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2010年9月22日 (水)

仏果を得ず

著  者:三浦しをん
出版社:双葉社
出版日:2007年11月25日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 私が聞き知った範囲では、とても評判が高い三浦しをん作品。文楽の道を究めんと精進中の若手大夫の笹本健大夫(たけるだゆう)。「若手」と言っても30歳になる。高校卒業後に文楽の道を志して今年で12年。思うに普通の会社員でも、10年を越えたあたりは実績も自信もついて勢いがある時期だ。しかし同時に壁もある。自分はこのままでいいのか?どこまでいけるのだろうか?

 ただし健はこんな壁をはっきりと意識しているわけではない。何といっても師匠の銀大夫は80歳。文楽の家に生まれれば幼いころから手習いを始めるのでこの道70年ぐらいにはなる。目指す高みは遥かに遠い、12年目なんてまだまだ必死に修行を重ねるしかない時期なのだ。
 とは言え、成長するためには目標や越えるべき壁も必要というわけで、銀大夫は健に、兎一郎という三味線弾きと組むように言い渡す。兎一郎は特定の大夫とは組まない「芸の鬼」。そして、これは銀大夫が健に課した試練の先触れにすぎなかった。

 健は「今ドキの若者」(と言うには歳をくっているが)らしく、どことなく必死さが感じられない。でも、彼にはしなやかな芯の強さが感じられる。文楽に20代を使い果たし、芸について悩み、恋について悩み、厳しい稽古に耐え、一見理不尽な師匠に仕える。それでもただの一度も文楽の道から気持ちが逸れない。
 だからだろう。健はあらゆるものから気づきを得て、芸を一段押し上げる。小学生のミラちゃんの何気ない一言で、近松門左衛門の「女殺油地獄」の神髄を悟る。そうそう、このミラちゃんが本書の個性派揃いの登場人物の中で、小気味良い存在感を放っている。健に対して「おじいさん(銀大夫)に怒られて楽しそうやったねぇ」などと言って、何でもお見通し、というより、本人よりよくわかっているのだ。

 本書を読むのに、知っているに越したことはないが、文楽の知識は必須ではない。読んでいくうちに必要な事柄は分かってくる。思い返せば「風が強く吹いている」を読んだ時には、箱根駅伝に俄然興味が湧いた。本書を読むと、文楽の公演を一度は生で見てみたい、と思うこと必至だ。

(2011.10.23 追記)
三浦しをんさんが文楽の楽屋を取材したエッセイ「あやつられ文楽鑑賞」の記事を書きました。本書と合わせて読むといいと思います。

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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コメント

こんにちは。
この作品を読むと、文楽を見てみたいと思っちゃいますよね。
展開としては、健と兎一郎の掛け合い、銀大夫と健、
兎一郎とその師匠のやりとりも面白いんだけど、
ミラちゃんの立ち居振る舞いというか、そっちの方が気になってしょうがなくて
一気に読んじゃいました。
お母さんに取られちゃったのを知ったあとの下りとか、キュンキュンしました。
その後どうなったのか知りたい。

弟子と師匠ものとして、展開とか構成は違うんですが、
人間関係をテーマにしているところが
佐藤多佳子の『しゅべれども、しゅべれども』に似てるなと、
読み始めてからも読了後も思いました。

投稿: ポポロ | 2010年9月23日 (木) 12時08分

ポポロさん、コメントありがとうございました。

やっぱりキーパーソンはミラちゃんですね。
お母さんもかなりとんがったキャラクターですが、
全然負けていない。

佐藤多佳子さんもずっと気になってるんですよねぇ。
「一瞬の風になれ」とか...
「しゃべれどもしゃべれども」も、近々読んでみます。
 

投稿: YO-SHI | 2010年9月24日 (金) 01時04分

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