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2010年8月

2010年8月29日 (日)

天国の本屋

著  者:松久淳+田中渉
出版社:かまくら春秋社
出版日:2000年12月31日 第1刷 2002年10月10日 第8刷
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は、本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の8月の指定図書。もう少し早くに読んでいたのだけれど、今日(29日)が読書会の書き込み開始の日なので、それに合わせました。ちなみに、今回は私がこの本を指定図書に選びました。

 物語の主な舞台は「天国」。本書では、人間の天寿は100歳に設定されている。もちろん誰もが100歳まで生きられるわけではなく、多くはそれまでに亡くなってしまう。そして、その後100歳までの残された年月を過ごす場所が「天国」。20歳で亡くなった人は80年間、80歳でなくなった人は20年間を「天国」で過ごし、また現世に生まれ出てくる、そういうことらしい。

 主人公のさとしは、ヤル気のない大学4年生。ヤル気のなさを見透かされたのか就職先が決まらない。ある日アロハシャツにバミューダパンツといういでたちの老人ヤマキに、本屋に連れてこられる。そこが、なんと「天国の本屋」、その名も「ヘブンズ・ブックサービス」
 さとしは、死んだわけではなく、短期バイトとして連れてこられた。バイトが終われば現世に帰ることになっている。ヤマキがさとしを連れてきたのには理由がある。さとしが天国で果たすべき役割もある。110ページあまりの短い物語。シンプルすぎる、意外性がない、という声も聞こえる。しかし、であるが故に力強いメッセージが感じられる。「自らの「生」を生きなさい」と。

 もうひとつ特筆したいことがある。「ヘブンズ・ブックサービス」では、朗読のサービスをやっている。店の本でも自分の本でも、依頼されれば朗読する。私はこのサービスに深く感じ入ってしまった。自分が書店をやっていれば、すぐにでもこの朗読サービスを始めたいと思った。
 これは、映画「天国の本屋~恋火」の中のセリフなのだけれど「言葉を字じゃなく音で聞きたい」ということが確かにあると思う。もっと言えば「声で聞きたい」。声は波動となって相手に届き、そこに絆が生まれる。字が読めるようになっても、本を読んで欲しいと子どもがせがむのはそういうことだと思う。大人になると、本を読んでもらえる機会は激減するが、大人だって読んでもらいたい時があるはずだ。

(追記)
 「天国の本屋」はシリーズ化されていて、「天国の本屋―うつしいろのゆめ 」「天国の本屋 恋火 」「あの夏を泳ぐ―天国の本屋 」と、本書を合わせて現在4作が出ています。それから、竹内結子さん主演の映画「天国の本屋 ~恋火 」は、本書「天国の本屋」と第3作「天国の本屋 恋火」の2つを合わせて原作としています。本も映画も良かったです。

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2010年8月28日 (土)

村上春樹 ロングインタビュー/雑誌「考える人」

 新潮社発行の季刊誌「考える人」の2010年夏号(7月3日発売)に、村上春樹さんのインタビュー記事が載っています。今年5月に箱根の富士屋ホテルで3日間かけて行われたインタビュー、90ページ(写真ページを含む)に及ぶ、まさにロング・インタビューです。

 インタビューを引き受ける返事に「The author should be the last man to talk about his works.」とあったそうです。これは、ずっと以前に村上春樹さんが、米国の作家のレイモンド・カーヴァーさんを評して引いた言葉でもありますが、「著者は己れの著作に対して最も寡黙であるべきだ」という意味です。
 それにしては今回は自分の作品について多くを語ってくれました。皮肉で言っているのではありません。ありがとうと言いたい気持ちです。「1Q84」について、私が聞いてみたかったことも触れられていました。(ただしそれでは納得はできす、今度はこちらから言いたいことができてしまいましたが。)

 ところで、記事を読んでいてある時からとても気になることがありました。それは「このインタビュアーはどういう人なのか」ということです。時折投げかけられる春樹さんからの振りや問いかけに完璧に応える、「100%のインタビュアー」。もう一人の春樹さんがいるかのようでした。
 その人は本誌の2002年の創刊時から編集長を務める松家仁之さん。1982年に新潮社に入社し、数多くの書籍や雑誌の編集を手がけた名編集者だそうです。1984年か85年には、春樹さんが長期滞在するハワイに遊びに行ったと、巻末の「編集部の手帖」にありますから、付き合いも長いのでしょう。

 その松家さんはこの6月末で新潮社を退社されたそうです。つまり、これが新潮社での最後の仕事。当て推量で言えば、この記事は春樹さんが打てば響く信頼する編集者へ贈った「はなむけ」であり、松家さんが立つ鳥として本誌とその読者に贈った置き土産なんじゃないでしょうか。

 残念なことに、本誌は私が調べた限りではネット書店各社には新品の在庫がありません。私は出版社に注文して送ってもらったのですが、それも品切れのようです。ジュンク堂さんなど全国で80店あまりが「バックナンバー常備店」らしいですが、在庫があるのかは分かりません。ただ先日、近所の書店に置いてあるのを見かけました。1400円と安くはないですが、その他の記事も充実しているので、興味がある方は見かけたらすぐに買うことをおすすめします。

 ジュンク堂「編集者の棚」(松家仁之さんへのインタビュー記事)

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2010年8月26日 (木)

マークスの山(上)(下)

著  者:高村薫
出版社:講談社
出版日:2003年1月24日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2ヶ月半前に読んだ同書の再読。いや、以前に読んだのは単行本で今回読んだのは文庫本なので、正確には再読とは言わないのかもしれない。普段こういう読み方はしないのだけれど、以前のレビューに「文庫版の方が面白かった」という声をいくつか頂いたので読んでみた次第。また、著者は改版や文庫化の際に大幅に改稿するそうで、それも確かめたかった。

 そして...「文庫版の方が面白かった」。何人かの皆さんがおっしゃる通りに。改稿もハンパな量ではなかった。昭和51年の雪山と57年の病院での殺人事件、平成元年の強盗傷害事件、そして平成4年の連続殺人と、単行本と同じ事件が起きる。しかし、それを軸にして語られる数々のエピソードは、ある物は変更され、ある物は姿を消し、全く新しく加えられた物もある。大きな流れを変えるような改変もされている。

 この改稿によって、どう面白くなったのか?言葉にするのは難しいのだけれど「物語が研ぎ澄まされた」と言えば伝わるだろうか?刃物を研ぐことで鋭さを増すように、数多くのエピソードを見直すことで、物語の輪郭が太く鮮明に浮かび上がってきた。
 改稿の一例を挙げると、前半に連続殺人犯の視点のエピソードが増えた。これによって、連続殺人事件自体の謎解きの要素は小さくなった。しかしそれと引き換えに、昭和51年の雪山の事件の真相に焦点が絞られ、それに迫る現場の捜査官の緊迫がぐっと力強く伝わるようになった。

 先日の記事で、本書がWOWOWでドラマ化されることをお伝えしたが、昨日(25日)その制作会見が開かれ、連続殺人犯の水沢裕之役として高良健吾さんが発表された。キャストをWEB上で1日に1人ずつ発表し、最後に水沢役を会見を開いて発表、という手の込んだ演出をしている。飛びぬけて個性的な登場人物でもある、水沢の描き方が楽しみなドラマとなりそうだ。

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2010年8月22日 (日)

天地明察

著  者:冲方丁
出版社:角川書店
出版日:2009年11月30日 初版 2010年4月25日 7版発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞と私は相性がいいらしい。私が好きな伊坂幸太郎さんも、森見登美彦さんも、有川浩さんも、万城目学さんも(まだいらっしゃるけれど、このあたりでやめときます)、読んだ最初のきっかけは本屋大賞だった。そして、本書は2010年の本屋大賞の大賞受賞作。

 実に楽しい読書だった。期待に違うことなく、とはこのことだ。物語の舞台は江戸時代の日本、17世紀後半、戦国の世が治まって徳川の時代となって半世紀、4代将軍家綱のころだ。主人公は渋川春海。将軍様の前で碁を打つ「碁打ち衆」の四家のうちの1つ安井家の後継者で、物語の始まりの時には22歳の青年だった。
 この物語は、1685年(貞享元年)に行われた改歴(それまでの暦の計算方法を改めて新しい方法で行うこと)に至る一部始終を描く。改歴はもちろん史実であるし、渋川春海はその推進者として実在の人物。そして、数学者の関孝和や、将軍家綱、大老酒井忠清、そして壮年期の水戸光圀ら、同時代の実在の人物を周辺に配して、春海の「改歴」に賭けた生涯を描く、大きくうねる奔流のような物語が進む。

 本書の魅力は2つあると思う。1つ目は知的好奇心への刺激だ。現在は日蝕月蝕といった天文現象を正確に予測することができる。では、いつごろからそんなことができたのだろう?実は、蝕の予測は驚くほど古くから行われ、1000年は遡ることができる。しかし、わずかな誤差も数百年を経れば無視できない誤謬となり、江戸初期にはそれまで使っていた暦法は不都合が生じていた。
 本書では、800年間使われていた暦法の誤りを、多くの協力を得て多くの困難を乗り越えて、春海が正す。その極めて専門的な内容が、難しすぎず簡単すぎない、適度な難易度で語られる。それも、新しい知識の発見を目の当たりにするように、臨場感たっぷりに。

 もう1つは、主人公の春海に対する「羨望」と「共感」だ。主人公の春海は、算術、天文術、神道、そして暦法にも通暁する俊才。また、当時囲碁は武家の教養とされていて「碁打ち衆」は、幕閣や藩主らに囲碁の指導も行っていた。だからこそ酒井忠清や水戸光圀らとの関係も築くことができた。つまり、才能と立場に恵まれた主人公だということだ。
 しかし、春海には今の自分でない「何者か」にならんとする渇望がある。そして「何者か」になれない挫折もある。関孝和への算術の問答勝負に失敗してその場にへたり込み、次いで亡霊のように精気をなくしてフラフラと歩く。感情の起伏が激しい質なのだ。「渇望」と「挫折」は程度の差はあっても誰にでもある。私は春海の生き方に「羨望」の他に「共感」を感じた。春海が登城の折りに、「明暦の大火」で失った江戸城の天守閣があった場所に広がる青空を見上げる時、私にも青い空が見えた。

※(2011.6.14追記)
「天地明察」が、岡田准一さん、宮崎あおいさんの出演で映画化が決定したそうです。2012年秋公開予定です。
映画「天地明察」オフィシャルサイトへ

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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2010年8月18日 (水)

戸村飯店青春100連発

著  者:瀬尾まいこ
出版社:理論社
出版日:2008年3月 初版 2008年5月 第2刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者のことは、アンソロジー作品の「Re-born はじまりの一歩」を読んで知った。これに収録されていた「ゴーストライター」という作品が本書の第1章となっている。

 この本は、ホントに面白かったし楽しめた。おまけに少し泣ける。「ゴーストライター」を読んだときには、「Re-born」は再生や再出発の意味だと考えて、高校生の主人公コウスケの淡い失恋と、兄との関係の再認識を描いたものだと思っていた。しかし著者は、続く5章を書き下ろして、もっと味わい深くしかも笑わせてくれる物語に仕上げてくれた。
 コウスケが主人公だと思っていたら、なんと第2章の主人公は兄のヘイスケだった。無責任で要領ばかり良くて、大阪の下町の中華料理店「戸村飯店」を営む家を飛び出して、東京へ行ってしまった兄だ。コウスケを引きたてる脇役じゃなかったのか?あんなヤツにどんな物語があるというのか?...ありました。こんないい物語が。

 舞台となる街は特定されていないけれど、通天閣をシンボルとした大阪の下町らしい。私は神戸の生まれで、同じ関西でもだいぶ雰囲気は違う。でも、ベースは同じなのだ。吉本新喜劇を見て育ち、子どもはそれをまねて大人を喜ばせる。近所のおばちゃんに高校生になっても「ちゃん付け」で呼ばれる。タイガースファンであることが普通で、話には必ずオチがある。この本に描かれた世界は、私が育った街と同じだった。
 それから、兄と弟という世界も。うちも2人兄弟で私は弟。兄はまじめで責任感がある人で、私の方がきままに好きなことをしてきたので、これまた一見すると戸村兄弟とは違う。でも「あぁ、兄弟ってこうなんだよなぁ」と思った。弟が勝手に一人で反発しているだけなのだ。それなのにココという時には頼ってしまう。大人になって振り返るまで、そんなことには気が付かないんだけれど。

 こういう出会いがあるのが、アンソロジーの良いところだ。

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2010年8月14日 (土)

銀のらせんをたどれば

著  者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:市田泉
出版社:徳間書店
出版日:2010年3月31日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんの邦訳最新刊。約200ページと、短編を除けば著者の作品としては短い中編。原題は「The Game」で英国では2007年に出版されている。最近は、過去の作品の邦訳が続いていて、新しい作品は久しぶりだ。

 今回の主人公はハレーという名の少女。両親はなく、ロンドンのはずれにある厳しい祖母と優しい祖父の家で暮らしていたが、あることが祖母の逆鱗に触れて、アイルランドのおばさんたちの家に送られた。
 ハレーには「おばさん」が6人もいて、スコットランドに2人、このアイルランドの家には4人が集まっていて、その子供たちつまりいとこもたくさんいた。原題の「The Game」というのは、この子どもたちがやっているゲームのこと。一種の宝さがしなんだけれど、これがちょっとびっくりするようなものを探してくる。
 ギリシャ・ローマ神話を題材にした登場人物たちと、いろいろな物語がチョコチョコと顔を出す。「宝島」や「アラジン」や「アリス」や「三びきのくま」も。「一つの指輪」も出てきて「はめちゃだめよ!危ないわ!」なんてセリフにニヤリ。結構楽しめた。

 世界には、人間が生み出した物語が、色とりどりの糸や綱になった「話綱」というものがあって、それが複雑に絡み合ってできた「神話層」と呼ばれるものがある、という設定。「話綱」がらせん状になっていることが、邦題の「銀のらせんをたどれば」につながっている。
 物語が糸となるのであれば、著者はさぞかしたくさんの美しくもユニークな輝きの糸を生み出したことだろう。訳者あとがきに「体調がよくないにもかかわらず...」とあったが、70代半ばのお年の著者の健康を祈らずにはいられない。美しい「話綱」を、まだまだ生み出してもらうために。

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「銀のらせんをたどれば」 固定URL | 1.ファンタジー, 14.ダイアナ・ウィン・ジョーンズ | コメント (2) | トラックバック (0)

2010年8月12日 (木)

日本人へ 国家と歴史篇

著  者:塩野七生
出版社:文藝春秋
出版日:2010年6月20日 第1刷 6月30日 第3刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 先日レビューを書いた「日本人へ リーダー篇」の続編、というより1ヶ月をあけて発行された上下巻の下巻といった方が的確だろう。「リーダー篇」が月刊誌「文藝春秋」の2003年6月号から2006年9月号までに掲載された著者のエッセイで、この「国家と歴史篇」はそれに続く2010年4月号までに掲載されたものだからだ。

 約4年前の2006年9月と10月を挟んで、それ以前と以後でこんなにも臨場感が違うものかと驚いた。前著に比べると本書は圧倒的な迫力で迫ってくる。もちろんそれは、前著は著者の筆が鈍かったということではなく、物事が人の(私の)関心から急速に遠ざかってしまう、ということなのだろう。
 そういうわけで、2冊とも読むに越したことはないけれど、どちらか1冊ということであれば、本書の方をオススメする。

 マキアヴェッリをよく引き(本書の扉のページも、マキアヴェッリの言葉の引用が記されている)、リアリストでもある著者の主張は、時に切れすぎて怖いぐらいだ。特に戦争や軍備についての考えは、私には受け入れられない。
 しかし、著者の考えの方が正しいのかもしれない、と気持ちが揺らぐ。前著で著者が明らかにしているのだが、この連載は「事後に読まれても耐えられるものを書く」という気概で書かれている。そして事後に読んで「あぁ、そのとおりだった」、と思う記事のなんと多いことか。
 例えば、民主党への政権交代の雰囲気が盛り上がっていた、2009年4月号の「拝啓・小沢一郎様」では、「単独で過半数を..」と期待と不安を口にしている。理由は、連立内閣では「小政党に引きずられる、有権者の意向の反映しない政治」になるから。異論はあろうが、民主党政権の約1年のある側面を見事に言い表している、と私は思う。

 「文藝春秋」の2010年8月号掲載のエッセイのタイトルは「民主党の圧勝を望む」。理由は昨年9月の記事と同じものに加え、政策の継続性のため。著者としてはここ2回の国政選挙は続けて期待を裏切ったことになる。

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「日本人へ 国家と歴史篇」 固定URL | 4.エッセイ, 51.塩野七生 | コメント (0) | トラックバック (1)

2010年8月 7日 (土)

どちらかが魔女

著  者:森博嗣
出版社:講談社
出版日:2008年8月28日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 また森博嗣さんにやられてしまった。完全にだまされた。

 巻末の初出の一覧によると本書は、講談社の文芸雑誌「メフィスト」他に掲載された短編で、一旦は別の短編集に収録されたものから、8作品を取り出して再編した短編集らしい。登場人物は、国立N大学助教授の犀川創平や、その研究室の学生の西之園萌絵ら。
 彼らは、著者のS&Mシリーズ、Vシリーズ、Gシリーズと呼ばれる作品群の主要な登場人物でもあるらしい。「らしい」が2回続いてしまったのは、私はこういったことを全く知らずに本書を手にして読んで、後付けの知識で知ったからだ。

 8編の作品は、どれもちょっとしたミステリーを犀川らが解き明かす趣向。大学の構内に出現する「踊る紙人形」の謎や、30人もの人間が忽然と消えた事件、誘拐事件の身代金が入れ替わってしまった事件、小さな島の怪異現象など。深刻なものではなく「謎解き」を楽しむトレーニングのようなもの。実際にいくつかの謎は、西之園家の晩餐の話題として用意されたものだ。

 それで冒頭の「完全にだまされた」について。それぞれの作品の謎解きもなかなかのもので楽しめたが、それとは別に、著者はこの本1冊を使ったトリックを仕掛けていた。最後の最後で本書が全く違って見えてくる仕掛けだ(くれぐれも最後を先に読んでしまわないように)。
 一度短編集として出した作品をいくつかピックアップして1冊にしたのはこのためだったのだ。著者のイタズラっぽい笑顔が目に浮かぶ。ところで、上に挙げたシリーズの既読者は、馴染みの登場人物が入れ代り立ち代り出てくる本書には別の楽しみがあるはず。でも、ある程度事情を知っているとすると、最後のトリックはどう映るのだろう?

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「どちらかが魔女」 固定URL | 3.ミステリー, 33.森博嗣 | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年8月 6日 (金)

上橋菜穂子さん、村上春樹さん、三浦しをんさん作品情報/「マークスの山」ドラマ化

 私は、Googleアラート+リーダーにキーワードを登録して、本に関するニュースを仕入れています。それで「おっ」と思うニュースが4つ上がってきたので、まとめてご報告です。

 1つ目。上橋菜穂子さんの「獣の奏者」の外伝「獣の奏者 外伝 刹那」が9月4日に出るそうです。こちらも予約受付中です。内容は「王獣編」と「探求編」の間の11年間、エリンとの同棲時代をイアルが語る表題作の「刹那」他の3話を収録。これは期待度が大です。
 「獣の奏者 外伝 刹那」Amazonの商品詳細ページへ

 2つ目。村上春樹さんの新刊「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」が9月29日に出るそうです。Amazon他のネット書店で予約受付中です。内容は「13年間の内外のインタビュー18本を収録。」とのことです。小説じゃないんですね。エッセイとも違う。期待度は中くらいですね。
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 3つ目。高村薫さんの「マークスの山」がドラマ化されて、WOWOWで10月17日から放送されるそうです。合田雄一郎を演じるのは上川隆也さん、加納祐介は石黒賢さん。現在一日に一人ずつ公式サイトでキャストが発表され、8月25日に制作会見を開いてマークスこと水沢裕之役を発表するそうです。...でも、うちはWOWOW入ってないんです(泣)
 WOWOWオンライン「マークスの山」ページへ

 4つ目。三浦しをんさんが、コニカミノルタのHPで連載していたSF小説3部作が完結しました。ウェブサイトで全編が読めます。小説に登場する最新技術の、しをんさん自身によるレポートもあります。プレゼント企画もあるようですので、しをんさんのファンは必見です。
 コニカミノルタ 三浦しをんWeb小説のページへ

 
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「上橋菜穂子さん、村上春樹さん、三浦しをんさん作品情報/「マークスの山」ドラマ化」 固定URL | 16.上橋菜穂子, 21.村上春樹, 27.三浦しをん | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年8月 5日 (木)

個人情報「過」保護が日本を破壊する

著  者:青柳武彦
出版社:ソフトバンク クリエイティブ
出版日:2006年10月30日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 高校生の娘が小論文模試の参考図書として買って来た本。最近は小論文にも模試があるらしい。まぁ受験対策が丁寧になっていると言えばありがたいことだけれど、模試にだってそれなりの準備が必要でそれには時間もかかる。高校生もなかなか大変だ。

 2003年に成立、猶予期間を経て2005年4月に前面施行された「個人情報保護法」と、その後に巻き起こった「過剰反応」を踏まえ、「このままでは日本の未来が暗澹たるものになる」という警告と、そうならないための対策を記した本。
 「個人情報保護法施行以来、仕事も私生活もどこか息苦しくギスギスしている。何かが狂っている。-そう感じているあなたの感性は正しい」と裏表紙の紹介文に書かれている。まぁ、ここまで明確な気持ちではなくても、私の経験では仕事や私生活でこの法律に触れる時には、必ずネガティブな意味合いで使われる。
 例えば、私が事務局をやっているCGのコンテストの応募作品と制作者名をウェブに載せたら「個人情報保護法違反です。すぐに削除しないと訴えます」と言われたり、子どものスポーツクラブの名簿を作ったら「全員の承諾を事前に得ていないとダメですよ」と指導されたり、地元のケーブルテレビが学校の音楽会を取材・撮影しようとしたら「個人情報保護法の関係で」と言って断られたり...。
 
 著者の主張をちょっと強引に1つにまとめると、現行法が「「プライバシー情報」以外の「個人情報」まで規制していることが問題」ということだ。「プライバシー情報」とは、健康状態などの医療情報や収入などの資産情報、性的私生活や思想信条など、人に知られたくない情報のこと。
 現行法は「プライバシー情報」とそれ以外の「個人情報」の区別がないから、名前と電話番号だけの連絡網さえ作れない事態を引き起こしている。もちろん「電話番号も知られたくない」という人もいるが、電話帳に載っている場合には、公知の事実として「プライバシー情報」にはならない。
 著者は法律の運用の問題も指摘している。個人情報保護法では、情報の「第三者への提供」を規制しているのに、現場の運用はもちろん、省庁が出すガイドラインでさえ行き過ぎがある。上に挙げた連絡網の作成について言えば、クラスとかサークルとかクラブとかのグループ内の情報共有なのだから、そもそも「第三者への提供」ではないはずなのだ。

 ひとつ怖い話もあった。現行法は「プライバシー情報」とそれ以外の「個人情報」の区別がない。別の見方をすると、「プライバシー情報」も「電話帳に載っている電話番号」と同程度の保護しかしていないとも言える。実は日本には現在「プライバシー権」を守るための明確な根拠法がない。仮に「個人情報保護法」を根拠法にでもしようものなら、私たちのプライバシーはダダ漏れになってしまう。

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