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2010年6月23日 (水)

これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学

著  者:マイケル・サンデル 訳:鬼澤忍
出版社:早川書房
出版日:2010年5月25日 初版発行 2010年6月10日 5版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 NHK教育で先日最終回が放送された「ハーバード白熱教室」という番組の内容をベースにした政治哲学の本。番組の方は、1000人を超える履修者がいるハーバード大学での人気の講義を収録したもので、「面白い!」という良い評判を方々で聞く。日曜日の午後6時という多くの家庭では「くつろぎの時間」と思われる時間帯の教育テレビで、政治哲学という固いテーマの番組がウケる、という珍しい現象であるとは言える。
 著者は、この番組で(というよりハーバード大学で)政治哲学の講義を受け持つ教授自身。コミュニタリアニズム(共同体主義)の論客であるらしい。そして本書の構成は番組(講義)に沿ったものになっている。だから、今回は番組の話を引きながら本書の紹介をしたい。その方がより本書の特徴が明確になると思う。

 議論の種として提示される命題や事例も、番組と本書でほぼ同じだ。例えば「暴走する路面電車のジレンマ」。ブレーキがきかなくなった路面電車、そのまま行けば5人の作業員が命を落とす。待避線に入れば死ぬのは1人だけ。さて、どうする?5人の命を救うために1人を犠牲にするのは正しい行為なのか?といったもの。
 テレビの番組のウケがいいのは、こうして教授が立てた命題が具体的で、誰にとっても判断に悩むものであって、それを優秀なハーバードの学生が真剣に議論しているからだ。若者たちは何と言うだろうか?その意見に対する反論は的を射ているだろうか?などなど、オブザーバーの立場で見ればこんなに知的刺激を受けることはそうそうない。

 ただ、番組の魅力を担っていた、真剣な眼差しで語る学生たちは本書には登場しない。教授が提示する命題に答えられるのは、読んでいる自分しかいないのだ。これは正直言ってかなりきつい。自分の意見など考えずに読み進むこともできるが、それではこの本は、よくある哲学の教科書とあまり変わらなくなってしまう。
 ベンサムの「功利主義」から始まって、リバタリアニズム(自由至上主義)、社会契約論、カントとアリストテレスの思想などが順に要領よく紹介さる。それはそれで勉強にはなるのだけれど、それだけでは(少なくとも私は)大して面白くはない。だから、テレビの番組を面白いと思っても、本書もそうかどうかは分からない、読む人の態度次第だ。

 私は、政治哲学の特定の思想の論客が、学生に政治哲学を教えていいのか?という素朴な疑問を抱いたが、「個人は意志や選択によらず、所属する共同体に連帯や責務を負うことがある」という、コミュニタリアンとしての著者の主張は至極抑制的に語られている。
 それより本書から読み取れるもう1つの主張の方が興味深い。どのようにすれば公正な社会が実現するのか?著者の考えは、中立であろうとしたり不一致を避けたりするのではなく、より積極的な関与と公の討議がその基盤だとする。「議論」それが正義の実現への道。おそらく著者は、計24回の講義でこのことを学生たちに実体験として伝えたのだろう。

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編集部 馬場  bizravel@blogwatcher.co.jp

投稿: (株)ブログウォッチャー編集部馬場 | 2010年11月29日 (月) 15時27分

(株)ブログウォッチャー編集部馬場さん

大変ありがたいお申し出をいただき、ありがとうございます。
メールにてお返事をさせていただきます。
 

投稿: YO-SHI | 2010年11月29日 (月) 22時02分

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