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2011年5月21日 (土)

アーカイブズが社会を変える

著  者:松岡資明
出版社:平凡社
出版日:2011年4月15日
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は、日本経済新聞社の編集委員を務める著者が、「公文書管理法」という法律がこの4月施行されたことを受けて書いたもの。著者は、およそ8年半前に公文書問題の重要性を知り、その後に数多くの機関、個人を取材している。「公文書管理法」は、震災後の世の中がざわつく中で、その施行はあまり注目されなかった。しかし本書を読めば、それが国の有り方にも関わる重要な法律であることが分かる。

 「公文書管理法」とは、国や独立行政法人等が作成した、公文書等の管理の仕方を定めたもの。その肝は、歴史資料として重要な公文書は、保存期間満了後に国立公文書館等に移管する、としたことだ。これによって、将来の検証に応え説明責任を果たすことができる。

 著者が冒頭に触れている「消えた年金記録」の問題を引き合いに出せば分かりやすいが、これまでは非常に杜撰な記録管理がされてきた。しかし杜撰なことだけが問題なのではない。公文書は3年、5年、10年などと保存期間が定められていて、その期間が満了すると廃棄されることになっている。つまり、キチンと管理していても、いや管理されていればいるほど、期間満了後には参照することができない。例えば、米国の記録を端緒に明らかになった、40年前の沖縄返還時の「密約」は、(文書が廃棄されていれば)日本側からは検証ができないのだ。

 それでは「公文書管理法」の施行によって、状況は一気に良くなるのかと言えば、そう楽観できるわけではないらしい。本書で著者は、法律の成立過程を追い、各所の公文書館等の事例を紹介し、その実情を明らかにすることで、「公文書管理法」後に残る課題を浮き彫りにしている。
 ひとつだけ物足りなさを感じたのは、「これからどうなるのか」という展望を、あまり読めなかったことだ。「アーカイブズが社会を変える」というタイトルに、「どう変わるのだろう?」を知りたいと思った。「公文書管理法で何が変わるか」「課題と展望」という章もあるのだけれど、私には、「これからどうなるのか」は、うまく読み取れなかった。

 この後は、ちょっと気になった点と、それに派生して思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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 本書のタイトルに「アーカイブズ」という言葉がありますが、これは記録文書やそれを保管する保管庫を表す英語です。実は、私はかれこれ10年以上も「デジタルアーカイブ」という事業に仕事で携わっています。これは、記録資産を映像化したデジタル情報として保存、活用しようという主旨の事業です。

 この「デジタルアーカイブ」については、本書でも触れられています。「ちょっと気になった点」というのは、正にその部分なんです。そこには、国立公文書館の故 牟田昌平さんの講演内容を引用して、こう書かれています。「デジタルアーカイブ推進協議会のロードマップでは(中略)、インターネットという情報社会の基盤である重要な部分が落ちていた」と喝破している。

 私は、デジタルアーカイブ推進協議会の委員をしていました。この「ロードマップ」のことも知っています。しかし「インターネットという情報社会の基盤である重要な部分が落ちていた」などということはなかったと思いました。
 協議会は2005年に解散してしまっているので、私の手元に残っている資料に当たってみました。すると1999年に発行されたパンフレットに「デジタルアーカイブの構想ステップ」として、「インターネット等を経由して広く情報発信」という項目があります。また、「デジタルアーカイブ事業推進のためのロードマップ案」という1998年の資料にも「提供システム」の中に「web系」とあります。

 つまり、牟田さんがどのような資料をご覧になったのか分かりませんが、控えめに言ってもあの発言は誤認識だと思います。考えてみれば、もしこの10年以上前の資料が私の手元になければ、こうした反論も検証もできなかったわけです。本書に書かれている「文書管理の大切さ」を、本書中の文章への反論の形で実感することになるとは、皮肉を感じます。

 長くなって恐縮ですが、さらに「派生して思ったこと」に続きます。上の「気になった点」は、著者とは別の人の発言として紹介されているものです。発言内容に誤認識はあっても、発言があったことは誤りではないのでしょう。これと同様のことを、最近感じました。

 以前にお伝えしたように、私は現在、新聞社の紙面モニターをしています。それで新聞を普段より集中して読んでいるのですが、ひと月余りそれを続けて、つくづく思ったことがあります。「新聞には「真実」は書かれていないんだなぁ」ということです。
 新聞を揶揄したり批判したりしようと言うのではありません。「真実とは何か?」という命題に深入りする気もありません。私が思ったのは、新聞には「○○さんがこう言った」という記事がとても多くて、それはそう言った「事実」は伝えても、言ったことが「真実」だとは言っていない(言えない)、ということなんです。そう、上の「気になった点」と同じ構図です。

 例を挙げましょう。米政府がビン・ラディン容疑者を殺害した事件で、「政権高官」や「報道官」の話として、当初は「抵抗したので」「銃撃戦の末」殺害した、ということでした。殺害は「現場の隊員のプロの判断」という説明もありました。その後「相手側の発砲は1回」とか「殺害の許可は得ていた」とかいう話が流れ、さらに後日、大統領はテレビのインタビューで「(殺害より拘束を、ということを)気にしたことはない」と答えています。

 前後で矛盾するので、どれかは誤った情報のはずですが、新聞がウソを伝えたのかというとそうではない。新聞が伝えたのは「誰かがそう言った」ということで、それはウソではないからです。新聞の記事は、取材に基づいて書かれますから、基本的には「○○さんがこう言った」の集合体です。そこには、誤った情報があっても不思議ではない。載っているのは、せいぜい現在分かっている「真実の周辺」ぐらいなのだ、と思うべきなのでしょう。

 
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コメント

平田オリザさんが謝ったとかの話で、誰それさんが・・・のことが気になっていたところでした。
世間話には、聞き違いや勝手読みや、様々な要素が絡んで、事件や話が一人歩きするようですね。
それを読み込んで利用することも行われているらしいですし・・・。
私のような世間知らずが、物事を判断するのは、ますます難しくなっています。

投稿: じゅんちゃん | 2011年5月22日 (日) 01時12分

はじめまして。
「漢字検定2級 問題集 絶対合格サイト」管理人です。
当サイトは漢検2級情報や予想問題を掲載するサイトです。
突然のメール失礼致します。
ブログを拝見しまして大変勉強になりました。
そこでご提案なのですが当サイトと相互リンクを貼りませんか?
より多くのユーザーにサイトを見てもらえると思います。
ご検討宜しくお願いします。
http://kanken2kyu.jimdo.com/

投稿: 「漢字検定2級 問題集 絶対合格サイト」管理人 | 2011年5月22日 (日) 07時21分

じゅんちゃんさん、コメントありがとうございます。

平田オリザさんの件は、内閣官房参与という立場を考えれば軽率だったと思います。

ですがあの発言は、後からの説明のように「他の事柄と混同した」のではなく、
政権と関わりがある誰かが、平田氏にそのようなことを言ったのではないでしょうか?
もしくは、その誰かが「○○さんがそう言っていた」と平田氏に言った、とか。

交渉の当事者ではない平田氏は、伝聞でしか知りようがない。また内閣官房参与という
立場なら、政権の関係者と世間話をすることもあるでしょう。
そこで、誰かに言われて、それが真実だと思った。そんなところじゃないでしょうか?

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「漢字検定2級 問題集 絶対合格サイト」管理人 さん、コメントありがとうございます。

相互リンクの申し出、ありがとうございます。
ですが、このブログのリンクは、読書関係のブログか、私のお友達に限らせていただいて
おります。たいへん申し訳ございませんが、ご了承いただきたくお願いいたします。
 

投稿: YO-SHI | 2011年5月23日 (月) 00時35分

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