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2009年9月 1日 (火)

「スカイ・クロラ」シリーズの謎解きに挑戦(2/3)

 前回、「スカイ・クロラ」シリーズ6編の時系列のまとめを紹介しました。今回はいくつかの謎について私の考察を紹介します。考察に当たって「スカイ・イクリプス」のいくつかの作品は三人称で書かれているので、これらの作品に書かれていることは事実として考えています。また、著者の森博嗣さんの次の言葉を、謎解きの前提としています。

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森さんのブログ「MORI LOG ACADEMY」(※)から

Q 『スカイ・イクリプス』を読んでも、まだ読み解けない読者のために何か少しヒントをいただけないでしょうか。
A 無理に読み解かない方が良いと思います。ヒントとしては、以下のとおり。

  • シリーズ5作では、主人公(一人称)はそれぞれ1名。
  • クローン(特に短時間で人間を再生する)や記憶移植といった非科学的なものはこの世界にはない。
  • 「スカイ・クロラ」から読むから難しく感じるかもしれない。たとえば、草薙瑞季は、水素の娘だと思っている人が多いですが、土岐野がそう言っただけです。このように、何を信じるべきか、ということが重要だと思います。

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雑誌「ダ・ヴィンチ」2008年8月号の森さんのインタビュー記事から

このシリーズのもとになっているのはデヴィッド・リンチ監督の「ロスト・ハイウェイ」なんですよ。

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それでは、1つずつ私の考察を...( )の数字はページ数。

謎1:「クレィドゥ・ザ・スカイ」の「僕」はだれか?

 これは、クサナギスイトだと思います。その理由の1つは、サガラやカイの「僕」に対する態度です。
 例えば、サガラは病院に「僕」を訪ねて、電話番号を渡し注射をします(85)。後になってその注射はキルドレに戻すものであることが分かります(291)。「キルドレに戻る」ことができるのはクサナギしかいません。その他「子供のときを、思い出さない?(122)」や、「今、名前を言ったわ(240)」などのセリフも、それを暗示します。
 カイのセリフ「私は、君が生きていてうれしい(296)」「散香に乗れることを約束する(286)」なども、相手がクサナギだと考えれば自然です。なお、前半でフーコと逃げる場面が、「僕」が女性のクサナギでは不自然な感は否めませんが、「スカイ・アッシュ」でフーコが再会を喜ぶ相手が女性であることを考え合わせれば、受け入れられるかと思います。「主人公はそれぞれ1名」という森さんの言葉もあり、「クレィドゥ・ザ・スカイ」の「僕」は、全編を通してクサナギスイトだと思います。

謎2:では、「クレィドゥ・ザ・スカイ」のエピローグのカンナミは?

 このカンナミは、クサナギが持つ別人格だと思います。「主人公はそれぞれ1名」という森さんの言葉を厳密に捉えてエピローグも含まれると考えます。すると「クレィドゥ~」の「僕」が、クサナギではないカンナミだとすると、サガラやカイの態度が説明できません。
 また、「僕は、あなた以外じゃない(ダウン~248)」など、シリーズの複数の場所にクサナギとカンナミが同一人物であることを暗示する部分があります。「ドール・グローリィ」でミズキがカンナミに言う「お姉さまのために編んだのよ」というセリフ(イクリプス209)は決定的とも言えます。
 さらに、森さんがシリーズのもとになっているとした映画「ロスト・ハイウェイ」は、途中で主人公が入れ替わるのですが、実は「それは1人の人物で、片方はもう片方が作り出した別人格」という内容です。これらを考え合わせれば、いわゆる二重人格あるいは多重人格がストーリーに取り入れられていると考えるのが妥当だと思います。

謎3:では、カンナミは実在しなかったのか?

 カンナミは実在したと思います。「クレィドゥ~」のエピローグ以前にカンナミが登場するのは、「ダウン~」の病院で2回、研修会で2回、夢で2回です。夢はともかく、病院の1回、研修会の1回は、看護婦や他の研修生など他の人間が同時にいます。研修会ではカイから参加者は全員パイロットで17人と伝えられ(ダウン~117)、実際にカンナミを入れて17人いました。(もう1人いましたが、その人はパイロットではありません)
 病院と研修会の残る1回ずつのカンナミは、もしかしたらクサナギの幻覚かもしれません。しかし、その後の展開を見ると、この時はクサナギが妊娠によってキルドレではなくなっている時期です。「他人の人生が自分の中に入り込んでくる」のがキルドレが持つ症状(イクリプス225)だとすれば、キルドレではないこの時期に覚醒時に幻覚を見たとする積極的な理由がありません。クサナギの記憶に残っていたこの出会いが、「クレィドゥ~」のエピローグで別の人格として発現したのではないでしょうか。

謎4:では、クリタはどうなのか?

 
クリタも実在したと思います。クリタが初めて登場するのは、「ナ・バ・テア(180)」です。その後、クサナギやササクラと一緒に転属して、「フラッタ~」の主人公になったようです。「スカイ・クロラ(302)」で、ミツヤが「貴方はクリタさんの生まれ替わり」とカンナミに言うところが謎めいていますが、この話は森さんの「MORI LOG ACADEMY」での答えに反するので、取り上げなくて良いと思います。
 もちろん、「ナ・バ・テア」の栗田と「フラッタ~」のクリタが同一人物である証拠はありません。しかし、「ナ・バ・テア」で登場、「フラッタ~」の主人公となって、その後なんらかの理由から逃走中にクサナギに撃たれる(イクリプス196)、という流れで破たんするところはありません。

謎5:ミズキはクサナギの妹なのか娘なのか?

 ミズキはクサナギの妹だと思います。ミズキが初めて登場するのは「フラッタ~(194)」のクサナギの母の葬儀でです。この時の年齢は分かっていませんが、一人でクリタの前に現れたことから、幼く考えても4~5才にはなっているはずです。
 一方「フラッタ~」でクリタが「草薙水素とは、もうけっこう長い。一年以上彼女と飛んでいる。」と思う場面があります(フラッタ~41)。クサナギの妊娠は「ナ・バ・テア(180)」でクリタがクサナギの基地に転属してきた後の出来事ですから、ミズキが娘だとするには年月が足りません。もちろん、5年だって「一年以上」には違いありませんが、「一年と少し」という意味に取るのが妥当だと思います。
 また、謎4でも触れたように「ナ・バ・テア」の栗田と「フラッタ~」のクリタが同一人物ではないという可能性は残ります。しかし、子どもはティーチャが引き取って育てているはずで、クリタが「フラッタ~(270)」で遭遇していることから、少なくともこの時には現役なので、クサナギが妹として引き取る必然性がありません。また、引き取るためには、ティーチャと連絡を取りあって子どもの養育について話し合う、ということが必要ですが、どちらもそのようなことをするキャラクターではないと思います。そのようなムリを考えるよりは、母が違う妹とする方が良いと思います。

謎6:クサナギとフーコはいつ仲良くなったのか?

 「フラッタ~」と「クレイドゥ」の間の空白の期間だと思います。「クレィドゥ~」の「僕」がクサナギだとすると、フーコはなぜクサナギと逃げているのでしょうか?いつ、そんな間柄になったのでしょうか?その辺りのことは書かれていないため、推察することしかできません。
 クサナギが初めてフーコに会ったのは「ナ・バ・テア(113)」で、路上に寝ているフーコをバイクではねそうになった時と、ティーチャと娼館へ行った時(ナ・バ・テア249)。その後はフーコの口からクサナギの話題が出る(フラッタ~61)、といったことが2人の関係に言及した部分です。このことからは、一緒に逃亡するといった危険を冒すような関係は掴めないのですが、「スカイ・アッシュ」によれば、二人の関係が親密なものであったのは確かなようです。
 問題は「いつ?」ということですが、「フラッタ~」と「クレィドゥ~」の間の空白の期間であれば、充分な時間がある可能性があり、クサナギが非キルドレ化している期間でもあります。その間にクサナギは精神的にも安定し成長して、他人との関係を築くことができた、と考えることができます。

※「MORI LOG ACADEMY」は現在は閉鎖されていますが、森博嗣ファン倶楽部「森ぱふぇ」に寄贈され、会員登録(無料)すれば、閲覧することができます。
URL http://www.pure.cc/~pramm/morifan/index.html

 次回は最終回、「スカイ・クロラ」について少し詳しく考察します。

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コメント

素晴らしい、です。
これしかないような気がします。
本当に素晴らしくてため息ものの謎とき!
息を飲んで読みました。
とにかく、楽しいです。
私も自分なりの謎ときがしたくなりました。
でも、YO-SHIさんみたいには行かないだろうな!
大雑多ぱなので・・・。ははは(笑)

投稿: ジーナフウガ | 2009年9月 1日 (火) 08時43分

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