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2009年6月 5日 (金)

1Q84 BOOK1、BOOK2

著  者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2009年5月30日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 出版社によると、発売1週間後の昨日(6月4日)現在の発行部数が、BOOK1が51万、BOOK2は45万だそうだ。敢えて指摘するまでもなく空前の売れ行きだ。出版界のみならず経済全体の景気が悪くて社会が沈鬱な現在、明るいニュースの部類にはなるのだろう。良いことには違いない。
 しかし、どういった内容の本か?とか、面白いのか?という情報が皆無に近い中での雪崩のような売れ方に疑問がないわけではない。「売れている本だから買って読んでみたい」というのは自然な感情だが、ある閾値を越えると量的な違いは質的な転換を伴う。1週間で百万部という量は尋常ではない。本書との関連を指摘されるオーウェルの「1984」が描き出した思考停止の状況に思えるが、シニカルな見方すぎるだろうか。

 肝心の本の中身は、少し気になる点はあったが面白かった。2冊で1000ページにもなるし、ゆっくり読もうと思っていたのに、結構なスピードで読みきってしまった。村上春樹ファンには肌になじむ感じの物語だ。かつての作品を思い起こさせる人々や出来事、ふんだんに出てくる音楽、あぁこれはランナーとしての著者の思いだなとか、これは「アンダーグラウンド」を下敷きにしたものだな、などなど。勝手な思い込みができるのも嬉しい。
 そして本書は、ファンではない人にとっても親切な造りだと思う。「親切」というのは「ファン以外には付いて行けない」というほど、いわゆる村上ワールド色が強く出ていない、という意味だ。得体の知れないモノや変わった人々は出てくるが、上々のサスペンスとしても読める。私は、あまりに普通の物語なので、著者の文体に似せた誰かの手になるものなのではないかと思ったほどだ。

 不満がないわけではない。多くの物事が着地しないままになっている。もっと言えば、物語に盛り上がりがない。特に主人公2人のうち一方の視点だけを見れば、「何かが起こりそう」という気配だけで実際には何も起きていない。これで終わりではないのだろう。
 ところでこの物語は、主人公の1人が紡いだ物語と現実が、複雑な入れ子状態になる。実はその入れ子状態はもっと大きく、本書そのものとそれを読む読者までが組み込まれているようだ。なぜなら、著者は主人公の口から、その作品が「物語としてとても面白くできているし、最後までぐいぐいと読者を牽引していく」のなら、疑問符を残したままであることぐらい何だと言うのだ、という意味のことを言わせている。これは著者が私のような読者を予想して、それに向けた言葉に違いないからだ。

 この後は、ちょっと気になったことを書いています(ネタバレの要素があります)。興味のある方はどうぞ。

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 これだけの売れ行きなので、発売日以降にブログへ感想や書評を掲載される数も大変多いです。Googleの検索で昨日1日分の記事を見たのですが、どなたも触れていない点で気になったことがあります。読んでいる最中には「気になって仕方ない」という感じでしたが、読み終わってしばらくたった今は「まぁ良いか」とも思わないでもないのですが....

 それは、子どもに対する性的虐待についてです。本書には性的虐待を受けた子どもが登場します。それも、「虐待を受けた」というような表現ではなく、「どのように何をされた」という説明がされます。もちろん、それは忌むべき行為として書かれているのですが、それでも一般書としては一線を越えているのではないかと、少なくとも読んでいる最中は思いました。
 これだけの評判ですから、ものすごく多くの人が読むでしょうし、学校図書館にも置かれることでしょう。評判を得たことまでを著者や出版社の責任にすることはできませんが、こうなってしまった以上、影響なしとはできません。

 文学や芸術に対してそのようなことを指摘するのは非寛容だとか、そのようなことを思いつく私こそ問題だとか言われるのかもしれません。ネットでこのことを指摘される方がいないのは、そういう理由かもしれません。それでも敢えて、ということで指摘しておきます。
 

 
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21.村上春樹」カテゴリの記事

コメント

こんにちわ。はじめまして。
私も昨日読み終わったのですが、色々と検索しても
特に扱ってない問題でしたので、ここへ来て
『あ、私だけじゃないんだ・・』
とホッとしています(笑

こちらでは色々と参考させてもらってます。
またお邪魔させていただきますね。

投稿: すもも | 2009年6月 5日 (金) 18時42分

すももさん、コメントありがとうございます。

私も「私だけじゃないんだ」とホッとしました。

海外では日本よりはるかに厳しい感じ方をする国々があります。
だから、村上春樹さんの評価がこんなことで落ちてはもったい
ないと思うのです。私なんかが心配することじゃないけれども。
 

投稿: YO-SHI | 2009年6月 5日 (金) 22時45分

YO-SHIさん、こんにちは♪
今、ネタばれを見させて頂いただけで衝撃を受けました。。。
なんで?と、思いました。
胸がえぐられる感じを受けました。
まだ読んでませんが、これから読む上で、覚悟が出来ました。
いつも素晴らしい書評をありがとうございます!!!

投稿: ジーナフウガ | 2009年6月 6日 (土) 09時10分

ジーナフウガさん、コメントありがとうございました。

本文でネタバレしないように気を付けても、コメント欄で
見えてしまいますね。
事前の準備と言う意味では、知ってた方が良いのでしょうが、
見たくないネタバレを見てしまった、ということでなければ
良いのですが...。
 

投稿: YO-SHI | 2009年6月 6日 (土) 12時52分

これってネタバレだったんですね・・(-_-;)
「どうぞ」クリックしてないけど、なんか開いてましたよ・・。
(ま~私が開けたんだろうけど・・。)
だから続けて読んでしまって、
こういうのは聞きたくなかったな~って思ってたんですよ(^^;

多分知らずに読んでたら、話の流れで自然と読めてた
と思うけど、最初から聞いてしまうとちょっと手に取れないです。

「1Q84」すごい人気ですよね。確か「ノルウェイの森」の時も
なんかすごかったですよね。
本の内容はよくわからないけど、人気だけがすごいのが・・なんか
よくわからなくて、こわいな~。

投稿: るるる☆ | 2009年6月 6日 (土) 16時34分

るるる☆さん、コメントありがとうございます。

そして、本当にごめんなさい。

ブログのトップページにアクセスした場合は、「どうぞ」とか「続きを読む」を
クリックしないと、続きの部分は表示されないのですが、記事の個別URLで
アクセスすると最初っから全部表示されてしまいます。
うかつでした。知らなかったわけではないんです。だからなおさら申し訳なくて。

今さらですが、フォントカラーを白にしてみました。
それでもコメントを上から読んでいくと、どんなことが書いてあるか分かって
しまいますが、コメント欄は小細工ができず良い方法もなく..悩んでいます。
 

投稿: YO-SHI | 2009年6月 6日 (土) 18時51分

あ、ごめんなさい!
私がコメントでネタバレ書いてしまったからご迷惑をかけてしまいました!
てっきりネタバレ欄の方のみコメントが出るのかと勘違いしていました。うかつでした・・。
私の方では構いませんので、削除していただいていいですよ。
YO-SHIさんの困らないようにお任せします。

投稿: すもも | 2009年6月 6日 (土) 21時36分

すももさん、コメントありがとうございました。

気を遣わせてしまって、こちらこそごめんなさい。
お言葉に甘えて、コメントを一部変えさせて
いただきました。ご了承ください。

投稿: YO-SHI | 2009年6月 7日 (日) 12時10分

こんにちは.

YO-SHIさんの書評をブログで引用させていただきました.
http://blog.livedoor.jp/simplegg/archives/65251631.html

トラックバックもしたのですが,どうも(恐らく自分のブログが悪いと思いますが)
反映されないので,コメントさせていただきました.

本を読み終わって,改めてYO-SHIさんの書評を全て読ませていただきましたが,
確かに,子どもに対する性的な記述は一線を超えたものがあった気がします.

僕自身,村上春樹は読みなれているつもりでしたが,それでも,性的な表現に
ついて今回はいくらか節操がないなと思っていたので,もしかしたらこの辺りが
影響しているのかなと読んで思いました.

話は変わりますが,続きを白い文字で書くアイデアは面白いです.
参考にさせていただきます(僕のブログは背景が白くないのでできるかわかりませんが 笑).

投稿: simplegg | 2009年7月28日 (火) 08時18分

simpleggさん、コメントありがとうございます。

性的な部分がちょっと気になったとしても、充分に堪能しました。
ブログも拝見しました。そこで、simpleggさんもおっしゃって
ますが、私も性的なシーンには作品の本質はないと思います。

このことについて、読売新聞のインタビューに春樹さんが
「暴力と性は人の魂の奥に迫るための大事な扉」と答えて
いらっしゃいます。
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20090617bk04.htm

その意図は、正直に言って私には分かるような分からないような。
 

投稿: YO-SHI | 2009年7月28日 (火) 14時46分

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