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2011年6月

2011年6月29日 (水)

利益を生み出す逆転発想

著  者:川合善大
出版社:かんき出版
出版日:2011年6月8日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者が社長を務める株式会社にちほシンクタンク様から献本いただきました。感謝。

 著者の会社は、新規ビジネス創造・経営支援を行う、経営コンサルタント会社。そして本書表紙のコピーによれば、この会社は31年間増収増益なのだそうだ。実は私は中小企業診断士の端くれで、プロコンサルタントの知り合いも多い。中には自分の会社の業績が思わしくない人もいて、「そんなところにコンサル頼みたくないよねぇ」と、仲間内だけで言える笑えない冗談も聞く。翻って言えば著者の「31年間増収増益」には、大変強い説得力を感じる。

 まず、著者の言わんとすることを、逆の面から端的に表している言葉を引用する。「ピンクの工具箱などは売れないでしょう」 これはある商品で、それまでなかったピンク色を作ったらヒットした、という例を踏まえた著者の提案に、工具箱の製造メーカーの社長が返した言葉だ。
 この社長は「工具箱のことなら誰よりも知っている」と自負していたことだろう。しかし、世の中も客の要求も変わってきている。「ピンクの工具箱は売れない」と、自分の経験だけで判断してしまっては、新しい商品もニーズも生まれない。つまり「固定観念を捨てろ」ということだ。

 固定観念を捨てれば、発想は拡がる。「早さ」でなく「遅さ」で勝負。「安さ」でなく「高さ」がウケる。「商品」を売るな。本書には、タイトル通りの逆転発想の例がたくさん紹介されている。もちろん、他と反対のことをやればいいというのではない。その発想の底には徹底した顧客志向がある。客の心になり切る、できないなら客に直接聞くのだ。

 とは言え、数ある例の中には、うまく行きそうにないと感じるものもある。私の「固定観念」が邪魔しているだけだ、ということもあるが、著者のこんな言葉を見つけて、私は得心がいった。きっとこれが本質であり、31年間増収増益の秘訣のひとつでもあるに違いない。

いずれにしても頭を使って様々な手を打ち出さないと、ヒットは出ない。事業転換というのは成功率の低いものなのです。

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2011年6月26日 (日)

コロヨシ!!

著  者:三崎亜記
出版社:角川書店
出版日:2010年2月26日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「海に沈んだ町」のレビュー記事のコメント欄で、ポポロさんに教えていただいた作品。ポポロさんに感謝。

 これはハマってしまった。著者の作品はアンソロジーを除くと4冊目。3冊目の「海に沈んだ町」のレビュー記事で、「なるほどこういう物語を書くのだな」などと、何かを見切ったようなことを書いた。「当たり前でないことが当たり前の世界」「喪失と回復」。このことは、本書にも当てはまる。しかし、本書は私が思っていた三崎作品とは全く違う物語だった。

 主人公は高校2年生の藤代樹。「掃除部」に所属している。そう、本書では「掃除」はスポーツになっている。「長物」という棒状のもので、「塵芥」という羽根を扱う演舞で、芸術性や技術の高さを競う。彼は、昨年の新人戦で優勝し、今は掃除部のエースになっている。
 主人公を一人紹介しただけで、ちょっと設定が風変わりなものの、本書がいわゆる「青春小説」だと想像する人は少なくないだろう。その通りだ。樹は、仲間に支えられ、友情を育み、家族と葛藤し、挫折を乗り越えて成長する。もちろん淡い恋もする。本書には「青春小説」の要素が詰まっている。

 しかし、普通の青春小説とは一味違う。それは舞台となる世界のせいだ。現代の日本のようで、少し軸がズレたような異世界。「西域」「居留地」といった地名や習俗から、「失われた町」の舞台と同じ世界であることがわかる。そして、その怪しげで危険な雰囲気が、そのまま引き継がれている。「あの街に「爽やかな青春」は似合わないでしょう?」と思うのだが、これがうまくハマっているのだ。

 本書は、月刊小説誌「野生時代」に2008年から2009年にかけて掲載された小説に、加筆修正して単行本化されたもの。実は、2010年4月号から続編「コロヨシ!! シーズン2」が連載され、先ごろ最終回を迎えたそうだ。続編の刊行が楽しみだ。

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2011年6月22日 (水)

ストラヴァガンザ 花の都

著  者:メアリ・ホフマン 訳:乾侑美子
出版社:小学館
出版日:2006年12月20日 初版第1刷発行 
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「仮面の都」「星の都」に続く、「ストラヴァガンザ」三部作の3作目。つまり完結編。時空を超えて別の世界に旅することを「ストラヴァガント」と言い、これまでの2作で、21世紀のロンドンから、15歳の少年のルシアン、同じ中学に通うの少女のジョージアが、16世紀のイタリアに似た国の「タリア」の街の、ベレッツァとレモーラにそれぞれ「ストラヴァガント」している。そして、今回も同じ中学に通う少年のスカイが、タリアのジリアという都市にやってくる。

 タリアの国で行われている「ストラヴァガント」研究によると、ロンドンからタリアにやってくる「ストラヴァガンテ(ストラヴァガントする人)」は、タリアで何らかの役割を担っているらしい。実際、全2作のルシアンとジョージアは、ベレッツァの女公主暗殺事件とレモーラの競馬に絡む陰謀にそれぞれ遭遇し、その解決に重要な役割を果たしている。
 敢えて「解決」と書いたが、それは一方からの見方であって、事件や陰謀を仕掛けた、タリアの実質的な支配者である「キミチー家」の側から見れば、「邪魔」されたことになる。当然復讐の機会を狙っているわけだ。それに、「星の都」のレビューに書いたとおり、このシリーズでは、敵役のキミチー家の描写が丁寧で、単なる「悪役」として扱われているわけでない。

 と、長くなったがここまでは前2作の内容。こういう一触即発の状況で、キミチー家の若者たち4組の結婚式がジリアで行われる、というのが本書の設定。タリア中のキミチー家の者が集まり、そこにベレッツァの女公主も招待され、ルシアンも同道する。不穏な空気の中で、事件は起きるべくして起きてしまう。

 完結編だけあって、著者は大きなスペクタクルを用意していた。どうして同じ中学の生徒がストラヴァガントしてくるのかも説明された。積み残しになっていた、少年たちの恋心の行方には、著者なりに考え抜いた決着が提示された。これで完結して何の問題もない。でも、まだ読みたい。掟破りでもいいから続編を書いて欲しい。

.....と思ったら?何と、あるじゃないですか! → 「Stravaganza City of Secrets

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2011年6月19日 (日)

村田エフェンディ滞土録

著  者:梨木香歩
出版社:角川書店
出版日:2004年4月30日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 タイトルの意味を後ろから追うと、「滞土録」の「土」は「土耳古(トルコ)」の頭文字、エフェンディ」はトルコで昔使われていた、学者に対する尊称、「村田」は主人公の名前。つまり「村田エフェンディ滞土録」は、「村田先生のトルコ滞在記」の意味。

 時は1899年、舞台はイスタンブール。主人公の村田は、トルコ皇帝からの招聘を受けて、かの国の歴史文化の研究のために来ている。1890年に起きたトルコの軍艦「エルトゥールル号」の和歌山沖での遭難事件での、地元民の献身的な救難活動への返礼としての留学なのだ。しかし彼はまだ青年で、大学の史学科の講師。「エフェンディ」と呼ばれるのは、自分でもしっくりこないらしい。
 そして、村田が下宿する屋敷には、ドイツ人の考古学者、ギリシア人の発掘家、下働きのトルコ人、屋敷の主人兼家政婦のイギリス人と、村田を入れて5人が住んでいる。物語は、この5人の会話を中心に、現地で出会った人々との交流を描く。

 いろいろと不思議なことが起きる。下宿の壁がユラユラと揺らぐように光る。天井から大きなものが走り回っているような音がする。敷石に人の影が浮き上がる...。と言ってもホラー感はない。100年以上前だからなのか、遠く中東の国だからなのか、イギリス人の主人が言うように「そういうこともあるでしょう」という感じなのだ。
 いや、年代のせいでも国のせいでもない。著者の描く世界が、そんな不思議を許容するゆったりした空間だからなのだ。そう、私が初めて読んだ著者の作品である「家守綺譚」のように。実は本書は「家守綺譚」と同じ時代の物語で、かの物語の主人公の綿貫と高堂は、村田の友人なのだ。共にに2004年に出版されたこの2つの作品は対になっている。だから、両方読んでみることをおススメする。

 最後に。村田の下宿にはまだ住人がいる。下働きのトルコ人が拾ってきたオウムだ。主人が作る料理のにおいがしてくると必ず「失敗だ」と言い、食べ物を取りに行ったトルコ人に「友よ!」と呼びかけ、夜明け前に鶏の鳴きまねをし、「何時だと思っているのだ」とドイツ人に叱られると、「楽しむことを学べ」とラテン語で返す。実にいい味を出している。

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2011年6月16日 (木)

「天地明察」映画化決定

 昨年の年末に私が選んだ「2010年の「今年読んだ本ランキング」」の第2位で☆5つの「天地明察(冲方丁 著)」が映画化されるそうです。主演は岡田准一さん、ヒロインは宮崎あおいさんで、2012年秋公開の予定です。その他には、中井貴一さん、松本幸四郎さん、市川染五郎さん、市川亀治郎さん、笹野高史さん、佐藤隆太さん、と豪華キャストです。

 映画化と言えば、この春は邦画で小説が原作の映画がたくさん公開されました。「阪急電車」「まほろ駅前多田便利軒」「プリンセストヨトミ」「八日目の蝉」。そして今年の秋の公開が延期になってしまったけれど「のぼうの城」。どれも私が好きな物語です。(そうそう「もしドラ」もありましたね。)

 小説の映画化というと、「イメージと違うのでは?」「あのエピソードはあるの?」と、原作のファンにはいろいろと心配なこともありますが、それでも全部観てみたいです。それなのに近くのシネコンでかからないので、1本も観られてないんです(泣)。

映画「天地明察」オフィシャルサイトへ (まだトップページ1枚だけのようですが)

 
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2011年6月15日 (水)

メルストーン館の不思議な窓

著  者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:原島文世
出版社:東京創元社
出版日:2010年12月20日 初版
評  価:☆☆☆(説明)

 英国で2010年1月に発表された、著者の最新作。著者の作品は、捻りの効いた展開と辛口のユーモアが持ち味なのだけれど、この作品に限っては、それはちょっと控えで、表紙裏のコピーに「にぎやかではちゃめちゃな魔法譚」とある通り、楽しい物語に仕上がっている。

 舞台は英国の田舎町のメルストーン。主人公はアンドルー。30代の大学の先生。魔術師の祖父から立派な館と財産を相続した。しかし、祖父が死の間際に手渡そうとした紙を受け取りそこなった。そこには、アンドルーが遺産と共に引き継ぐことになった「守護域」というもののことが書かれているらしいのだが..。

 登場人物が個性豊かだ。巨大な野菜を作ることだけに熱心な庭師、いつも不機嫌な家政婦、美人でスタイルもいい秘書、宇宙人?に追い回されてロンドンから逃げてきた少年、その他にもクセのある街の人々がたくさん。そもそも彼らは人間なのか?著者の作品のもう一つの特長の、登場人物には全く別の「真の姿」がある、というトリックは本書でも全開。

---

 冒頭に書いた通り、本書は著者の最新作。そして最後から2つ目の作品です。著者は今年の3月26日に亡くなりました。76才でした。「最後から2つ目の作品」としたのは、著者のオフィシャルサイトで、今年の夏の新作の出版予定が明らかにされていたからです。
 以前から体の不調は伝えられていました。邦訳された作品では本書の1つ前の「銀のらせんをたどれば」のレビューで、私は「70代半ばのお年の著者の健康を祈らずにはいられない。美しい「話綱(物語)」を、まだまだ生み出してもらうために。」と書いています。

 著者の訃報は、本書が著者の最新作であることを確かめるために、オフィシャルサイトを訪れて知りました。私は、5月に「魔空の森 ヘックスウッド」のレビューを、著者が亡くなったことも知らずに書いています。訃報を知った時、そのことが何故だか、申し訳なくて、悔しくて...。

 私はこれまで30弱もの著者の作品を読んできました。しかし、幸いなことに著者は40年間も作品を発表し続けてくださったので、まだ読んでいない作品がいくつか残っています。そして新作まで残してくださったそうです。それを大事に読んでいきたいと思います。

 著者のご冥福をお祈り申し上げます。そして数多くの作品を残してくださったことに、感謝を捧げます。

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2011年6月11日 (土)

不景気でも儲かり続ける店がしていること

著  者:米満和彦
出版社:同文館出版
出版日:2011年5月2日初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の米満和彦さんから献本いただきました。感謝。著者には以前に「「ゼロ円販促」を成功させる5つの法則」もいただいています。

 本書で書かれているのは「新規顧客獲得」→「固定客(定期的に来店してくれる客)化」→「ファン客(信者的な客)化」という「3段階必勝法」。客商売をしている経営者や店主で、こうした流れを考えたことがない人はいないだろう。率直に言ってこの流れには、オリジナリティは全くない。しかし著者は言う。「知っているから実践しない人ばかり」。大事なのは「実践すること」。そして、本書に書かれたその方法は、著者が経験から導き出したオリジナルなものだ。

 「物事はシンプルに考えよう」と本書の最初の方で著者が述べている。シンプルな方が却って普遍性もあるし、何よりも取り組みやすいからだ。そもそも「販促の3段階必勝法」は、「新規顧客」から「ファン客」へのシンプルな一本道だ。そのベースには「お客は知っている店(人)から買う」「知っている人=信頼できる人」という、シンプルな考え方がある。
 この「シンプルさ」をどう評価するかは人それぞれだろう。私は「シンプル過ぎる」と思う部分もあった。お客がそんなに思い通りににはならないだろう、という気もした。また、「知っている人=信頼できる人」と言われても、私はそう思わない。「知らない人→信頼できない人」が正しくても、その裏は正しいとは限らない。

 ただし、このことは本書の価値をそれほど減じるものではない。書かれている販促方法は、その一つ一つのアイデアが的を射たものが多い。冒頭に書いたように、これらは著者が経験から導き出したもので、うまく行った実績もある。それに大事なのは「実践すること」。私もさっそく、仕事で月に1回出しているニュースレターに「人に関するコンテンツ」を入れてみた。

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2011年6月 9日 (木)

「ニート」って言うな!

著  者:本田由紀、内藤朝雄、後藤和智
出版社:光文社
出版日:2006年1月20日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 皆さんは「ニート」という言葉にどんな印象を持っているだろう。働かないで遊んでいる。他人とのコミュニケーションが苦手。引きこもりがち。親に依存して自立していない。甘えている。ネガティブな表現を並べてしまったが、こうしたイメージを抱く人は多いだろう。私もそうだったし、私の家族に聞いてもそうだった。

 このイメージとそれへの支援策が歪んでしまっている、というのが本書の主張だ。こういうイメージ通りの若者は確かにいるが、それはごく少数で増えてもいない、ということだ。本書によると、職に就かず求職活動もしていない若年層は85万人(内閣府:2002年)いるが、求職活動をしない理由は様々で、上に挙げたネガティブなイメージのような、本人に起因するものは非常に少ない。

 「本人に起因するものは非常に少ない」。この事実を捉えそこなった、あるいは意図的に無視したことが、歪みの原因であるようだ。何が理由なのかというと、「その他」を除けば、1番は「病気やけがのため」で2番は「探したが見つからなかった」で、2002年までの10年間で、前者は1.6倍、後者は3.3倍に増加している。
 「病気やけがのため」は、「仕事経験あり」の人が「なし」の2倍もいる。過酷な労働環境が原因になっている場合が含まれるのだろう。「探したが見つからなかった」は、同じ時期の失業者が129万人(2002年)、フリーターが213万人(2004年)、ともに10年で2倍以上になっていることを考えると、経済・雇用の悪化が原因だろう。つまりニート問題は「労働環境」や「経済・雇用」という、企業や経済の問題なのに、本人の資質・性格の問題としたことが間違いなのだ。そして、そこから導き出した支援策も間違えている。

 少し想像力を働かせてみよう。ニート支援策と言えば「若者自立支援塾」などの、生活訓練などによって勤労観や働く自信や意欲を培うものが筆頭に挙げられる。これを、前の仕事や求職活動がうまく行かずに身心が疲れた人に、「職に就けないのはあなたのせい」とばかりに適用しようとする愚は、容易に想像できる。
 かつて自民党の武部幹事長がニート、フリーターに触れて言った「1度自衛隊にでも入ってサマワみたいなところに行って..」という発言がひんしゅくを買ったことがあるが、問題を本人の資質に帰した点では、根はこれと同じなのだ。しかし、ネガティブなイメージを内包してしまっている「ニート」という用語を使っていると、これに気づくのはなかなか難しい。だからもう使わない方がいい。「「ニート」って言うな!」というタイトルはそういうわけだ。

 本書が出版されたのは2006年1月。5年も前だ。当時、それなりに評判になったと記憶しているが、本書の指摘が活かされた形跡は、残念ながら感じられない。確かに「ニート」という言葉自体は、一時ほど聞かれなくなった。朝日新聞の記事数を調べてみたところ、2006年の553件をピークに年々減り続け、2010年には117件になっている。しかし、これはこの問題の解決を意味してはいない。「流行」が去っただけなのだ。実はこのことも本書の「あとがき」で、そう予想されている。

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2011年6月 6日 (月)

青空の卵

著  者:坂木司
出版社:東京創元社
出版日:2002年5月30日 初版
評  価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の5月の指定図書。

 著者はプロフィールを公開していないので、経緯の詳細は分からないのだけれど「あとがき」によると、東京創元社から「小説を書いてみませんか」と言われて書いた作品が本書。つまり、本書は著者のデビュー作。27歳の「ひきこもり」男性が事件の謎を解くミステリー短編集。

 主人公で語り手は、著者と同名の坂木司。事件を謎を解くのは鳥井真一。二人は中学校以来の付き合いで、坂木は鳥井が気を許せる唯一の人間。坂木がいなければ、鳥井は誰とも話せないし、500メートル先の「いつものスーパー」にも行かない。ある事件の謎を鳥井が見事に解き明かしたことから、鳥井の探偵並みの謎解きの才能に気が付いた坂木は、鳥井の外の世界との接点を増やそうと、事件を持ち込むようになった。

 「事件」と言っても凶悪なことは起こらない。独身男性が女性にバッグで股間を一撃された、盲目の男性が双子に跡をつけられた、歌舞伎役者のところにファンから意味不明の贈り物が届く、等々。被害者にしてみればその時は深刻なことには違いないが、放っておけばなくなってしまうような事件。いわゆる「日常に潜む謎」だ。

 本書は二通りに見立てることができる。一つは上に書いたように「日常に潜む謎」を扱うミステリー。加納朋子さんの作品に近いものを感じる。もう一つは、人と人との間の関係の変化・回復を描いたハートウォーミング劇。事件の裏には傷ついた人間関係があり、事件の解決はその回復なくしては成らない。それは坂木と鳥井の関係にも影響することになる。

 ミステリーの部分では、加納朋子さんの作品が好きな私は、本書の謎解きも楽しんだ。ハートウォーミング劇も基本的に好きだ。鳥井は特異なキャラクターだけれど、伊坂幸太郎さんの「チルドレン」の陣内や「砂漠」の西嶋らに似て、好感が持てた。だた、坂木と鳥井の関係は、好悪が半ばした。

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2011年6月 2日 (木)

海に沈んだ町

著  者:三崎亜記
出版社:朝日新聞出版
出版日:2011年1月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「小説トリッパー」という季刊誌に、2009年~2010年に掲載された8編と、書き下ろし1編を加えた、短編集。前後の作品と緩やかにつながっている、連作短編集の形になっている。

 アンソロジーを除くと、著者の本を読むのは「失われた町」「となり町戦争」に続いて3冊目。なるほどこういう物語を書くのだな、という特徴がいくつか分かってきた。1つは「当たり前でないことが当たり前の世界」。それによって「当たり前のことが、実は当たり前ではない」ことを描く。
 「失われた町」は「町の消滅」、「となり町戦争」は「隣町と戦争をする」という当たり前でない設定。それによって、「今日と連続した明日」「戦争とは無縁の日常生活」という当たり前のことの危うさが描かれている。

 本書の表題作「海に沈んだ町」も、「町がそっくり海に沈む」という当たり前ではない設定。20年以上前に飛び出してきた故郷が海に沈んだ男性。憎んでいたはずの故郷が無くなることで、逆にその存在感が大きくなる。著者が描く物語のもう一つの特徴は「喪失と回復」。
 どんな「喪失」を抱えても、残された者はその後を生きている、いや生きていかなければならない。「失ったものは返って来ない」その底の知れない哀しみと、そこから一歩踏み出したしなやかな強さを感じる。私が一番心にしみた作品「四時八分」は、そんな物語だ。

 良かった作品とそうでもなかった作品が半々。それが私の正直な感想。思うにその分かれ目となるキーワードは「回復」らしい。

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