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2009年11月

2009年11月29日 (日)

イトウの恋

著  者:中島京子
出版社:講談社
出版日:2005年3月5日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 この著者の本を読むのは初めて。本好きのためのSNS「本カフェ」で友達になった方が「最近、気になってる」んだそうで、記念にと思って図書館の棚から1冊取って読んでみた。たった1冊しか読んでないのだけれど、この著者の本は私とは相性がいいらしい。するすると読めてそして楽しめた。

 タイトルの「イトウ」とは、明治時代の通訳ガイド、伊藤亀吉のこと。彼が英国人の女性探検家の「I・B」のガイドとして、横浜から出発して函館に至りそこから北海道を旅する間を、後年になって本人が残した回想の形でたどる。
 現代の交通の便利な旅でも遠くに2人で出かければ、良くも悪くも特別な情が湧く。まして明治時代の殆どが徒歩という3ヶ月の旅は険しく、頼れるものはお互いだけ。苦難を共に乗り越えるうちに湧いた情を、タイトルのように「恋」と呼ぶのが正しいのか、年上の女性に対する「憧憬」と呼ぶべきなのか分からない。しかし、二十歳の青年イトウの心に「I・B」に対する抗し難い情を刻んだ。

 この回想をイトウは人に宛てた書簡の形で残した。このイトウの物語が、淡々とした記述が逆に情感を醸していて気持ちいい。そして、この書簡を読んでいるのは100年後のイトウの孫娘の娘。そこにもそこはかとない恋の予感?と母にまつわる物語が。現代と過去を結んで並行して物語が進むこの形式は、もう珍しくはないかもしれないが、なかなかの技巧だ。

 本書はフィクションだけれど、イザベラ・バードという英国人の女性探検家が実在し、伊藤鶴吉という通訳の青年を同道して東京から北海道まで旅した史実があるそうだ。そのことは「日本奥地紀行 」(原題:Unbeaten Tracks in Japan)という本として出版されている。機会があれば読んでみたい。

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2009年11月25日 (水)

オデュッセウスの冒険 サトクリフ・オリジナル5

著  者:ローズマリ・サトクリフ 訳:山本史郎
出版社:原書房
出版日:2001年10月10日 第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者が伝説や神話の再話を試みた作品群、サトクリフ・オリジナルの第5弾。第4弾の「トロイアの黒い船団」の「イーリアス」に続いて、ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」を基にしたもの。「イーリアス」が描いたギリシアとトロイアの間の戦いの後、ギリシアの勇将イタケの王オデュッセウスが故郷を目指す冒険が描かれている。

 「故郷を目指す冒険」?伝説だから確かなことは言えないけれど、小アジア半島のエーゲ海沿岸にあったとされるトロイアから、オデュッセウスの故郷イタケ島とされる島までは、ギリシア半島を回って距離およそ1000キロ。遠いようでも船で数日の距離。冒険と呼ぶには近すぎる。
 ところが、トロイアを発った船団は風に恵まれず、いきなり正反対の方向のエーゲ海の北「トラキア」に流れ着いてしまう。その後も神々や巨人族、魔女、そして手下らの軽率な行いに翻弄されて、実に故郷イタケ島の土を踏むまで19年もの歳月がかかってしまう。

 まぁ次から次へと災難に会いその度に部下たちを失いながら、その都度の判断によって危機を逃れる。現代の小説のような捻りや伏線などはないけれど、その物語は正に英雄譚。屈託なく楽しめた。
 実は、故郷へ帰るまでの冒険は本書の前半分。後半は、帰り着いた故郷での物語。余りに長い王の留守の間に、不作法な貴族たちに好き放題にされていた宮殿の大掃除だ。冒険もいいけれど、こっちの方が面白かった。

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2009年11月22日 (日)

ツイッター 140文字が世界を変える

著  者:コグレマサト いしたにまさき
出版社:毎日コミュニケーションズ
出版日:2009年10月20日 初版第1刷 2009年11月5日 初版第3刷 
評  価:☆☆☆(説明)

 R+(レビュープラス)様にて献本いただきました。感謝。

 本書は「ツイッター(Twitter)」をまだ使っていない人に紹介する本。ツイッターとは、ユーザーがネットに140文字以内の「つぶやき」を投稿、それを別のユーザーが閲覧することで、コミュニケーションが発生するサービス。今年9月の利用者は国内で257万人、世界では5840万人もいる。

 そのツイッターの日本での歴史から始まって、「ツイッターとは?」「~を楽しむためには?」などを章ごとに説明する本書は、正にツイッターのガイドブック。特に、勝間和代さんや広瀬香美さんら著名人が演じた出来事を活写した部分は秀逸。読者はこんな場面に自分もぜひ遭遇したい、と思うに違いない。
 ただ、著者も「一度経験して分かってしまえばすごく簡単なサービス」「経験のない人に説明するのがこれほど難しいサービスも珍しい」と書いているように、どんなに親切に上手に説明したとしても、読者がツイッターの魅力を感じるのは難しい。一言で言ってしまえば「やってみた方がいい」ということだ。

 実は、私もやってみたことがある。勝間さんらが使い始めたことを知って登録したのだ。すぐに「さてこれからどうするか」とつぶやいたのだけれど、その後には沈黙と寂しさが..。本書には「月面に一人着陸したような孤独感」という表現があるが、周囲は盛り上がっているので「雑踏の中の孤独」に近い。
 何の手引きもなしに飛び込むと私のようにひとりぼっちにされてしまう。手を引いて教えてくれる人がいればいいのだけれど、そういう人がいないのなら本書の第3章「ツイッターを楽しむためには?」を読もう。少なくとも「これからどうするか」はそれで分かる。その先には面白い世界が待っているはずだ。

 140文字ぐらいでは大したことは言えない、と思う方もいるだろう。しかしそうでもない。実は、この記事は最初の1行と英文以外の段落が全部140文字でできている(お時間のある方は数えてみてほしい)。「つぶやき」と呼ぶにはかなり長い。ある程度まとまった情報を伝えることができる量だと思う。
 本書にも書いてあるが、日本語は英語より140文字で伝えられる情報量が多いようだ。戯れにこの記事の一段落を英訳したら(下の英文。文法には自信なし)282文字もある。だからツイッターは日本では情報ツールとして独自に発展する可能性がある。本書タイトルどおり「世界を変える」かもしれない。

 This book introduces “Twitter” to who haven’t used it yet. Twitter is the service that makes communications by that one user posts “tweet” up to 140 characters to the net and the other see it. There are 2.57 million visitors in Japan and 58.4 million in the world in this September.

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2009年11月19日 (木)

COURRiER Japon(クーリエ・ジャポン)12月号に載りました

結果発表の画像  「クーリエ・ジャポン レビューコンテストで「副編集長賞」をいただきました。」という記事でお知らせした入賞特典の1つに、「クーリエ・ジャポン本誌面上にブログ情報を掲載」というのがありましたが、現在発売中の12月号に載っていました。
 右の写真がそれです。裏表紙から2つ目の見開きに載っていました。見ての通り定期購読のキャンペーン広告のページです。ブロガーレビューコンテスト結果発表!、という見出しの下に「☆副編集長賞 YO-SHI様「本読みな暮らし」」と書かれています。

 正直に言うと..「うれしい」という気持ちと、「これだけ?」という気持ちが半々です。名前を載せてもらうだけでもスゴイことだとは分かっています。わがままを言える立場ではないことも..。
 でも、このコンテストはこれから何回か続く予定なので、受賞者の正直な気持ちは表明しておいた方がいいと思うのです。今後の受賞者が私と同じ気持ちになったら、受賞者もせっかく掲載した編集部さんもお互いに不幸ですから。私のことはもう良いので、できることならこれから変えることを検討していただきたいのです。

 それで私としてはどんなものを期待していたかと言うと、受賞者全員分で1段ぐらい使って(1ページは5段組になってます)、コンテストの概要と、受賞者名/ブログ名/ブログのURL、それと選評ぐらい載せてもらえるかなぁ、と漠然とですが思っていました。選評と言っても「結果発表のホームページ」に載せていただいた50文字程度のもので充分です。期待しすぎなんでしょうか?

 (取って付けたようになりますが)この度は、本誌に載せていただいてありがとうございました。「ありがたい」という気持ちには偽りはありません。念のため。

 
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2009年11月18日 (水)

六番目の小夜子

著  者:恩田陸
出版社:新潮社
出版日:1998年8月20日 発行 2000年3月5日 7刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者のデビュー作。1992年に新潮文庫ファンタジーノベル・シリーズの1冊として刊行されたものを、1998年に単行本として再刊された。著者について私の周囲には、絶大な賛辞を送る人がいる一方で、「どうしても受け入れられない」という人もいる。私は基本的には好きな作家さんなのだけれど、鏡の多面体のそれぞれの面を見るように、作品によって全く違うテイストを受け取ることになって、戸惑ってもいる。

 舞台は地方の進学校。主な登場人物たちはそこの高校3年生の男女。その学校には秘された行事がある。3年に一度生徒の中から「サヨコ」と呼ばれる者が選ばれる。選ばれた生徒は他の生徒に気付かれることなく、様々なことをしなくてはならない。そこに「沙世子」という名の美少女が転校してきて...。
 「サヨコ」がすること自体は、多少大変だろうけれどまぁ他愛のないことだ。しかし、15年に亘る過去5人の「サヨコ」は伝説化し、その中には怪談めいたものもある。タイトルの通り今年の「サヨコ」は6人目なのだ。当然、誰が「サヨコ」なのか、というミステリーに読者の関心が向かう。

 しかし本書は、そんな読者の関心などお構いなしにドンドンと多方向に発展する。これは、ミステリーなのかホラーなのか青春小説なのか、「多面体」のようなその後の作品群が垣間見えるような作品だった。何もキッチリと分類できなくてはダメだというのではない。しかし、読んでいてどこに連れて行かれるのか分からないので不安になった。
 特に、唐突にゾクゾクするほど怖いシーンに出会うのが何より不安になる。お化けも悪魔も出てこないのだけれど、予感だけですごく怖い。異様にテンションが張り詰めるそんなシーンが要所にあるのだ。

 このようにホラーの傾向はあるものの、私は全体としては高校生の青春小説の色合いを強く感じた。その意味では読後感は悪くないし、私は好きだ。ただこのモザイクのような物語はちょっとした衝撃だ。肌に合えばこの上なく魅力的だし、何かを掛け違えれば受け入れ難いものになってしまう。合うか否かはギャンブルかもしれない。

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2009年11月15日 (日)

モノレールねこ

著  者:加納朋子
出版社:文藝春秋
出版日:2006年11月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 やさしい雰囲気の中で、ちょっと不思議で時に切ない話を書く著者。本書は文芸誌などの様々な媒体に書かれた短編を8編収めた短篇集。著者の作品で「ななつのこ」や「レイン・レインボウ」、「ささらさや」などは、短編同士にもつながりがある「連作短篇集」だが、本書は(ちょっと残念だが)それぞれが完全に独立した物語。

 いろいろな加納作品が楽しめる、という意味ではおトクな本。不思議系の「パズルの中の犬」と「シンデレラのお城」。どうしようもなくダメな肉親を描いた「マイ・フーリッシュ・アンクル」と「ポトスの樹」。ほろっとさせる「いい話」系の「セイムタイム・ネクストイヤー」「ちょうちょう」、さらにそこに笑いを振りかけた「バルタン最後の日」。そしてオチが巧みな表題作「モノレールねこ」
 「各種取り揃えました」という感じの短篇集だけれど、多くの収録作品に通じるテーマは「家族」。それは「家族を欠いた」ことで始まる物語であったり、「家族の過去」に触れる出来事であったり、「偽りの家族」の物語であったりする。

 一番好きな作品を1編だけ紹介する。それは「バルタン最後の日」。ディズニーランドに行くと、しばらくは粗食を覚悟せねばならないという、慎ましい暮らしをしている家族。その家の少年フータが釣ってきたザリガニの「バルタン」が主人公。
 悪意はないのだがザリガニの飼い方を知らない家族。「バルタン」は家族の不注意による生命の危機を幾度も乗り越える。そして、家族はなぜか「バルタン」にだけ思いを吐露する。みんな何かを心に抱えている。家族を想うあまりそれが言えないなんて..。「バルタン」もいいヤツなんだけれど、私は「お母さん」に泣けた。

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2009年11月14日 (土)

「事業仕分け」の中継を見て思うこと。

 本のことしか書かないことにしているこのブログですが、今日は違うテーマのことを書きます。私の思いを一番たくさんの方に知ってもらえる場がこのブログなので。本の話題を読みに来られた読者の皆さんには申し訳ないです。
 今日書きたいことは、連日報道されている「事業仕分け」のこと。その様子を中継で見ていると、気分が落ち込みます。「来年度の予算を何とかして縮減しよう」という目的の作業だから仕方ないのだけれど、何かを止める話ばかりで...

 例えば、ニュースで「仕分け人があきれる」と報道された「携帯メールで就職相談」、正式には「キャリア・コンサルティングによるメール相談事業」は「廃止」となりました。1日50件のメール相談に32人で対応する人件費が1億円だそうです。
 相談員1人当たりでは、1日2件弱のメール相談に対応するのに年間312万円という計算。これはトンデモナイ。と多くの人が思ったようで、事業仕分け会場も失笑が響き、仕分け人も笑いながら質問するありさまでした。
 ムダな予算が無くなって良かった、と一見何の問題もないようですが、私はここには落とし穴があるように思うのです。なぜ「廃止」なのか。件数が費用に見合わないことが問題であれば見合うようすればいいのであって「廃止」が対策ではないはずです。
 1億円が高いのであればいくらならいいのか?1日50件が少ないのであれば何件ならいいのか?そういう議論をすべきです。(仕分け人から「1人1日100件」なんて発言はありました。でも、これは思慮が足りなさすぎる。1日8時間として1件の相談に5分弱。そんなおざなりな相談業務がいいとは思えません。)

 もちろんこの事業が無意味なのものなら「廃止」すればいいです。しかし初年度の昨年度実績で11,960人が利用して9割が「満足」と答えている事業です(どのような調査、統計かは不明ですが)。そして今年度は目標15,000人以上で、実績は前年より利用者が大幅に増える見込みだそうです。来年度はさらに..ということでしょう。
 こうなると無意味とは言えない。来年度にこの事業がなくなれば、相談できるはずだった15,000人超の人はどうなるのかという問題も出てくる。その人の立場になって考えると、笑いながら「廃止」と決める仕分け人に怒りさえ感じます。
 300百万人以上いる失業者の内の1.5万人は、0.5%以下かもしれないけれど、人を「割合」で見てしまうのは現場から遊離した「お上」的視点です。目の前の一人一人の問題解決の積み重ねでしか、300万人を救う道はない、という思考が必要だと思います。
 そして、司会者は「民間やハローワーク、厚労省の職員が業務の間にやったらどうか?」なんておっしゃってましたが、これは無責任だと思います。元市長の仕分け人は「若者を支えて、カウンセリングをして支えている人たちが、どんな費用でどれだけ頑張っているか、現場に行ってくださいよ!」と憮然としておられました。厚労省の能天気さに苛立つ気持ちは分かりますが、この事業を廃止するとそういった現場の皆さんの負担が増えてしまうはずです。

 実は私は以前から「費用対効果」という言葉を予算削減の目的で使うことには懐疑的です。もちろん官僚や自治体のお金の使い方に「費用対効果」の考えが乏しかったのは確かでしょう。その点は改める必要があります。
 しかし、この指標は分母となる「費用」はゼロに近いほどいい。「効果」を増やす着眼点を持たないで、予算(つまり費用)削減という目的が前提となれば、最も効果が費用を上回る1事業だけを残して他は全部止め、という時にこの指標は極大値となり、予算削減の目的とも合致します。
 つまり「費用対効果」を絶対視して政策決定を推し進めれば、最小限のことしかしない「小さな政府」が生まれます。これを進めた小泉政権の政策の反省から生まれたはずの現政権が、さらに小さな政府を指向しているとは思えないのですが、そうなる危険が大きい。
 私が感じた「落とし穴」は、言い換えれば、このように大方の思いとは正反対の方向で物事が進んでいるのにそう気が付かないでいるのではないか?という心配です。皆さんはどう思われますか?

※(2009.11.18追記)11月17日から、この記事への検索エンジン経由でないアクセスが急増しています。どこかでリンクが紹介されているのでしょうか?心当たりのある方は、コメントかメールでお知らせいただけるとうれしいです。

 
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2009年11月11日 (水)

いさましいちびの駆け出し魔法使い

著  者:ダイアン・デュエイン 訳:田村美佐子
出版社:東京創元社
出版日:2009年9月25日初版
評  価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 「駆け出し魔法使い」シリーズ第3弾。第1巻の 「駆け出し魔法使いとはじまりの本」のレビューで、「これはあり得ないでしょ」という場面があるけれどあまり深く気にしないようにした、と書いた。それは、第2巻「駆け出し魔法使いと海の呪文」はもちろん、本書でもそうだ。前作で深海に行った魔法使いたちは、今回は遠くへと飛び出してしまう。

 登場人物は前作までと同じだが、今回の主人公はデリーン。前作までの主人公の1人ニータの妹だ。デリーンは前作で、姉のニータと友達のキットが魔法使いだという証拠をつかんだ。しかし「全部話してもらうからね」と言い置いただけで、深くは追求せずに2人に協力したのだ。仮病を使って両親の気を引いたりして。
 そう、デリーンは前作ですでに、主人公の姉を凌ぐ人気キャラクターになっていた。生意気だけれど正義感があり頭もいい少女。詳しくは第2巻を読んで欲しいが、上に書いた仮病だってまだ11才とはとても思えない周到さなのだ。そして、本書では彼女がスゴ腕のハッカーであることも判明する。恐るべしだ。

 ストーリーは、ニータの「魔法の指南書」を見て「誓約」を立ててしまったデリーンが、魔法使いになるための「最初の試練」を描く。スターウォーズの熱狂的なファンで、ライトセイバーでダースベイダーと戦うことが夢、という彼女の「最初の試練」の場は「宇宙」。
 それも地球からの観測限界である「事象の地平線」をはるかに越える遠い宇宙。そこで「力ある者たち」との遭遇と戦いが展開される。宇宙空間やターミナルの描写が、とても活き活きしている。著者はあの「スター・トレック」シリーズの著作も手がけているそうだ。なるほど。

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2009年11月 8日 (日)

キャットと魔法の卵 大魔法使いクレストマンシー

著  者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:田中薫子
出版社:徳間書店
出版日:2009年8月31日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 大魔法使いクレストマンシーシリーズの最新刊。著者の作品は、新作と初期の作品が並行して日本語訳して出版される。初期の作品も面白いのが多いのだが、やっぱり新しい作品は物語の練られ方が違うように思う。
 特にこのクレストマンシーシリーズは、すでに7冊が出版され、魅力的なキャラクターが多く生み出されている。それぞれのキャラクターを奔放に活躍させれば楽しい物語になるわけで、読者としては「あのキャラクターのその後」に再会することができる。

 そして今回の主人公の1人はキャット。シリーズ最初の作品「魔女と暮らせば」で、魔力のある姉と共にクレストマンシー城に引き取られた少年だ。キャットは9つの命を持って生まれた大魔法使いであることが分かり、次期のクレストマンシーとなる。その後、短編には登場したが、長編の主人公になるのは初めて。本書は「魔女と暮らせば」の翌年という設定だ。
 本書のもう一人主人公はマリアン。クレストマンシー城の近くの村に住む、ピンポー家という魔法使いの一族の女の子。物語の半分は彼女を中心に回る。ピンホー家の一族には秘密があり、それが原因となって近隣の一族を巻き込む大騒動へと発展していく。キャットとマリアンは協力して問題の解決に当たるが...という物語。

 キャラクターの話に戻ると、マリアンはもちろん彼女の兄のジョーも新登場のキャラクター。魔法と機械を結びつける才能がある。今回、クレストマンシーのクリストファーの息子ロジャーとの友情も育んだ。またまた魅力的なキャラクターがシリーズに加わったというわけだ。何年か先になるだろうけれど、マリアンとキャットのその後や、ジョーとロジャーの活躍が読めるかもしれないと思うとワクワクする。

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2009年11月 4日 (水)

おとぎ話の忘れ物

著  者:小川洋子/文 樋上公実子/絵 
出版社:ホーム社
出版日:2006年4月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「博士の愛した数式」でしみじみとした情感を描いた小川洋子さんの作品。世界各地の街の駅などにある「忘れ物保管室」、そこには傘や帽子などと一緒に、忘れられた「おとぎ話」も保管されていた。本書は、そんな物語を集めた「忘れ物図書室」の話。

 「忘れ物図書室」は、スワンキャンディーというキャンディ屋の奥にある。キャンディーを舐めながら、世界各地から集めたおとぎ話を読む。なかなか粋な趣向で優雅な気分になれそうだ。

 ところが...。全部で4話ある物語を読んでいくと、そわそわし始めてしまう。優雅にキャンディー、という気分ではなく、「私はこの話を読んでいいのだろうか?」と思ってしまう。

 ここに描かれているのは、思いのほか粗い肌触りの物語だった。「赤ずきん」「アリス」「人魚姫」などをモチーフにした「こうなって欲しくない」物語。でも、心の深淵にある「こうなるんじゃないか」という暗い期待が見透かされたようで、目を離せない。何ともやっかいな本に出会ってしまった。

 この本は、イラストレーターの樋上公実子さんという方が描いた絵がまずあり、それに小川洋子さんが物語を付けたもの。20点あまりある絵はどれも凛とした女性が描れている。美しくたおやかな姿ながら何者にも媚びず侵されず、真正面から見る視線にはしなやかな強さを感じる。この絵の中に小川さんはあの物語を見つけたわけだ。

 実は、樋上さんの絵に文を付けた作品はこれが初めてではない「ヴァニラの記憶 」という本がそれで、こちらは松本侑子さんが詩を付けている。こちらも女性の真っ直ぐすぎるぐらいな視線と本音、そして葛藤が感じられる詩で、男の私はただドキドキしてしまってじっくり読めないぐらいだった(「おじさん」と呼ばれても抵抗がない歳なのに)。この詩も絵から生まれた詩なのだ。物語や詩を内包する。絵はそんなこともできるのだ。

Amazonには新刊の在庫がないようです。オンライン書店bk1にはありました。(2009.11.4現在)

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「おとぎ話の忘れ物」 固定URL | 29.小川洋子, 9.その他 | コメント (5) | トラックバック (0)

2009年11月 3日 (火)

あるキング

著  者:伊坂幸太郎
出版社:徳間書店
出版日:2009年8月31日 第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 「誰も読んだことのないような伝記を書いてみました。」と著者が言うように、まず本書は伝記だ。あるホームランバッターになったプロ野球選手の生涯が綴られている。「誰も読んだことのない」についても、まぁそうだろうと思う。主人公の山田王求の生涯は、何かが少しズレている。

 王求の両親は、熱烈な仙醍キングスのファン。ちなみに仙醍キングスは万年最下位の弱小プロ野球チーム。王求が生まれる時に母は、破水して病院に行った後も、陣痛室に移るその時までテレビで試合を見ていた。そして残る父には「あなたはここで試合の結末を見届けて」と言った。
 そして、生まれてきた子どもに「王(キングス)が求める」という意味で、「王求(おうく)」と名付け、仙醍キングスに入団させるべく王求を育てた。そんな両親の想いが通じたのか、王求は尋常ではない才能と練習によって一流の野球選手に成長していく。

 普通の伝記であれば、細かいエピソードを除けば、これでほとんど全てでネタバレもいいところだ。ところが「誰も読んだことのない」伝記である本書は、生涯を表したストーリーにはそれほどの意味はない。天才野球少年から高校、プロへと進む、生涯の各段階での王求を見る周囲の目線が、物語の核となっている。
 冒頭に「何かが少しズレている」と書いた。王求はズバ抜けて野球が上手いだけなはずなのに、完全に周囲から浮いてしまっている。少しだけ普通じゃない両親や本人の言動の積み重ねと、その結果の野球の才能が、周囲と王求の間に小さなしかし決定的なズレを生じさせているのだ。

 気の利いたセリフや不思議な登場人物、淡々とした主人公など、伊坂作品らしいと言えばそうなのだが、ちょっと雰囲気が違う。陽気で楽しい「白伊坂」と、闇や得体の知れないモノを描く「黒伊坂」がいる、という話を聞いたことがあるけれど、「黒伊坂」がチラチラと顔を出す作品。

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この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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「あるキング」 固定URL | 3.ミステリー, 31.伊坂幸太郎 | コメント (10) | トラックバック (0)

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