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2010年7月

2010年7月31日 (土)

地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか?

著  者:久繁哲之介
出版社:筑摩書房
出版日:2010年7月10日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の久繁哲之介さまから献本いただきました。感謝。

 これまでの「地域再生」「地域活性化」の在り方に「No」を突き付け、新たな方策を提言した良書。著者は民間都市開発推進機構(MINTO機構)の研究員で、肩書きは「地域再生プランナー」。
 MINTO機構が国土交通省所管の財団法人で、20年余りも都市開発事業を支援してきたことを考えると、著者が突き付けた「No」は跳弾となって自らに返って来るべきものだ。しかし、ここは著者自身の責任を詮議することより、その立場によって得られた「地域再生」の豊富な情報から導かれた考察に、耳を傾けた方が得策だと思う。

 著者が一貫して主張しているのは、「街づくり計画に市民の生活を合わせる」のではなく、「市民の生活(希望)に合わせた街づくりを行う」ということだ。「何を当たり前のことを」なのだが、これまでの「地域再生」の多くは「当たり前」のことができてなかったわけだ。
 このことを、著者は多くの紙面を割いて実例を挙げて解き明かしていく。大型商業施設を誘致したが、客の心を読み誤っての撤退を繰り返す宇都宮市。コンパクトシティを目指して駅前に超高層ビルを建設した裏で、市民の足であった路面電車を廃止した岐阜市。この他にも多くの街の実情が紹介されている。
 まぁ「失敗例」から学ぶことはあるが、著者がこれらの事例を並べたのには別の理由もある。それは、これらの事例が、官公庁などが発信する「成功例」として紹介されているからだ。著者の言う「土建工学者」や「地域再生関係者」としては、(建物や道路の工事が完成して)プランが実施されれば「成功」なのだ。これらの人々に対する著者の怒りは激しく鋭い。「失敗」を「成功」と持てはやす彼らは、地域再生のガンでもあるからだ。

 ではどうしたらいいのか?著者は「7つビジョン」と「3つの提言」を掲げている。「ビジョン」は「私益より公益」「経済利益より人との交流」「立身出世より対等で心地よい交流」など、コンセプチュアルなものが並ぶが、本書を読めばもう少しはっきりした輪郭が見える。そして「提言」はかなり具体的なもので、すぐにでも実施できそうな気がする。
 しかし、そうは甘くない。地域再生に成功するためには、継続や忍耐、信頼と協力、意識の転換など、私たちが苦手とする多くのことが必要なのだ。本書を地域再生の「ハウツー本」として読むと、これまでの「成功例」を模倣して失敗した地域と同じ結果を招くだろう。本書は「最初の一歩」としてこそ読むべき価値がある。

 ここからは書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。長いですが興味がある方はどうぞ

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2010年7月29日 (木)

レビュー記事が400本になってました。

 先日の「日本人へ リーダー篇」が、400本目のレビュー記事だったことに、今になって気づきました。今日、レビュー記事のデータにちょっと手を入れようと思って検索したら「403」件と出て、「しまった。超えちゃってるよ」と気がついた次第です。6月ごろに「あと15本だ」と思った記憶があるのですが、すっかり忘れていました。

 昨年の8月1日に「レビュー記事が300本になりました。」という記事を書いてます。年間100本、週2本のペースが守れているということですね。ありがたいことです。また、1年前のその記事には、交流を求めて、他の方のブログにお邪魔して「私もその本読みました」というコメントを残す、「コメント回り」のことが書かれています。そう言えば最近やってないな、と少し反省した次第です。

 その代わりではないのですが、SNS「本カフェ」の方では本について(それ以外にも)色々な方とお話ができました。「gift(ギフト)」の記事で書きましたが読書会もやっていて、次回の本選びは私ができるようです。ちょっとドキドキします。

(2010.7.31 追記)
読書会の本を決めました。天国の本屋 (新潮文庫) です。今からSNSに登録しても読書会には間に合います。よろしかったらどうぞ。
登録が承認制になっていますので、管理人さんのジーナフウガさんにメール(love_heartgraffiti@yahoo.co.jp)で問い合わせてください。

 
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「レビュー記事が400本になってました。」 固定URL | | コメント (2) | トラックバック (0)

2010年7月28日 (水)

いのちのパレード

著  者:恩田陸
出版社:実業之日本社
出版日:2007年12月25日 初版第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 この著者の本は、読んでみるまでどんなテイストの本なのか分からない。ミステリー、ホラー、コメディ、ハートフル?ジャンルさえ多岐にわたっていて予想がつかない。そして本書は、どのジャンルとも言い難い物語が15編収録された短編集。
 読み終わって、少し背筋が冷えたり、何とも言えないモヤモヤが残ったりする、奇妙な物語ばかりだった。あとがきを読むと、それが著者の目論見どおりたっだことが分かる。本書は、早川書房が復刊した「異色作家短篇集」を読んで、「あのような無国籍で不思議な短編集を作りたい」と思って、月刊誌に「奇想短編シリーズ」と銘打って連載した作品をまとめたものなのだそうだ。

 どんな話なのかと言うと、例えば、地面から石の手がはえてくる話、橋のたもとのバリケードに座り込むホステスたちの話、「やぶからぼう」とか「つんつるてん」を出してしまう兄弟の話、「かたつむり注意報」が出る街の話、鉄路の上を疾走し続ける王国の話などなど。
 まぁ、この説明を読んでもどんな話なのか分からないと思う。どれも難しい言葉はないけれど、組み合わせがおかしい。「石の手」と「はえる」、「バリケード」と「ホステス」、「やぶからぼう」と「出す」、「かたつむり」と「注意報」、そして「王国」と「疾走」。これが、著者が目論んだ「奇想」ということなのだろう。

 偶然だけれども、先日読んだ「gift(ギフト)」に続いて、「想像力の翼」の羽ばたきが本書でも感じられた。ただし、あちらは自由な風まかせの飛び方だったけれど、本書の翼は力強く、またコントロールされてもいる。著者が練りに練って絞り出した「奇想」だけに、「奇妙さ」がより際立っている。
 表紙の哀愁ただよう「船と男性の背中の写真」からは、本書の内容を想像するのは無理だろう。

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2010年7月25日 (日)

gift(ギフト)

著  者:古川日出男
出版社:集英社
出版日:2004年10月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 もう1年以上楽しく過ごさせていただいている本好きのためのSNS「本カフェ」で読書会が催され、その指定図書になっている本。著者の作品を読むのは本書が初めて。と言うか、お恥ずかしいことに名前にも心当たりがなく、もちろん日本SF大賞や三島由紀夫賞などを受賞されたことも知らなかった。

 短編が19編収録された短編集。ほとんどが10ページほどの短編だけれど、中には2ページしかない超々短編もある。そして全編がどこかおかしい、多くの作品はすごくおかしい。「面白い」という意味の「おかしい」ではなく、「何か間違ってる」という意味の「おかしい」だ。
 例えば、車のトランクに人が何人も入っていったり、叔母さんが猫を生んだり、猫が縮んでトンボのようになって飛んでったり。私は数編を読んだところで「想像力の翼」という言葉が頭に浮かんだ。「こうあるべきもの」という一切の制限を取り払い、想像力に任せて書き、それに任せて終わる。だから2ページで終わることもある。読書会では(眠っている間に見る)夢に例えた人がいたが、的確な例えだ。

 普通は、読者の反応とか、物語としての体裁とか、本を書く上で気にすることがあるだろう。「こうあるべきもの」とはそういったことを言っているのだが、本書にはそれが感じられない。「面白くしよう」とかさえも。だから「ヤマなしオチなし」も多い。
 何編かは捉えどころがなく、何編かは不気味、何編かはさわやか。そして「面白くしよう」という意図が感じられないのにも関わらず、何編かはすごく面白い。アルパカの生産・輸入を考えていた男の話「アルパカ計画」には笑えた。すごく上手い手だけれど、この手は1回しか使えないだろう。

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2010年7月21日 (水)

我らの罪を許したまえ

著  者:ロマン・サルドゥ 訳:山口羊子
出版社:エンジン・ルーム/河出書房新社
出版日:2010年5月30日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 発行元のエンジン・ルームさまから献本いただきました。感謝。

 13世紀の終わりごろのイタリア、フランスを舞台とした歴史ミステリー。13世紀のヨーロッパは中世のただ中にあり、キリスト教信仰の全盛期で教会が強大な力を持っていた。本書でも、異端審問や十字軍の遠征などが、物語のキーファクターとなっている。

 物語は3つの話が並行して進む。1つ目は、南フランスの司教区で、何者かに惨殺された司教の事件の真相を調べるために、司教の遺体と共にパリへ向かう助任司祭の話。2つ目は、その司教区の近くの「忘れられた村」に布教活動に赴く司祭の話。3つ目は、ローマに現れた十字軍の英雄でもある高名な騎士による、子息の助命嘆願の話。
 1つ目と2つ目の話は最初にこそ接点があるが、その後は全く別々の話になる。3つ目に至っては舞台がイタリアで、南フランスの他の2つの話との関連は全く見出せない。3つに共通するのは、どれもがキリスト教の支配組織としての教会に絡んだ話であることだ。そしてもちろん、すべての話は1つの話1つの陰謀に収れんしていく。

 物語が収れんしていく見事さと、暗部がチラチラと見え隠れする教会内の確執の描写などが醸し出す「中世感」が本書の持ち味。全体的には暗いトーンの話なのだが、要所にはサスペンス風のエピソードもあって飽きない工夫はされている。ただ、好き嫌いの評価で恐縮なのだが、私はこの終わり方は好きではない。表紙も奇怪な絵で、見れば見るほど心が乱れる。

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2010年7月20日 (火)

「読育(どくいく)」に思うこと

 先日、新聞で「そろそろ「読育」はじめませんか。」という広告を見ました。有名な参考書の出版社の広告です。私も高校時代から大学受験にかけては大変お世話になりました。その広告には、その会社が考える「読育」を次のように書いてありました。

 「読むこと」がしっかりと身について、読解力が養われれば、「自分で考えるチカラ」を育てられるのです。「読むこと」が、すべての学習の基本となり、さまざまなチカラが育まれる。

 その通りだと思います。すごく良いです。どんな学習・学問もその知識の多くは「読む」ことで得ます。どんな素晴らしい書物を読んでも、読み解く力がなければ自分のものになりません。食べ物をかみ砕いて消化しなければ自分の栄養にならないように。それから「自分で考えるチカラ」を育てられる、ということもその通りだと思います。
 また、私は以前から親子で本を読む「親子読み」をオススメしているのですが(参照:新しい読書の形「親子読み」の提案)、これは、読んだ本のことを誰かに伝えるという経験が、コミュニケーションの充実だけでなく、「自分で考える」ということにとても役立つと思うからです。

 ただ、この広告には気がかりなこともありました。「感心しながら覚えたことは、強く印象に残るもの、物語を楽しみながら、小学校で学習する内容も身につけられます。」とあり、続いて小学校3年生から6年生向けの本のシリーズが紹介されています。
 どうやらこのシリーズは、国算理社と英語、保健体育の勉強が物語仕掛けになっている本のようです。これは、上に書いた「読育」の考えと微妙にズレています。「自分で考えるチカラ」を育むための読書ではなく、「○○(例えば算数)の知識を得るための読書」になってしまっています。
 つまり、これでは単なる「子ども向けのやさしい参考書」に過ぎず、「読育」とは直接の関係はありません。とは言え、この広告を非難するつもりはありません。これは参考書の会社の広告ですから。販売のために「読育」を利用するのは、マーケティング戦略としては「アリ」だと思います。

 さらに、調べてみると、文科省関連の事業にも「読育」という言葉が使われています。それから、OECDの国際学習到達度調査で「読解力」の成績が悪かったので「読育」に力を入れる、という文脈もあります。「読書教育」でも良いものを「読育」と言うことで政府が取り組みやすくなりました。ちょうど「食育」という言葉の発明が「食育基本法」などという法律に繋がったように。
 私は、子どもの間の読書は、読書そのものの楽しみが大切で、楽しいからこそ「読解力」がつくほどの量を読むことができるんだと思います。政府・官庁や学校が「読育」を推進するのは結構ですが、「○○のための読書」と早計に結果を求めたり、ましてや政府が「正しい読書」を決める、などということにならなければいいけど、と思っています。

 
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2010年7月17日 (土)

日本人へ リーダー篇

著  者:塩野七生
出版社:文藝春秋
出版日:2010年5月20日 第1刷 5月30日 第2刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、月刊誌「文藝春秋」の2003年6月号から2006年9月号までに連載された、著者のエッセイ40編をまとめた新書。最初の記事は「イラク戦争を見ながら」。その年の3月に米国がイラクに侵攻した。最後の記事は「「免罪符」にならないために」。小泉元総理の勇退を飾った「サンクトペテルブルグサミット」とその後のことが書かれている。こう書けば、このエッセイが書かれた時代のことをおぼろげにでも思い出せただろうか。

 月刊誌への連載ということもあって、多くは時事問題を扱っている。衆院選や自民党の総裁選、郵政民営化などの政治問題にも切り込む。さすがに選挙結果の予想などは「専門ではない」として避けてはいるが、それでもこういった文章を数年後に出すのは勇気がいるだろう。その時々には正しいと思っていても、後年の評価ではそれが覆ることもままあるのだから。
 ただこのことについては著者には強い自負があるらしい。後半の記事「知ることと考えること」に、「事後に読まれても耐えられるものを書くのは、私自身にとっても、実に本質的な問題なのである」と書いてある。これは、現在の報道への苦言の文脈の中で書かれているのだけれど、そもそも原稿を発売日の20日前に書かなくてはならないという、この雑誌の連載自体が「事後に読まれても..」を内包していたのだ。

 軍事大国でもあったローマの歴史をベースとした著者の思考には、戦争や戦争被害に対する割り切りがあり、違和感を感じる方もいるだろう。私もちょっと「そういう考えはあんまりなんじゃないの?」と思った部分もある。しかし大部分は、非常に鋭い洞察だと思うし共感することも多かった。
 その1つは「なぜか、危機の時代は、指導者が頻繁に変わる」という意見。これはローマ史の五賢帝時代の後、三世紀に入って皇帝の在位期間が平均して4年と短くなったことを踏まえている。危機の時代は民衆の不満も大きく、こらえ性なく指導者をすげ替えるが、それがかえって国の安定を失わせる。
 念のために書き添えると、これは2003年10月号の記事。第1次小泉政権が900日も続いていたころだ。それでも著者は、自民党の総裁選を控えて政策の継続性を懸念してこの記事を書いたのだ。さて2010年の今、小泉元総理の後は、安部元総理から4代の総理が現れたが、その在職期間は平均して339日、1年間もない。

 この後は書評ではなく、この本を読んで考えたことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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2010年7月14日 (水)

ペンギン・ハイウェイ

著  者:森見登美彦
出版社:角川書店
出版日:2010年5月30日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「また1つ、著者の新しい引き出しが開いた」そんな感じがした。本書は著者の最近刊。月刊誌に2007年から2008年にかけて掲載したものに大幅に加筆したそうだ。著者は「太陽の塔」「四畳半神話大系」で、臭うような腐れ大学生を描いて登場し、「きつねのはなし」「宵山万華鏡」で妖かしの京都を描いた。エンタテイメント作品の「有頂天家族」もある。
 「腐れ大学生」にインパクトがあってクローズアップされがちだけれど、このように色々な物語を次々とつづっている。ただし、そこにはいつも「濃密な空気感」があった。しかしこの作品に感じる空気は淡彩画のようにとても淡い。これはまったく別の引き出しから出てきたもののようだ。

 主人公はアオヤマ君。郊外の街に住む小学校4年生の男の子だ。彼は毎日きちんとノートを取る。授業だけではなく、毎日の発見をノートに記録している。そうしてたくさんの「研究」をしている。「昨日より今日はえらくなる」ことを自分に課していて、大人になった時にどれだけえらくなっているか見当もつかない、と思っている。
 まぁ、「子どもらくない」こと甚だしいのだけれど、これが意外と憎めない。もちろん同級生のガキ大将キャラのスズキ君たちの受けはすこぶる悪く、自動販売機に縛り付けらてしまったりする。そこを歯科医院のお姉さんが通りがかって「なにしてるの、少年」と聞かれて彼は、「自動販売機ごっこです」と答える。クールすぎる。

 物語の発端は、歯科医院の隣の空き地に突然ペンギンが何羽か出現したこと。そして、トラックで運ばれる途中で姿を消してしまった。現れた時と同じように突然に。こうしてアオヤマ君は、一緒に探検隊を組んでいるウチダ君とともにペンギンの「研究」をはじめる。途中から同級生のハマモトさんも加わって謎の解明を進める。けれども謎は深まるばかり、というストーリー。(ハマモトさんは、「E=mc2」と書かれたアオヤマ君のノートを見て「相対性理論?」と聞く、とってもキュートな女の子なのだ)

 とても楽しめた。今までの著者の作品(とくに腐れ大学生)のようなものを期待すると薄味すぎて物足りないかもしれない。でも、アオヤマ君の研究テーマの1つには「歯科医院のお姉さん」というのもあって、そのために彼はお姉さんのまるいおっぱいを観察する。頻繁にこの4文字が出てくるあたりは著者らしいといえばその通りだ。
 「誰々に似ている」という言い方は著者に失礼な気がするのであまり好きではないのだけれど、本書は「もし村上春樹さんが小学生を主人公にして書いたら」こんな感じかな、と思った。この街には「海辺のカフェ」というカフェがあるのだけれど、その字を見るたびに「海辺のカフカ」を思い出してしまったからそう思うのかもしれない。この1文字違いは偶然なのか?

 コンプリート継続中!(単行本として出版された作品)
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2010年7月12日 (月)

マクダフ医師のまちがった葬式

著  者:ケイト・キングズバリー 訳:務台夏子
出版社:東京創元社
出版日:2009年9月11日 初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 「ペニーフットホテル」シリーズの第3弾。第1弾「ペニーフットホテル受難の日」では、ホテルの屋上庭園からの墜落死亡事故があり、第2弾「バジャーズ・エンドの奇妙な死体」では、全身が青く変色して人が死ぬという怪事件が起きた。そして今回は「葬式で棺を改めてみたら別人の死体が入っていた」。これまでにも増して奇妙な事件が起きたものだ。
 事件は、ホテルやその従業員の関与が疑われ、警部にそれを感付かれるとホテルの閉鎖措置に発展しかねない。それを未然に防ぐために、例によって自分で調査に乗り出したホテルの女主人のセシリー。今回も彼女の推理と地道かつ大胆な調査活動が楽しめる。時は1907年、その時代の空気で言えば「女にしとくにはもったいない」活躍だ。

 このシリーズの魅力は、言わば素人探偵のセシリーの活躍はもちろんだが、登場人物たちが織りなすドラマにもある。ホテルで働く面々を中心として登場人物を固定して描いて本書で3冊目。今回は色々なことがあった。前作のレビューで「もっとしっかりして欲しい」と書いたメイドのガーティは、少ししっかりしたようだ。
 そして、前作まではこれと言って目立たなかった意外な人が意外な一面を見せたかと思うと、別のところではロマンスのつぼみが膨らみ始めたり。それなのに、セシリーと調査に否応なく協力させられる支配人のバクスターの関係は相変わらず遅々として進まない。と思っていたら...!。

 本書だけで物語は完結しているが、1作目から順に読む方が楽しめると思う。(文庫本で1冊約千円はちょっと高めだけれど、単行本の文庫化ではないので仕方ないかと..)

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2010年7月 7日 (水)

消えた錬金術師 レンヌ・ル・シャトーの秘密

著  者:スコット・マリアーニ 訳:高野由美
出版社:エンジン・ルーム/河出書房新社
出版日:2010年5月30日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 発行元のエンジン・ルームさまから献本いただきました。感謝。

 訳者あとがきによると、本書は著者のデビュー作で、2007年3月に英国で発売され大ヒット作となり、その後18言語に翻訳、30か国で発売されたそうだ。また、公開日もキャストさえ未定ながら映画化が決定している。そして著者は、主人公ベン・ホープが活躍する5部作を早くも書き上げ、既に次のシリーズに取り掛かっているという。まさに、波に乗っている感じだ。
 まぁ、その波が物語にも流れているわけではないが、大波小波のピンチが次々と主人公を襲うスピーディな展開は、勢いを感じさせる。何度も生死の壁の上を歩き、その度にこちら側へ落ちてくる強運は、ご都合主義と言われればそれまでだが、新しいヒーローの誕生とも言える。ヒーローは簡単には死なないのだ。

 物語は、伝説の錬金術師フルカネリの手稿をめぐる探索行だ。病気の子どもを救うために、その手稿の入手を依頼された主人公のベンが、数々の困難を乗り越えその手稿に、そしてそこに書いてある古代の秘密に迫る。図らずもパートナーになったのは、美貌の生物学者のロベルタ。先々で二人を阻む殺し屋たちの背後にはある宗教結社の影がチラチラ見える。
 ここまで言えば気が付く人もいるだろう。本書は「ダン・ブラウンの作品のような物語」だ。著者や関係者にとっては、この紹介の仕方はありがたくないのか、意図したとおりなのか分からない。ただ、ダン・ブラウンに触れずに本書を紹介するのは、私としてはとても収まりが悪く、不誠実な感じさえする。
 古代の知恵の探索、美貌の科学者、宗教結社の陰謀。実は、暗号の解読も重要な要素だし、狂信的な殺人者まで出てくる。著者が自ら「この本に出てくる○○は事実に基づいている」なんて書いているところを見ると、もう著者自身がダン・ブラウンを意識していることは明白だと思うがどうだろう?

 ただし、違いも明白。ダン・ブラウンのラングドン教授はアカデミズムの人だが、長身、ブロンドの髪、孤独な青い眼を持った本書の主人公ベン・ホープは、英国陸軍特殊空挺部隊の元精鋭。銃を持った敵に囲まれようと、敵の本拠に囚われようと怯まないマッチョなのだ。
 さらに、彼は心の痛みも抱える。ラングドン教授の閉所恐怖症も面白い設定だが、ベンの心の痛みの元となる悲しい過去はストーリーにも絡み、マッチョな主人公の物語にありがちな「万能感」を巧妙に抑え、物語に深みを与えている。この後のシリーズで、ベンの心情がどのような展開を見せるのかも楽しみだ。

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2010年7月 6日 (火)

「TED.com」のコンテンツが素晴らしいことについて

 先日投稿した「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」の記事で、著者のダニエル・ピンクさんの講演の動画を紹介しました。それが収録されている「TED.com」というサイトが、あまりにも素敵なので改めて紹介することにしました。

 TEDは、講演会を通して有益な発想や考察の普及を行っている、米国に本拠を置く非営利団体。名称のTはTechnology、EはEntertainment、DはDesignの頭文字です。すごいのは講演者の顔ぶれ。下に例をあげていますが、技術、エンタテイメント、デザイン、だけでなく、ビジネスやサイエンス、グローバル問題などの各分野の超著名人が名を連ねています。
 そして、講演の内容をネットで無料で公開しています。講演会に出席するには年会費6,000ドルを払って会員にならないといけないのに、タダで配信です。これだけでも十分ですが、さらに素敵なのは、動画にはボランティアによって各国語の字幕が付いて、もちろん、日本語の字幕が付いた講演も膨大にあります。また、1つ1つの講演は十数分から20分程度で見やすい長さなのもGOODです。

 私は、自分が読んだ本の著者の話が聞けること、自分が末端にいるIT業界のトップの講演が見られることなどから、本当にいいものを見つけたと思っています。日本にもこんなサービスがあるといいのになぁ、と思わずにはいられませんでした。

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読んだ本の著者
ダニエル・ピンク:「モチベーション3.0」「ハイコンセプト」の著者
クリス・アンダーソン:「フリー <無料>からお金を生み出す新戦略」の著者
ダン・アリエリー:「予想どおりに不合理」の著者
ブライアン・グリーン:「エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する」の著者
スティーブン・ジョンソン:「ダメなものは、タメになる」の著者(日本語字幕なし)
J・K・ローリング:「ハリーポッター」シリーズの著者(日本語字幕なし)

その他
デビッド・ケリー:「発想する会社」「イノベーションの達人」のIDEO創業者(日本語字幕なし)
ビル・クリントン:元アメリカ合衆国大統領
ジェームズ・キャメロン:映画監督。作品に「タイタニック」「アバター」など
ジェームズ・ワトソン:ノーベル生理学・医学賞受賞者。DNAの共同発見者
ビル・ゲイツ:マイクロソフト社会長
アラン・ケイ:元アップルコンピュータ社フェロー。通称「パソコンの父」
ニコラス・ネグロポンテ:MITメディアラボ創始者
スティーブ・ジョブズ:アップル社CEO(日本語字幕なし)
セルゲイ・ブリン、ラリー・ペイジ:Google創業者(日本語字幕なし)

 
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2010年7月 3日 (土)

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか

著  者:ダニエル・ピンク 訳:大前研一
出版社:講談社
出版日:2010年7月7日
評  価:☆☆☆☆(説明)

 R+(レビュープラス)様にて献本いただきました。感謝。今回は、発売直前の先行レビューということで、全300ページの本の内187ページまでのゲラ(再校紙)を送っていただきました。

 「ハイコンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代」の著者の新刊。前著では時代が「情報化の時代」から「コンセプトの時代」へ移り、そこで求められる「感性」を明らかにした。現状を看破し将来を洞察した素晴らしい本だった。ただ、これからはさらに高度なスキルを身に付けなければ、職を失うか抑制された賃金で働くしかなくなるのかと、少しブルーな気分にさせた。
 そして本書。タイトルの「モチベーション3.0」は、人々を動かす動機付け(モチベーション)の最新バージョンを表す。つまり、原始時代からの生存本能に基づくものが「1.0」、工業化社会以降現在まで続く「あれをやれば(やらないと)これを与える(罰する)」という「アメとムチ」による動機付けが「2.0」、そしてこれからの(いや随分前からすでに)人々を動かす新しい動機付けが「3.0」というわけだ。

 「2.0」で有効だった、「報酬」という「アメ」が生産性を上げるとは限らない、「罰則」という「ムチ」が行動を抑制するとは限らない。「早く解決したら賞金を出す、と言ってパズルの問題に取り組んだグループは、何も約束されていないグループよりも答えに到達するのに時間がかかった」「保育園の迎えの時間に遅れたら罰金、という制度を取り入れたら、時間に遅れる率が倍になった」、どちらも本書で紹介されている実験結果だ。
 では、「アメとムチ」に代わる、今現在人々を衝き動かしている「3.0」とはどういったものなのか?それは、自らの意思によるもの(自律性)、もっと上手にやりたいと思う気持ち(熟達)、より大きな目的に繋がっていると感じることの3つを要素とする。つまり自身の内面から湧き上がってきたり、行為そのものに内包される「内発的な動機付け」だ。

 本書ではこういったことが、私が読んだ187ページまでに、「予想どおりに不合理」の著者のダン・アリエリーさんの研究を含めて、実例を豊富に紹介しながら、それがとても分かりやすく紹介されている。実を言うと、この概略が知りたければ著者自身が熱を込めて解説している動画を今すぐに見ることができる。TEDというグループのカンファレンスで講演した動画が日本語字幕付きで公開されているのだ。
 しかし、動画を見れば本書を読まなくてもいい、というわけにはいかない。動画では「では、どうすればいいか?」が語られていないし、本書の目次を見るとそれは188ぺージ以降に書かれているらしい。R+(レビュープラス)さんも罪作りなことをするものだ。続きが読みたい。

TED Talks:ダニエル・ピンク 「やる気に関する驚きの科学」

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