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2010年9月16日 (木)

テレビの大罪

著  者:和田秀樹
出版社:新潮社
出版日:2010年8月20日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は精神科医を本業とし、評論家、受験アドバイザーとしても活躍されている。時事問題や受験関係の著書も多数。本書によると、テレビにも時々出演されていたそうで、裏表紙の写真を拝見すると、なるほど見覚えがある。ただ名前は知らなかった。

 タイトルから想像する通りの、テレビのアレコレを断罪する本。「ウェスト58cm」が象徴する「やせ礼賛」の罪、「悪人」とレッテルを貼られた人に対するバッシング、医療崩壊の原因となった「医療報道」などなど。時に、精神科医としての知見からも的確な指摘をしている。

 中には、賛同できないこともあった。例えば「画面の中に「地方」は存在しない」という章。テレビ番組が「東京目線」で制作されているという指摘自体に異論はない。その中で飲酒運転に対する報道に触れ、「地方で飲酒運転死亡事故が減った件数と(経営が成り立たなくなった)飲食店経営者の自殺とを比べたら..」というくだりはどうだろう。
 確かに、地方では車が生活の足、通勤の足なので、飲酒運転厳罰化の飲食店に対する影響は、都市部よりはるかに大きいだろう。しかし、この飲酒運転死亡事故と飲食店経営者の自殺を秤にかけた部分は、データがないこともあって、非常に無責任な放言に聞こえた。

 最後に、著者自身が「丸ごと1冊、テレビについて攻撃しつづけるという本を書いてしまいました。」と、「おわりに」の冒頭に書いて本書を締めている。読んでいてテレビに対する敵意すら感じる執拗な内容なのだが、冒頭の一文に続く「この本を書いた真意」に至る文章が、そうした執拗さを救う。本書の内容もそれに対する批判もひっくるめて、すべてを客観的に見るその視点が、著者の「賢さ」を物語っている。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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 私はテレビについては醒めた目で見ていることが多いです。著者ほどではないけれど、どんな番組でも批判的な見方をしてしまう。それには、このブログで何度か書いていますが、以前に受けた取材のてん末が影響しています。

 私が話す内容が事前に決められていたこと、感想まで指定されたこともあります。インタビューを都合良く編集して、私が言ったこととまったく違う内容になっていたこと。誘導しようとする結論が間違っているので「それは真実ではない」と指摘したのに、そのまま放送されてしまったこと。何度もそういった経験をしています。

 その一方で、実は私は番組制作者の研修会などにも関わっていて、こうした経験の裏側にも思い当たることがあります。それは、ほとんどのテレビ番組は、予め決められたシナリオに従って制作されていることです。報道番組も例外ではありません。

 テレビ番組の制作は時間との戦いです。取材から帰ってその内容を基にどういう番組にしようか、などと言っている余裕はありません。研修会では、そういうやり方はダメだ、と教えています。取材に行くときには、どういう内容のシーンが必要か把握してから行くように、と指導しています。
 つまり取材は、多少意地悪な言い方をすれば、番組に必要な「絵」や「言葉」の素材を撮りに行っているだけなのです。本書で著者が度々言及していますが、「番組の趣旨に沿った都合のいい事を言ってくれる識者が重宝される」のは、そういう訳もあります。手間がかからず効率よく思い通りのものが作れますから。

 もうひとつ思ったこと。本書にも登場する「金八先生」から「ごくせん」に至る学校を舞台としたドラマ。「ごくせん」は我が家でも観ていました。ヤンクミの颯爽とした活躍が見せ場です。暴力で解決するのはどうなの?ということは気になりますが、鉄パイプ相手に素手で勝負だから、そこはいいとします。

 気になったのは、3年D組の生徒諸君が「勉強しない」「授業をまともに受けない」こと。「勉強よりも大事なことがある」は確かにそうですが、それは、学校で好き勝手やって「勉強しなくてもいい」こととは違います。勉強か大事なもの、の二者択一ではないのですから。
 成績が良くないこともあるでしょう。それは構わない。しかしせめて「まじめに勉強に取り組め」という、メッセージをテレビは発して欲しい。「ごくせん」は、中高生に人気があるタレントが主人公を演じています。子どもだってバカじゃないんだから、という声も聞こえてきそうですが、ああいうのが「カッコいい」と思う子もいるんですよ。

 
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コメント

はじめまして。
ハゲジイと申します。
どうぞよろしくお願いします。

テレビの番組を批判的に見るというのは
非常に健全な感覚だと思います。

テレビを見ていると
意図的に国民を愚民化しようと
しているのではないかと
疑ってしまいます。

私が「ごくせん」で非常に気になったのは
生徒の言葉遣いがかなりきたなかったことです。
不良という設定だから、はじめは
仕方がないにしても、ドラマが進むに連れて
ヤンクミの教育で、少しずつ
礼儀正しい言葉遣いをする生徒達に
成長するような脚本にしてほしかったと思います。

子ども達へのテレビの影響力は、計り知れないものが
あるので、制作者は、社会的責任というものを
自覚してほしいと思いました。

投稿: ハゲジイ | 2010年9月17日 (金) 04時57分

ハゲジイさん、コメントありがとうございます。

テレビの番組に限りませんが、情報を自分で判断することが必要ですね。
得られる情報の多くは伝聞情報で、そのまた多くはソースが分からなく
なってしまっています。

以前「ある調査によると...」ではじまる情報の提供元のいくつかに、
だれがいつどこで、といった調査の基本情報を尋ねたことがあります。
すると「講演会で聞いた」「本で読んだことがある」といった返事
ばかりで、基本情報が返ってきたものは1件もありませんでした。

テレビの制作者に自覚を求める気持ちは私にもあります。反面あきらめ
もあります。テレビの制作者が特別に高潔で責任感が強いとは思えない
ので。
 

投稿: YO-SHI | 2010年9月17日 (金) 12時49分

テレビに地方があるのか?。についてたまたま私、先日、友人でTBSの中部地方のローカル局CBCの友人と話していたところ、彼らCBC独自製作番組は20%。あとの80%の番組はTBSから配信されている、とのことでした。私は「わずか20%なの?」と聞き返したら、彼は「それが視聴者のニーズだから」と答えました。依存体質のとおり、地方局の経営も苦しくなっているそうです。

投稿: 片木慎一 | 2010年9月17日 (金) 13時52分

片木慎一さん、コメントありがとうございます。

CBCは老舗テレビ局なので20%もある、という見方もできますね。
1日20時間放送と仮定して20%なら4時間。

手元には古い(2000年)情報通信白書のデータしかないのですが、
それによると、首都圏、愛知、関西で20%超のところがありますが、
その他の多くは、1ケタという県が多数あります。

それが「視聴者のニーズ」とは、言い訳であり、諦観であり、真実でも
あるのでしょう。キー局の番組にはなかなか勝てないのでしょうから。
 

投稿: YO-SHI | 2010年9月17日 (金) 18時32分

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