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2010年4月

2010年4月28日 (水)

若き友人たちへ -筑紫哲也ラスト・メッセージ

著  者:筑紫哲也
出版社:集英社
出版日:2009年10月21日 第1刷 12月17日 第5刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は2008年11月に亡くなっている。本書は、集英社新書編集部が著者の死後に、集英社のPR誌に書いた「若き友人への手紙」という連載と、早稲田大学と立命館大学での講演を基に構成したものだ。
 PR誌への連載は、著者がすでに病に冒された後「遺しておきたい言葉がある」と言って、何度か掲載したものを新書の形でまとめる、ということで始めたものだそうだ。しかし、病の進行のために連載は2回しか続かなかった。だから本書は言わば著者の絶筆、まさに「ラスト・メッセージ」なのだ。

 「若き友人への手紙」という連載と、大学での講演が基になっているのだから当然だが、内容は大学生ぐらいの若い世代へのメッセージだ。全編に感じられるのは、若者へのゆるぎない「信頼感」と「厳しさ」。「今の若い者は..」という指摘のほとんどは的外れかしばしば逆である、と言う一方、大勢に流され真剣に考えない姿勢には厳しい。
 例えば憲法について。「第14条と第24条を知っているかと聞くと、ほとんど手が挙がらない。(中略)それでこの憲法は古いだの時代遅れだだのとよく言うよ。(中略)ファッションじゃないんですよ、憲法は」と、投げつけるかのような厳しい言葉だ。

 著者が多くの批判を受けていることはもちろん知っている。以前に「朝日ジャーナル(週刊朝日緊急増刊)」という記事を載せた時には、記事中に著者の名前はないにも関わらず、厳しい意見をたくさんいただいた。
 私自身も、晩年のNEWS23を見て「おやっ」と思うことはあった。しかし、著者の「自分自身で考え、議論をして決める」という信条は正しいと思う。ここ2回の衆院選は、どちらも大波に呑まれたような選挙だったが、その時々の趨勢で世論が極端に振れることは心配だ。
 
 最後に、本書の最終章にある興味深い指摘を紹介する。「国家がダメになっていくのはどういう時かといえば、それは優先順位を間違えた時です。」というものだ。そして例としてバブル崩壊後の「失われた10年」の入り口のころ、宮沢喜一内閣のことを挙げる。
 この時「優先課題を経済改革ではなく政治改革」にしたという。その後、小選挙区制導入をめぐるこの政治改革の余波で政界再編が起き、新党が多数設立された。今の政治の状況と合わせ鏡のようではないか?あの時はそれから10年間の低迷をこの国は続ける。著者の指摘は興味深いだけでなく、不吉でさえある。

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2010年4月26日 (月)

2010年大学読書人大賞に「夜は短し歩けよ乙女」

 「本屋大賞」が決定したばかりですが、「大学読書人大賞」という賞も昨日決定・発表されたようです。公式ホームページによると、この賞は「全国の大学文芸サークルによる投票と評論と議論によって、大学生に最も読んでほしい本を選ぶ」という主旨だそうです。
 約40の大学の49個の文芸サークルが、各5作品まで投票して選ばれた大賞候補作5作品から、推薦文の執筆、投票などを経て、最終的には公開討論会で順位を決定したそうです。大学生、ガンバッテいるじゃないですか。私はそこがうれしかった。

 そして大賞に選ばれた作品が、森見登美彦さんの「夜は短し歩けよ乙女」。ちょっと作品が古くはないか?と思いますが、対象作品は「文庫落ちを含む、2008年11月1日から2009年10月31日までに日本国内で第1刷が発行された本」だそうです。
 「夜は短し~」は2008年12月に文庫化されていますから、対象範囲なんですね。文庫本を対象として規定するあたりも、大学生らしくて良いです。(大学生=お金ない、という図式は必ずしも当てはまりませんが)

 その他の大賞候補作は、2位:有川浩「植物図鑑」、3位:村上春樹「1Q84 BOOK1・2」、4位:伊坂幸太郎「あるキング」、5位:米澤穂信「ボトルネック」でした。

 
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2010年4月25日 (日)

ロスト・シンボル(上)(下)

著  者:ダン・ブラウン 訳:越前敏弥
出版社:角川書店
出版日:2010年3月3日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「天使と悪魔」「ダ・ヴィンチ・コード」に続く、ラングドンシリーズの3作目。前2作ではキリスト教にまつわる秘密をめぐる陰謀が描かれていたが、今回はフリーメイソンが秘匿する「秘密のピラミッド」と「古の神秘」に迫る。

 フリーメイソンは「ダ・ヴィンチ・コード」でも言及されている。欧米では政府要人などの有力者の会員が多いからか、世界的な秘密結社で様々な陰謀説がささやかれている。また宗教的な儀式が重んじられるという情報から、オカルト的な噂も絶えない。
 本書は、フリーメイソンから導かれるこうした印象に加えて、次の事実などを背景として首都ワシントンD.C.を舞台としたサスペンスに仕上がっている。(1)ワシントンやフランクリンといった米国建国の父らがフリーメイソンであった (2)ワシントンD.C.に高さ169メートルもの巨大なオベリスク様建造物(ワシントン記念塔)がある (3)1ドル札にピラミッドと「目」が描かれている

 良くも悪くも過去2作のラングドンシリーズ、さらには他のノン・シリーズも含めた著者の作風を踏襲した作品だ。秘密めいた団体、象徴に隠された意味、謎につつまれた敵。そして敵に奪われた友、その友の肉親の美女と運命を共にした、敵だけでなく公権力の追跡からも逃げる逃避行。
 今回の美女のキャサリンは50歳で、ずいぶんお年を召しているなぁと思ったが、ラングドンとは同年代でつり合いはいい。「いやいや50歳になっても魅力的っていうのがスゴイじゃない?」なんて、年寄扱いしていてふと気が付いた。私もあと3年あまりで50歳だ(!)。

 上に「良くも悪くも」と書いた。良い方は、いつものとおり「秘密」に対する好奇心を刺激されるワクワクする物語だったこと。全編で12時間という短い時間のなかで展開するスピード感。悪い方は、何となく先が読めてしまうこと。さらに今回は迫る危機や敵が一回りも二回りも小さい気がする。同じ枠組みで続けるのは楽なようでいて、前を上回る新たな物語を創り出すのは大変なのだと思う。

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2010年4月23日 (金)

1Q84 BOOK3

著  者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2010年4月16日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 昨年5月の発売以来、BOOK1,2合わせて227万部という大ベストセラー。このBOOK3も発売前から増刷がかかり70万部が用意されているという。それでも近所の書店では「売り切れ」になっていた。まぁお祭り状態になっている。もちろん、bk1で早くから予約していて発売日に手にした私もそれに参加している。

 青豆はどうなったのか?ふかえりと天吾の一夜の意味は?いろいろなことが明らかになり、また新たな問いかけが提示される。自分が読むスピードが遅くてもどかしい、もっと早く先を読みたいと思った。「読む楽しみ」を堪能したことをまずは認めよう。
 形式的には前作までと同じように、章ごとに主人公が入れ替わる。今回の特徴は「牛河」という、前作までどちらかと言えばマイナーな登場人物が、その一角を担っていることだ。彼の章が物語を推し進める牽引役になっている。逆に言うと、それ以外の主人公にはあまり動きがない。
 敢えて、本書には不満がある、と勇気を持って言わせてもらう。起伏もリズムも意外性も乏しい。もちろん色々な出来事が起きるのだけれど、基本的には「こうなったらいいな」と思っていることにゆっくりと近づいていく感じだ。そもそも、こんなにも主人公たちに動きが乏しくては、展開するのも難しいと思う。(大作家を前に小説の技術論を語るのはおこがましいが)

 昨年9月の毎日新聞のインタビュー記事で、著者が「1、2を書き上げた時はこれで完全に終わりと思っていたんです。(中略)でもしばらくして、やっぱり3を書いてみたいという気持ちになってきた」と答えている。「(批評は)全く読んでいません」とも答えているが、「続編があるのでは..」という声はおそらく著者の耳に届いていたと思うし、「3を書いてみたい」という気持ちに、それは少なからず影響したと思う。
 その前提で考えると納得するのだが、BOOK3は前2巻で投げかけた問い(謎)に対する解答編のようだ。翌月号に載った雑誌のパズルの解答のようだ、と言った方が的確かもしれない。つまり、227万部の読者に対するサービスなのではないか。だから主人公を動かさずに、親切に謎解きを語った、と見るがどうだろう。

 批判めいたことを書きましたが、著者の作品の特長である暗喩や深読みができる部分などは数多くあり、それを勝手に夢想するのは楽しかったです。この後は私が思い付いた部分を書きます。(ネタバレを含みます)>>続きを読む

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2010年4月17日 (土)

狐笛のかなた

著  者:上橋菜穂子
出版社:理論社
出版日:2003年11月 初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 これは傑作だった。「守り人」シリーズ、「獣の奏者」シリーズで、東洋風の独特で圧倒的な世界観を描き切り、アジアン・ハイ・ファンタジーというジャンルをものにした著者の2003年11月の作品。時期的には「神の守り人」の後。「守り人」シリーズですでに人気を博していた著者が、その合間に発表したノン・シリーズ作品ということになる。

 主人公は小夜、里のはずれにある森の端で祖母とともに暮らす少女。物語が始まった時には12歳だった。彼女には「聞き耳」という、他人の「思い」を感じ取る能力がある。
 もう一人の主要な登場人物は野火、正確には人ではなく霊力を持った狐である「霊狐」だ。隣国の「呪者」と呼ばれる霊能力者に使われる「使い魔」で、命令があれば人を殺すこともある。
 ある日、追手の猟犬に追われて逃げる野火を小夜が匿う。普段は立ち入ることのない森の中の屋敷まで逃げ、そこに幽閉されて暮らす同じ年頃の少年の小春丸と出会う。小夜にも小春丸にも本人が知らされていない生い立ちがあり、物語が進むに連れて野火も含めた3人の運命が縒り合されていく。

 物語の背景には、領地や水利をめぐる隣国との諍い、同族間の確執、跡取り問題などがある。さらに、この世とは別の世界の存在など「守り人」と通底するものがあり、主人公の小夜には「獣の奏者」のエリンにつながるものも感じる。
 代表作になった2つのシリーズに挟まれる格好で、比較的目立たない作品だが、短い分完成度が高いように思う。著者の作品のテレビアニメ化が続いているが、映画にするならこの作品が最適だろう。

 本書で、これまでに出版された著者の小説はすべて読んだことになりました。コンプリート達成!
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2010年4月14日 (水)

かのこちゃんとマドレーヌ夫人

著  者:万城目学
出版社:筑摩書房
出版日:2010年1月25日 初版第1刷 3月10日 第3刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「鴨川ホルモー」や「プリンセス・トヨトミ」で、奇想天外な設定で笑わせたり、呆れさせたりしてくれた著者の次なる作品は、ほのぼのとしてちょっと切ないファンタジーだった。タイトルになっている、かのこちゃんは小学校1年生の女の子、マドレーヌ夫人は外国語を話すメスの赤トラの猫だ。
 かのこちゃんは、お父さんとお母さんと暮らし、犬の玄三郎を飼っている。ある豪雨の日に、マドレーヌはやってきた。そのままかのこちゃん家に住み、玄三郎と夫婦になった!?マドレーヌ夫人が話す「外国語」とは、犬の言葉。正確には玄三郎の言葉が分かる。

 第1章と3章はかのこちゃん、2章と4章はマドレーヌ夫人の視点から描かれている。かのこちゃんの元気さが微笑ましい。かのこちゃんは、難しい言葉で変な響きを持つものが好きだ。「やおら」とか「すこぶる」とか「いかんせん」とか「ふんけーの友(刎頚の友)」とか。
 そんな中で「茶柱」のエピソードは出色だ。かの子ちゃんがもう少し成長していたら、このエピソードは生まれなかっただろう、小1限定と言える。これは「はなてふてふ」とともに、著者のユーモアが垣間見られる部分だ。まぁ、これじゃ何のことか分からないと思うが、詳しい説明は控えるので読んで確かめて欲しい。

 そしてマドレーヌ夫人は、実に優雅で愛情深い。昔から物語に度々登場する「猫の集会」が、この物語でも重要な場面なのだけれど、そこでも一目置かれる存在だ。そして、仲間や玄三郎やかのこちゃんを想う心と行動に心洗われる思いがする。
 対するかのこちゃんもマドレーヌのことを誰よりも理解している。1人と1匹が、人間と猫という関係よりほんの少し近づいた触れ合いを見せる感動物語。本書が属する「ちくまプリマー新書」は、中高生対象の新書シリーズだそうだ。確かに中高生に読んでもらいたい本だ。

(2010.4.17追記)
本好きのためのSNS「本カフェ」でお友だちになった、ひゅうさんに教えていただいたのですが、本書についての著者のインタビューのポッドキャストがありました。なかなか楽しくてためになる話でしたよ。
ラジオ版 学問ノススメ Special Edition 「2010年3月28日放送分」

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2010年4月10日 (土)

オー!ファーザー

著  者:伊坂幸太郎
出版社:新潮社
出版日:2010年3月25日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は2006年から2007年にかけて、いくつかの地方新聞に掲載された、いわゆる「新聞小説」に加筆修正したもの。発表の時期的には「ゴールデンスランバー」の直前。著者自身のあとがきによると、「あまり好きな表現ではない」と断りながら、「ゴールデンスランバー」以降が第二期と呼べるかもしれない、とある。つまり本書は、著者の第一期最後の作品なのだ。
 このブログで度々触れているが、気の利いた会話や愛すべきキャラクター、そして巧みな伏線が著者の作品の人気の理由だと思う。そしてそれは著者がいう第一期の作品に色濃く出ていた。当然、第一期最後の作品である本書にもその特長が強く出ている。

 主人公は高校2年生男子の由紀夫。成績は優秀、バスケの選手でスポーツ万能、どうやら腕っぷしも強いらしい。女の子の扱いも上手くて、まるで昔の少女マンガの「あこがれの先輩」みたいな人物造形だけれど、なぜかイヤミがない。読んでいて不思議なことに「普通の男の子」に感じられる。
 普通でないのは由紀夫の家族だ。彼には父親が4人いる。大学教授の悟、中学の熱血体育教師の勲、ギャンブラーの鷹、元ホストの葵、の4人だ。詳しい事情は省いて、とにかくこの4人の父親と母親と由紀夫の6人で暮らしている。
 子は親に似ると言われるが、由紀夫はこの4人の父親のそれぞれに似たのだ。その結果が上に書いた人物造形なのだ。イヤミがないのは、もったいぶったところのない鷹に似たからだろうか。いや、もったいぶったところがないのは4人ともかもしれない。

 正直に言って読み終わった直後は、すごく面白いとは思わなかった。私が大好きな「伏線」は、方々に配置してあって堪能したけれど、もう少し何かが欲しかった。リアリティには欠けるかもしれないが、「面白ければOK」だと思う私はそれは求めてはいない。強いて言えば期待が大きすぎたかも。出会う人、横を通る車、それら全部を「伏線かもしれない」と思って記憶しておこうとしたのがいけなかった。
 読み終わってしばらくして本書を眺め直すと、これはやっぱり面白かった。そしてこれは理想の父親を描いた作品だった。由紀夫は、優しく素直な性格故に、大小さまざまな事件に巻き込まれるのだけれど、心強いことに彼には頼りになる父親が、それも4人もいる。(いや、4人いてやっと「理想の父親」が完成ともいえる)。
 「オー!ファーザー」には、いろいろなニュアンスが込められているが、ピンチの時に現れた父親への「あぁ父さん」という安堵と喜びの言葉でもある。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
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 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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2010年4月 7日 (水)

螺旋階段のアリス

著  者:加納朋子
出版社:文藝春秋
出版日:2000年11月20日 第1刷 12月10日 第2刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は、日常に潜む不思議を描く連作短編集が持ち味。「日常の不思議」を解き明かすということで言えば、本書に登場する「探偵」ほどうってつけの登場人物はいない。何しろ謎解きを専門とする職業なのだから。ただし、明智や金田一やポアロやクィーンら、難事件を見事に解決する探偵を想像してはいけない。
 本書の主人公は会社の早期退職者支援制度を利用して、脱サラして探偵事務所を開いた仁木順平。当然、そうそう簡単に仕事の依頼は来ない。来ても仁木が期待するようなハードボイルド系の依頼はない。カギを探して欲しいとか、犬を探して欲しいとか、浮気調査かと思えば「浮気してない調査」だとか。

 でも不思議を描くのが巧みな著者のことだから、もちろん話はそう単純ではない。カギ探しだってただのカギ探しではない、犬探しも浮気してない調査も、背後には全く別の事件が隠されている。解決すべきは表面に見える依頼ではなく、背後の事件の方。
 さらにこの謎を解き明かすのは仁木ではなく、フラッとこの事務所に来て居ついた、高級少女服のカタログから抜け出したような美少女の安梨沙。探偵らしくない探偵、事件の依頼にはウラがあり、お茶くみ兼務の助手にしか見えない美少女の一言が事件を解決に..と、何度もひねった筋書きが「さすが」と思わせる。しかも「ひねり」はこれで全部ではないのだからスゴイ。

 仁木と安梨沙の探偵稼業の物語をもっと読みたいと思っていたら、続編があった。「虹の家のアリス」。近々読みたいと思う。

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2010年4月 4日 (日)

500年の恋人

著  者:スーザン・プライス 訳:金原瑞人・中村浩美
出版社:東京創元社
出版日:2010年2月12日第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 先日紹介した、ガーディアン賞受賞の「500年のトンネル」の続編。最初に断っておくが、前作のストーリーが深く関わっているので、前作から順番に読んだ方がより楽しめる。そして、この記事にはある程度前作の内容のネタバレがあることをお許しいただきたい。

 「500年のトンネル」の終盤、主人公で21世紀の女性のアンドリアと、16世紀のスターカーム一族の族長の息子であるピーアは、互いに魅かれ合いながらそれぞれの住む時代に戻る。その500年の時を隔てた別離から1年後、アンドリアは前の会社を辞めて、今は300キロ以上離れた街にあるパブで働いていた。そこに何とピーアが現れる。前作の大混乱の元凶とも言える、元上司のウィンザーと共に。
 部族間で激しい争いを繰り返し、「殺られたら、それ以上に殺り返す」復讐の成就を何よりも重んじる16世紀の世界。そこでの資源開発や観光事業のために、21世紀の不誠実かつ姑息なやり方で平和をもたらそうとして壊滅的な失敗を期したはずなのに、ウィンザーはまたもや500年の時を結ぶタイムチューブを開いたらしい。

 ウィンザーに言わせれば、以前はやり方がまずかった、今回はもっとうまくやる、ということなのだろう。実際、以前より忍耐強く、スターカームと親しくなるために大変な努力をしているという。確かにやり方を変えたようだ。それは徐々に明らかになるのだが、以前にも増して不誠実で危険なものだった...
 そして、アンドリアにはひと言いいたい。もっと良い選択があり、それが分かっていながら、なぜそうしないのか?著者の公式サイトに、第三作への言及がある。出版はまだ先になりそうだが、より良い結末を迎えることを望む。

この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。興味がある方はどうぞ

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2010年4月 2日 (金)

500年のトンネル(上)(下)

著  者:スーザン・プライス 訳:金原瑞人・中村浩美
出版社:東京創元社
出版日:2003年6月27日初版
評  価:☆☆☆(説明)

 巻末の解説によると、英国の児童文学の二大タイトルである、カーネギー賞、ガーディアン賞の両方にノミネートされ、「ハリーポッターと秘密の部屋」「肩甲骨は翼のなごり」など、並みいる強豪を抑えてのガーディアン賞(1999年)を受賞した作品。
 「児童文学」というと、小学生(12歳)ぐらいまでの子どもたち向けの物語を思い浮かべるが、殺戮シーンや「大人の会話」もあり、本書はそういった読者を対象としたものではないと思う。解説に「昨今のティーンエイジャー向け書籍は..」と書かれているが、まぁハイティーン以上ぐらいと思った方がいい。

 舞台は、イングランドとスコットランドの境界あたりの街。時代は..21世紀と16世紀だ。タイトルの「500年のトンネル」とは、この2つの時代を行き来することができるタイムマシン(物語の中では「タイムチューブ」と呼ばれている)のことを指している。
 21世紀のハイテク企業が、次元の違うパラレルワールド間をつなぐ技術を開発し、16世紀で資源開発や観光事業を起こして大儲けしようと考えた。しかし16世紀側のこの地域は、多くの氏族が割拠する無法地帯。最も勢力が大きいスターカーム一族に、アスピリンを「エルフの白い小さな薬」として供給したりして、何とか事業のベースとなる平和を実現しようとしていた。

 しかし、21世紀のハイテク企業のあさましい目論見は簡単には実現しない。16世紀のスコットランドの長官が「スターカームとは決して握手をかわさぬことです」と忠告する。彼らは彼らの行動原理にのみ従い、他との約束を尊重する思考は持っていない。原題の「The Sterkarm Handshake」とは、ここでは「守られない約束」の意味なのだ。
 主人公は、21世紀から16世紀に派遣された女性人類学者のアンドリアと、スターカームの族長の息子であるピーアの2人。お互いに魅かれあい、この物語は2人のラブロマンスでもあるのだが、とにかく拠って立つ文化が違いすぎる。「殺られたら倍にして殺り返す」が当たり前だと思うピーアを前にして、アンドリアは葛藤の連続だ。「いい加減に気がついて21世紀に帰ったらどうなの?」と何度も私は思った。そして、物語は混迷の度合いを深めていく。

※右上のAmazonのリンクによると上巻は新品の在庫がないようです(2010.4.2現在)。他のネット書店も同様の状況でした。でも、出版社のサイトからは購入でき、表示される表紙の絵が変わっているので、改版による一時的な在庫切れかと思われます。
東京創元社の書籍検索ページ

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