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2009年2月

2009年2月27日 (金)

吟遊詩人ビードルの物語

著  者:J・K・ローリング 訳:松岡佑子
出版社:静山社
出版日:2008年12月12日初版第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 ご存じハリー・ポッターシリーズの著者による、魔法界のおとぎ話。最終巻の「ハリー・ポッターと死の秘宝」で、ダンブルドアがハーマイオニーに遺した本として登場する。お話が5つ収録されるこの本が「魔法界に実在するもの」で、それぞれの話に関するダンブルドアのメモがホグワーツの古文書館に残されていたという設定。本書は、著者がそれを人間界に紹介する、という体裁を取っていて、お話そのものと、ダンブルドアのメモと、著者の脚注が加わった形になっている。

 ハリー・ポッターを全巻読み終わっていて、物語の中で少しばかり重要な位置を占める本があって、「それがこれです」って言われれば読んでみたくなるのも自然な成り行きかと思う。実際、私も図書館の書棚で偶然に発見したので、読んでみようかなぁと思って手に取った次第だ。
 その内の1編である「三人兄弟の物語」の概要は、「死の秘宝」でも紹介されているのでご存じの人もいるだろうが、「人間は死を克服しようとしてはいけない」という戒めが含まれている。他の4つのお話にもそれぞれに教訓が含まれている。心を広く持ちなさい、他人を思いやりなさい、正直でありなさい...。言葉にすると陳腐で気恥かしいが、まぁおとぎ話とはそういうものだ。

 こども向けのおとぎ話を大人の目で見て評するのは、いかにも大人げない。だから、お話そのものではなく、ダンブルドアのメモや著者が付けた脚注などについて、少しだけ言わせてもらう。メモには、魔法界の出来事、例えば中世のマグルによる魔女狩りと魔法界の反応などと絡めて、物語の解説が行われている。そして、著者はそのメモに対してさらに解説を加える。
 まぁ大人になって素直になれなくなった私が悪いのだけれど、おとぎ話そのものもダンブルドアのメモもその解説も、結局は著者が書いているのだと思ってしまうと、1人3役が白々しく感じる。特に、著者の解説に「マクゴナガル教授は、以下の点を明確にしてほしいと私に頼んだ。..」なんていう箇所を読むと特にそう感じる。例え脚注でもファンタジーに著者自身が顔を出すのは興を削ぐと思う。
 そうそう、この本の収益は、著者らが設立した弱い立場にある子供の生活の向上を目的とする英国登録の慈善団体に寄付されるそうだ。この本の出版の目的は、この寄付行為にあるのであれば、それもまた良いと思う。

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2009年2月22日 (日)

こんな日本でよかったね -構造主義的日本論-

著  者:内田樹
出版社:バジリコ
出版日:2008年7月26日初版第1刷 8月17日第4刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は、新刊再発とりまぜて毎年10冊も本を出し、新聞や雑誌などから事あるごとにコメントを求められるそうだ。本書を読んで、その人気ぶりにも得心がいった。ちょっと変わった視点を提供してくれるし、アカデミックな話題も親しみやすく語れる。本書ではそんな著者が、「格差」「少子化」「学力低下」「愛国」などの興味深いテーマを語るのだ。面白くないはずがない。
 (知ってる人にしかさっぱり分からないと思うけれど)学生時代に「構造と力」や「逃走論」という本を持って(読んでなくてもOK)喜んでいた私にとっては、構造主義とかレビィ・ストロースとか言われるだけで、「あぁ、この人は頭いイイんだぁ」と思ってしまう。

 しかし、本書に種々書かれている内容そのものに目を転じると、3割はなるほどそうかと思うが、6割は同意できない、残りの1割は何が言いたいのか分からない。本書は著者のブログの記事を編集者がピックアップして再編集したものらしい。往々にしてブログの記事は、その時々に思ったことを書くので、首尾一貫したものにはなりにくいのはもちろん、1本1本の記事もそんなに気を配っては書かないのかもしれない。
 だから、本書に対して「ココはおかしい」なんて読み方は本当は野暮なのだろう。「へぇ~そうなんだ。この人はこんな風に考えるんだぁ」と、読み流せば良いのかもしれない。しかしたくさん気になることがあるので、野暮を承知で一つだけ指摘する。
 それは論理展開に潜むミスリードだ。あるテーマを何段階にも展開していくのだが、どうも途中で最初のテーマから微妙にズレるようなのだ。例として「格差社会」についての論理展開を紹介する。

 (1)「格差」とはメディアの論によると「金」のことである。→(2)「金」がないせいでネットカフェで暮らすなどの生活様態を余儀なくされている。→(3)これから導かれる結論は「もっと金を」だ。
 ところで、(4)「格差社会」とは人間の序列化に金以外のものさしがなくなった社会である。(5)「もっと金を」というソリューションは「金の全能性」をさらにかさ上げする。→(6)「金を稼ぐ能力」の差が、乗り越えがたいギャップとしてに顕在化する。となっている。

 そして、格差社会について色々言うのは悪循環を招きはしないのか?という具合に続く。「ほぉ、なるほど」と思わないでもない。一つ一つの→のつながりも間違えてはいない。でも、格差問題解消の結論は「もっと金を」とも言えるが、より丁寧に言うと「衣食住に最低限必要な金(そのための職)を」だろう。
 「衣食住に最低限必要な金を」なら、「金の全能性」をかさ上げすることにはならないはずだ。「もっと金を」という言葉の選択が、論理展開を微妙にズラし、結論を歪めてはいないか?著者の作為的な選択かどうかは分からないが、他のテーマでもこういう論理展開が幾つも見られる。もし、作為的だとすれば、たちの悪い言葉遊びだと思うが、どうだろう?

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2009年2月18日 (水)

グラスホッパー

著  者:伊坂幸太郎
出版社:角川書店
出版日:2004年7月30日初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの5年ほど前の作品。今年は(るるる☆さんと一緒に)伊坂作品にはまろうと考えているので、積極的に過去の作品を読んでいきます。

 相変わらずうまい(過去の作品なので「相変わらず」は正しい用法ではないけれど)。複数の視点から順に語られる手法もお馴染みなら、終盤に来てそれらが収束していくのも、目立たない伏線が最後なって浮上して、足をすくわれるような感覚もお馴染みだ。パターンにはまったと言えばその通りなのだが、今回も気持ちよく足をすくわれてしまった。

 悪いやつがたくさん登場する。登場する人物のほとんどが「闇社会」の一員だ。それでいて冷たい感じがしない。悪いやつらも、失敗したり焦ったり悩んだりと、妙に人間臭いからだ。
 主人公は「鈴木」。悪徳会社の社長のバカ息子に悪ふざけの事故で妻を殺されている。彼は、復讐のためにその悪徳会社の契約社員となっている。その他の視点は「蝉」と「鯨」と呼ばれる2人の殺人のプロ。
 本書によると、この社会には殺人の「業界」があって、電話やなんかで殺人の注文を受けたり、人材を派遣したりしているらしい。鈴木も含めて、登場人物のほとんどはこの「業界」の一員なので、悪いやつらなのだ。ただ、あんまり悪いやつらばかり出てくるので、中でも罪の軽い人がいると、ちょっといい人に思えてしまうから、私の善悪の感覚もあてにならないものだ。

 元々はこの業界の人間ではないからか、追われる身となった鈴木の見通しの甘い行動には少しあきれるが、まぁどこかユーモラスで憎めない。「蝉」と「鯨」が抱えるそれぞれの悩みもうまく描かれていた。舞台が殺人の業界だから必然かもしれないが、何人もが死ぬがつらいが、読後感はそれほど悪くないことに救われる。

この本を読んだ方へ質問。
 鈴木は最後に5階に行くのですが、4階に行くべきではないのでしょうか?

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2009年2月16日 (月)

流星の絆

著  者:東野圭吾
出版社:講談社
出版日:2008年3月5日第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 東野圭吾さんの近刊。図書館で予約して半年あまり待った。その間にTBS系列でドラマ化されたのだけれど見なかった。先に原作で読みたかったので。最近のテレビは小説やコミックの「原作もの」が多いですが、出版されて半年でテレビドラマ、というのは早すぎないか?と思う。

 主人公は、功一、泰輔、静奈の兄弟妹。物語は、幼い彼らが家を抜け出すシーンから始まる。ペルセウス座流星群を見ようと、両親には内緒で出かけようとしているのだ。このエピソードがタイトルにつながっている。そしてその夜、彼らの両親は何者かに殺害される。
 その後、大人になった彼らは、危ない橋も渡るけれど寄り添うように生きていく。そんな時、両親の殺害犯と思われる人物を、泰輔が見かけたことが、3人の運命の歯車を回す。そして、徐々にその人物を追い詰めていく。

 まぁ、テレビで放送されたのでストーリーはご存じの方も多いだろう。テレビの方はどんな展開だったのか知らないのだけれど、本の方は意外なぐらい素直に物語は進む。思いもかけないことは起こらない。最後の20ページまでは。
 本書は、この最後の20ページのためにあるような本だ。それまでの抑えた調子は、この最後の部分を際立たせるためだったのだろう。しかし、「抑えた調子」とはいえ、退屈はしない。常に「何か起きるかもしれない」と思わせる緊張感が常に漂っている。そういう意味では著者の巧さも際立っている。
 最後にひとこと。私はちょっと前にエラリー・クィーンを読んだせいもあって、常に誰が犯人かを考えてしまったが、本書は推理小説ではないので、読者は「犯人探し」をしないで、ストーリーを楽しむのがいい。その方が楽しめると思う。

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2009年2月12日 (木)

からくりからくさ

著  者:梨木香歩
出版社:新潮社
出版日:1999年5月20日発行
評  価:☆☆☆(説明)

 私の昨年読んだ本の6番に選んだ「家守綺譚 」の著者の作品。「西の魔女が死んだ」の著者と言った方が、あるいは通りが良いかもしれない。本書はずっと前にかりん。さんに紹介していただいたのを、それっきりにしていたのだけれど、先日、図書館の棚で見つけて手に取りました。いや、見つけたのではなく本に呼ばれたような感じです。探していたわけではなかったので。

 著者の他の作品に違わずこの本も不思議な空気の流れる物語だった。時代はいつぐらいだろうか?車で行き来する場面が結構あるので、現代に近いとは思うのだが、時間がゆっくりと流れる感じは、もう少し昔を思わせる。
 主人公は、蓉子。歳は二十歳ぐらいか。染織の工房で働いている。蓉子の祖母が他界し、その家を女子学生の下宿として間貸しするので、そこの管理人もしている。管理人とはいっても、間借りしているのは同年代の女性3人(与希子、紀久、マーガレット)だから、何となく、長い合宿生活のような感じだ。

 与希子、紀久は美大の学生、蓉子の父は画廊の経営者、与希子の父は画家、と蓉子や他の登場人物も含めて芸術肌の人々が揃う。そしてそれぞれが、自分の考える「あるべき美の形」を追い求める。それは時には頑ななまでで、そうした心のあり方が物語を大きく展開させる。
 また、蓉子が少女のころから心を寄せる「りかさん」という名の人形や、高名な能面師が軸となって、同居する4人の物語が撚り合わされていく。どこか牧歌的な下宿の共同生活からは想像できないドラマチックな展開に後半は目が離せない。
 中盤あたりから、様々な事実が明らかになり、時代も場所も縦横無尽に駆ける。目まぐるしくて、一体著者はどこに連れて行こうとしているのか?、と思ったこともあった。しかし、終わってみると物事は収まるところに収まり、著者が示そうとしたことも何となく分かる。おみごと、という他ない。

この後は、書評ではなく「織物」について、思ったことを書いています。興味がある方はどうぞ

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2009年2月 9日 (月)

CC:カーボンコピー

著  者:幸田真音
出版社:中央公論新社
出版日:2008年11月25日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 読売新聞の会員制WEBサイト「yorimo」でサイン入り本をいただきました。感謝。

 金融業界出身の経験を生かした「経済小説」が持ち味の著者の作品。私にとっては「あなたの余命教えます」に続いて2冊目になる。
 主人公は広告代理店のAE(アカウント・エグゼクティブ)として働く香純。AEとは聞きなれないが、広告の企画から制作・実施までの一連の責任を持つ営業職のこと。ある保険会社の広告を巡ってのアップダウンのある物語を、主人公と、主人公の元夫で現上司の社長と、保険会社の若い広報マンの3人の視点から描いている。

 実は私も広告主側の立場として、ちょっとだけ広告の仕事に携わったことがある。その立場から垣間見た制作側の様子に照らして、本書に描かれる主人公たちの奮闘ぶりは、かなりリアルだ。きっと、取材に基づくのだろう。そして、一つ一つの場面がとても精密に描かれる。テレビや映画の1カットを言葉で説明しようとしているかのようだ。
 しかし、リアリティが面白さにつながらないこともある。業界事情など場面場面で与えられる情報の殆どはストーリーには絡んでこない。伏線好きな私の読み方にも問題があるのだろうけれど、思わせぶりなシーン(私が勝手にそう思っているだけだけれど)があっても、後には続いていなくてちょっと残念。

 それで、肝心のストーリーの方だけれど、上に書いた勝手な「残念」を別にしても、もうひと工夫欲しかった。主人公が男の目から見てもすご~く「都合のいい女」でやりきれない思いがした。後半にミステリー要素が加わって盛り上がるのだけれど、広げた風呂敷がたたみ切れていない感じ。
 もっとも、本の読み方には色々あって、「個々の場面を楽しむ」という人もいるそうだ。精密な場面描写がされている本書では、広告営業の現場の雰囲気や、がむしゃらに働く女性の勢いが楽しめそうだ。別れた夫が社長、というシチュエーションもちょっと気になるし...。

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2009年2月 3日 (火)

エジプト十字架の謎

著  者:エラリー・クイーン 訳:井上勇
出版社:東京創元社
出版日:1959年9月初版 2006年9月70版 2009年1月9日新版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 著者の作品を読むのは初めて。この作品は、初期に発表された「国名シリーズ」の1冊で1932年に発表されたものだ。なんと私の父親が生まれたころだ。その作品がこの度新版として発売されたのだから、著者の人気の息の長さが分かる。

 何だか久しぶりの体験だった。「犯人が誰なのか」にこんなに集中して読んだのは、中学生のころクリスティを読み漁っていたころ以来かも。ページ数が9割進んだところで(推理に必要なすべての事柄が語られたところで)、「誰が殺人犯人か。(中略)りっぱな推理と、幸運を祈る」と書かれた「読者への挑戦状」というページがある。突きつけられた挑戦は受けねばならない、ということで、しばし沈思黙考。..そして敢え無くギブアップした。

 物語は、衝撃的な事件で始まる。田舎町の小学校長がT字路で、道標にTの字に張り付けられた首なし死体で発見される。そして被害者の家の扉には血で書かれたTの文字。執拗に繰り返されるTの文字の事件。タイトルの「エジプト十字架」は、エジプトの古い信仰のシンボルで、縦木が突き出していないT字形をしているらしい。そして、この事件にもその信仰が関わっているのか?
 主人公は、ニューヨーク市警の警視の息子で、その名もエラリー・クイーン。数々の難事件を解決に導いたという実績があるらしく、地元警察の扱いも別格だ。彼が警察の捜査に立ち会い、誰もが見落とした僅かな痕跡から真実を明らかにしていく。推理小説、探偵小説の醍醐味だ。そして、推理に必要な事柄が十分に明らかになったところで「読者への挑戦状」となる。(もちろん、最後の1ピースは分からないままだ。この後、この最後の1ピースがエラリーによって明らかにされ、一気にパズルが完成するように事件が解決するのだ)

 まぁ、私の場合は「挑戦状」をまともに受けて推理しようとしたわけだけれど、そういう読み方も良し、エラリーの名推理を楽しむのも良し。推理小説の古典だが、今どきのミステリーファンにもおススメだ。

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2009年2月 1日 (日)

私が読んだ小説ベスト10 人気投票結果

投票結果  昨年末に「今年読んだ本のランキング」を発表して、1月末まで右のサイドバーで皆さんに人気投票していただきました。 投票総数は46人でした。投票いただいた方、どうもありがとうございました。
 下に、投票結果を発表します。1位は私の順位と一致していて、「ゴールデンスランバー」がやはり強し、というところです。その他は当然ながらほとんど私の順位とは異なっています。昨年の新刊や話題作がやはり強いようです。1つしか選べないので、これも当然と言えば当然ですね。
 また、機会があれば人気投票をやってみたいと思います。

順位 私の
順位
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10  阪急電車 / 有川浩 Amazon
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