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2011年8月

2011年8月31日 (水)

小さいおうち

著  者:中島京子
出版社:文藝春秋
出版日:2010年5月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 2010年上半期の直木賞受賞作。著者の作品は「イトウの恋」と、「Re-born はじまりの一歩」というアンソロジーの中の短編を読んだことがある。

 主人公は布宮タキ。茨城の田舎で一人暮らしをしている(たぶん)80代の女性。物語は、そのタキが昭和5年に女中奉公に出た後の、終戦の年までの暮らしを、一人語りで回想する形で進む。

 タイトルの「小さいおうち」とは、タキが奉公した平井家が住む赤い屋根の洋館のこと。東京の郊外に建つこの家で、タキは10代の後半からの11年あまりを過ごした。玩具会社の重役のご主人と、奥様の時子、一人息子の恭一との4人の暮らし。
 タキが時子と出会った時には、タキは14歳、時子は22歳。2人は歳も比較的近く、時子の偉ぶらない性格もあって、一般的な奉公人と使用人の関係より、ずっと親しみのある幸せな「濃い時間」を一緒に過ごす。

 日本が戦争へと突き進み、ついには東京が焦土と化した時代だ。当然、郊外にある平井家にもその影は落ちてくる。しかし、タキの回想の表層からは、その影は最後になるまで感じられない。昭和10年ごろには「5年後の東京オリンピック」にウキウキしていた。昭和16年12月に米国と開戦して「世の中がぱっと明るくなった」とある。
 私たちが習った「歴史」では、昭和6年には満州事変が起こり、それから終戦まではずっと「戦時下」で、こんな平和な時代ではなかったはずだ。その違和感は、タキが回想の途中で挟む、「甥の次男」の健史とのやり取りの中で、健史が代弁してくれる。「おばあちゃんは間違っている。昭和十年がそんなにウキウキしているわけがない」と。

 申し訳ない。本書をどんなに説明しても、正確にイメージしてもらうのは難しい。記事を何度も書き直しているうちに、そう思った。この本は、女中の目から見た昭和初期の暮らしを描いた本?違う。戦時下で本当のことを知らされない怖さを表した本?違う。

 私が思うに本書は、最後の数ページのために、それに先立つ約300ページがあるようだ。もちろん、上に書いた2つともの意味でも、本書は優れた読み物になっている。だからこそ、読者は約300ページを読んで来ることができる。最後の数ページを明かせば「正確なイメージ」に近づくことは分かっているのだけれど.....もちろんそんなことはできない。

 バージニア・リー・バートンの絵本「ちいさいおうち」も併せて読みました。直接の関係はありませんが、本書の中でも言及されているし、どこか見えないところでは繋がっているような気がします。

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2011年8月28日 (日)

僕たちのミシシッピ・リバー 季節風 夏

著  者:重松清
出版社:文藝春秋
出版日:2008年6月15日 第1刷発行 
評  価:☆☆☆(説明)

 「ツバメ記念日 季節風 春」に続く、短編集シリーズ2冊目の「夏」編。春夏秋冬の各編があるので、それぞれの季節に読もうと思っている。12編を収録。

 「夏」ってどんな季節?と聞けば、色々な答えが返ってくるだろう。子どもたちにとっては「夏休み」がある季節だろう。高校球児にとっては「甲子園の夏」、中高生の3年生にとっては「最後の夏」だ。(不思なことに「最後の春」や「秋」「冬」とはあまり言わない。)

 表題作「僕たちのミシシッピ・リバー」は、小学生の夏休み、真っ直ぐな友情を描いた秀作。映画「スタンド・バイ・ミー」の主題歌が聞こえてきそうだ。「虹色メガネ」は小学生の少女の、「終わりの後の始まりの前に」は高校球児の、精細な心のひだを掬う。著者の真骨頂と言える。

 大人にとっては「お盆」の季節、著者はそう感じたらしい。長めの休み、帰省、親戚が集まる。こうした場面の物語が並ぶ。そして「お盆」には、亡くした人を偲びその魂を迎える...収録されている12編のうち7編が、亡くなった人に思いを馳せる物語だった。

 近しい人の死に直面した直後ではなく、何年か後を描いたものもある。「あじさい、揺れて」「ささのは さらさら」は、伴侶を亡くした女性の再婚をめぐる家族の話。「金魚」は、子供のころの親友の三十三回忌の話。大切な人を亡くした人々が故人を想う。当たり前だけれども残された人は、生きて普通に生活していく。その人の死を、忘れるのでも、薄れるのでも、乗り越えるのでもなく、大事に心にしまって今を生きる。

 冒頭に収録された作品「親知らず」が胸に沁みた。何とも痛々しい物語なのだけれど、「今を生きる」という意味では、主人公はこの奥さんと暮らして、今幸せだと思う。

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2011年8月24日 (水)

神様のカルテ

著  者:夏川草介
出版社:小学館
出版日:2011年6月12日 初版第1刷発行 年6月22日 第2刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2009年に小学館文庫小説賞という新人文学賞を受賞した、著者のデビュー作。2010年の本屋大賞の第2位となり、櫻井翔さん、宮崎あおいさんが主人公夫婦を演じて映画化され、この8月27日に公開される。何ともスピーディな展開だ。書店で文庫になっているのを見つけたので読んでみた。

 主人公は栗原一止(いちと)。長野県にある民間病院に勤務して5年目の内科のお医者さんだ。夏目漱石を敬愛するあまり、古風な話し方をするようになってしまって、周囲からは「変人」扱いされている。
 一止が務める病院は「24時間、365日対応」でどんな患者も受け入れる、という理念を掲げている。崇高な理念だが、現場は理念だけでは回らない。近郷の患者と救急車が集結し、夜間の救急は戦場のごとき様相を呈する。物語の冒頭も彼は、35時間勤務してこれから回診、というありさまだ。
 一止はそれなりに腕の確かな医者で、もっと高度な医療に携わる楽な道もあったようだ。そのことのを知る人々は、医学部を卒業してすぐにこの病院に勤めることにした彼を、やはり「変人」だと思っている。もちろん、好ましい想いも込めて。

 このように紹介すると、救急医療を舞台とした「カッコいいスーパードクター」の話を思い浮かべるかもしれない。しかし、それでは恐らく映画の公式サイトの紹介のように、「全国の書店員を涙に濡らし」たりはしないだろう。
 一止の患者さんは「栗原先生に出会えて幸せだった」という。もちろん先に書いたように一止の腕が確かで、適切な治療を受けられたことは大きいだろう。しかし「幸せ」という言葉のうらには、彼の患者さんへの寄り添い方に対する感謝が込められている。それは(本書によれば)、高度医療を施す大学病院では得られないものなのだ。

 病院の理念にある「どんな患者も」には、「治らない患者」も含まれるから、登場人物たちは医者として看護師として、その死を看取ることもしなければならない。そして私は、「死」を「感動」につなげることには否定的な意見を持っている。
 しかし、著者自身が現役の医師であり、病院という場所では「死」と向き合わざるを得ない。その向き合い方としての理想が、本書に表されているのだとしたら、この物語の「死」が感動を誘うことに、私も否定的なことを言うまいと思う。

 このあとは書評ではなく、ちょっと気が付いたことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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2011年8月20日 (土)

ほっと文庫「ゆず、香る」「郵便少年」ほか

 おもちゃ・ホビーのバンダイと角川書店のコラボレーション商品。30ページほどの短編小説に、その小説に登場する色と香りの入浴剤が1包付いている。全部で6種類発売されている内の4種類を買って読んでみた。

 読んだのは、有川浩さん「ゆず、香る」、森見登美彦さん「郵便少年」、あさのあつこさん「桃の花は」、西加奈子さん「はちみつ色の」の4つ。前の3人は、私が好きな作家さんで、西さんは「もし面白かったら他の作品も読んでみよう」と、新規開拓のつもりで選んだ。

 面白かった順も上に書いた順のとおりだった。まぁ好きな作家さんの順に書いたので、好きな作家さんの作品が面白かった、という至極当たり前の結果になっただけ、とも言える。

 それぞれを簡単に紹介する。「ゆず、香る」は、王道のラブストーリー。コラボ作品としてハマり過ぎな感じ。「郵便少年」の主人公は、たぶん「ペンギン・ハイウェイ」のアオヤマ君。悲しくもほのぼのとした作品。「桃の花は」は、30歳の女性の遠い昔の記憶をめぐる不思議な物語。「間に合ってよかった」と思えるいい話。「はちみつ色の」の主人公の小学生の母親は小説家。自分の誕生日に「誰からもおめでとうメールが来ねぇ」と憤っているような人。新規開拓のつもりだったが、私には合わなかったらしい。

 それぞれの著者のファンで、(399円払っても)30ページの書き下ろし短編が読みたい、という方にはおススメ。「小説と入浴剤のセットって、ちょっと面白そうじゃない?」という方もOK。

※この商品は入手困難になっている。私も1週間前に、近くの書店、ホームセンター、ドラッグストアを何軒か回ったが売っていなかった。商品のホームページに載っている「商品お取扱店舗」にも行ってみたが、チェーンの場合、全店にあるわけではないらしい。
 今日(2011.8.20)現在では、ネット書店で取り扱いがあるようだけれど、「ゆず、香る」と「郵便少年」は、Amazonでは在庫がなくて「9月26日入荷予定」になっている。
 1週間前には他のも在庫がなかったので、私はバンダイのショッピングサイト「プレミアムバンダイ」で購入した。ここなら今も買えるようだ。(ただし送料が525円(税込)かかる。399円のものを買うのにこの送料はちょっと痛い)

 ここからは書評ではなく、この商品についてちょっと気になったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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2011年8月17日 (水)

裔を継ぐ者

著  者:たつみや章
出版社:講談社
出版日:2003年11月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「月神の統べる森で」から始まる「月神シリーズ」の外伝。4部作からなる本編は、縄文のムラと弥生のクニの文化の衝突を描き、一度は物語の幕が下りた。多くの犠牲を代償にして、ムラやクニが融和への道を歩み始め、人々は平穏と、木や川動物にカムイという神的な存在を認め敬う清き心と暮らしを取り戻した。本書は、それから約500年の後の物語。

 主人公の名はサザレヒコ。13歳。ムラ長の6人兄弟の末っ子。彼の家は「星の神の息子」であるポイシュマの末裔の一族でもある。ただ、サザレヒコはもっと幼い頃は病弱で、今でも同い年の子どもの中で一番背が低く一番痩せていた。
 サザレヒコは6歳の頃、高熱で臥せっていた夜に、5,6人のカムイたちが自分を見下ろして話している夢を見た。「この子はもうだめだろう」「弱い枝に重い実を生らせてしまったようなものなのだ」。そして白い髪のカムイが言った「その実をわたしが預かったらどうだろう」...

 その頃から重い病気をしなくなったのだが、自分の体が大きくならないのは、あの白い髪のカムイが自分のそうした力を奪ったからだと、サザレヒコはそう思っている。そのために「神もカムイも嫌いだ」とも思っている。
 実は、大人たちだって神やカムイを、本気で尊敬しているわけではなかった。500年という時間は、大事な儀式や営みを形骸化し、人の心に変化を与えずにはいなかったのだ。こうした心の変化を、サザレヒコが一身に体現した形で、物語は彼の成長と「清き心」の回復のための修練の彷徨を描く。

 正直に言って、物語としては一本調子で含みがない。少年が助けを受けながらも困難を克服し、成長と失われたものの回復を成し遂げる。そう言えば大方の予想ができてしまう(だから安心して楽しめる、とも言える)。しかし、本書はこの「月神」シリーズで、とても重要な役割を果たしたと思う。
 その役割とは、現代にまで続く悠久の時間を、このシリーズに与えることだ。物語が500年後にも続いていたとなれば、さらにその500年後にも...と膨らませることができる。弥生時代が3000年前ごろからだとすると、この繰り返しはたったの数回で現代へ到達する。

 この時間性のことは、著者も各作品の「あとがき」で度々触れている。本書の「あとがき」には、「命は、かならず親から子へと受け継がれるのですから(中略)縄文時代に行けたとしたら、そこにはその時代のあなたの先祖かいるわけです」とある。私の場合は、江戸時代の先祖も皆目分からない。縄文時代に先祖がいたことは、想像することさえ容易ではない。けれどもいたことは間違いない。命は連綿と続く。

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2011年8月13日 (土)

偉大なる、しゅららぼん

著  者:万城目学
出版社:集英社
出版日:2011年4月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は、奈良では神の使いの鹿に話しかけられ京都ではオニたちを操り大阪では豊臣の姫を守った。そして今回の舞台は、日本最大の湖である「琵琶湖」を擁する滋賀。琵琶湖から特別な力を授けられた「湖の民」の物語だ。

 琵琶湖の東岸にある「石走(いわばしり)」の街は、日出(ひので)一族が絶大な力をふるう街。一族が持つ「他人の心を操る」力によって財をなし、かつてのお城の本丸御殿で暮らしている。ちなみに一族の力のことは、物語が始まって早々に読者には明かされる。

 主人公の日出涼介は、お城に住む本家からは遠縁になる高校生。日出一族の力を授かった者は、高校の3年間を本家で暮らし、その力の修行をする決まりになっている。涼介も本家で暮らすことになり、同級生で当主の息子である淡十郎と石走高校に通い始める。

 前半は、涼介たちの高校生活と、石走での日出一族の「とんでもなさ」がコミカルに描かれる。淡十郎が校庭に姿を現すと、教頭が挨拶に走りよってくる。他の生徒の制服は「黒」なのに、淡十郎の制服は「赤」。淡十郎が「赤」が好きだからだ。それからクラスはいつもC組。淡十郎がCが好きだからだ。
 後半は、一転して緊迫した展開で「見せ場」が続く。「湖の民」として日出一族とは別の力を持つ棗(なつめ)家との確執。さらに別の圧倒的な力を持つ第三の勢力の影。その他にも「隠し玉」が繰り出され、大スペクタクルも用意されている。実にエンタテイメントな1冊だ。

 神戸生まれの関西人である私は、表紙裏の「石走」の説明を読んで「滋賀?そう来たか!」と思った。自分のエゴでしかないのだけれど、奈良、京都、大阪、と来たら「次は兵庫(神戸)?」と漫然と思っていた。しかし、むべなるかな。「琵琶湖には何か秘密があるはず」と私も思う。

 ※分かる人にだけ分かること:笑ってしまったのは「奇面組」。おやっ?!と思ったのは「玄三郎」。

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2011年8月10日 (水)

月冠の巫王

著  者:たつみや章
出版社:講談社
出版日:2001年12月17日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「月神の統べる森で」「地の掟 月のまなざし」「天地のはざま」に続く、「月神シリーズ」4部作の4作目。つまり完結編。「天地のはざま」のレビューに「次が最終巻。読むのが楽しみだ。」と書いたものの、ちょうど2年間も間が空いてしまった。

 このシリーズは前作までで、縄文のムラと弥生のクニの文化の衝突、さらに強大なクニの存在とそれによる侵略、という多層的な構造と、抗いようのない文明の進展を提示してきた。そして、縄文のムラの少年で「ほうき星の神の息子」であるポイシュマと、弥生のクニの女王の甥であるワカヒコの翻弄される運命を描いてきた。

 冒頭、強大なクニである「アヤ」の野心が、ポイシュマの縄文のムラに伝えられ、ムラの人々は行動を起こす。前作で、大化けして絶大な力を垣間見せたポイシュマは、その力に戸惑いつつ、「アヤ」に囚われたワカヒコの救出に向かう。ワカヒコは、「アヤ」が自分のクニへ進軍することを知り、脱出とクニへの帰還を目指す。
 ムラの人々とポイシュマとワカヒコ、3者の動きが徐々に収れんする。これまで出会いと別離を繰り返してきたポイシュマとワカヒコの2人の運命が、三たび交わる時に向かって物語は加速する。

 完結編なので、縄文のムラと弥生のクニの文化の衝突などの、これまでに提示されたものへの決着が期待される。シリーズで一貫して描かれてきた「新しい文明への疑問」には、どのような回答が与えられるのかも興味深いところだ。
 この物語は確かに終わった。しかし、物語も気持ちも静まらない。別の物語が繰り返し続き、悠久の時間を経て現代と連続する。読み終わってそんなことを想像した。

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2011年8月 6日 (土)

デイルマーク王国史2 聖なる島々へ

著  者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:田村美佐子
出版社:東京創元社
出版日:2004年10月22日 初版
評  価:☆☆☆(説明)

 「詩人たちの旅」に続く、「デイルマーク王国史」4部作の第2作。「詩人たちの旅」とほぼ同時期の出来事を、舞台となる場所と登場人物を変えて綴る。

 今回の主な舞台は、南北に分かれて反目するデイルマーク王国の、最南端に位置するホーランド。伯爵による苛烈な圧政の元で、民衆の不満がたまっている。主人公は、そこで小作農の息子として生まれたミットと、伯爵家の三男の子どものヒルドリダとイネンの姉弟。
 庶民の生活は圧政に虐げられ、ミットは少年の身で反乱組織「ホーランド自由の民」の一員となり、伯爵暗殺計画の一翼を担う。ヒルドリダとイネンの姉弟は、裕福ではあっても自由にならない暮らしに不満を募らせていた。そして、一族を政治のコマとしか見ない祖父によって、ヒルドリダは9歳にして遠方にある「聖なる島々」の20歳の領主と婚約させられる。

 ミットと、ヒルドリダとイネンの姉弟。生まれ育ちが違い、それ故に色々な価値観も違う。おまけに姉弟にとっては、ミットは祖父の命を狙った人間。この相容れるところのない2組の少年少女が、偶然の出来事によって遭遇し、ヨットで海上を北を目指す。そして物語は何度かの起伏を経て終盤のスペクタクルへ向かう。

 なんとも頼もしい子どもたちだ。彼らはヨットを操ることができるし、夜間に交代で見張りに立つこともできる。相手の意見を聞き、受け入れるべきことは受け入れ、取るべき方針を決断することもできる。問題を先送りにしたり、身内を裏切ったりするダメダメな大人たちと好対照。「気丈な子どもと信用ならない大人」は、著者の後の作品にも共通する特長だ。

 本書は4部構成で、「圧政に抗するレジスタンス」の第1部、「追いつ追われつ」の第2部、「海洋冒険物語」の第3部、「魔法ファンタジー」の第4部と、1冊で様々な形式の物語が楽しめる。

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2011年8月 3日 (水)

「守り人」のすべて 守り人シリーズ完全ガイド

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2011年6月 初版第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 本のタイトルがすべてを語っている。本書は「精霊の守り人」から始まる「守り人」シリーズ全11巻(本編10巻+外伝1巻)の世界を余すところなく紹介したガイドブック。

 まず内容をざっと紹介する。「新ヨゴ皇国」「カンバル王国」他の「守り人」の舞台となった5つの国の地理と歴史や神話。生物や食べ物、薬草など150項目余りの用語集。150人余りを収録した人物事典。上橋菜穂子さんの対談と講演録など。
 さらに「上橋菜穂子全著作紹介」として、デビュー作の「精霊の木」以降、「獣の奏者」「弧笛のかなた」など「守り人」以外のファンタジー作品はもちろん、上橋さんの文化人類学者としての著書「隣のアボリジニ」も紹介されている。実に盛りだくさんな内容だ。

 11巻に亘って描かれた「守り人」シリーズは、主人公がバルサとチャグムの2人で、5つの国を舞台とし、本編で7年の月日が経過する。地理的にも時間的にも広大な物語空間を擁する壮大なドラマとなっている。それを考えると、本書のような「ガイドブック」は、意義も必要性も少なからずある。
 最近は人気作家や人気シリーズの「ガイドブック」が少なくないが、率直に言うと、作家やシリーズの人気に乗っかって売ろうとしているだけに思えるものもある。しかし例えそうであっても、ファンにとっては気になって仕方ない。特に「これでしか読めない」特典などあればなおさらだ。

 本書にも「書き下ろし短編」が収録されている。「守り人」の話を全部読みたい、と思っている私は、これを目当てで買ったようなものだ。ごくごく短い物語で、私としてはもう少しでいいから長いものを読みたかった。そうしたら何と、上橋さんと佐藤多佳子さんの対談の中で、「炎路の旅人」という未発表の作品の存在が明かされているではないか。あぁ、それも読みたい。是非とも何らかの形で発表して欲しい。

 コンプリート継続中!(単行本として出版された小説)
 「上橋菜穂子」カテゴリー

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2011年8月 1日 (月)

「読書感想文の書き方」について

 毎年、小中学校の夏休みの時期になると、このブログに「読書感想文」という検索語でのアクセスが急増します。それで2年前に「読書感想文の宿題に思うこと」「再び、読書感想文の宿題について」という2つの記事を書きました。
 内容は「読書感想文をパクリ、コピペで済ませようというのは論外だけれど、他人の感想を読んでから感想文を書くのもどうなんでしょう?」というものと、その年の夏に「読書感想文」で検索されたアクセス数の紹介です。

 今年もその時期になりました。先日新聞に「実例作文がいっぱい!小学校○・○年生の読書感想文」「スイスイ!ラクラク!!読書感想文小学○・○年生」という2種類の本の広告が載っていました。「○・○」の部分は「1・2」「3・4」「5・6」という学年数が入ります。
 虚しいやら情けないやら暗い気持ちになりました。本を読んだ感想は、読んだ人それぞれだけのものです。ビジネス文書やあいさつ状のように、例文を参考にしたり、手直しをして使ったりするものではありません。出版社は本に携わる仕事なのだから、子どもたちが本を読んで「感じる」ことを大切にして欲しい。「そんなことも分からないのか!」と思いました。

 ただ、この本のことをブログに書くからには読んでみないといけないと思い、5・6年生向けの2冊を読んでみました。そうすると読む前とは違った考えに至りました。「使い方を誤らなければ、これはこれで良い本なのかもしれない」と思ったんです。それでAmazonのリンクも貼りました。

 2冊とも「ふせんを活用した、読書感想文の書き方」を紹介したものでした(当たり前ですが「コピーして使える読書感想文の例」ではないんです)。正直に言って、紹介されている「書き方」は、簡潔で実用的でした。量が多すぎるように思いますが、「実例」も書き方の説明のためには必要でした。
 「友だちに差がつく」だとか「ラクラク書ける」だとか、細かいコピーには物申したいことがあります。それからこの本を読み込んで、内容を自分のものにできるだけの根気と読解力があれば、何かに頼らずとも感想文が書けるんじゃないか?という疑問もあります。

 しかし「読書感想文ってどうやって書けばいいの?」と、まったく手が付けられないようなら、この本の方法を試してみても良いと思います。きっと、それなりの感想文が書けるでしょう。上に書いた「使い方を誤らなければ..」は、実例に載っている本の感想を書いてはいけない、ということです。実例にされるだけあって、例文はどれもとても魅力的です。これを読んで影響を受けないなんてことは考えられないからです。

 最後に。「読書感想文の書き方」を調べるために、このブログに来られた方たちに少しだけ意味のある情報を。私が、読書感想文に手が付けられない自分の娘にしたアドバイスです。それは、白い紙に「私はこの本を読んで○○○と思いました。なぜかと言うと」と書け、ということです。

 「それで書ければ苦労しない」と思われたかもしれません。ですがこれは、私がこのブログでどうにも記事を書けない時に使っている方法でもあるのです。一番大変なことは書き始めることで、一番大事なことはその本を読んでどう思ったかです。上に書いた一文はこの両方をクリアする最短の文章です。
 「なぜかと言うと」の続きを書いた後は、それを補う説明や本のあらすじが必要になるはずです。書いているうちに、登場人物への想いや自分の経験、その他に思ったことなど、うまくすれば次々と浮かんできます。

実例作文がいっぱい!小学校〇・〇年生の読書感想文
スイスイ!ラクラク!!読書感想文小学校〇・〇年生

 
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