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2010年10月

2010年10月31日 (日)

エデン

著  者:近藤史恵
出版社:新潮社
出版日:2010年3月25日 発行 2010年5月15日 第4刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2008年の大藪春彦賞受賞、本屋大賞第2位の「サクリファイス」の続編。あれから3年後を描く。

 前作の終わりにスペインの自転車レースチーム「サントス・カンタン」への移籍が決まった主人公の白石誓は、そこそこの実績を残してフランスのチーム「パート・ピカルディ」に移籍していた。ツール・ド・フランスでの優勝候補を有する有力チームだ。
 そして何と、誓はツール・ド・フランスへの出場を果たす。自転車レースの最高峰で100回になろうとする長い歴史の中でも、出場した日本人選手は数人しかいない。日本人だけでなく、世界中の自転車選手が夢に見るツールへの出場。しかし物語にはそんな晴れがましさはなく、その代わりに底の見えない深い人間の業と葛藤が描かれている。それでいて、自転車で走る時の心地よい風を感じるからか、物語に陰鬱とした暗さが漂わないのが救いとなっている。

 自転車レースは、人力だけで競うスポーツとしては最速と言われる。極限まで体力を使う過酷なレース。薬物への誘惑も多い。また、チームスポーツでもあって、誓の役割でもあるアシストは、エースを勝たせるために働く。玄人の目にはその働きは見えるが、決して記録には残らない。自らの勝利への渇望は叶えられない。「それが当然」と頭では分かっても、心の葛藤は消えない。
 さらに本作では様々な要素が絡む。グローバルスポーツである自転車レースの中だからこその、日本人であること、フランス人であること。プロスポーツの意外に脆弱な経済基盤。貧富の差。友情。前作よりもドラマに厚みが出た。
 そして、誓が背負う「自分がここにいられる理由」。本作だけでも楽しめるが、前作「サクリファイス」から通しで読むことをオススメする。さらに興味がある方は、スピンオフ短編で「Story Seller」に収められた「プロトンの中の孤独」、同じく「Story Seller2」の「レミング」も。

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2010年10月29日 (金)

「書店」vs「ネット」、あなたはどっちで本を買う?

ブログネタ: 「書店」vs「ネット」、あなたはどっちで本を買う?参加数拍手

 私が利用しているブログサービス「ココログ」では、ブログ管理画面の右側に「ブログネタ」という、ブログの記事のネタを提供するサービスが表示されています。このブログは「本のこと」というテーマが決まっているので、いつもは「私には関係ない」と思っていたのですが、今回は「本のこと」だったので、参加してみました。

 この「ブログネタ」には、投票機能が付いていて、上のリンクから投票結果と参加ブログの記事を見ることができます。136人参加している現在では「書店」が2/3で優勢です。ただ、記事を読むと「どっちでも買う」という人が多いです。投票にはその選択肢がないので、「書店」への応援の気持ちがそういう人に「書店」を選ばせているような気がします。

 それから、細かいことを言いますが、「ブログネタ」の質問は、「欲しい書籍があるとき、あなたは書店で買いますか、それともインターネットで注文しますか?」となっています。強調すると「欲しい書籍があるとき」です。だから、「本屋でブラブラしていて、面白そうな本があったら買う」ということで「書店」を選ぶのは当たらないはずです(ホントに細かいですね。自分で書いていてちょっと恥ずかしくなってきました)。

 かく言う私は「書店」を選びました。多くの人と同じで、ネットでも買います。でも「欲しい書籍」が決まっていれば、迷わず書店へ行きます。Amazonやbk1で買う場合の、到着までの2、3日が待てないからです。
 幸いなことに、車での移動が日常のわが街では、その気になれば大きめの書店を3つ4つハシゴできます。いつも4つ回るわけではなく、その時に気が済むだけ回ってなければ、ネットで注文を入れます。悲しいことに、最近はネット注文が増えています。品揃えがよかったT書店が撤退してからはテキメンにです。

 
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2010年10月28日 (木)

新世界 国々の興亡

著  者:船橋洋一
出版社:朝日新聞出版
出版日:2010年9月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 朝日新聞のオピニオン欄に本書と同名のシリーズ記事として、今年3月から6月まで掲載された11本のインタビュー記事を収めたもの。米国国家情報評議会顧問、米国の戦略シンクタンク所長、世界銀行総裁、紛争に立ち向かう国際NGOの理事長、北京大学国際関係学院院長..現在の世界政治・経済に大きな影響力を持つ人々が、世界の「3歩先」を語る。

 「3歩先」とは本書の帯にある言葉で、本文から推察すると大体20年後あたりを指しているらしい。ところが皮肉なことに本書は、著者が書いた前書きの「冷戦が終わった時、20年後、こんな「新世界」が生まれると、誰が予測しただろうか。」という一文で始まっている。20年前に現在を予測できなかったのに、今20年後を語ることにどんな意味があるのだろうか?
 でも私は、こんなことを書いて本書を揶揄して嗤おうとしているのではない。予言者でなければ、誰も未来を言い当てることはできない。著者もインタビューを受ける側も、そんなことは承知で20年後を語っているのだと思う。それは、20年後を仮定することで、それが「今すべきこと」を考える拠り所となるからだ。そう、大切なのは「今何をすべきか?」なのだ。

 それぞれの人が語った20年後は本書を読んでもらうとして、1点だけ多くの人が言及したことを紹介する。それは「中国がメインプレーヤーの一角になる」ということだ。現状の「平和的台頭」を守るのか、領土問題で垣間見られる強圧的な振る舞いに切り替わるのか、それは分からない。どちらにしても中国抜きでは、世界も日本も語れなくなる。
 著者が最後に提唱する「日本に必要な五つのパワー」は、正直に言ってどれも「何処かで聞いた」感がある、しかも実現が困難なものばかりだ。しかし、ここ10年以上も「日本@世界」というコラムを朝日新聞に書き続け、「世界の中の日本」という視点でモノを見てきた著者が、政治・経済のエキスパート11人のインタビューを終えて提唱したものだ。今一度じっくりと検討すべきだろう。大切なのは「今何をすべきか?」だ。

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2010年10月23日 (土)

小惑星探査機 はやぶさの大冒険

著  者:山根一眞
出版社:マガジンハウス
出版日:2010年7月29日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 職場の同僚が「是非読んでほしい」と言って貸してくれました。感謝。

 小惑星「イトカワ」への往復60億キロ7年間の旅を終えて、今年6月13日に地球に帰還し、「イトカワ」で採取した試料が入っている可能性がある「カプセル」を残して大気圏で燃え尽きた、小惑星探査機「はやぶさ」。本書はその打ち上げ前から帰還後までを、ノンフィクション作家の著者が多くの関係者の取材を基に記録したものだ。

 「素晴らしい」の一言に尽きる。何がかと言うと「はやぶさ」のプロジェクトに関わった、川口淳一郎プロジェクトマネージャ他の技術者・スタッフの皆さんが、だ。何という技術力、何という創意工夫、そして何という粘り強さだろう。望んでも手に入るものではないと思う。
 そして、この記録を7年前から取材を続けて、本書を著した著者にもありがとうと言いたい。私など、7年間何も知らないでいたのに、最後になってチャッカリと感動だけを分けていただいて申し訳ないぐらいだ。チャッカリしているのは私だけでなく、世間一般がそうだったようだ。朝日新聞の記事を「はやぶさ and 小惑星」で検索すると、打ち上げの2003年5月の記事数はわずか7、イトカワ到着の2005年11月は23、帰還したこの6月以降は173件。成功のニュースを聞いて初めて注目した、ということだ。

 実は「HAYABUSA BACK TO THE EARTH」というブルーレイの映像を前に見たことがあり、そこでは「はやぶさ」のことを「彼」と擬人化して呼んでいた。私は、それに少なからず違和感を抱いていた。感傷的にすぎる、と。しかし、本書を読んで「はやぶさ」を「彼」と呼ぶ気持ちがよく分かった。
 度重なる不調はもちろん、連絡が全く途絶えたことさえある。その度に何億キロも離れた「はやぶさ」に地球から呼びかける。それ応えて途切れ途切れに信号が返ってくる様子は、正に「意思をもった「はやぶさ」が答えている」としか思えない。
 そして、イオンエンジンが、リアクションホイールが、1つずつ故障し、復路ではメモリやDHUという頭脳にあたる部分までが、崩れるように機能を低下させる。満身創痍で地球を目指した「はやぶさ」を知ってなお特別な感情を持たない人は少ないだろう。

 ※カプセルの中にイトカワ由来の物質が入っていたかどうかが、今後の注目点になるだろう。しかし「はやぶさ」は「小惑星に行って帰って来る」ということ以外にも、数多くの「世界で誰も成し得なかった」数々のことをすでに実現している。本書はそうしたことも伝えてくれる。

 参考:JAXA:「小惑星探査機「はやぶさ」ついに地球へ帰還!」

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2010年10月21日 (木)

「バイバイ、ブラックバード」をより楽しむために

編  者:ポスタル・ノベル
出版社:双葉社
出版日:2010年7月4日 第1刷発行
評  価:☆☆(説明)

 先日の「バイバイ、ブラックバード」のレビューの終わりに書いたように、「私が気が付かないアッと驚く仕掛けがあるのでは」と思った私は、本書の存在を知って矢も盾もたまらず、速攻で買ってしまった。100ページしかなく、しかも後ろ半分は「バイバイ、ブラックバード」の下敷きとなった、太宰治の「グッド・バイ」が掲載されている。

 実は「グッド・バイ」は青空文庫で読んでいたので、私にとって本書の価値は前半40ページ余りにしかない。30ページが伊坂幸太郎さんへのインタービュー、10ページ余りがフリーライターの門賀美央子さんによる「解説」。正直に言って、わずか630円と言えども一瞬買うのを躊躇した。
 伊坂さんは、自分の作品について「求められれば、抗うことも隠すこともなく、丁寧に誠実に話をする」作家さんだと思う。雑誌やサイトなどのインタビュー記事の多さからそうと分かる。私は、「いつもは雑誌の一部分であったり、サイトに無料で公開しているインタビューを、今回は本にして630円で売ることにしたのか」と受け止めてしまった。

 内容は悪くない。作家自らによる創作ウラ話は読者を楽しませるし、「解説」は「グッド・バイ」に字数を割き過ぎているように思うが、それも「バイバイ、ブラックバード」を楽しむ助けにはなる。悪いことは何もないのだけれど、上に書いたことと、「私が期待したものはここにはなかった」という身勝手な理由から、私は楽しめなかった。
 ちょっと視点を変えると、出版社の「企画」通りだったとも言える。そもそも1話につき抽選で50人だけに届く「ゆうびん小説」という「企画」から始まっているのだ。終了後にまとめて書き下ろしの1話を加えて書籍化し、同時に「~より楽しむために」なんて本を出す「企画」。マーケティングとしては、ストーリーが整っていて良くできている。

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2010年10月16日 (土)

バイバイ、ブラックバード

著  者:伊坂幸太郎
出版社:双葉社
出版日:2010年7月4日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書はちょっと特殊な作品だ。裏表紙に「Postal Novel」と書いてあるが、元々は出版社の企画で、抽選で1話につき50人、5話で合計250人に1話ずつ郵送された「ゆうびん小説」。書き下ろしの第6話を加えて書籍化された。さらに、太宰治の絶筆となった未完の新聞小説「グッド・バイ」を下敷きとした作品でもある。

 主人公は星野一彦30歳。借金のため「バス」に乗せて連れて行かれることになった。その日までの間の監視役として一彦に張り付いたのが繭美。身長180cm、体重180kgの巨女だ。身体がデカいだけでなく態度もデカい、おまけにとんでもなく意地悪で下品。
 繭美に比べると一彦は至って平凡、ハンサムでもブサイクでもない。でもその暮らしには1つは特徴がある。なぜか女性に好感を持たれるらしく、現在5人の女性と交際中なのだ。物語は、「バス」に乗せられる前に、一彦が「繭美と結婚することになった」と言って、別れ話をするためにそれぞれの女性を訪ねる一部始終を描く。1人と別れるのに1話、5人で5話、書き下ろしの第6話で締める、という構成だ。

 それぞれの物語は結構面白い。それぞれの女性との出会いも描かれていて、これがどれも伊坂さんらしいシャレ具合だ。会話の端々にもクスッと笑える。「白新高校だ」とか「じゃあ、教えて、パパ」とか「座るに決まってんだろうが!」とか。
 にも関わらず「何か足りない」というのが私の感想。1話1話のつながりが感じられないのは「ゆうびん小説」だから仕方ないのかも。それを補う第6話だと期待したのだけれど..もしかしたら私が気が付かないだけで、アッと驚く仕掛けがどこかにあるのかもしれないけれど。

と思っていたら、「「バイバイ、ブラックバード」をより楽しむために 」なんて本があるではないか!

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
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2010年10月14日 (木)

きみはポラリス

著  者:三浦しをん
出版社:新潮社
出版日:2007年5月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 三浦しをんさんの短編集。小説新潮やアンソロジーに書いた「恋愛短編」が11編収録されている。巻末の「初出・収録一覧」に、それぞれの短編のテーマが「お題」「自分お題」として載っているので、読む前でも後でも良いので見るといいと思う。

 その「初出・収録一覧」に「「恋愛をテーマにした短編」の依頼が多い」と書いてあり、不思議な感じがした。そんなに数を読んでいないけれど、今まで読んだ著者の作品からは「恋愛小説」のイメージはない。「風が強く吹いている」「仏果を得ず」「神去なあなあ日常」。どの作品の主人公も恋はする。でも「恋愛小説」ではない。直木賞受賞作「まほろ駅前 多田便利軒」には、恋愛の要素はあっただろうか?

 読み始めてすぐに「もしかしたら?」と気が付くのは、本書の物語は「普通の恋愛小説」ではないんじゃないか?ということ。誰かが誰かに恋したり愛したりすれば「恋愛」かもしれないけれど、相手が死んでしまっていたら?誘拐犯だったら?ペットだったら?、二人が姉弟だったら?女同士だったら?男同士だったら?世間的には許容範囲が広がったとはいえ、まだこれは「普通」ではないだろう。「恋愛をテーマにした短編」の依頼者の期待は、これで満たされたのか心配になってくる。

 「普通」じゃつまらない、という人にはバリエーション豊かで良いだろう。しかし、私は読んでいて、そわそわと落ち着かなくて仕方なかった。その中では、一対になっている最初の一編と最後の一編は、少しだけれど主人公を応援したくなった。私の許容範囲も少し広がっているようだ(笑)。

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2010年10月11日 (月)

一億総ガキ社会 「成熟拒否」という病

著  者:片田珠美
出版社:光文社
出版日:2010年7月20日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「ウェブはバカと暇人のもの」「地域再生の罠」「個人情報「過」保護が日本を破壊する」「テレビの大罪」。ここ半年で読んだ新書をいくつか並べてみた。タイトルに共通するのは「刺激的な言葉」だ。「バカ」「罠」「破壊」「大罪」。
 本書もタイトル全体が刺激的だ。かく言う私も、そのインパクトによって購入したと言っても過言ではない。そのタイトルが示すところは、日本国民全体が「ガキ」化している、成熟した大人になれていない(あるいはそうなる可能性がある)という著者の見立てだ。

 精神科医で大学の教員でもある著者は、患者や学生と相対する中で「打たれ弱さ」「他責的」「依存症」の3つの傾向を感じている。例えば、上司に叱られて会社を辞めてしまう若者らに「打たれ弱さ」を、モンスターペアレントたちに「他責的」な傾向を、(日本人じゃないけれど)マイケル・ジャクソンの薬物使用などに「依存症」を見る。
 正直に言って、こうしたことは方々で盛んに言われていることで、日々普通に暮らしていて感じる機会も多く、本を読んで確認するまでもない。しかし本書の特長は、この3つの傾向すべてに共通する1つの要因を指摘していることにある。その要因というのが「理想の自分」と「現実の自分」のギャップだ。
 そのギャップに耐えられない「打たれ弱さ」。場合によってはギャップを感じる恐れがあることを最初から避けてしまう。ギャップを他の何かのせいにしてしまう「他責的」傾向。優秀であるべき我が子がそうならないのは「先生のせい」「学校のせい」「社会のせい」。そしてギャップを薬物で埋めようとする「依存症」。

 本来であれば成長とともに、このギャップを「耐える」「いなす」「受け入れる」ことを身に付ける。それが「大人になる」ということなのだが、身に付けられない人が増えている。著者は最終章で、そうならないための「処方箋」の提示を試みているが、そこに満ちる「もどかしさ」がこの問題の底深さを表している。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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2010年10月 6日 (水)

アマルフィ

著  者:真保裕一
出版社:扶桑社
出版日:2009年4月30日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の作品を読むのは「デパートへ行こう!」に続いて2冊目。コミカルなドタバタが楽しかった「デパートへ行こう!」とは打って変わって、型破りな外交官が活躍する、国際問題やテロリズムも絡む硬派なサスペンス。どうやらこちらが著者の本領のようだ。

 主人公は黒田康作。外交官で「邦人保護担当特別領事」という肩書を持つ。その実態は、外務省トップの事務次官の特命を受けるテロ対策・要人警護のスペシャリストだ。今回は、外務大臣の訪伊を受けてローマの日本大使館に赴任する。(ちなみにタイトルの「アマルフィ」はイタリア南部の観光地の名前。アマルフィ海岸は世界遺産になっている。)
 そこに、日本人少女の誘拐事件が起きる。本来、捜査権限を持たない外交官は、その国の警察に事件の捜査を任せ、オブザーバーに徹するのが原則なんだそうだが、黒田は「邦人保護担当」という肩書ゆえ、それが本務だとして、少女の母親に協力し事件に深く関わっていく。そして、事件は更に大きな事件へと発展していく。

 とにかく黒田がカッコいい。組織と自己の保身が優先の大使館員たちの中にあって、その正義感と行動力が(それと裏腹の無謀さも)抜きんでている。そして、少女の母親である紗江子がまたまた魅力的だ。行動力と知性を感じさせる男性と被害者の肉親の女性。どことなくダン・ブラウンの作品を思い出させる。映像向きの物語だというところも同じだ。

 映像向きなのはそのはずで、この物語はフジテレビ開局50周年記念映画「アマルフィ 女神の報酬 」の脚本作りに著者が参加したことから生まれたものなのだ。映画は監督と共同でシナリオを完成させ、本書は著者の当初のプロットを基に仕上げたそうだ。したがって、映画と本書では相違する部分が多い。比べてみるのも良いだろう。
 もう一つ映像関係のニュース。黒田を主人公としたテレビドラマ「外交官・黒田康作」が、来年1月からフジテレビで放映される。映画の続編の位置付けで、黒田を演じるのは映画と同じく織田裕二さん、共演は柴咲コウさんという豪華キャスト。ドラマのプロデューサーは「「黒田康作」というキャラクターを1作で終わらせるのはもったいない」と言ったそうだ。私もそう思う。(が、著者との関係はどうなってるんだろう?)

 関係ありそうでなさそうなことなんだけれど、私はNHKの「世界ふれあい街歩き」という番組が好きなんですが、中でも「アマルフィ」の回はとても印象深い回でした。

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2010年10月 2日 (土)

カラフル

著  者:森絵都
出版社:理論社
出版日:1998年11月 第4刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 お世話になっている本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の9月の指定図書。SNSでは活発に意見交換、感想交換がされています。色々な感じ方捉え方があって、まさに十人十色です。

 主人公は「ぼく」。大きな過ちを犯して死んだけれど、抽選に当たったラッキー・ソウル(魂)だ。何の抽選かというと、現世に戻って再挑戦ができるという抽選。それに成功すれば安らかな魂と同じように輪廻の輪に戻れるということらしい。
 物語は「ぼく」が、自殺して死んだ中学三年生の真の身体に入り、真として家族や学校のクラスメイトとともに生活をする数か月を描く。「ぼく」に課せられた課題は「前世の記憶を取り戻し、犯した過ちの大きさを自覚すること」。見ず知らずの中学生として暮らすことで、そんなことができるのか?それは、真として家族や周囲の人との関係を築くことを通して分かってくる。

 「ぼく」によって、一旦は自殺するほど絶望した中学生が、周囲との関係を回復していく物語。それをハートウォーミングに、時にコミカルに描く。人や出来事には色々な面があって、自分から見えているものがすべてじゃない、色々な色がある。上に「十人十色」と書いたがそれ以上にカラフルな「一人十色」だ。

 とても良い物語で、「あなたはあなたのままでいいのよ」と言われたようで勇気付けられもした。ただ、私は本書にはのれなかった。「産経児童出版文化賞」を受賞していることもあってか、小中学校の図書館に置かれ、推薦図書になっている例もあるようだけれど、それにも賛同できない。
 理由は、真が好きな後輩の女の子が援助交際、いや売春をしているのだけれど、その描き方を私は受け入れられないから。売春を「子どもに見せたくない」のではなくて、この描き方は「危険だ」と思う。

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