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2010年1月

2010年1月31日 (日)

聖女の救済

著  者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2008年10月25日 第1刷 10月30日 第2刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 私にとっては「容疑者Xの献身」「流星の絆」に続いて3つめの作品。多作な著者の作品には、読んでみたい作品がたくさんあるのだけれど、最寄りの図書館には名前の札だけがあって、全部貸出中ということが多いので、タイミングがうまく合わないようだ。

 事件は被害者の自宅のリビングルームで起きた。おそらく1人でいる時に、自分で淹れたコーヒーを飲んで毒殺されたのだ。毒物の混入経路は、水道か、ペットボトルか、ケトルか、カップか?そして犯人は?...
 実は犯人は事件より前に、最初の1章で早くも提示される。いわゆる倒叙形式だ。だから読者の楽しみは犯人探しではなく、天才物理学者の湯川の協力を得て警察が犯人を捜し当てる過程の追体験と、犯行の方法の推理だ。
 この犯行方法が本書の一番の見どころと言って過言ではない。警察の面々ではお手上げなのはまだしも、今回は湯川でさえ苦戦する。曰く「理論的には考えられても、現実的にはありえない」「~これは完全犯罪だ」

 例によって私もあれやこれや考えながら読んだ。犯行方法のトリックは分からなかったが、それなりにポイントはつかめていた。いや、著者がちゃんと分かるようにヒントを配置しておいてくれたのだ。読者があれやこれやと考えることができるように。
 内海という女性の刑事が登場するのだが、テレビドラマの企画で創造された人で、本書と「ガリレオの苦悩」から原作でも登場するようになったらしい。この人がいることによって、犯罪捜査以外のドラマ性も加わった。

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2010年1月29日 (金)

新しい読書の形「親子読み」の提案

 今日はちょっと気負って、新しい読書の形を提案してみたいと思います。それは「親子読み」。これは、私が入っているSNS「本カフェ」のフリーペーパー創刊号に私が書いた記事を基にしています。

 「親子読み」とは私の造語で「親子で同じ本を読む」「その本のことを親子で話す」ことをいいます。小さな子どもを対象とした読み聞かせとは違い、時間的に一緒に読む必要はありません。対象の子どもも小学校高学年から大学生ぐらいまで、つまり意見の交換ができれば広く対象とします。
 そして、本を読むこと自体よりも、読んだ本を薦めたり感想を伝えたりといった、親子のコミュニケーションの方に重きを置きます。SNS「本カフェ」のキャッチフレーズの1つは、「ページを閉じたら伝えたくなった」で、その伝える相手が一番身近な家族であったらどうだろう、と思ったことが「親子読み」を思い付いたきっかけです。

 私の家でも、私が読み終わるのを娘が待ち構えていてすぐに読んでしまうことがあります。そんな時には本の話題で会話が弾みます。そんな「親子読み」にオススメな本が「精霊の守り人」から始まる「守り人」シリーズです。「アジアン・ハイ・ファンタジーの旗手」と形容される著者の代表作です。
 本書が「親子読み」にオススメな理由は、まずストーリーが巧みで面白く読みやすいこと、そして年齢や性別を越えた読者への魅力があることです。本書は児童書に分類されますが大人にも読み応えがあります。
 いや、このような消極的な言い方では充分ではなく、大人にも積極的に訴えてきます。本書には、国の成り立ち、自然に対する畏敬、宿命、親子、仲間など様々なテーマの問いかけがあるのです。子どもは子どもなりに、大人は大人なりに感じることが必ずあり、伝えたいことができるはずです。

 最後に、「年齢層や性別を越える」「精霊の守り人」とそれに続くシリーズは、「親子読み」だけではなく、「夫婦読み」「友達読み」「仲間読み」等にもオススメです。

関連記事
・本読みな暮らし:カテゴリー「上橋菜穂子(守り人)」
・本カフェブログ:本カフェ「ファンタジー好きな人」コミュニティ
 

 
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2010年1月28日 (木)

砂漠

著  者:伊坂幸太郎
出版社:実業之日本社
出版日:2005年12月15日 初版第1刷 
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の2005年の描き下ろし作品。2008年に同じ出版社から「Jノベル・コレクション」というレーベルで、ソフトカバーの単行本も出ている。大学生を主人公とした青春小説。大学生が主人公ということでは「アヒルと鴨とコインロッカー」もそうだが、本書の方が「青春」成分が多く配合されている。

 主人公は北村、仙台の国立大学に入学したばかりの男子大学生。物語の始まりは、4月第一週のクラスコンパだ。そこで、鳥井(男)、南(女)、東堂(女)、西嶋(男)の4人と出会う。「俺、鳥井っていうんだ」とか「練馬区から来た、南です」なんて自己紹介なんかしたりして、冒頭から「青春」の甘酸っぱい香りがする。
 そして、鳥井のマンションに押しかけてって麻雀はするわ、夏にはこの男3女2で海に出かけるわ、男は合コンに余念がないわ、片思いや告白があるわで、「青春」が加速する。あとは夕日に向かって叫ぶシーンがあれば..と思うが、そこまで行くと冗談になってしまう。
 その手前のギリギリのセンで留まることで、「砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」というセリフにもリアリティが感じられる。もちろん「砂漠に雪を降らす」リアリティではない。「その気になれば何でもできる」って、あの頃は思えるんだよなぁ、というリアリティだ。

 これでは、くっついたり離れたりの恋愛系ライトノベルのようだが、著者の作品だからもちろんこれで終わりではない。犯罪組織との確執を軸としたミステリーあり、著者の持ち味の伏線あり、個性が際立つキャラクターもありで、伊坂ワールドが結晶したような作品だ。伊坂ファンにもそうでない人にもオススメ。
 そうそう、著者の作品には作品間のリンクがあることで有名だが、本書にもチラっと「チルドレン」の「あの人」が出てくる。そして「チルドレン」を読み返すと、この本の「この人」がちゃんと出ている。つまり相互リンク。著者は、チルドレンの時点でこのリンクを仕込んだということなんだろうか?

 本書で、これまでに単行本として出版されたアンソロジー以外の著者の作品は、すべて読んだことになりました。コンプリート達成!
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2010年1月23日 (土)

きつねのはなし

著  者:森見登美彦
出版社:集英社
出版日:2006年10月30日 発行 11月20日 2刷 
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の2006年の作品。表題作「きつねのはなし」と「果実の中の龍」「魔」「水神」の4作品を収めた短編集。単行本としては「太陽の塔」「四畳半神話大系」の次、「夜は短し歩けよ乙女」の前の作品だ。
 このようなことを書いたのは、本書の趣がその前後の作品とは大きく違うからだ。これまでの作品は、大学生のグダグダな生活を描いた、笑いの中に青年の屈折を包んだものだった。ところが本書は、京都の街が持つ「妖しさ」に焦点を合わせてグッと寄った作品で「異色」と言ってよいだろう。

 4編はそれぞれ独立した作品だが、共通の人物が登場するなどして、緩やかなつながりがある。「芳蓮堂」という名の古道具屋、そこの女主人、怪しげな客、からくり幻燈、そして胴の長いケモノ。こうしたものがそれぞれいくつかの作品に登場し、効果的に「妖しさ」を演出している。そして、妖しい余韻をたっぷりと残して物語は終わる。

 「異色」ということについてだが、京都は人口の1割が大学生だと言われる「学生の街」であり、1200年の歴史が層となって積もった「歴史の街」でもある。学生時代からこの街に住む著者が、大学生の暮らしを描く一方で、目に見えぬ歴史の層が醸し出す「妖しさ」を描こうとしたのは自然なことであったと思う。
 そして、神社の灯篭やお祭りの提灯の朱い灯のような「妖しさ」を描く方向性は「宵山万華鏡」へとつながる。以前「宵山万華鏡」のレビューに、「やっと森見さんがやりたかった物が...」というコメントをいただいたことがあった。今なら、私にもそうしたつながりを2つの作品の間に感じることができる。

 本書で、これまでに単行本として出版された著者の作品はすべて読んだことになりました。コンプリート達成!
 「森見登美彦」カテゴリー

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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2010年1月20日 (水)

テラ・ルネッサンスII

著  者:田原実 絵:西原大太郎
出版社:インフィニティ
出版日:2009年12月14日第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 株式会社インフィニティ・志経営研究所様から献本いただきました。感謝。もっと前にいただいていたのですが、紹介が今になってしまいました。

 タイトルから分かるように、以前に紹介した「テラ・ルネッサンスI」の第2弾。「「心を育てる」感動コミック」シリーズとしては、「かっこちゃんI」などにつづく6冊目の作品となる。今回もウガンダやコンゴでの元子ども兵支援や、カンボジアでの地雷除去支援などを行っている、NPO法人テラ・ルネッサンスと理事長の鬼丸昌也氏の活動が綴られている。

 ここで語られている真実は、私たちの(少なくとも私の)想像力を越えている。冒頭登場する少女は、ツチ族とフツ俗の民族対立に巻き込まれ家族をなくし、森の中や難民キャンプでの悲惨な境遇の中を一人で生き抜いてきた。他の男性たちは、子ども兵として戦い、足を失ったり視力を失ったりして故郷へ戻るものの、「人殺し」とののしられる。
 しかし今は、テラ・ルネッサンスの現地スタッフとして、かつての自分と同じような境遇の子どもたちを支援したり、技術を身につけて生計を立てたりしている。絶望の淵から這い出してきて、希望を見出して自分と家族の生を歩んでいる。
 「人生は要約できねえんだよ」とは、伊坂幸太郎さんの作品中のセリフだが、彼らの人生をこの本書が要約し、さらにそれを私が要約したこんな文章では、何ひとつ伝わらない。せめて本書を読んで想像力を振り絞れば、彼らの人生を少し理解できるかもしれない。

 テラ・ルネッサンスの活動は「無力感」との戦いでもある。世界には推定7000万個とか1億2000万個と言われる地雷を1つづつ破壊していく地雷除去の活動はもちろん、元子ども兵は30万人いると言われ、救える人数を上回る人数の新たな子ども兵が日々誕生している現状は、ほとんど何もできないに等しく感じる。
 しかし「微力ではあるが、無力ではない」それが鬼丸氏がこの活動を始めた想いで、おそらく今も精神的支柱なのだ。この言葉は、我々にも問いかける。「どうせ何も変わらない」ではなく、自分ができる「微力」を尽くそう。少しの時間とかお金とか能力とか、それを誰かのために使おう。

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2010年1月18日 (月)

本好きのためのSNS「本カフェ」メルマガ購読(無料)のオススメ

 私が参加している、本好きのためのSNS「本カフェ」では、管理人さんのジーナフウガさんが、オススメの本の書評とSNSでの話題のメールマガジンを発行しています。だいたい毎週月曜日に配信されるのですが、今日配信の号に私の書評を載せていただきました。

 今回の書評はしばらく前に載せた、小川洋子さんの「猫を抱いて象と泳ぐ」のレビューを基にしたものです。メルマガの書評は、ジーナフウガさんとSNSメンバーが分担して書くことになっていて、いつになるかはまだ決まっていませんが、いずれまた私の番が回ってきます。その時にはまたイチオシの本を紹介したいと思います。

 私のことはともかく、書評を書くのはジーナフウガさんをはじめとするオンライン書店bk1の「書評の鉄人」や、人気書評ブロガーさんが多数いるSNSのメンバーさん。ですから、本選びのハイクオリティな情報がメールで皆さんの元に毎週届けられます。この機会に購読(無料)してみてはいかがですか?
 登録は右サイドバーか、こちらのリンクからどうぞ。

 
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2010年1月16日 (土)

f植物園の巣穴

著  者:梨木香歩
出版社:朝日新聞社
出版日:2009年5月30日 第1刷発行 6月10日 第2刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 私が初めて読んだ著者の作品「家守綺譚」に似た雰囲気の作品、という話を耳にして手に取ってみた。「似た雰囲気」の意味が10ページも読んだあたりで分かった。本書の世界は、この世ならぬ者たちがごく自然にそこに存在する世界なのだ。「家守綺譚」で河童や鬼、狐狸妖怪の類がいたように。
 とはいえ、本書はホラーでもオカルトでもない。登場するこの世ならぬ者たちは、焦ると犬になってしまう歯科医の家内、雌鶏頭になる大家、ナマズ顔の神主らで、他人を脅かしたり、ましてや害をなす者ではない。普通にそこに存在する。ここは、そういう異界なのだ。

 主人公は佐田豊彦、植物園に勤務する技官で1年近く前にf植物園に転任してきた。1年以上放置していた歯痛が、いよいよガマンならなくなって歯科医に駆け込んだあたりから異界に踏み込んだらしい。窓口で薬袋を差し出した手が犬のそれだった。
 上に書いたように、その手は歯科医の家内の手だったのだが、そのことを歯科医に訴えたところ、帰ってきた返事が「ああ、また犬になっていましたか。」だ。ここから物語は夢の中のようにフワフワした非現実の世界に漂いだす。妻が犬になっていても動じない世界では、何も確実なのものとして信じられない。

 本書を読んでいて思い出したのは、ジョージ・マクドナルドの「リリス」。トールキンらに影響を与えたと言われる、ファンタジーのルーツのような作品で、浅い夢を見ているような、まさに「幻想文学」だ。夢の中のような異界をさまようということと、そこから醸し出される雰囲気が本書と似ている。
 「リリス」は宗教的な含みを持った生と死を扱った物語だが、本書は主人公の心を映す物語だ。途中で水の中を下に下にもぐっていくのは、心の奥へ奥へと進むことを表しているように思う。そこで出会ったものは、主人公の心にひっそりとあった、しかし決して消えることのなかった何かだった。

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2010年1月15日 (金)

ビーケーワンからギフト券他をいただきました

 書評の投稿をしたり、時々ポイントをいただいたりしてお世話になっているオンライン書店ビーケーワンから、ギフト券やキャンペーンのお知らせをいただきました。

 1つ目は誰でも使えるギフト券。3,000円(税抜)以上の買い物でお一人一回限り、300円券として使えるギフト券です。何冊か本の購入を予定されている方は使ってみてはいかがでしょう?具体的な使い方は、下の枠内をご覧ください。

■ギフト券ご利用方法■
1)ご注文いただく書籍を買物カゴに入れる
2)買物カゴで【レジへ進む】ボタンをクリックする
3)【お支払方法選択画面】で、「bk1ポイント・ギフト券を利用する」にチェックする
4)ギフト券入力欄にギフト券コード[09affivc01080131]を入力する
5)ギフト券300円分が適用となり、ご注文金額の合計から300円分が差し引かれる

■ ギフト券の有効期限■
2010/01/31(日)23:59までご利用いただけます。

■ ご注意■
※税抜3,000円(送料・手数料を除く)以上ご注文の場合にご利用いただけます。
※このギフト券はモバイルビーケーワンではご利用いただけません。
※お一人様が同一のギフト券コードを複数回使用することはできません。
※一度のご注文で複数のギフト券コードを使用することはできません。
※ギフト券コードを紛失した場合、払い戻しや再発行はいたしません。
※ご注文完了後にギフト券を適用することはできません。
※不正な使用が発覚した際はアカウントを停止し、相応の損害賠償請求などを行なわせていただく場合がございます。

ギフト券の利用方法の説明ページはこちら

 2つ目は、10,000円以上(税抜)購入の予定がある方にさらにお得なキャンペーン(2月1日まで)です。
 10,000円以上購入の方には1,000ポイント、30,000円以上で3,000ポイント、50,000円以上では何と5,000ポイントがプレゼントされます。30,000円以上の場合はさらにボーナスポイントも。1ポイント1円ですから、実質的には約10%のキャッシュバック!たくさん本を買う人にはすごくいい話だと思います。詳しくは下のリンクからどうぞ。
オンライン書店ビーケーワン:10,000円以上購入でいずれかプレゼント!
 

 
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2010年1月14日 (木)

レインツリーの国

著  者:有川浩
出版社:新潮社
出版日:2006年9月30日 発行 
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は著者のベストセラーシリーズの1冊「図書館内乱」に登場する本。スピンオフ作品ということになるが、「図書館内乱」の出版が2006年9月10日、本書は9月30日だから、著者は両方の作品をおそらく並行して用意していたことになる。
 実はそのあたりのことは、あとがきで著者が説明してくれている。この本のテーマは「図書館内乱」でも重要な位置付けを与えられている。著者にとって重みのあるテーマだったために「図書館内乱」の中には収まりきらなかった、ということらしい。

 「図書館内乱」を読んだ方なら、本書のことは知っておられるだろう。教官の小牧が幼なじみの毬江に渡した本だ。図書隊員がこの本を渡したことが、毬江の同級生たちの未熟な正義感を刺激してしまう。なんだか持って回った言い方になったが、「図書館内乱」を未読の方にはネタバレになるので、核心部分は言えない。
 それは、著者もできれば核心部分を知らないで読んでもらいたい、と思っているのではないか?と思ったからだ。残念ながら私はそういう読み方は叶わなかったが、それでも核心が明らかになった時に、それまでに著者が施した仕掛けにヒザを打つ場面があった。この感触は、その核心部分を知らないで読むことで一層鮮明になるはずだ。

 主人公の伸とひとみは共に20代。二人が出会うきっかけは、中学生のころ読んだ「忘れられない本」。ひとみがブログに書いた、その本についての「10年目の宿題」を、伸が見つけてひとみにメールを送る。..本の感想をブログに書いている身としては、ムズムズして落ち着かない展開。
 正直に言うと、スピンオフ作品を侮っていた。「「図書館内乱」に出てきたあの本が実際にあったら面白いかもね(もっとひねくれて言えば、売れるかもね)」という程度のモノだと思っていた。ところがこの本は「直球のラブストーリー」で、思いのほか心を揺さぶられた。

 気になったのは1つ、伸の言葉が多すぎて煩わしいこと。一生懸命なのは分かるが、何もかもを言葉にしてメールで相手に投げつけている感じ。上に書いた著者の仕掛けも伸がベラベラと明かしてしまうし。でも、元々そういう性格のヤツには違いないんだけれど、こんなふうに長々とメールで伝えなければならない理由も伸にはあった、と読み終わってしばらくしてから思い至った。

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2010年1月11日 (月)

中国報道の「裏」を読め!

著  者:富坂聰
出版社:講談社
出版日:2009年12月1日 第1刷発行 
評  価:☆☆☆☆(説明)

 R+(レビュープラス)様にて献本いただきました。感謝。

 著者は、1980年代に北京大学に留学、89年の天安門事件に至る学生デモには、共同通信の非常勤通信員として密着していたという、いわば現代中国の歴史の目撃者とも言える。その豊富な人脈と独自のニュースソースから生み出されるレポートには定評がある。

 そんな著者のプロフィールの後では、けし粒ほどの意味合いを見出すことも危ういが、私は、著者が北京大学で学んでおられた今から25年ほど前、「改革開放」が進む中国を50日間旅したことがある。その時に感じた「民衆の期待感の盛り上がり」は、青二才の学生だった私にさえ、この国の行く末の「可能性」と「危うさ」を気付かせるに十分だった。
 その時バックパッカーとして屋台の包子で昼夜2食を賄い、土ぼこりにまみれて各地を旅した経験は、私の財産になった。中国本土の再訪は叶っていないが、以来「中国」は私の主たる関心事の1つとなった。中国の歴史を勉強し直し、中国文学を読み、中国からのニュースに耳を傾けるようになった。つまり、本書はまさに私の関心のど真ん中なのだ。

 「中国報道の「裏」を読め」というタイトルからは、「日本で報道されている中国の○○のニュースには、実はこういうことでこんな裏事情がある」式の暴露もしくはウンチク本が想像される。しかし、そういった部分が皆無ではないものの、本書の内容はもっと硬派な報道記事だ。
 そもそも本書は昨年12月に出版された「COURRiER BOOKS」の1冊なのだ。つまり、海外のメディアが報じた記事を素材にして日本と世界の「今」を描き出す、という独特な編集方針の雑誌「COURRiER Japon」のDNAを持った本だ。だからタイトルの「中国報道」も、「日本での中国に関する報道」ではなく、「中国のメディアによる自国のニュース報道」のことで、それも調査報道が多い。

 「調査報道なんて言ったって、中国のメディアなんて共産党の広報機関で、公式発表ばっかりなんじゃないの?」と思った人がいると思う。その人は有力な見込み読者だ。いや既に著者の術中にはまっている、と言った方が的確だろう。そう思う人にこそ、本書は新鮮な驚きを与えてくれるからだ。
 本書の序章「中国メディアの現在」は、日本でも大きく報じられた「段ボール入り肉まん」事件から始まる。これは北京テレビが「透明度」という人気番組で犯した「やらせ」事件。事件自体は何とも低レベルな出来事には違いない。
 しかし著者は「この事件の裏には、政府や権力者よりも視聴者を意識するようになったメディアの態度がある」と分析する。そう、今の中国メディアは共産党の広報機関などではないのだ。潜入取材や告発があるかと思えばゴシップもある、特にテレビは良くも悪くも日本のワイドショー顔負けのヒートアップ気味らしい。

 改めて本書の内容を..。本書は中国の経済、人々の意識、汚職と不正、うっ積するストレス、などをテーマに章ごとに、中国メディアが報じたニュースを基に著者が分析を加えて解説する形で進められる。多くが耳に新鮮な内容なのだが、ここでは私が最も注目した「中国の労働事情」について紹介する。
 伝統的な中国の労働者像は「職業選択の自由が無い代わりに失業も無い」といったものだろう。ところが本書によると、中国では「派遣労働者」が急速に増大し、労働者を守る目的で施行された「労働契約法」がこれに拍車をかけている、というではないか。
 これはオドロキだ。今や中国の労働市場は、見方によっては日本より過激な競争市場になっているわけだ。そしてあの「毒入りギョーザ事件」の影に大量のリストラを指摘する意見もあるそうだ。となれば中国の事情は日本の食卓をも直撃する。決して「対岸の火事」ではないのだ。

 最後に..。何でも自分に引き付けて考えてしまうのは良し悪しだと思うが、もっと言えば上の「中国の労働事情」代表される、本書に書かれている「中国で起きていること」が、「日本で起きていること」を増幅した現象、に思えて仕方ない。
 中国は短期間に市場経済を導入したため、その効も罪もが急速にそして端的に現れているのだ。また、本書によれば、右から左、愛情から憎悪、賞賛から罵倒、と中国の世論が怖いぐらい大きく振れる。こうした現象を著者は「追い詰められた人間に共通する特徴」と書いている。
 言い換えれば、この現象はいわゆる「国民性」に原因があるのではなく、社会全体が持っている余裕の無さによるのではないかと私は思う。その一点において、急速に余裕を無くしているように見える日本の社会にとって、本書は「対岸の火事」どころか「近未来を写す鏡」かもしれないのだ。

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2010年1月 7日 (木)

陽気なギャングの日常と襲撃

著  者:伊坂幸太郎
出版社:祥伝社
出版日:2006年5月20日 初版第1刷発行 6月10日 第6刷発行 
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「陽気なギャングが地球を回す」の続編。あの銀行強盗の4人組が帰ってきた。演説(内容はまったくない)の達人 響野、人間ウソ発見器 成瀬、動物を愛する天才スリ 久遠、精密体内時計を持つ天才ドライバー 雪子。

 今回の物語は、成瀬の職場である市役所から始まる。定年退職したばかりの男性から「最近、町に変な奴がうろついている」という訴えが持ち込まれる。これが発端となって4人は、大がかりな犯罪組織と事件に巻き込まれる。
 全部で4章からなる内の第1章は、4人がそれぞれ別々の事件に遭遇して、持ち前の才能を生かして一応の解決を見る。「あぁ今回はこういう趣向なのね」と、短編集なのかと思っていた。「それはそれで面白そうじゃん」とも思った。
 ところが、第1章は前ふりで、第2章以降に起きる様々な事件に、あるものは緊密に別のものは緩やかに絡んでくる。響野が経営する喫茶店「ロマン」で交わされる、空疎で上っすべりな会話も、後になって意味を持ってくる。巧みな伏線が特長の伊坂作品の魅力が今回も生きている。

 最初私が短編集だと思ったのもムリはなく、第1章は2004年から2005年にかけて月刊誌「小説NON」に載った4つの短編を改稿したものだそうだ。以降の描き下ろし部分につなげるために「大掛かりな」改稿をしたそうなので、月刊誌の読者も第1章から読んだ方がいい。もっと言えば、「陽気なギャングが地球を回す」のエピソードが関連する部分もあるので、1作目から順番に読んだ方がいいと思う。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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2010年1月 4日 (月)

猫を抱いて象と泳ぐ

著  者:小川洋子
出版社:文藝春秋
出版日:2009年1月10日 第1刷発行 
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「ダ・ヴィンチ」1月号で、2009年の「編集部が選ぶプラチナ本 OF THE YEAR」に選ばれた作品。著者の最高傑作との声もあり、さまざまなところで高い評価を得ているので、取り寄せてちょうど読んでいたところに、「プラチナ本~」の記事に接して、ますます興味が湧いた次第だ。
 昨年出た本で一番か?というと「そうだ」とは言い難いけれど、この悲しくも美しい物語と、静謐な音楽か詩のような文章は、他の本では感じることのない「特別な何か」を持っている。その意味では特筆すべき1冊であることは確かだ。

 主人公は「リトル・アリョーヒン」と呼ばれたチェスプレイヤー。アリョーヒンは実在のチェスのグランドマスター。主人公はそのグランドマスターになぞらえられて「リトル」を付けて呼ばれている。
 唇が癒着して生まれてきた彼に対し、祖母は「神様はきっと他のところに特別手を掛けて下さって、唇を切り離すのが間に合わなかったんじゃないだろうか」と言う。その神様が特別手を掛けて下さった部分が、類まれな記憶力と集中力。
 それを基にしたチェスの腕はまさに天才。何しろ彼はチェス盤の下にいて(つまり盤上を見ないで)、どこに相手が駒を指したかを感知し、刻々と変わる盤上の配置を正確に記憶し、どんな強いプレイヤーとも互角に戦ってしまうのだ。

 物語は彼が少年時代にチェスの手ほどきを受け、成長して「リトル・アリョーヒン」と呼ばれ、チェスを指す場所を変えて生きていく様を、時々の彼を取り巻く人々との関係を交えて悲しくも静かに描写していく。
 本書の芯には「優れたチェスの対戦が残した「棋譜」は、詩や音楽のように美しい」という確信がある。このあたりは、数式を美しいと言った「博士の愛した数式」と相通じるものがあると思う。
 そして、著者はその確信を、駒の動かし方しか知らないチェスの素人の私にも共有させることに、その筆力によって成功させた。私も、チェスの棋譜から美しさを感じてみたい、と心から思った。

この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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2010年1月 1日 (金)

あけましておめでとうございます。

 皆さん、あけましておめでとうございます。

 昨年は、本好きのためのSNS「本カフェ」に加入して、そこでたくさんの本好きの方との交流ができました。読んだ本の感想はもちろん、新しい作家さんや本を教えてもらったりして、読書の幅が拡がりました。

 さらに昨年は、100冊ちょうどの本をここで紹介しました。働く場所があること、働きながらも本を読む時間があること、読んだ本の感想をブログに書く余裕があることの幸せを改めて感じます。今年も、この幸せが続くことを祈って止みません。

 それでは、今年が、皆さんにとって良い年でありますように。

 
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