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2009年12月

2009年12月28日 (月)

2009年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 昨年に引き続いて、今年も読んだ本のランキングを作ってみました。今年はこのブログでこれまでに100冊ちょうど本を紹介することができました。☆を付けなかった雑誌2冊を除くと「☆4つ」は39冊、「☆3つ」は55冊、「☆2つ」が3冊です。何と今年は「☆5つ」がありません。我ながら評価が辛すぎますね。あんなに楽しんでおきながら....
(参考:昨年のランキング

 昨年と同じく小説部門は10位まで、ビジネス・ノンフィクション部門は5位までです。また、皆さんからご意見もいただきたく、右のサイドバーに小説部門の人気投票を設けました。お気に入りの本などありましたら、ドンドン投票してください。では、ご覧ください。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
獣の奏者 3.探求編、4.完結編 / 上橋菜穂子 Amazon
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人と獣のあるべき姿について、答えは出ないと思っていたが、その答えを用意した続編。エリンの凛とした姿が嬉しい。娘にも読ませたい。
シアター! / 有川浩 Amazon
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表現者としての著者が想いを込めて、表現者としての「劇団」を描いた。狙い澄ましたセリフで人物の心を描写する。文庫で登場が嬉しい。
宵山万華鏡 / 森見登美彦 Amazon
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著者が描くのはグダグダな男子学生だけではない。舞台は祇園祭の宵山。京都の街のきらびやかさの中に潜む妖しさを描き出した傑作。
茨文字の魔法 / パトリシア・A・マキリップ Amazon
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物語全体を幻想的な雰囲気が覆う。幻想文学の名手が描き出した、三千年の時を越えた愛の物語、壮大なスペクタクルファンタジー。
魔法の使徒(上)(下) / マーセデス・ラッキー Amazon
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「ヴァルデマール年代記」に登場する「伝説の魔法使者」の若き日々。屈折した少年の心が痛々しい。魔法の天恵が開花するまでを描く。
流星の絆 / 東野圭吾 Amazon
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ベストセラー作家のベストセラー小説。両親を殺された兄弟妹の3人が寄り添うように生きる、ミステリー&兄弟愛。ラスト20ページに完敗。
植物図鑑 / 有川浩 Amazon
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草食系男子を拾った20代後半女子の物語。顔ヨシ、気配りヨシ、家事ヨシ、料理は特にヨシ、女子騒然の男登場。野草料理がおいしそう。
陽気なギャングが地球を回す / 伊坂幸太郎 Amazon
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現場で必ず演説をぶつ、何とも軽いノリの4人組銀行強盗の物語。「黒」と「白」の伊坂さんがいるとしたら、「白伊坂」のコメディ作品。
サクリファイス / 近藤史恵 Amazon
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250ページ足らずの小品に人間ドラマが詰まっている、読み応えアリの作品。自転車ロードレースの魅力と選手たちが抱える葛藤を描く。
10 駆け出し魔法使いと海の呪文 / ダイアン・デュエイン Amazon
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児童向けファンタジーシリーズの2作目。10代の新米魔法使いたちが世界の破滅を救う。背負った運命の重さに児童書ながら目が離せない。

 今年は、昨年の「ゴールデンスランバー」のように「コレだ!」という作品はありませんでした。世間的には「1Q84」がそれに当たるのでしょうが、気になることもあって10位には入れたくありませんでした。
 他の選外の作品について言うと、伊坂幸太郎さんの「魔王」や、ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんの「キャットと魔法の卵」、ポール・スチュワートさんの「崖の国物語」あたりが悩んだ作品です。 それから、4位、6位、10位は東京創元社の海外ファンタジーですが、すべて「本が好き!」プロジェクトでいただきました。もし参加していなかったら、手に取ることもなかったと思います。読書の幅を拡げていただいて感謝しています。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
14歳からの世界金融危機。 / 池上彰 Amazon
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「45分でわかる!」と銘打った本。お手軽が売り物の本には懐疑的だけれど、この本は役に立った。14歳だけに読ませるのはもったいない。
グローバル恐慌 / 浜矩子 Amazon
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米国発の世界金融危機。「危機」などという生優しいものじゃないとの意味が「恐慌」に字に込められる。出口が見えない現状を斬った良書。
フラット化する世界 増補改訂版(上)(下) / トーマス・フリードマン Amazon
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障壁が除かれ世界中の人がゲームに参加する現在から未来を展望。私たちは守勢に回らるしかないのか?対策はあるのか?を解説。
ローマ亡き後の地中海世界(上)(下) / 塩野七生 Amazon
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著者の15年間にわたって執筆された「ローマ人の物語」全15巻の完結から2年、同じ目で著者が見た「ローマ後」を書いた事実上の続編。
かっこちゃんI / 池田奈都子 Amazon
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このブログでは取り上げることが珍しいコミック。特別支援学校の先生の話。ハンディのある子どもたちとその家族の生の感動を伝える。

 1位、2位は、昨年の後半から続く景気の悪化が生んだ本とも言えます。3位はさらにそこに構造的な問題が提示されています。当たり前と言えばそれまでですが、ノンフィクションの読書は世相を反映するようですね。ランク外では「中学生が考える-私たちのケータイ、ネットとのつきあい方」が☆4つでした。
 

 
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2009年12月27日 (日)

眠れなくなる宇宙のはなし

著  者:佐藤勝彦
出版社:宝島社
出版日:2008年7月7日 第1刷 2009年8月10日 第5刷 
評  価:☆☆☆(説明)

 今年は条件が良いらしく10月にオリオン座、11月にしし座、12月にふたご座と、何度も流星群が観測できる機会があり、星空を見上げることが多かった(残念なことに流れ星には出会えなかったけれど)。そうでなくても冬は空気が澄んでいて、オリオン座という分かりやすい星座が長く南の空にあるので、何気なく星空を見上げる回数も多くなる。

 その星空を見上げて思索を巡らせた、神話から古代・中世の哲学者や天文学者、そして現代の物理学者らの様々な人々のことを、ソフトな口調で丁寧に紹介した本が本書だ。取り上げられるテーマは、古代インドの巨大なヘビとカメの上に乗った宇宙観から、プラトン・アリストテレスを経て、相対性理論や最新の「十次元空間に浮かぶ膜宇宙」論まで、多彩で幅広い。
 著者は東京大学の教授で宇宙物理学者、本書後半にある最新の宇宙論の研究者で言わば最先端を走る方だ。前半の神話や哲学者らの話は専門外かと思うが、想像するに著者の中では、神話も宇宙物理学も違和感も断絶も無く、一枚の織物のようにつながっているようだ。読んでいる方の頭にもスッと入ってくる。

 「世界を知りたいという思いは、自分が何者なのかを知りたいという思いと同じ」という言葉が本書にある。「夜」が無ければ宇宙のことは分からなかった、おそらく考えられもしなかったに違いない。また日中は忙しくて、思索の時間には向いていない。だから、宇宙に思いを馳せるのも自分を見つめるもの夜に限る。
 そこで、ということなのだろう。本書は眠る前の一時の語りの形で、第一夜から第七夜までの七つの章で成っている。各章は「それでは、今晩はこの辺りで。おやすみなさい。」で終わる。その趣向に乗って、眠る前の20分を本書に充ててみてはいかがだろう?

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2009年12月24日 (木)

シアター!

著  者:有川浩
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2009年12月16日 初版発行 
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「有川先生、ありがとうございます。この本、とても面白かったです。」と、著者に会うことがあれば言いたい。本書は、12月16日に創刊された「メディアワークス文庫」というエンタテイメント小説の文庫の第1弾の8冊の内の1冊。公式ホームページを見ると、「図書館戦争の有川浩をはじめ、豪華作家陣オール書き下ろし」とあって、本書が目玉作品であることが分かる。

 物語の舞台はそこそこ力のある小劇団「シアターフラッグ」。登場人物はほぼ劇団の面々だけ。主人公は劇団の主宰の巧。彼は人見知りがひどく、子どもの頃はいわゆる「いじめられっこ」。遊ぶ相手は兄の司だけ。それも決まって、とっくに放映の終わったテレビのヒーローのソフビ人形でのゴッコ遊び。レッドが巧でブルーが司というのも決まっている。
 司が助けなければ、人生から脱落してしまいそうだった巧が演劇と出会い、人並みに生きていけるようになったことは司も嬉しく思っている。しかし、演劇で食えてはいない。好きな事をやっているのだから貧乏で当たり前、ということらしい。案の定300万円の借金を抱え、返せなければ劇団が潰れてしまう、という緊急事態から物語は始まる。

 劇団員は10人いるのだけれど、それぞれが抱える微妙な感情の揺れの描き方がうまい。おそらく練りに練ったセリフが、狙い済ましたように物語の随所で繰り出される。そのセリフを言ったりつぶやいたりした、その時だけはその登場人物が主人公になる。彼や彼女の物語が突然目の前に開けるのだ。
 むしろ巧だけがそういった感情の発露がなかった、と言えば言いすぎだろうか。本書は1人の主人公の物語でなく、巧を取り巻く20代の若者たちの群像劇だったのかもしれない。そして、司を入れて11人の思いはクライマックスの公演へと集約される。このスピード感、ハラハラ感は圧巻。 

 ところで、著者の有川さんのデビュー作「塩の街」は、第10回電撃大賞受賞作だ。「電撃」は、本書の出版社のアスキー・メディアワークスのブランド。著者の名を一躍有名にした「図書館戦争」シリーズもこの出版社から出している。
 第1弾の他の作家さんも似たような経緯の方が多いようだが、著者は飛びぬけた出世頭と言えるだろう。その出版社の新文庫創刊への書下ろしは、とても面白い作品だった。自分を世に出した出版社への恩があるとすれば、これは良い恩返しになったと思う。

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「シアター!」 固定URL | 2.小説, 22.有川浩 | コメント (9) | トラックバック (1)

2009年12月21日 (月)

魔法の使徒(上)(下)

著  者:マーセデス・ラッキー 訳:細美瑤子
出版社:東京創元社
出版日:2009年11月20日第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 主人公ヴァニエルは16歳の少年。武人の家であるアシュケヴロン家の長男。長い鼻の面貌が特徴の家系だが、ヴァニエルは飛びぬけた美少年。そして武術よりも音楽の才能があり学問を好む。「自分のような跡取り」を望む父からは疎まれ蔑まれ、ひずんだ性格の少年に育ってしまっていた。
 そして彼は、魔法使者である伯母のサヴィルのところに、教育を受けるために半ば厄介払いの形で送られる。そこでも彼は孤立を深めるのだが、ついに「生涯の絆」で結ばれたタイレンデルと出会い、やがて二人は愛し合うようになり心の平安を得るが..。(ちなみにタイレンデルは男。つまり二人の愛情は同性愛。ちょっと身構えてしまうかもしれないが、登場人物たちの多くは頓着しない。読者も同じ心構えで臨もう)

 16歳とは言えまだ少年のヴァニエルが痛々しい。父からも母からも普通に得られるはずの愛を受けられず、家臣である武術指南には一方的になぶり倒される。そして大きな心の負担となる悲劇が、彼の秘められた天恵(そしつ)を開かせるという皮肉。
 物語の舞台となる場所が何度が変わるのだが、そのたびに「あるべき場所」に近づき、ヴァニエル自身も「あるべき姿」に近づいていく「前に進んでいる」感が読者には心地よい。異世界ファンタジーの秀作と言える。ファンタジー好きにはオススメだ。

 ところで、本書は「ヴァルデマール年代記」と呼ばれる著者の一連の作品群の1つ「最後の魔法使者」三部作の1つ目にあたる。「ヴァルデマール年代記」は、ヴァルデマール国建国の1000年前から建国後1376年までの、実に約2400年間の出来事を綴る時代と主人公を変えた、6つの三部作を含む20数作品が発行されている。
 本書は建国後750年あたりの時代で、主人公ヴァニエルは後の時代の作品で「伝説の魔法使徒」として言及される形で登場しているらしい。現在10作品ほどが日本語訳されているので、その読者は本書の発行によって「あのヴァニエルの少年時代」を楽しめる趣向となっているわけだ。

 どうらや海外には大人向けのファンタジー作品の豊かな鉱脈があるようだ(本書は色々な意味で「大人向け」だ)。今回はその鉱脈の1つに行き当たったような感触がある。しかし、日本語訳されている作品は、その多くが上下二分冊ですでに10作を超える。未邦訳作品はその倍以上ある。この鉱脈は奥が深い、さてどうするか?

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「魔法の使徒(上)(下)」 固定URL | 1.ファンタジー, 1Z.その他ファンタジー | コメント (4) | トラックバック (1)

2009年12月16日 (水)

やればできる まわりの人と夢をかなえあう4つの力

著  者:勝間和代
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2009年12月3日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者が、香山リカさんの「しがみつかない生き方」の第10章「<勝間和代>を目指さない」への反論書と自ら言っている本。「しがみつかない生き方」のレビューは8月に掲載した記事にも関わらず、現在もこのブログの人気記事ランキングの第1位であり続けている。Googleで「しがみつかない生き方」や「しがみつかない」と検索すると、けっこう上位にリストアップされるので、そこを経由して来られる方がたくさんいらっしゃるためだ。

 本書の発行の前に、アエラ10月12日号に「勝間和代×香山リカ 激論2時間」という6ページの記事が掲載された。ドクロマークのジャケットを着た香山リカさんが勝間和代さんに執拗に絡む、といった図式の記事。まぁ香山さんがヒール役を演じて絡んだにも関わらず、議論はあまりかみ合っていない。
 ただ、香山さんが「<勝間和代>は成功者のアイコンとしてカッコ付きで使った」と言い、そのアイコンと勝間さん本人とは違う、という点は両者の共通認識になった。その他のことは勝間さんの冷静な受け応えが目立って、ヒール役の不利もあって香山さんには分が悪い展開だった。(アエラはここからデジタル雑誌で購入可能です)

 さて本書である。表裏の両表紙とプロローグとエピローグに「しがみつかない生き方」への答(反論書)と書く念の入れようだ。それにも関わらず、本書には「しがみつかない生き方」への答も反論も載っていない。そもそも「~目指さない」の答が「やればできる」では、ねじれの位置にある2つの直線のように交わるところがない。
 だからと言って、ただの売るためのコピーかと言うとそうではない。著者は香山さんやその著書にではなく、「しがみつかない生き方」の読者と世間に対して、反対の作用を及ぼすメッセージを発しているのだ。著者は「努力してもムダかも?今のままでもそこそこ幸せだし」という雰囲気が漂って、社会が努力を止めて停滞することを懸念している。そうならないように「いえいえ努力すればいいことあるって」という意味で「やればできる」とハッパをかけているわけだ。つまり社会に「ガンバリの天秤」があるとして、「そんなにガンバラなくてもそこそこ幸せなんじゃないの?」と「ガンバラない」方に少し傾いたので、「ガンバる」方にオモリを置いた、という感じだ。

 肝心の中身は、分かりやすさを念頭に丁寧にかみ砕いた文章を誠実に綴ったものだ。「しなやか力」「したたか力」「へんか力」「とんがり力」という、著者が創造した4つの力を表す言葉を紹介し、これを順に身に付けていきましょう、それぞれのステップはこうです、と実に丁寧に書かれている。
 また、巷にあふれる自己啓発書の多くのように「○○さえやれば」という特効薬はなく、4つの力を完成させるプロセスは「早くても数年、遅いと10年はかかる」と言うあたりは、誠実さの表れだ。「全員ができるとも言いません。」と言うのも至極当然のことだ。

 この「誠実さ」が、カッコ良さや分かりやすさや親しみ易さ(Twitterのつぶやきに見られるような)以上に、著者の人気の秘密なのだと思う。しかし罪深くもある。もちろん、これは著者の責に帰すべきことではなく、言いがかりに近いのだけれども。
 10年ガンバって思うような結果が得られない人はどうなるのか?著者が誠実なだけに「あの本のようにはいかないもんだ」とは思わず、「私の努力が足りない」と思ってしまうかもしれない。最後の方で「成果があがってない人は、それなりのやり方しかしていないのです。」とも書かれている。10年もガンバったのに..私のは「それなりのやり方」だったのか..

 香山さんの「<勝間和代>を目指さない」は、こういった形で心の病を抱えてしまう人が実際にいることを懸念して訴えているのだ。さて、こうした人は割合にするとどのくらいだろうか?おそらくごく僅かだろうが、香山さんはそこにも「生きた人がいる」ことに注目する。
 しかし「断る力」のレビューで書いたように、「リターン・マキシマイズ」を身上とする著者は、これをおそらく「取るべきリスク」と捉えるだろう。100%うまく行く方法などないし、うまく行く人がそれ以上にいて社会が活性化すれば問題なしだ。「うまく行かない人」の捉え方も重みも違う。だから議論は交わらないのだ。

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2009年12月14日 (月)

崖の国物語10 滅びざる者たち

著  者:ポールスチュワート 訳:唐沢則幸
出版社:ポプラ社
出版日:2009年9月第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「崖の国物語」堂々の完結編!。9巻目の「大飛空船団の壊滅」のレビューにも書いたが、このシリーズは、世代が違う血のつながったクウィント、トウィッグ、ルークの3人の若い頃の物語が、順序を変えながら綴られてきた。それぞれを主人公にして3巻づつで、バランスとしては9巻目が最終巻と思われたが10巻目の本書が出た。これが本当の最終巻。3人の物語には発展があるのか?

 時代はなんと、ルークの時代から約300年後。クウィント、トウィッグ、ルークの3人はそれぞれ空賊や槍騎兵として、伝説上の人物になっていた。そして今回の主人公は、鉱山で点灯夫という仕事をしているネイトという若者。彼と伝説の3人の関係は分かっていない。ただ父から遺されたメダルに描かれた空賊の肖像画には、何か意味があるらしい。
 そして、ネイトが鉱山を追われた後、ヒロインのユードキシアら数々の出会いと危機を経て運命に導かれるストーリーを中心に、複数の物語が並行して進められる。一見して無関係意のそれぞれの物語が、ネイトのメインストーリーに次々と縒り合わされていく。この辺りの手法は見事だ。

 このシリーズの特長とさえ言えるのだけれど、本が厚い。本書は101章、860ページ超もある。これが苦もなく読み切れるのだから、いかに物語に牽引力があるかが分かるだろう。スピード感と起伏に富んだストーリーが楽しめる。
 前9巻の内容を上手にすくい取ったという意味では、よくできた「完結編」だ。よくできてはいるけれど、壮大な物語をまとめるにはちょっと力不足だったかも。しかし、そんなこととは別に構わない、ネイトの物語が充分に面白い。ネイトとユードキシアという魅力的なキャラクターの物語はまだ始まったばかりだ。「これが本当に最終巻」という言葉は保証の限りではない。

 とは言え、現在のところ公式には最終巻ということなので...
 この「崖の国」シリーズは、ファンタジーが好きな方にはオススメ。魔法は出てこないけれど、とても面白い冒険活劇的異世界ファンタジーの傑作。ただし、私の感想では第1巻がちょっと退屈でいただけない。2巻でグンと良くなり3巻4巻5巻...と巻を重ねるごとに面白くなる。7巻は最高傑作だと思う(8巻以降がダメという意味ではない。念のため)。だから、このシリーズを読もうと思った方は、是非少なくとも2巻までは読んで欲しい。

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2009年12月 9日 (水)

「おバカ教育」の構造

著  者:阿吽正望
出版社:日新報道
出版日:2009年7月30日 発行
評  価:☆☆(説明)

 以前にいただいたコメントで紹介いただいたので読んでみた。著者は、元公立小中学校教員。「おわりに」に「長い教員生活で..」とあるので、まぁ少なくとも20年ぐらいは先生をされていたのだろう。現場で感じたこの国の学校教育の実態への怒りと危機感が伝わってくる。

 極めてストレートな主張が書かれている。文科省の官僚のデタラメな教育改革と法律による規制が、学校の機能不全をもたらし、「子どもを教育しない(できない)学校」にしてしまった。対策は徹底した教育の自由化。具体的には「学習指導要領」「教員免許制度」「受験競争」の廃止。
 あまりに突飛な意見だと思われるかもしれないが、OECDのPISA(学習到達度調査)でトップの成績を修めたフィンランドの教育制度などを引いて、この意見に至っている。フィンランドの教育ではテストを行わず、受験勉強もなく、教員の免許更新制度も評価制度も、教科書検定制度もないのだそうだ。

 私としては、4割は共感する、6割は共感できない、という感じだ。著者も「半信半疑の方が多いはずです。」と書かれているが、四信六疑?というところか。共感するのは、今の日本の教育の現状が危機的な状況であり、それは個々の先生や親にだけ起因する問題ではなく、教育システムに構造的な問題がある、とするところ。そして、「国任せ」「官僚任せ」でなく、自分たちで監視しよう、というところ。
 共感できないのは、その分析と対策について。例えば、官僚が自分たちの利益や天下り先の確保のために、教育を崩壊させるような制度法律を作っている、という主張は言い過ぎだ。ましてや「優秀な日本国民を「愚民」にする外国政府の謀略説」はいただけない。わずか2ページに過ぎないがこの話は書かない方が良かった。ジョークなのであれば、そうハッキリと書いておいて欲しい。
 逆に対策の「教育の自由化」については、言葉が足りなさ過ぎる。今の問題の原因の一つに、規制でがんじがらめになった学校の硬直化があると私も思う。しかし、その規制を全廃すればすべては上手く行く、かとでも言うような著者の主張はあまりに楽観的かつ無責任だ。

 怒りのあまりなのか、インパクト狙いなのか、極端なもの言いが目立つのも気になった。教育改革のことを「愚民化政策」「教育破壊工作」、学校のことを「落ちこぼれ製造工場」と言ってみたり、「能力の高い生徒でも、最低限の学力すら身に付きません」「教員の評判を得た教科書は、これまで一点もありません」と100%の断言をしたり。
 アジ演説ではないのだから、文章によって誰かに何かを訴えたいのなら、冷静に正確にならなければ信頼を失うと思う。こうしたことが私に合わないと思ったし、共感できない部分が多かったので☆2つとした。

---追記---

 ネット上に、コピーしたかのようにほぼ同じ内容の本書についてのコメントを数多く見かけます。本書を多くの人に手に取ってもらいたい、との熱意の表れだと推察します。お一人の方なのか複数いらっしゃるのか、著者や出版社と関係があるのか、全く分かりませんが、お止めになった方がいいと思います。同じ文面がたくさん発見されれば、そのコメントの誠実さが疑われ、推薦しようとする意図と逆の結果を招いてしまいます。

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2009年12月 7日 (月)

フラット化する世界 増補改訂版(上)(下)

著  者:トーマス・フリードマン 訳:伏見威蕃
出版社:日本経済新聞出版社
出版日:2008年1月18日 1版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は2006年5月に出版され「フラット化する世界」の増補改訂版。2007年8月に米国で出版された、The World Is Flat: A Brief History of the Twenty-first Centuryの、Further Updated and Expanded: Release 3.0版の日本語訳。日本の書籍ではあまり見ないが、Release3.0とある通り、改訂と新しい内容の追加を2回も行ったものだ。

 「世界がフラット化する」とは、本書から例を引くと「アメリカの銀行のコンピュータ運用をインドの会社が請負い、その会社がインドの夜間時間帯はウルグアイの会社に業務委託している」とか、「アメリカの会社が韓国の機械を輸入し、自社の装置を取り付けてクエートに輸出するためのアラビア語のパンフレットを、ネイティブアメリカンの会社が印刷している」という状況を表している。
 様々な業務は細分化され、最適な業務を最小のコストで実施できところで行う。インドのIT企業のCEOの言葉を借りれば「競技場はいまや均されている」。従来は国境の壁、政治体制の壁、習慣の壁などによって、見通しがきかなかったビジネスのフィールドが、平らに均されて何処からでも見えるし、走っていけばゲームに参加することができる、というわけだ。

 こうした状況は良い面と悪い面があり、しかも複雑に入り組んでいる。インドの会社にアウトソースしたアメリカの企業は、従来と同じ業務を何分の一かのコストで行える。その企業の顧客も低コストで商品を買える。消費者たる一般市民にとってもありがたいことだ。しかし同時に労働者たる一般市民としては、仕事をインドに奪われることになるのだから。
 さらに事は安全保障にまで及ぶ。このようなグローバルな枠組みに入った国では、小規模な紛争を除けば戦争への抑止力が働くという。逆の面もある。テロリストたちは、その連絡手段として、資金や支援者・新兵の獲得手段として、そしてプロパガンダとして、インターネットを実に巧みに利用する。

 それでは国家や企業や個人はどうしたらいいのか?正直に言って手詰まりの感があるが、著者はページを割いて言及していることは、技術・能力を身に付けることに尽きる。詳細は本書に譲るが、個人は「雇用される能力」を付ける、国家と企業はそれを手伝う、それには社会保障と教育の二本柱が必要、ということだ。
 著者が言うには、アメリカでも科学者や技術者が不足しているそうだ。優秀な学生の多くは投資銀行を目指してしまうらしい。そして将来のために子どもたちの数学や科学の基礎学力を高めなければならないと言う(どこかの国でも聞いたことがある)。それなのに、2005年に全米科学財団の予算を1億ドルも削減してしまった、と嘆く(あれ?これもどこかの国で似たような話が...)

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2009年12月 2日 (水)

田村はまだか

著  者:朝倉かすみ
出版社:光文社
出版日:2008年2月25日 初版1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」で知り合いの何人かのブログで見て読んでみようと思った本。(るるる☆さんジーナフウガさん板栗香さん
 クラス会の話である。40才の大人たちの小学校のクラス会。場末のスナックでの3次会まで流れてきた男3人女2人。冒頭に流れてきた音楽は「夜空ノムコウ」。「あのころの未来に、ぼくらは立っているのかなぁ」。物語を読む前に泣けてきた。

 本書は「小説宝石」に2006年から2007年にかけて掲載された短編を6つ収録した連作短編集だ。「田村」はスナックにいる5人には入っていない。タイトルのとおり、この5人は「田村はまだか」と言って彼を待っているのだ。待っている間に5人+αのそれぞれの人生の1コマが、小学校時代のエピソードを織り交ぜながら順々に語られていく。
 中にはあまりに赤裸々な表現の話もあるのだけれど、5人自身の人生はどちらかと言うと平凡なものと言える。「六年一組が沸き返った」という小学校時代の出来事が一番の事件かもしれない。登場人物の1人が「紙吹雪が見えた」と言ったそうだけれど、読んでいる私にも見えたような気がする。紙吹雪が。
 しかし、大きな事件とは言えないけれど、語られるその1コマはそれぞれの「今」につながる凝縮した1コマだ。その1コマの紹介で、40才になった彼らの今の立場や悩みが鮮やかに伝わってくる。この著者は人物造形や物語の組み立てがうまい。

 私は彼らよりいくらか年上で、高校卒業後に実家出て何度も引っ越しをしていることもあり、もう小学校はおろか中学校時代の友達との交流もない。かろうじて高校の同窓会の音信が聞こえてくる程度、大学時代の友達とも何年も会っていない。もし今、会ったらどんな話をするのだろう?
 12月になり年賀状を書く時期になった。私の年賀状の大半は、恩師や大学時代の友達、以前の会社の同僚や先輩など、自分を過去とつなぎ止める人たちに宛てたものだ。そんなことを思いながら、るるる☆さんオススメの、作曲者の川村結花さんの「夜空ノムコウ」を聞いたらまた泣けてきた。

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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「田村はまだか」 固定URL | 2.小説 | コメント (8) | トラックバック (3)

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