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2010年12月

2010年12月29日 (水)

2010年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 今年で3回目になりますが、今年読んだ本のランキングを作ってみました。昨年までと同じく小説部門は10位まで、ビジネス・ノンフィクション部門は5位までです。(参考:昨年のランキング

 今年はこのブログでこれまでに109冊の本を紹介することができました。☆の数は、「☆5つ」が2冊、「☆4つ」は40冊、「☆3つ」は63冊、「☆2つ」が4冊です。相変わらず「☆3つ」がかなりの割合を占めますが、「☆3つ」を「可もなく不可もなく」ではなく、「自分としては、まぁ楽しめた(役に立った)。興味のある人はどうぞ」です。つまり、「今年もずいぶん楽しんだなぁ」ということですね。では、ご覧ください。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
上と外 / 恩田陸 Amazon
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中米の国のクーデターや、マヤ文明などを取り入れたコメディ。予想外の事件が次々と転がるストーリーに、ホロッとさせる家族愛を織り込んだ娯楽作品。
天地明察 / 冲方丁 Amazon
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正確な暦の採用に生涯をかけた江戸時代の青年の物語。時代小説でありながら、「何者かにならん」ともがく主人公への「羨望」と「共感」を呼び起こす。
キケン / 有川浩 Amazon
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工学系男子が巻き起こす、ぶっ飛んだ危険な騒動の数々が、キラキラした結晶のような輝きを持って語られる。すべての「元男の子」の心を揺さぶる作品。
神去なあなあ日常 / 三浦しをん Amazon
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林業という厳しい現場に放り込まれた18才の青年の奮闘記。登場人物たちが抜群に素敵だ。物語の雰囲気が瑞々しく、山仕事の人びとの暮らしが力強い。
オー!ファーザー / 伊坂幸太郎 Amazon
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主人公の由紀夫には父親が4人?気の利いた会話、愛すべきキャラクター、巧みな伏線。伊坂作品の人気の特長が強くでた、著者が言う第一期最後の作品。
獣の奏者 外伝 刹那 / 上橋菜穂子 Amazon
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名作「獣の奏者」に収めなかった3つの物語。著者が「自分の人生も半ばを過ぎたな」と感じる世代に向けた、静かにしかし一瞬で燃え上がるような恋物語。

戸村飯店青春100連発 / 瀬尾まいこ Amazon
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大阪の下町の中華料理店の、要領が良くていい加減な兄と真面目な弟。吉本新喜劇、アメをくれる近所のおばちゃん。大阪の町が育んだ家族愛の物語。
ペンギン・ハイウェイ / 森見登美彦 Amazon
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腐れ大学生でも京都でもない、著者の新しい引き出しから出てきた物語。クールな小学生のアオヤマくんと、キュートなハマモトさんたちの不思議な体験。
猫を抱いて象と泳ぐ / 小川洋子 Amazon
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人前に出ない不世出のチェスプレイヤーの、悲しくも美しい物語と、静謐な音楽か詩のような文章。チェスの素人の私でも、その棋譜を「美しい」と感じる。
10 マークスの山 / 高村薫 Amazon
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十数年の時を隔てた4つの事件が、1つに縒り合わされる。事件を追う刑事たちと犯人の人間ドラマで魅せる。改稿を重ねた著者の代表作、文庫版でどうぞ。

 上位2つは「☆5つ」、それ以外は「☆4つ」なんですが、順位はそれぞれ前後3つぐらいの範囲で迷いに迷いました。作家さんの顔ぶれを見ると、冲方丁さん、瀬尾まいこさん、高村薫さんが、今年初めて読んだ作家さんです。その他はお馴染みの顔ぶれが並んでいて、私の好みがはっきり出てしまいました。

 選外の作品について言うと、初めての作家さんでは、三崎亜記さんの「失われた町」、真保裕一さんの「アマルフィ」、好きな作家さんでは、森博嗣さん「カクレカラクリ」が良かったです。
海外作品も、10位には入れませんでしたが、ジョージ・R・R・マーティンさんの「氷と炎の歌」シリーズ、スコット・マリアーニさんの「ベン・ホープ」シリーズは、これから長い付き合いになりそうです。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
小惑星探査機 はやぶさの大冒険 / 山根一眞 Amazon
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今年一番の明るいニュースはこれだと思う。だから本書の魅力は「はやぶさ」の成功あってのこと。それでも7年前から取材を続けていた著者には感謝したい。
フリー <無料>からお金を生み出す新戦略 / クリス・アンダーソン Amazon
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携帯ゲームサイトなどで良し悪しが言われるようになった「無料」のビジネスモデルをいち早く正面から考察した本。今後の経済の重要なテーマになると思う。
日本人へ 国家と歴史篇 / 塩野七生 Amazon
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徹底したリアリストの著者が、日本の政治と社会を斬る。時に切れすぎて怖いぐらいだ。しかし、「あぁ、そのとおりだった」と思うことの何と多いことか。
地域再生の罠 / 久繁哲之介 Amazon
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「地域振興」は、地方の喫緊の課題だが、その「成功例」は実は危ういものだった。自治体や地域振興関係者には厄介な本だが、目をそらしてはいけない。
中国報道の「裏」を読め! / 富坂聰 Amazon
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中国のメディアが報道した中国国内のニュースを考察する。そこから見えてきたのは、私たちが思っている「一党独裁国家」とは少し違った姿だった。

 今年は明るいニュースを伝えた本が1位になって良かったです。ただ「事業仕分け」の中継を見て思うこと」という記事を私が書いたのは、昨年の11月。科学技術関連の予算の縮減が話題になったことを思うと複雑な気持ちです。
 今や、「事業仕分け」は燎原の火のように、全国の自治体に拡がっています。「費用対効果」だけで物事を判断することが続けば、これから先に、こんなニュースに触れる機会があり得るのかどうか不安です。
 

 
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OL辞めて選挙に出ました

著  者:えびさわけいこ 画:はな
出版社:主婦の友社
出版日:2010年12月31日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は、2007年に文京区議会議員に立候補し見事当選、現在1期目の議員活動中。公式ホームページの写真を拝見すると、議員さんや作家さんを形容する言葉としては適切ではないけれど、すごくキレイな方だ。
 本書では、医療と福祉のあり方に多くの矛盾を感じた著者が、政治家を志してから、当選するまでの一部始終が、ユーモアたっぷりなコミックエッセイで綴られている。本文にもコラムにも、選挙に関するマメ知識が詰まっている。

 私は、どうしても行けない事情がなければ、投票には必ず行く。選挙運動に参加したことはないが、議員には知り合いもいるし、選挙に対する関心は高いほうだと思う。しかし、候補者が当たり前のように乗っている選挙カーを、どうやって調達しているのかなんて知らない。ポスターやたすきにどんなルールがあるのかも知らない。つまり、知らないことだらけなのだ。
 そういう観点から見ると、本書は、これから政治家を目指そうという人や、著者のようにある時その決意をした人に対する手引書にはなる。しかし、著者の意図はそこにはないようだ。そもそも、そういった手引書なら、コミックではなくもっと実用本位で書いた方が良いだろう。

 では、著者の意図はどこにあるのか?それは、あとがきの最後の一文が雄弁に語っている。それは、「一緒に政治をしていきましょう。」 コミックにしたのは、気軽に読んでもらうため、難しそうな本なんか読まない人にも読んでもらうため、敢えて言えば「若い人に関心を持ってもらうため」だろう。

 その試みは、少しだが確実に実を結んだ。この本を私に紹介してくれたのは、本書のPR活動を行っている学生チームの中の日本大学の学生さんなのだ。(本をもっと前にいただいていたのに、書評の掲載が今になって申し訳なく思っている。)
 「えびさわさんからリアルな政治のお話をきいて、若い世代が頑張らないとまずいんじゃないかな、と感じるようになりました...」ということだそうだ。私は、若い人たちが何かを成さんとしていることを知っただけでも嬉しかった。私ができることなら喜んでお手伝いさせてもらう。

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2010年12月25日 (土)

デザイン学 思索のコンステレーション

著  者:向井周太郎
出版社:武蔵野美術大学出版局
出版日:2009年9月25日 初版第1刷 10月25日 初版第2刷
評  価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 本書は、武蔵野美術大学の教授であった著者が、所属の基礎デザイン学科で行った講義「デザイン学のアルファベット-思索のコンステレーション」を基にしたもの。「アルファベット」は「入門編」を意味するのではなく、aからzまでの26文字を頭韻とするデザイン関係の語彙の中から、著者が選んだ言葉について語る、という形式を示唆している。本書も、abduction、Bauhaus、cosmology、とアルファベット順に話が展開している。

 abduction、Bauhaus、cosmologyに、違和感を感じられた方がいるだろうか?Bauhausは、20世紀始めのドイツにあったデザインのための総合造形学校だから、まぁ順当なのだけれど、abductionは、「仮説形成」や「仮説的推論」などと訳される論理学の用語で、cosmologyは、「宇宙論」で天文学または哲学の一部門、一般的にはデザインに関する語彙ではないと思う。
 まぁ「デザイン」と一口に言っても、ポスターやチラシなどの印刷物のデザイン、商品の形状のデザイン、製品戦略のデザインなど様々だ。都市計画や政策のデザイン、と幅広い捉え方もある。しかし、本書での「デザイン」は、さらに広範なものを指していて、それは論理学とも哲学とも融合するのだ。私の言葉では、それをうまく説明できないので、本文から引用させてもらう。

デザインという創造的行為は、まさに全体としての「生」の基盤の充実、「生命」の生成や存在の意義と深くつながっているのです。ですから、デザインとは、その本質において、一般的な理解のされ方のような単に産業や経済や市場のための行為ではないのです。(357ページ)

 感銘を受けた。著者の博識と大きな世界観に、生命や自然・文化に対する慈愛に満ちた眼差しに。自然も文化も地域も心さえも、産業と経済の名の下に押し流すようにして破壊していく今の日本を、著者は憂えている。決して読みやすい本ではないが、本書の「デザイン」の概念が普及すれば、それを止められるかも知れない。

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「デザイン学 思索のコンステレーション」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年12月22日 (水)

「たんぽぽモール」に、コラムを書くことになりました。

 「たんぽぽモール」という女性向けウェブマガジンで、「ブックレビュー・オススメ本」のコラムを書かせていただくことになりました。今日、第1回目のコラムが掲載されました。紹介した本は、伊坂幸太郎/「チルドレン」です。

 「たんぽぽモール」は、女性向けポータルサイトとして、300万人の会員をかかえ、10年の実績がある老舗サイトだそうです。サイトのテーマは「女子力アップ」。20代~40代の女性がアクセスの8割を超えるそうで、それはテーマがこの層の皆さんによくマッチしているからなのでしょう。

 ポータルサイトとして、ショッピングやプレゼント、会員向けの限定情報やメルマガなど、盛りだくさんです。「女子力アップ」の方法なんて皆目分からない私が書くコラムが、会員の皆さんに受け入れてもらえるかどうか少し不安ですが、これまでに読んだ500冊弱+これから読む本の中から、「楽しんで読める本」を中心に選んで紹介していこうと思っています。

 たんぽぽモール
 第1回目の私のコラム 【ブックレビュー・オススメ本】:伊坂幸太郎/「チルドレン」 

 
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2010年12月21日 (火)

フリーター、家を買う。

著  者:有川浩
出版社:幻冬舎
出版日:2009年8月25日 第1刷発行 2010年8月25日 第3刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 フジテレビ系列で本書が原作のテレビドラマを放映中で、今日が最終回。でも、その日にこの記事を書いているのは全くの偶然。図書館の順番待ちで、本書が手元に来たのが3週間前。同じように図書館で予約した本と、いただきモノの本がそれぞれ3,4冊重なって、なかなか手を付けられないでいる間に、返却期限の今日を迎えた、というわけ。

 しなくてもいい言い訳はこれぐらいにして、本書について。序盤は「今回は変化球か?」と思わせた。アンソロジーの「Story Seller2」で、ちょっと読み心地の良くない短編を出した後でもあるので「これはキツイなぁ」と感じたが、ラスト近くになって直球を投げ込んできた。

 主人公は誠治。一浪してそこそこの私大へ行って、そこそこの会社に就職したが3か月で辞めてしまった、現在第二新卒として就職活動中のフリーター。アルバイトのコンビニも店長から注意を受けた時に辞めてしまった。その理由は「俺的にもう無理なんでー」。つまり、腰の定まらないいい加減なヤツなのだ。
 その後もバイトで小金を稼いでは、部屋でダラダラする生活。しかし、その生活態度を強烈に反省させる出来事が起きる。母親の寿美子が精神疾患を患ったのだ。その連絡を受けて嫁ぎ先から駆け付けた、姉の亜矢子から聞かされた過去の出来事の真実の姿、寿美子が背負ってきたストレス。自分がこんなでは母を救うことはできない...。

 こうして主人公の誠治が心を入れ替えて、元のような明るい笑顔があふれる家族を取り戻そうと努力する、その結末は?、という物語なのだがそれだけではない。著者は、誠治のために、もう一つの物語を用意していた。こっちの物語の方が著者としての直球だ。
 「三匹のおっさん」で「おっさん萌え」をカミングアウトした著者は、今回も萌えるおっさんたちを登場させた。誠治のバイト先の工事現場のおっさんたちだ。「俺らは学がねぇから...」と言いながら語る話は、人や人生への洞察に満ちていて、誠治をどれだけ助けたか分からない。特に、作業長の大悦は、「図書館戦争」シリーズの玄田を思い起こさせる、カッコイイ大人だった。

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2010年12月18日 (土)

日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方

著  者:山本敏行
出版社:ソフトバンククリエイティブ
出版日:2010年12月6日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 タイトルの「日本でいちばん~」についてから説明しておく。これは、株式会社リンクアンドモチベーションというコンサルティング会社が実施している「Employee Motivation Survey」という組織診断サービスにおいて、そのスコアが、2009年、2010年の2年連続で日本一高かった、ということを表している。
 日経ビジネスONLINEによると、この診断は、大企業から中小企業まで年間100社ほどが受けているそうだ。日本中に大企業+中小企業で60万社ぐらいあるそうだから、これでは「日本でいちばん~」を、素直に受け入れることはできない。けれども、本に書かれている内容が良ければ、そこはこだわるべきポイントではないだろう。

 著者は、この診断サービスで2年連続で日本一となった、株式会社EC Studioの代表取締役。ウェブサイトの売り上げアップ支援の会社として起業した創業者。現在は、中小企業の経営のIT化の支援を行っていて、法人・個人あわせて20万以上の顧客を抱える。
 本書の内容を受け入れるには、いくつもの発想や価値の転換をしなくてはいけない。なにしろ、この会社は「顧客に会わない」「顧客からの電話を受けない」を初めとした数々の、普通の感覚では「非常識」どころか「あり得ない」ことをやっているのだから。
 そもそも本のタイトルもこの会社の経営方針も「顧客第一」ではなく「社員第一」。私は中小企業診断士で、経営コンサルタントの端くれなのだけれど、「顧客」じゃなくて「社員」を第一にした会社を、寡聞にして知らない(並列させている会社は聞いたことがあるけれど)。

 「社員が満足して働くことで、安価で均質な良いサービスを顧客に提供できる」というのが、この「社員」と「顧客」のトレードオフ解消のための答え。20万もの顧客獲得が、その正しさを証明している。本書には、「ランチトーク制度」「長期休暇制度」などの「社員の働きやすさのための制度」や、ITツールの導入などの「生産性向上のための施策」が数多く紹介されている。
 「生産性向上のための施策」は、組織でも個人でもすぐに取り入れて効果が出そうなものもある。「社員の働きやすさのための制度」は、表面的な模倣ではなく、採用などに見られる社長の思い入れを見逃さずに徹底すれば、他の会社でも転用可能だろう。

 上に書いた「内容が良ければ..」について言えば、合格点としておく。

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2010年12月16日 (木)

中国人の99.99%は日本が嫌い

著  者:若宮清
出版社:ブックマン社
出版日:2010年10月25日 新装版初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 本書の場合、本の紹介の前に著者の紹介をした方がいいだろう。中国・台湾・他のアジア諸国について、著者の専断とも言える論評の数々が披露されているのだけれど、こういう場合、それがどういう人の口から出たものなのかが非常に重要だからだ。

 その点、著者は「この人の言うことが本当なのかもしれない」と思わせる経歴の持ち主だ。1970年に戒厳令下の台湾の東海大学に留学、4年間の4人部屋の寮生活を送る。その後、フィリピンや中東、エチオピア、スーダンと紛争地帯などで活動する。
 ここまででも、タダ者じゃないことは分かるのだが、この後がさらにスゴイ。1983年にフィリピンのマニラ国際空港でベニグノ・アキノ氏暗殺事件が起きるが、著者はその時アキノ氏に同行していた。また北朝鮮との人脈を作り、拉致被害者家族の帰国を得た、2004年の小泉総理訪朝につながる裏面工作に関わる。著者の活動についての是非は様々に言われているが、国際政治の現場にいたことは揺るぎない事実だ。

 そして本書について。本書は実は2006年に出版した書籍のプロローグを新しくした新装版だ。だから、ざっと5年ほど前の中国の状況を基に書かれているのだが、不思議なぐらい現在とマッチしている。いや現在は、著者が捉えた「中国像」がより明確に姿を現していて、その見立ての確かさが伺えるとも言える。
 その主張を切り詰めて言うと「「民度」では、日本人は中国人より優れているかもしれないが、「錬度」では遥かにおよばない。だからナメていたら大変なことになる」ということになる。「錬度」とは、したたかさ、戦略性などを表す「鍛えられた駆け引きの力」のことだ。

 タイトルに沿う形で「中国人がいかに日本を嫌っているか」の数々が書かれているが、逆説的だけれど、「中国人は日本が嫌い」かどうかは、この際あまり関係ない。彼らの関心は「好き嫌い」よりも「勝ち負け」なのだ。これは言葉の綾だけれど、「勝つ」ために必要なら「好き」にぐらい平気でなるかもしれない。
 中国の強気の外交を「中国国内向けのポーズ」、反日デモを「中国政府への不満のはけ口」と、日本の「識者」は分かったような分析を披露する。必ずしも間違いではないが、そんなに単純ではない。理解したつもりになって「大人の対応」をしているとやられてしまう。

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2010年12月13日 (月)

文藝別冊 [総特集]伊坂幸太郎

出版社:河出書房新社
出版日:2010年11月30日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 まるごと1冊、伊坂幸太郎さんを特集した240ページ弱のムック誌。「文藝」という河出書房新社の季刊文芸誌の別冊。伊坂さんへのロングインタビュー、ミュージシャンの斉藤和義さん、映画監督の中村義洋さんとの対談、伊坂作品に関するエッセイや論考、作品ガイド、そして伊坂さんが大学1年生の時に生まれて初めて完成させた小説のプロットを使った、書き下ろし短編などが収録されている。言わば「伊坂幸太郎の詰め合わせ福袋」。

 私がこういう雑誌に期待するのは、作家さん自身の声と、作品のトリビア的なものを少し。だからロングインタビューや対談が興味深かった。伊坂さんがある作品についての想いを語り、その作品に対する読者の反応を紹介する。反応の9割方は伊坂さんの予想とは違ったらしい。その予想外の反応の多くは、私の感想そのものだった。ただし「ゴールデンスランバー」のくだりで「何でわかってくれないんだよ!」というセリフには、私は「わかってましたよ」と言いたい(笑)。

 もう一つ、すごく面白かった記事がある。それは、巻末に資料編のように付いている「伊坂幸太郎全作品2000⇒2010」。これまでに出版された20作品の「担当編集者の裏話」が紹介されている。例えば「初稿版にあってカットされた忘れられないエピソード」があるという話。あることだけが明らかになっていて、その内容までは分からない。知りたい。どうしても知りたい!

 そもそも不思議なことに、伊坂さんの作品は数多く出ているけれど、本書の出版社である河出書房新社からは出ていない。裏話を明かしている編集者は全員が他の出版社の人なのだ。まぁ、それぞれの出版社が等距離にあるわけで、だからこそこの企画が実現したのかもしれない。けれど、それぞれの編集者の言葉からは、ヨイショを割り引いても、伊坂さんとの仕事を楽しんだ雰囲気が伝わってくる。その雰囲気が他の出版社が出すこの本への協力につながったのだと思う。

 この後は、「ちょっと気になったこと」を書いています。お付き合いただける方はどうぞ

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2010年12月 8日 (水)

マリアビートル

著  者:伊坂幸太郎
出版社:角川書店
出版日:2010年9月24日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新刊。「あぁ、今回はこの路線か」と扉のページをめくってすぐに分かった。登場人物の一人の木村という字の印影が冒頭にあるからだ。これは「グラスホッパー」の時と同じ。この印影は著者からのシグナルに違いない。「殺し屋がたくさん出てきます。そしてたくさん死にます。」というシグナル。

 印影に対する私の解釈はピンポイントでヒットしたようで、本書が描くのは「グラスホッパー」から6年後の物語。あの時、一連の騒動の末に闇社会の大立者が死に、多くの殺し屋が死んだ。しかし、殺し屋たちの「業界」は存続し、今は新たな実力者が君臨しているらしい。今回も登場人物のほとんどは「業界」の中の連中だ。

 舞台は東北新幹線「はやて」の中。朝の9時に東京駅をでて盛岡に着くまでの2時間半の物語。主人公は特になく、2人組みの殺し屋「蜜柑」と「檸檬」、メチャクチャ運が悪い殺し屋「七尾」、かつて物騒な仕事をしていた「木村」、そして中学生の「王子」らの視点の物語がクルクルと順番に語られる。
 「七尾」の今回の仕事は、デッキの荷物置き場にあるトランクを持って上野で降りる、それだけのことだった。ところが、ある男にジャマをされて上野駅で降りることができず、そのうちトランクを失くし、トランクの持ち主である「蜜柑」と「檸檬」に狙われ..と運のなさが全開。途中でそのつもりもないのに人を殺してしまうし..

 その後は、登場人物入り乱れてのドタバタが展開される。もちろん著者の作品だから、伏線やアッと驚く展開で楽しませてくれる。「殺し屋」の話で人がたくさん死ぬのに、どこかしら軽いノリなのは、著者の周到な準備のせいだろう。「七尾」の運のなさと自信のなさは笑えるし、「檸檬」が「機関車トーマス」の大ファンなのも愛嬌がある。
 ただし「王子」の部分は、愛嬌も救いもなく異質だった。どす黒く滞った悪意が感じられて、嫌悪感さえ持った。著者は以前「バランスを崩したい」とおっしゃっていたが、本書ではここがそうなのだろう。読み終わってしばらく経った今は、あの時の嫌悪感が随分薄らいでいるのに少しホッとする。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
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 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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2010年12月 6日 (月)

日本SF大賞に「ペンギン・ハイウェイ」

 日本SF作家クラブによる「第31回日本SF大賞」を、森見登美彦さんの「ペンギン・ハイウェイ 」と、長山靖生さんの「日本SF精神史 」の2作品が受賞しました。

 「ペンギン・ハイウェイ」について、腐れ大学生でもない、舞台が京都でもない、「著者の新しい引き出しが開いた」と、以前にレビューに書きましたが、新しい引き出しから出てきた新しい物語は、優れたSF作品として認められたようです。

 もう一つの受賞作「日本SF精神史」は未読ですが、「BOOK」データベースによると、「文学史・社会史のなかにSF的作品を位置づけ直す野心作。」と、なかなか魅力的な本のようです。

 日本SF作家クラブのサイト

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2010年12月 5日 (日)

「これから出る本 読後感想文募集」に入選しました

 日本書籍出版協会という出版社の団体が、月に2回発行している近刊図書情報の「これから出る本」という小冊子で募集していた、読後感想文のコンクールで「優秀作」に入選しました。締め切り間際の8月末に応募したきり忘れてしまっていましたが、先日、結果発表が載っている「これから出る本」と一緒に、入選のお知らせが届きました。

 「これから出る本」は、書店のレジ横あたりによく置いてある無料の冊子です。時々手にとって読むのですが、そこで感想文を募集していることを知って、ものは試しとばかりに応募してみたところ、こんなうれしいことになりました。
 募集要項では、優秀作3点、佳作5点となっているのですが、結果発表を見ると、今年は優秀作7点、佳作ゼロ。なんとありがたくも太っ腹なことでしょう。感謝です。

 
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2010年12月 4日 (土)

夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです

著  者:村上春樹
出版社:文藝春秋
出版日:2010年9月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「めったにマスメディアに登場しない」というイメージが強い著者の初めてのインタビュー集。1997年12月から2009年の春までの11年あまりの間に行われた18本のインタビューが収録されている。時期を作品で言えば「アンダーグラウンド」刊行直後から、「1Q84 BOOK1,2」を書き終えた(まだ刊行されていない)ころまで。長編なら「海辺のカフカ」、中編では「スプートニクの恋人」「アフターダーク」、連作短編「神の子どもたちはみな踊る」「東京奇譚集」が刊行されていて、インタビューではそれらを始め、デビュー作以降の沢山の作品に触れられている。

 著者の作品に向かう態度、作品の書き方までが語られている。例えば「スプートニクの恋人」は自分が培ってきた文体を徹底的に検証しようとして書いた、とか、短編集を書くときには、なるべく意味のないポイントを20ぐらい用意して、1編にそのうちの3つを使って書く、とか...。
 最も興味深かったのは、人間の存在を2階建ての家になぞらえた例え。1階はみんなで集まってごはんを食べたり話したりするところ。2階は1人になって本を読んだり音楽を聴いたりするところ。つまり、1階は社会と接するパブリックな部分、2階は自分だけのプライベートな部分。上手い例えではあるが、どこか平凡でもある。しかし、著者の奥深さはこの先にある。
 この家には地下室がある。日常的には使わないけれど、いろいろなものが置いてある特別な場所。普段は自分も意識しない、心の底に沈めた想いのようなものだろう。そして、さらに奥深いことに、そこには特殊な扉があって、また別の部屋へ続いているというのだ。じらすようで申し訳ないが、これは大事なことだと思うので、この部屋のことはここでは説明しない。

 冒頭に「めったにマスメディアに登場しない」と書いたが、それは正確ではない。何しろ、520ページにもなるこんな本ができるぐらいインタビューに応えているのだから。ただし、本書に収録された18本中12本は海外のメディアに向けたものだ。
 だから「めったに日本のマスメディアに登場しない」と言えば正確かというと、実はそうでもない。本人も「好んでやるほうではない」とおっしゃってはいるが、ちょっと検索すると分かるが、雑誌や新聞のインタビューが年に何本かある。
 ただ、テレビやラジオには出ない。その理由が、本書を読んで分かった気がする。こんな論評は生意気だけれど、著者は言葉をとても吟味して使う。テレビやラジオではそこまでできないかもしれないし、できたとしても聞いた方が言葉の選択まで正確に記憶できるわけではない。こうして、その雑誌や新聞の読者以外の目には触れないため「登場しない」ことになってしまっている。本書はある編集者が熱心に進めた企画だそうだけれど、彼女はこの状況に気が付いていたのだろうと思う。

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2010年12月 1日 (水)

飛ぶ教室

著  者:エーリヒ・ケストナー 訳:池田香代子
出版社:岩波書店
出版日:2006年10月17日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の11月の指定図書。海外の作品もいいんじゃないか?という意見もあって本書に決まりました。クリスマスに向かっていく今の季節にピッタリ。

 主人公は、ギムナジウムというドイツの寄宿学校に通う5年生たち。ボクサー志望のマティアス、秀才のマルティン、臆病なウーリ、詩人のジョニー、クールなセバスティアーン、の5人組。年齢にすると14~5歳だ。本のタイトルの「飛ぶ教室」というのは、物語の中で、クリスマス集会で上演する、ジョニーが書いた劇の名前。

 まえがきに、著者のメッセージがある「子どものころのことを、けっして忘れないでほしい。」 なんとストレートなメッセージだろう。飾りも比喩もなく、言いたいことを直に言葉にしている。

 時代は、おそらく著者が本書を書いた1933年ごろ。大人も子どもも懸命に日々を生きていたころ。ドイツはナチスが政権を取り、暗い時代へ突き進んでいたころだ。だから、今の日本の私たちや14~5歳の中学生たちとは違う世の中の話。それなのに、こうも活き活きとしたものが伝わってくるのはどうしてだろう?子どもたちが吐く息の白さまで見えるようだった。

 それは、14~5歳のころの心のあり様が、時代や国が違ってもそう変わらないからなのだろう。もちろん、すべてが同じというわけではない。ただ、仲間を大事に想う気持ちとか、その裏返しの他のグループとの反目とか、誰かに対するあこがれとか、なりたい自分になれない悩みとか、家族に対する想いとか、変わらないものは確かにある。そういったことが、まえがきのメッセージに劣らずストレートに伝わってくる。名著だ。クリスマスの贈り物にすると、良いかもしれない

※SNSの読書会では、訳による違いや訳者による「あとがき」のことが話題になりました。数多くの翻訳が出版されているようです。私が読んだのは、岩波少年文庫の新版です。この訳はなかなか良かったと思います(他の訳は読んでいないので、比較したわけではありませんが)。

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