるべき姿」に近い。著者のような官僚がたくさんいれば良かったのに、と思う。

 しかしそう思う一方で、2つの点でとても危ういものを感じた。1つ目は、この著者をしてさえ排除できなかった「上から目線」という点。それは、官僚の仕事についてのこんな言葉に感じた。
 「自分の働き一つで世の中の仕組みを変えられる官僚の仕事は、民間ではなかなか体験できるものではない。とてつもない高揚感を得ることができる」「官僚という仕事の醍醐味は、まさしくこれだ」

 もう1つは「多面的な視点の欠如」。例えば、年金制度改革のこんな考え方。「(年金の受給開始年齢を)八十歳にしてもかまわない」「平均寿命くらいまでは、働くなり、不労所得を得る方法を考えるなりして、自分でなんとかしてもらう」
 また、企業は国籍にこだわらず、生産拠点だけでなく必要なら本社も海外に移すべきだ、とも言う。「日本人として、それでいいのか?」に対しては、「海外展開する企業の株に投資すれば、その配当が日本国民を豊かにする」と答える。

 受給開始年齢を引き上げれば、年金財源の逼迫は解消されるだろう。国籍や国境に拘ることが企業活動の足かせになるのも事実だろう。しかし著者の考えには、そのシワ寄せを受ける国民の視点が欠如している。「自分でなんとかしてもらう」「株に投資すればいい」では済まない。

 ダメ出しをくらった政治家たちは、苦笑しながらこう言うだろう。「それで済めば苦労しないよ」

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2011年9月 4日 (日)

森見登美彦の京都ぐるぐる案内

著  者:森見登美彦
出版社:新潮社
出版日:2011年6月30日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 森見登美彦さんによる京都のガイドブック。これまでに膨大な数の「京都のガイドブック」が発行されたことと思うが、これほど私的な偏りのあるガイドブックは、そう多くないだろう。「左京区」に多くの誌面を割いているのだけれど、銀閣寺も南禅寺も平安神宮もない。それは、著者のその場所に対する思い入れの程度によるのだろう。

 それなら何処が載っているのかというと、「鴨川デルタ」「下鴨神社」「京都大学」「進々堂」「吉田山」...(掲載順)。ここに挙げた全部にピンと来た方は、かなりの京都通か、森見登美彦通だろう(3番目の「進々堂」の難易度が高い)。
 森見登美彦通の方はもうお分かりと思うが、このガイドブックに載っている場所は、著者の思い入れがあるだけではなく、その作品に登場した場所だ。「左京区」の他には、四条大橋や叡山電車、それから「竹林」なんてのもある。それぞれの場所のページには、そこが登場した作品の1節が載っている。

 はっきり言って、これは著者の作品のファンに向けられた本だと思う。映画やテレビドラマの舞台やロケ地が、観光地として賑わっているそうだけれど、そのノリだ。作品に登場したあの場所の写真を見て、「こんなところだったんだ」と思い、「いつか行ってみよう」と誓う。...ということで、森見ファンにおススメ。

 ※森見登美彦さんのブログ「この門をくぐる者は一切の高望みを捨てよ」によると、森見さんは現在、病気療養中だそうです。一日も早いご回復を祈ります。

 この後は、ちょっと私事を話しています。お付き合いいただける方は、どうぞ

 コンプリート継続中!(単行本として出版された作品)
 「森見登美彦」カテゴリー

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