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2009年3月

2009年3月28日 (土)

図書室の海

著  者:恩田陸
出版社:新潮社
出版日:2002年2月20日発行
評  価:☆☆☆(説明)

 恩田陸の短編集。表題作を含む2編の書き下ろしを除いて、様々な出版社の様々な雑誌に掲載されたものを1冊にまとめたものらしい。全部で10編が収録されている。著者によるあとがきに、それぞれの短編の背景が短く書かれているので、短編を読んだ後にそれぞれの背景を読んでみることをお勧めする。
 その理由は、今読んだ作品をもう一度かみしめることができるからだが、それだけではない。続けて読んでいると話にノリきれない時があるのだ。本を読むときには、無意識にでも「これはミステリー」「これはファンタジー」という心構えがあって、それで物語に入り込んでいけるのだと思う。ところが、ご存じのように著者はコメディーから感動悲話、またはホラーまで幅広いジャンルの作品を手がけている。この短編集もそれらが混在しているので、心構えができなかったり、間違えていたりするのだ。
 前の作品の余韻を残して友情物語かと思っていたら、どうも怪しげな展開になって「これはホラーだったんだ」という時などは、茫然としてしまった。だから、1編終わるごとにあとがきを読んで一拍置くことで、気持ちをリセットして次に行けば良いんじゃないかと思う。

 そういったことで、私は今一つ消化不良気味に読み終えてしまった。もともとホラーが好きではないこともその一因だと思う。それから、「夜のピクニック」の前日談が収められていることが、本書を手に取った理由の一つで、本編を深く読み解く何かがあるかと期待したが、そういったものはほとんどなかった。本編から想像できる前日、といったものだった。これもあとがきを読んで納得。この短編は「夜のピクニック」の予告編として書かれたものだそうだ。普通に考えて予告編に、物語の核心を書いてしまわないだろう。  少し古めではあるが、著者の変幻自在さがお好みの方は、未読なら読まれるといいだろう。そうではない方、著者の特定のジャンルや作品が好き、という方は読み方を工夫されるといいと思う。

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2009年3月17日 (火)

最後のパレード

著  者:中村克
出版社:サンクチュアリ出版
出版日:2009年3月10日 初版 3月20日第3刷発行
評  価:☆☆(説明)

 発売間もないが、ベストセラーランキングにも顔を出しているし、ネット書店では軒並み品切れ状態だ。娘に頼まれて近所の書店を何軒か回ったけれどやはり売り切ればかりで、やっと手に入れた。つまりすごく売れている本だということだろう。本書は、ディズニーランドで本当にあった「いい話」を30編あまり収録したものだ。
 私は、新聞の広告で初めて本書を知った。本書の冒頭の一話「天国のお子様ランチ」がサンプルとして全文掲載されていた。生まれて間もなく亡くなった娘の1才の誕生日にディズニーランドを訪れた夫婦の感動物語だ。うん、これは確かに泣かせる。そんな感想を持ったのを覚えている。

 しかし、だ。ネットに溢れる洪水のような「感動した」「涙が止まらない」という感想は何としたものだろう。「親指の恋人」のコメントにも書いたのだけれど、「誰かが死んだら感動」というスイッチがあるんじゃないかと思う。そして、皆さんそのスイッチが入ってしまったとしか思えない。
 実際、半分以上が、上に書いたような子どもを亡くした夫婦や、重い病気や障害を持つお子さんや家族の話だ。1つ1つの話はいい話には違いないが、こんな話を十数編もまとめて読んで、たくさんの人が涙を流すのは、私は何かが病んでいるように思えてならない。

 念のため言うが、本書を読んで感動した方について批判めいたことを言いたいのではない。感動できる心は宝物だと思うし、確かにいい話ばかりなので涙が止まらなくなる人だっていて当然だと思う。ただ、私はこれでは泣けない、死や病気の話が多くてつらい、ということなのだ。
 泣かないにしても、私の胸に響いた話が1つある。それは、自信をなくしたキャスト(スタッフ)が、ゲスト(お客さん)の言葉に救われた話だ。ありがちな話で、こんなことは「夢と魔法の王国」でなくても起きるだろうし、30編あまりの中でもひと際地味だ。それでも私の胸に響いたのは、仕事に自信をなくすことは多くの人に起きることだし、私もお客さんの感謝の言葉や何気ない一言に、勇気付けられたり救われたりしたことがあるからだろう。共感は感動の大事な要素なのではないかと思う。

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追記(2009.4.29)

 本書に収録されているエピソードついて、盗用疑惑が指摘されています。既に出版社は「著作権侵害の可能性が高い」ことを認めています。「そのような本をブログで紹介して他人に推薦したままにして良いのか?」というご指摘をいただいたので、ここに追記することにしました。
 いかに美しい宝石をプレゼントされても、それが盗品だとすれば良心を持つ人は喜べないでしょう。それと同じで、収録されている物語は心打つものであっても(フィクションかもしれません)、盗用したモノかもしれないと分かれば騙された気持ちにもなるでしょう。そうなっては申し訳ないので、私は本書を「良い本ですよ」とは薦めません。

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追記(2009.5.7)

 5月1日付けの文書で、出版元のサンクチュアリ出版が、本書の店頭からの回収を発表しました。Amazaonも取り扱いを中止しました。よって、右上のリンクもリンク先ページがありませんが、表紙イメージの表示のために残してあります。

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追記(2009.8.28)

 5月7日の追記で報告したとおり、Amazonが本書取り扱いを中止し、その後、表紙イメージの表示もなくなったようですので、右上のAmazonのリンクを取り外しました。

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2009年3月12日 (木)

グローバル恐慌

著  者:浜矩子
出版社:岩波書店
出版日:2009年1月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 一昨日3月10日の日経平均株価の終値は7054.98円と、バブル崩壊後の最安値を前日に続いて更新した。この株価は、1982年10月以来じつに約26年5カ月ぶりの安値水準だという。これは、9月15日のいわゆるリーマン・ショック、米国の投資銀行のリーマン・ブラザーズの経営破たんに端を発した、世界金融危機が半年が経過しても一向に回復の兆しなく、むしろ悪化していることの現れだと言える。

 本書は、このリーマン・ショックから世界金融危機の流れを受けて、昨年の12月にエコノミストである著者が執筆し緊急出版という形で出版されたものだ。著者は現状はすでに「危機」などという生易しい状況ではなく、まさに恐慌状態だということで、タイトルを「グローバル恐慌」としたという。
 「危機」を広辞苑で引くと「大変なことになるかもしれないあやうい時や場合。危険な状態」とあるらしい。「大変なことになるかもしれない」ではなく、すでに大変なことになってしまっている、という主張だ。その通りだと思う。たかが用語ひとつの問題ではある、されど政府のどこか安穏とした対応は、「まだ大変なことにはなっていない」と思っているのかもしれないと思わせる。

 テレビニュースや新聞などを少しでも注意して見ている方は、この「恐慌」の原因の一つとして「サブプライムローン」問題があることはご存じだろう。サブプライムローンが信用力の低い個人向けの住宅ローンであり、ローン自体に問題があることも、おそらくは知っているだろう。
 しかし、この問題があるローンの焦げ付きが、なぜ世界中の経済を一気に奈落の底にたたき落としたかを説明できるだろうか?本書には、そのことが著者の明快な分析と適切な比喩によって明らかにされている。本書は「どうしてこんなことに..」という、知的な好奇心を満たしてくれる。もっともこの惨状に対して、私たちにできることはほとんどないのだけれど。

 最後に。サブプライムローンの問題の背景には、「借金で購入した不動産を担保にさらに借金」という錬金術まがいの手法がもてはやされたことがある。これは日本のバブル期と全く同じだ。つまり、日本の経験や教訓は全く生かされなかったわけだ。
 それどころか、80年前の世界恐慌で得たはずの、銀行と証券の分離という教訓も、金融万能の時代に打ち捨ててしまっている。ゴールドマン・サックスもモルガン・スタンレーも、今や商業銀行の顔をしている。「すでに大変なことになっている」というのは、「ここが終着点」という意味ではない。もう一段も二段も大変なことになる可能性は実は非常に大きい。

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2009年3月10日 (火)

ローマ亡き後の地中海世界(上)

著  者:塩野七生
出版社:新潮社
出版日:2008年12月20日発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 古代ローマの建国から西ローマ帝国の滅亡までの1200年間の歴史を、「ローマ人の物語」として、1992年から毎年1巻ずつ15巻を費やして描ききった著者による、地中海世界のその後の出来事だ。
 シリーズは15巻で完結ということになっているが、表紙デザインも共通性を感じるし、描かれている歴史は連続しているのだから「続編」ということで良いだろう。シリーズの後半は毎年12月に出版されたので、私の読書の年末から年初の読み物として定着していた。この習慣が1年のブランクを経て復活した感があり、大変うれしい。

 本書は「ローマ人の物語」のような年代記の形ではない。もっともこの時代は、地中海の南側からジブラルタル海峡を越えてイベリア半島まではイスラム化し、北側は大小様々な国家に分断され、東側にはビサンチン帝国があるものの領土保全に汲々としている状態。皇帝や元首を基に年代順に出来事をまとめることは難しい。
 そこで、上下巻の上巻である本書では、年代としては6世紀から15世紀までの長きに渡るが、テーマを強大な帝国が制海権を失ったあとに跋扈した「海賊」に絞って、この時代のあり様が描かれている。島国に住む我々には海は境界という意識が強いが、航海術に秀でたローマ人にとっては、地中海は内海の通行路だった、とは著者の卓見だと思うが、この時代は地中海が、国家や宗教の境界線または障壁になった時代ということになる。

 相変わらず淡々と出来事を記していくやり方は、人によっては読むのに辛いかもしれない。逆に、書いてある出来事は著者の目(主観)を通して見た脚色も加わっていて、歴史的事実とは言い難い、という批判があることも知っている。
 それでも、私は著者の目を通した歴史物語が好きだ。それは、皇帝であれ庶民であれ、悩んだり怒ったりする人間の行いに焦点を当てた歴史だからだ。事実を書くには「○○年に□□が△△した。」という方法が最適なのだろう。しかし、それでは本書で語られている、イスラムの海賊による多数のキリスト教徒の拉致や強制労働、それに対抗するキリスト教世界の動きと、無名の人々による何世紀にも渡る救出劇を、こんなに活き活きとは伝えれらなかったと思う。やはり、著者は非凡な語り手である。

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2009年3月 6日 (金)

オーデュボンの祈り

著  者:伊坂幸太郎
出版社:新潮社
出版日:2003年12月1日発行 2008年11月10日第31刷
評  価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんのデビュー作。新潮ミステリー倶楽部賞受賞。デビュー作なので当たり前なのだが、私が読んだその後の著者の作品の特徴の原点が見られる。複数の視点で並行した物語が語られること。物語の時間が前後することがあること。伏線を潜ませる前半とそれを回収する終盤という構成。こう言ったことが、私は著者の作風だと思うのだが、デビュー作の本書ですでに特徴として現れている。ただし(まだ)デビュー作なので、これも当たり前なのだが、少ぉし切れ味が足りないというか、中途半端な感じがした。

 主人公は伊藤という青年。元システムエンジニアで、会社を辞めて2か月後に、人生をリセットしようとしてコンビニを襲い失敗した。そしてパトカーで連行される途中で逃走。その後の記憶はなく、朝目覚めると見知らぬ島の見知らぬ部屋にいた。
 この島は仙台の南にある島なのだが、江戸時代から外界と隔絶されていて、人々は独自のルールを持って暮らしている。不思議な人々、不思議な習慣がたくさんあるのだが、一番の不思議は、しゃべるカカシだ。しかも、このカカシは未来が分かるのだ。そして、物語はこのカカシがバラバラにされたことから展開していく。
 そして、このカカシをバラバラにした犯人がだれか?ということと共に、「この島に足りないもの」が繰り返し謎として提示される。この謎と、伊藤の元彼女に迫る危険などが物語の牽引役となって終盤までひっぱる。面白い読み物にはなっている。

 しかし、本書のネットでの評判は思いのほか良くない。江戸時代に外界から隔絶された島、しゃべるカカシという奇想天外さが、受け入れられないと感じた人もいるようだし、私も感じた少ぉしの中途半端さも不評の原因だろう。ただ考えて見れば、奇想天外な設定が悪いとは限らないし、その後の成熟した作品と比べてデビュー作を評価するのは間違っている。
 そう、伊坂作品を何冊か読んだ後に本書を読む人は、これが始りの本なのだという思いを持って読むと良いだろう。「神様のレシピ」という、その後の作品に度々登場する言葉も、本書が初出でその意味が明らかにされていることだし。

 最後に蛇足と知りつつ、一つ述べる。著者の作品が村上春樹さんの作品の影響を強く受けている、という指摘が既に多くの方からされている。本書を読む限りでは、その指摘は確かに当たっているように思う。でも、後の作品にはこういったことはあまり感じられなかった。著者は、本書の後は「伊坂幸太郎らしさ」を積み上げてきたのだと思う。

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