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2009年7月19日 (日)

魔王

著  者:伊坂幸太郎
出版社:講談社
出版日:2008年9月26日 第2刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「モダンタイムス」から遡ること約50年。本書の初出の2004~2005年とほぼ同年代、つまり現代が舞台。正確に言えば本書が先にあって、「モダンタイムス」がこれに続く作品。この順で読むほうが良いのだろう。私は、読む順番が逆になってしまったけれど、「モダンタイムス」に出てきた登場人物や、その口から語られるエピソードなどが本書に登場していて、これはこれで楽しめた。

 「魔王」と「呼吸」の2編の中編が収められている。2編の間には5年の歳月があって、主人公も違うのだがひと続きの物語になっている。「魔王」の主人公は安藤、システム開発の会社に勤めている。ある日、自分には不思議な能力があることに気が付く。自分が念じた言葉を、誰かに話させることができるのだ。
 時代は不穏な時代だった。景気は回復せず、中東の紛争が長引き、中国との関係はギクシャクし、米国には頭が上がらない。失業率が史上最悪を更新、与党の支持率が低下、そして衆議院が解散、野党に国民の期待が集中する...これはいつのこと?もしかして今?...そんなはずはない、上に書いたように本書の初出は2004年だ。
 しかし、読み進めれば読み進めるほど、現在のことを言っているのではないかと思ってしまう。分かりやすい言葉と「世論」という洪水に乗せられて、国民が一つの方向になびいてしまう。「考えろ」が身上の安藤は、そんな世の中に不安を感じて、衝き動かされるように行動を開始する。

 これは、面白かった。著者の他の作品とは何か違うものを感じた。村上春樹氏の「コミットメント」という言葉が連想される。著者はあとがきで「(政治的な)特定のメッセージを含んでいない」と断ってある。これは、何かのメッセージが読み取れてしまうからこそ、こういった断り書きが必要になったのだろう。「考えろ」。これは、安藤の口から再三発せられるほか、「呼吸」では思わぬ人物が熱を込めて語る言葉だ。
 タイトルの「魔王」はシューベルトの歌曲の名から取られている。薄学な私は知らなかったが、子どもが「魔王がいる」と訴えているのに、父親は気付くことができず「あれは柳の木だ」とか都合の良いように解釈しているうちに、子どもの魂は魔王に連れて行かれて息絶えてしまった、という悲劇だ。

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コメント

YO-SHIさん こんにちは。

私も「モダンタイムス」を読んでから、「魔王」を読みました。でもこれを読んで、より「モダンタイムス」が理解できたと思います。
それにしても、まさしく今の日本とかぶりますよね。恐るべし伊坂さん。

投稿: たかこ | 2009年7月21日 (火) 10時00分

たかこさん、コメントありがとうございました。

実は、2日前にたかこさんのブログで「魔王」の記事を読んで、
「あっ、同じ本読んでる」と思ったんです。

たかこさんも「モダンタイムス」→「魔王」の順ですか。
私も「モダンタイムス」でいうところの「システム」の怖さが
「魔王」を読んで、際立つというか、より理解ができました。
この2つの作品は、やはり両方読むと一層味がありますね。
 

投稿: YO-SHI | 2009年7月21日 (火) 15時05分

わぁ、偶然でしたね o(^o^)o
ほんと、魔王は重要でした。
モダンタイムスの時代は、この魔王の時代があったからこそだったんだ、と思いました。別々でも読めたけど、2冊セットの方が深みがでますね。

投稿: たかこ | 2009年7月24日 (金) 00時00分

こんにちは
魔王とモダンタイムスって
本編と続編という感じじゃなくて
どっちを先に読んでもいい感じの対になってますよね
僕は魔王が先で
1年後くらいにモダンタイムス読んで
魔王を忘れていたんでまた読みました
(いったい何回読むんじゃいw)

投稿: 赤坂王子 | 2009年7月29日 (水) 11時44分

赤坂王子さん、コメントありがとうございます。

そうですね。本編続編ではなくて、一対の鏡のように
片方を通して別の方を見ると、何かの形が見えるような
そんな感じですね。

出版後に時間が経ってから読むと、関連のある物語を
続けて読める、という特典がありますね。
 

投稿: YO-SHI | 2009年7月29日 (水) 16時39分

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受信: 2009年7月21日 (火) 09時48分

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