断る力
著 者:勝間和代
出版社:文藝春秋
出版日:2009年2月20日 第4刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
「勝間本」という言葉があるほど、著者は多くの本を出し、そしてそれが売れているらしい。私は、一人がそんなに多くの(何十冊もの)「意味あるメッセージ」を発せられるものか疑問で、勝間氏とはどんな人なのだろうと訝しく思っていた。
でも、その人の本を読めばその人の考えがある程度わかると考えて、「訝しい」も含めて興味を引いた人の本を読むようにしている。それで、書店の「勝間本」コーナーでタイトルを眺めて、一番目を惹いた本書を手にとって読んだ。
本書から見てとれるものは、強い目的性だ。目的(「スペシャリティになる」というのが1つの目的として提示されている)が達成されるかどうかを追求し、それが行動の判断基準となっている。そして、(1)目標達成のためにはそれに掛ける時間が必要→(2)1日は24時間しかない→(3)無駄なことにかける時間はない→(4)無駄な依頼を「断る力」が必要、という論法が展開されている。
特に異論はないように見えるが、目的達成の過程で「断る」ことによって人間関係が壊れるなどのマイナスがあっても、それはリスクだと割り切って引き受けるべし、と言われると、私のような慎重派は戸惑ってしまう。
途中で「リスク・ミニマイズ」と「リターン・マキシマイズ」という考えの対比が出てくる。「リターン~」例は小泉首相、「リスク~」例は福田首相。小泉さんのように少々嫌われようが熱烈なファンを得る方が正しい、さまざまな弊害が指摘されながら高い経済成長が達成されている、ということだ。
ところで、私は面白いことに気がついた。「断る力」の「力」を"Power"ではなく"Ability"と捉えると見え方が一変する。本書では「断る」ことの効用を説いたり、DV被害を引き合いに出してまで「断らない」ことが招く事態を悲観したりして、その「Power(威力)」を強調している。しかし「断る」ことのマイナスに目が行ってしまうと、私のようにどうしても素直に受け入れられない。
実は著者はこの「断る」ことのマイナスについて、ある程度は避けられないリスクだとしながらも、徒に反感を買わないように、とも言っている。そのために「よりよい代替案を提案する」「自分の軸をしっかり持つ」なども提示されている。「断る」こと以上に、こういった断るための「Ability(能力)」を身に付けることが重要なのだ、と思えばどうだろう。
さらにその目的は、この力を身に付ければ、自分の行動やもっと言えば人生を、自分でコントロールできることだ。もはや「断る」に重点はないので、そのマイナス面の「人間関係を壊す」ことは大きな争点ではなくなる。これなら私も素直に受け入れられる。もっとも、こんな内容にしてしまうと本の企画としては失敗だ。凡庸な自己啓発本と変わらず、「断る」という言葉の持つ強さも活かされない。悩ましいが、本書の内容のほうが「リターン・マキシマイズ」だ。
著者のことを「訝しい」と思ったことから本書を手に取ったわけだが、読み終わってその気持ちはほとんどなくなった。著者は「リターン・マキシマイズ」な生き方を身上にしている。それが万人にとって最上の生き方ではないと思う。しかし語られていることは自分の体験から導かれたものでウソはない。その意味では信用していいのだと思う。
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