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2010年3月 8日 (月)

書評家<狐>の読書遺産

著  者:山村修
出版社:文藝春秋
出版日:2007年1月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は1981年に「日刊ゲンダイ」に書評コラムを書き始めた。本書は、2003年から亡くなる直前の2006年7月までに「文學界」に掲載された書評を収録したもの。タイトルの通り著者の「遺産」だ。「狐」は著者の書評を書く際のペンネーム。(死の直前まで実名を公表していなかった)
 サブタイトルに「おとなの読書感想文・書評」とあるように、このブログの記事も書評を名乗っている。25年のキャリアのある名書評家の書評集を、このようにお気楽な「ブログ書評」で評することになってしまって、おこがましい限りである。申し訳ない。

 全部で34編の書評が収録されている。取り上げられている本の数は80作品以上。本の数が書評の数を大きく上回っているのは、まず1つの書評で、あるテーマの下に2つの本を紹介する形式が貫かれているため。例えば冒頭の一編「学究のパリ、文士のパリ」では、「ガリマールの家/井上究一郎著」と、「林芙美子紀行集/立松和平編」の2作品。2つの本はパリという街とあるフランス人作家によって、時代を越えてつながっている、という趣向だ。
 また、紹介される2つの本以外にも、同じ著者の他の作品や、ちょっとした関連の指摘や引用などによって、たくさんの本の名があげられる。上に80作品以上と書いたが、正確にはいくつなのか正直言って分からないのだ。90とか100とかあるのではないかと思っている。

 著者の読書量、いや知識量に圧倒される。2つの本を1つのテーマの下に取り上げるだけでも、膨大な既読書の中からのピックアップでなければ、34回もほぼ毎月のペースでは続かない。しかも、中には「嵐が丘/E・ブロンテ著」のように、複数の訳者による訳文の比較評価なんてものがいくつもある。
 さらに言えば、多くの書評に著者の生没年が紹介されているが、それは作品が書かれた時代背景、それも実に詳細な形で言及するためだ。例えば「嵐が丘」刊行の1847年はマルクスの「共産党宣言」の前年、「ヨーロッパ中に共産主義という名の亡霊が出没していた」と紹介されている。

 しかし書評というのは、読者を圧倒するためのものではない。と、強がってみたものの、紹介されている本の多くがとても魅力的に見える。私の守備範囲から外れた古い作品が多いのだけれど、著者の書評がガイドとなってスルリと入っていけそうな気がする。そうだ、良い書評とは良きガイドなのだ。良いことを学んだ。
 「申し訳ない」と言いながらも評価する気でいたのだが、結果的には私が学んだ形になってしまった。実は本書は、私が楽しく過ごしている本好きのためのSNS「本カフェ」の、「みんなで書評力UPを目指そう!」というコミュニティ(今はちょっと停滞気味だが)で推薦されたテキスト。教科書なのだから「評価する」より「学ぶ」方が自然だとも言える。
 私のように「書評をうまく書きたい」とか、「安くても原稿料がもらえる仕事がしたい」とか思っている方には一読の価値ありだ。

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