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2011年4月

2011年4月27日 (水)

単純な脳、複雑な「私」

著  者:池谷裕二
出版社:朝日出版社
出版日:2009年5月15日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は東京大学の准教授、現在40歳、脳科学の中堅の研究者だ。本書は、その著者が母校である藤枝東高校で全校生徒に対して行った講演と、興味を示した生徒9名に対して行った、約半年後の3日間の講義を再現したもの。
 全校生徒を相手にした講演(第一章)では、「長時間接しているほど好きになる」とか「吊り橋の上での告白は成功率が高い」など、高校生が興味を持ちそうな楽しい話。少人数の講義(第二~四章)では、ユーモアはそのままながら、脳内の反応や仕組みの話や「私たちは自由なのか?」「生物とは?」といった突っ込んだテーマが話されている。相手によって内容を工夫するあたり、なかなかの気配りの人と見た。

 脳というものは、実に実に不思議だ。スーパーコンピュータも追い付かない高速処理を行う、緻密なマシーンのようでありながら、実にいい加減なことを平気でやる。上に書いた「吊り橋の告白」は、高所にいる緊張から来るドキドキを、トキメキと混同してしまうからだそうだ。
 これだけならば、ハハハと笑って済ませてしまいそうだけれど、右脳と左脳をつなぐ脳梁を切断された被験者による実験は、ちょっと驚きだ。左の視野に「笑え」と見せると、右脳に伝わって被験者は笑う。しかし「どうして笑っているの?」と理由を尋ねると、「だって、あなたがおもしろいこと言うから」と答えたそうだ。

 種明かしはこうだ。言語野と呼ばれる言語を司る部分は、一般的には左脳にある。無意識のレベルでは、右脳で「笑え」という言葉の意味は把握できるらしく、それに従って笑うのだけれど、言語野で処理しないので、意識には上ってこない。
 そこで「どうして笑っているの?」と尋ねられても、理由が分からないのだけれど、自分が笑っている事実は動かないから、それに合うような理由をでっち上げてしまうのだ。

 脳梁の切断は、実験を分かりやすくはしているが、この現象の要因ではない。つまり、誰にでも起きる。そう、私にもあなたにも。これを「作話」と言うそうで、なんと私たちの日常生活は「作話」に満ちているらしい。もちろん、本人はそれに気づいていない。
 そう言えば、後から取って付けたような言い訳を、堂々とする人を時折見かけるが、あれはこうした脳の働きだったのか(ちょっと違うかもしれない)。

 「こんなんで大丈夫なのか?脳」と言いたくなるが、実はこのいい加減さが、とても重要な役割を担っている。本書にはこんな不思議がいっぱい詰まっている。

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2011年4月24日 (日)

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

著  者:岩崎夏海
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2009年12月3日 第1刷 2010年12月7日 第23刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 タイトルが長いので略して「もしドラ」。「今さら?」あるいは「今ごろ?」感は否めない。公式サイトによると、電子版もあわせて253万部、NHKでアニメ化され、その全10話が明日25日から月~金で一挙放送される。コミックスは5月2日に発売、映画は6月4日に公開。何ともすごい勢いだ。「お化け商品」だ。

 内容は長いタイトルが表す通り。高校の野球部の女子マネージャーが、「マネジメント」という本を読んで、野球部の組織改革を進める。目指すは「甲子園」。「マネジメント」は、オーストリアの経営学者であるドラッカーが、1974年に刊行した経営学の大著だ。
 この本について、本書の中で書店の店員が、「「マネジメント」について書かれた本の中で、最も有名なもの」と言っているが、それはウソでも誇張でもないと思う。25年余り前に、マーケティング専攻の学生だった私も読んだ。マーケティングや企業経営を志す人で、この本を知らない人ないない、とは言わないまでも少数派なはずだ。

 だから興味はあった。一方で、「夢をかなえるゾウ」のレビューにも書いたが、私は過去の経験から「バカ売れしている本はハズレが多い」と思ってしまっている。本書もあまり期待できないと思っていた。「マネジメント」を読んだことがあるという、(全く無意味な)自意識も期待に水を差したことも否定しない。
 結果として、良くも悪くも読む前に私が思っていた通りの本だった。決して「ハズレ」とは言わない。読みやすくて、ちょっとタメになって、さらにちょっとイイ話。読んで損はない。ちょっと悲しい出来事があることを除けば、暗い気持ちになることもない。しかし、そんな本は他にもたくさんある。

 ただ、私は「マネジメント」を読んだけれど、主人公のようにそれを現実に当てはめようと、真剣に考えたことはなかった。その反省は、私が本書から得たものだと言える。...と、ここまで考えたところで、ある考えが閃いた。「この本自体が「マネジメント」の成果だ」

 本書の中で「真のマーケティングとは何か?」と問う場面で、「マネジメント」はこう答える。「顧客からスタートする。...「顧客は何を買いたいか」を問う」。
 一見難しそうな「組織経営」を分かりやすく伝える「読みやすくて、ちょっとタメになって、さらにちょっとイイ話」。そして「女子高校生」と「経営学の大著」のギャップ。多くの人の注意を引き、多くの人の欲求に応える。まさにマーケティングの成果がここにある。

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2011年4月21日 (木)

本を読む子に育てよう

著  者:多湖輝
出版社:新講社
出版日:2007年3月1日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 別に、我が子を「本を読む子」に育てようと思って読んだわけではない。「頭の体操」シリーズで、子どもの頃にお世話になった著者が、このテーマでどんなことを書いているんだろう?を知りたくて読んだ次第。ちなみに、私には娘が2人いるけれど、1人は放っておけば一日中でも本を読んでる。もう1人も普通ぐらいには本を読む、最近「崖の国物語」全10巻を読み終わったようだ。つまり、幸いなことに「本を読む子」に育っている。

 本書の内容は、極めて真っ当なことが真っ直ぐに書かれている。まずは読書のメリットからだ。読書好きというと「人づき合いが苦手」という印象を持つ人もいるけれど、話題が豊富で面白い人が多いんですよ。だから、読書はいい人間関係を作るんですよ。自分の子どもがそういう人になるといいですよね...。
 そして、子どもを読書好きにする環境や、習慣付けの方法が書かれ、合間にまた読書のメリットが挟み込まれている。紹介されている本が、「坊ちゃん」「走れメロス」「杜子春」「嵐が丘」「赤毛のアン」「星の王子様」「飛ぶ教室」..と、古典的名作に偏っていることを除けば、非の打ち所がない。その代わり「おぉ、なるほど!」という引っかかりもほとんどなく、ちょっと残念。

 それでも「おぉ、なるほど!」が一つ。親が読書好きでないと、子どもが読書好きになる環境ができない。でも、親が読書好きならそれでいいかというと、そうではない。「楽しそうに読書している姿を子どもに見せる」ことが必要なんだそうだ。
 子どもがいると落ち着いて読めないからと、子どもが寝てからとか、通勤途中で読書、というのは、悪くはないが良くもない。「本を読む子」にはつながらないのだ。そう言えば、私はいつもリビングで本を読んでいる。周りで遠慮なく家族がおしゃべりしているし、テレビだって見ている。時々話しかけてくるのはちょっと困ることもあるが、「本を読む子」について言えば、狭い家が幸いしたということなのだろう。

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2011年4月17日 (日)

四畳半王国見聞録

著  者:森見登美彦
出版社:新潮社
出版日:2011年1月30日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 モリミーの最新刊。yom yom、小説新潮、ユリイカといった小説誌に掲載した短編が7編収められた短編集。掲載誌が3誌あって、掲載された時期もまちまちなのだけれど、登場人物たちがほぼ共通しているので、連作短編といって良いだろう。

 単行本の刊行順で言うと、本書の前が日本SF対象を受賞した「ペンギン・ハイウェイ」、その前は「宵山万華鏡」。著者の作品と言えば思い浮かぶ「腐れ学生」モノからは、ちょっと距離を置いた作品が続いた。そして本書は..「四畳半神話大系」を彷彿させるタイトルでお分かりだろう。愛すべきダメダメ学生たちが帰ってきた。

 最初の一編「四畳半王国建国史」に慄いた。「四畳半王国」の国王が、京都は東山のふもとにある「法然院ハイツ」の一階の四畳半に、いかにして無限の空間を有する「王国」を築いたかが記されている。もちろん妄想が全開した産物だ。著者の作品の愛読者の私も、最初からこのペースで飛ばされたのでは付いて行けない、と思った。巻末の初出一覧で、これが現代思想誌の「ユリイカ」に載ったの知って、再び慄いた。

 このように最初の一編はなかなか手強かったが、二編目の「蝸牛の角」以降は大丈夫だ。大丈夫というのは、これまでの著者の「腐れ学生」モノのペースが戻った、ということ。京都の無益な営みに明け暮れる学生(つまり「腐れ学生」)たちが奉じる、「阿呆神」という神様の周辺の物語。詭弁論部や図書館警察などお馴染みの組織や、大日本凡人會、四畳半統括委員会などが活躍(暗躍?)する、著者のメイン路線とも言える作品。

 私はとても楽しんだ。登場する黒髪の乙女のセリフが、本書を端的に表している。
 「見渡すかぎり阿保ばっかり」

 コンプリート継続中!(単行本として出版された作品)
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2011年4月14日 (木)

ツバメ記念日 季節風 春

著  者:重松清
出版社:文藝春秋
出版日:2008年3月15日 発行 
評  価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の2月の指定図書である、「きみの友だち」を読んだときに、メンバーさんから教えていただいた本。産経新聞に連載されていたものを単行本化し、さらに文庫化された短編集。本書は「春」で、当然「夏」「秋」「冬」もある。季節に合わせて読んでいこうと思っている。本書も桜の季節を待って読んだ。

 表題作の「ツバメ記念日」を含む12編を収録。これまでに読んだ著者の作品は「きみの友だち」と「青い鳥」の2つだけ。どちらも子どもの心のひだを丁寧に描く作品だった。本書は少し違って、主人公は小学生、中学生、高校生、大学生、20代、30代、40代、60代、とバラエティが豊かだ。
 その中で、高校生、大学生が主人公の「拝復、ポンカンにて」「島小僧」「お兄ちゃんの帰郷」は、どれも進学を期に、田舎から東京へ行く男の子の物語だ。「上京」を広い世界への旅立ちと捉える向きもあるが、本書の作品はそうばかりではない。どれも、出て行く時や出て行った後の葛藤がある。
 大学への進学で一人暮らしを始め、就職で上京した私には、彼らの葛藤に共感し、リアリティを感じた。そして上京から四半世紀経った今は、その葛藤を微笑ましくさえ思う。「頑張れよ」と声をかけたくなった。

 リアリティを感じる、と言えば、表題作の「ツバメ記念日」もそうだった。主人公の女性は会社で「最初の総合職採用」。実は、私の妻もそうだった。詳しくは書かないけれども、制度が先行して、会社も社会もが何周も遅れていた「男女雇用機会均等法」の下で起きた、ある種の悲劇だ。
 幸いにも私の妻は彼女自身の判断もあって、こうしたことにはならなかった。しかし私は妻と同い年で、私の同期入社の女性たちの多くも「最初の総合職採用」だった。その働き振りを近くで見ていたが、彼女たちの誰にでも同じことが起きても不思議ではなかった。

 12編の中には、正直に言って納まりが悪く感じられるものもある。しかし、著者はフリーライターを生業としている。さすがに様々な現実を見てきた蓄積を感じる。

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2011年4月 9日 (土)

井戸の中の虎(上)(下)

著  者:フィリップ・プルマン 訳:山田順子
出版社:東京創元社
出版日:2010年11月25日初版
評  価:☆☆☆(説明)

 「マハラジャのルビー」「仮面の大富豪」に続く、「サリー・ロックハートの冒険」の第3作。前作の「仮面の大富豪」から3年後。前作の最後で、愛するフレデリックの子どもを身ごもっていることが分かった。その子どもハリエットは2歳になっている。
 サリーの「財政コンサルタント」としての仕事も軌道にのり、共同経営者になっている「ガーランド・アンド・ロックハート写真店」も順調。愛娘のハリエットも、周囲の人びとの愛情を受けて、すくすくと育っている。順風満帆といったところだった。

 ところがある日サリーは、ハリエットの親権を求める離婚訴訟を起こされる。「未婚の母」であるサリーには身に覚えがない。ましてや相手は名前も聞いたことのない男。しかし英国のビクトリア時代の未婚の母は世間の風当たりも強い。しかも証拠は巧妙に捏造されていて、完全に罠に嵌められたらしい。「でも、なぜ?ハリエットの親権を?」謎は杳として知れず、敵の姿さえ見えない...。

 今回も、前作までと同様に、サリーが持ち前の行動力で運命を切り開いていく。しかし、今回の敵は強大な力を持っているようで、用意周到に様々な罠を張り巡らせていた。サリーの行動はその先々で見えない壁に阻まれる。そして、最大の危機を迎える。

 中ごろまでは、「これじゃジリ貧だ」という感じ。読んでいても気が滅入るほどだった。状況はページを追うごとに悪くなり、サリーに出来ることはドンドン少なくなっていく。そこに一条の光のような活路を見出せたのは、金持ちの家に生まれたサリーには、今まで縁が薄い層の人びとのお陰だった。読み終わって、本当にホッとした。
 このシリーズは4部作で、3作目の本書は起承転結で言えば「転」に当たる。サリーは今回、今まで知らなかった世界や人々と出会い、確かに転機を迎えたと言える。最終巻の次回作が楽しみだ。

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2011年4月 6日 (水)

県庁おもてなし課

著  者:有川浩
出版社:角川書店
出版日:2011年3月31日 初版発行 
評  価:☆☆☆☆(説明)

 帯に「史上初、恋する観光小説」とある。まず「観光小説」って何だろう?と思ったが、今なら分かる。本書の舞台は高知。読み終わって「高知に行きたい」と無性に思った。観光をちょっとだけ擬似体験させて「あぁそこにホントに行ってみたい」と思わせるのが「観光小説」だ。

 上に書いた通り、舞台は高知県。県庁の観光部に新しくできた「おもてなし課」を中心に物語は回る。主人公はそこの課員の掛水史貴。入庁3年目の25歳。課の中では一番若い。観光客に「おもてなし」する心で県の観光を盛り立てようという「おもてなし課」は、手始めに掛水の発案で「観光特使」の制度をつくった。
 掛水の発案、と言えば聞こえがいいが、「そういう自治体が多くあるようですよ」という程度のもの。進め方も何も手探りで、心許ないことこの上ない。案の定、観光特使の一人の作家の吉門喬介から、実効性があるの?何を目指してるの?他所との違いは?とダメ出しを連発されてしまう。

 物語は、このように最初はグダグダだった「おもてなし課」が、掛水の意気込みが他の課員にも伝染するような形で、徐々に「使える集団」になっていく様子を描く。もちろん、著者が描くのだからラブストーリーがしっかり組み込まれている。今回のは甘さはちょっと控えめ。ただし、直球と変化球の2つを投げてきた。

 楽しめた。ご存じの方も多いかもしれないけれど、「おもてなし課」は高知県に実在する。それでもって高知県出身の著者は、観光特使になっている。つまり、作家の吉門(の一部分)は著者の分身で、彼が出したダメ出しは、実際に著者が感じたものらしい。そのあたりのリアリティが、本書の面白さにつながっている。また、著者は本書を書いたことで、観光特使としての任務を充分に果たしたことだろう。

 それから「三匹のおっさん」以来、著者の「おっさん萌え」がチラチラ作品に顔を出すのだけれど、本書のおっさんは、とりわけカッコいいのが1人いる。あこがれはしても目指そうとは思わないくらいだ。でも、そこまで目立たないんだけれど、おもてなし課の課長が、私は好きだ。

 ちなみに、本書の印税は全額、東北地方太平洋沖地震の被災地に寄付されるそうです。
 参照:有川日記 それぞれにできること(随時追記)

 このあとは、書評ではなく、本書を読んで思った、長~~い由なし言です。お付き合いいただける方は、どうぞ

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

※(2013.4.1 追記)
5月11日公開で映画が公開されます。キャストは、錦戸亮さん、堀北真希さん、高良健吾さん...です。

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2011年4月 3日 (日)

知事抹殺

著  者:佐藤栄佐久
出版社:平凡社
出版日:2009年9月16日 初版第1刷発行 11月26日 第3刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今、この本を紹介することに、少しためらいがある。しかし、すでに各所で話題になっているし、もっと広くもっとクローズアップされるようになるのは時間の問題だろう。
 震災と原発事故のために世の中が不安定になっている。本書は、前の福島県知事である著者が、自身の汚職事件について無実を訴える手記で、1年半前に出版された。しかしその内容は、今の不安定な現状に直接的にリンクしている。本書が真実ならば、私たちは頼れるものを失ってしまう。いや、もともとそんなものは失って久しいのかもしれない。

 汚職事件の概要はこうだ。福島県発注の工事の談合事件で、知事であった著者が「天の声」を発して工事業者を決定し、その見返りに賄賂を受け取った。その賄賂は、当該工事業者の下請け会社が、知事の弟が経営する会社の土地を市価より高く購入する、という巧妙な方法だった。

 ところが著者によると、これは東京地検特捜部の捏造だということなのだ。検察が創造したストーリーに合うように、強引な取り調べによって取った調書を積み重ねたに過ぎないという。本書出版の当時ならば半信半疑の主張だが、村木厚子さんの冤罪事件の後の今では、これが真実なのだろうと思う。それは、東京高裁の有罪判決で、認定した賄賂の額はゼロだという、前代未聞の事態からもうかがい知れる。「ゼロ円の賄賂を受け取って有罪?」司法の場では私たちと違った論理があるらしい。

 さて、本書がクローズアップされるだろう、としたのは本書の別の部分による。それは2章に分けて68ページを費やして記されている、国の原発政策との著者の戦いの部分だ。それによると、著者の知事時代の2003年に、東電が持つすべての原子炉が停止している。(上の汚職事件も、これに反発した勢力が知事を抹殺しようとした、という見方もあるらしい。)
 その発端は「原子炉の故障やひび割れを隠すため、東電が点検記録を長年にわたってごまかしていた」という内部告発だった。今、連日報道されている福島第一、第二原発の原子炉でのことなのだ。

 もちろん、今回の事故は地震とそれに伴う津波が原因だ。懸命の復旧活動にウソはないだろう。しかし、定められた点検や対策はキチンと行われていたのか?という疑問は残ってしまう。何しろ、著者が危惧し改善を求めた、東電や国の原子力行政の杜撰な体質は、今も何ら変わっていないようなのだ。今の事態は実は防げたのかもしれない、という思いが、胸の内に澱のように溜まっていく。

 「正義の砦」であるはずの検察は信頼できず、安全神話は崩壊し懸命の復旧活動を支持する心にも影が差す。確かなものが欲しい。

 ※追記(2011.4.4)
  本書は現在在庫僅少につき、入手困難なようです(Amazonも「入荷時期は未定」になっています)。しかし、著者の公式ブログによれば、増刷が完了しているようなので、近々に入手可能になると思います。

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