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2009年9月25日 (金)

沼地のある森を抜けて

著  者:梨木香歩
出版社:新潮社
出版日:2005年8月30日発行 2005年11月5日4刷
評  価:☆☆☆(説明)

 今まで読んだ著者の作品は、時間の流れがゆったりしているというか、私たちとは違う時間と空間というか、とにかく穏やかな感じのする物語だった。現実感が少し薄れた感じと言っても良い。それらに比べると、本書はなぜか心が休まらない居心地の悪さを感じた。
 それは本書が現代の都会を主な舞台としている現実感のせいではない。物語の不思議さ加減で言えば、飛びぬけて不思議な物語なのだ。(「家守綺譚」は妖怪の類が次々に登場する不思議な物語だけれど、100年以上前の日本には居たのではないかと思わせる)何てったって「ぬか床」がうめくのだ。そこから人が出てくるのだ。

 主人公の久美は化学メーカーの研究室で働く独身女性。両親を交通事故で亡くし、兄弟はいない。ある時、二人いる叔母の一人が亡くなり「ぬか床」を受け継いだ。もう一人の叔母の話によると、曾祖父母が故郷の島を出るときにただ一つ持って出てきたもの。その後、代々の女たちが世話をしてきたらしい。
 これがうめくし、人まで出てくる「ぬか床」だ。叔母からは「あなたが引き継ぐしかない」と、家の宿命だと言われたけれど迷惑千万だ。案の定、このぬか床に生活を翻弄されることになる。しかし、これも叔母の言だが久美には「素質がある」らしく、研究者としての知識も助けになって、この不思議をよく理解しようとし始める。

 私が、心が休まらないと感じたのは、ぬか床から人が現れる異様さもあるが、それよりも久美が背負った厄介ごとが憂鬱なものだったせいだ。しかし、久美はしっかりと考えて行動を開始した。物語後半は、久美のルーツに関わるちょっとスケールの大きなドラマに展開する。ちゃんと人の体温が感じられる物語にもなっているところはさすがだ。
 それから、久美の物語に挟み込まれるように、「島」の中で分裂を繰り返す「僕」の物語が綴られる。現実とは思えない暗喩に満ちた物語。まるで村上春樹さんの短編のようだ。この部分は、意欲的な実験作品なのかもしれない。

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コメント

おそるべし梨木香歩ワールド!って思いました。
ぬか床から人ってホラーですよね。
でも、最後でスケールが大きくなって納得できたかな…という結末でした。

私は新井素子を思い出しました。

投稿: たかこ | 2009年9月25日 (金) 17時56分

たかこさん、コメントありがとうございます。

そう、ホラーですよ。この本には、ぬか床から出てくるシーンは
描かれていませんでしたが、テレビや井戸から人が這い出してくる、
ホラー映画のシーンを想像してしまいました。

新井素子さんは読んだことがないのですが、たかこさんのブログに
よると、「グリーン・レクイエム」という作品を思い出された
そうですね。機会があればちょっと読んでみます。
 

投稿: YO-SHI | 2009年9月26日 (土) 12時30分

面白そうですね!!ホラーなんですか??
今度は「ぬか床」ですね!人形ではなく・・。
脈々と受け継がれてきたぬか床が「家」とか
女たちの「ルーツ」を表すわけですね!(と勝手に納得・・(^^;)
梨木さんがいつも描く女の系譜・・繋がりの物語が
好きなんです。

恥ずかしながら、タイトルだけで、これはエッセイと思い込んでました~
読んでみます!

投稿: るるる☆ | 2009年9月26日 (土) 21時39分

るるる☆さん、コメントありがとうございます。

勝手に納得されてますが、スルドイ!さすがです。
何代にもわたる女の系譜、ルーツはぬか床にあり、です。
まぁ「ホラーなんですか?」と聞かれると「ホラーだと思った」
というのが私の答えです。
 

投稿: YO-SHI | 2009年9月27日 (日) 15時29分

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