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2008年10月

2008年10月28日 (火)

ブログがジャーナリズムを変える

著  者:湯川鶴章
出版社:NTT出版
出版日:2006年7月7日初版第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は時事通信社の編集委員。他の誰よりもジャーナリストを体現する仕事だと言ってよいだろう。その著者が、「ジャーナリズムを変える」という本を書いた。以前には「ネットは新聞を殺すのか」という本を書き、同名のブログを運営していた。本書は、そのブログから得た知見をまとめたものだそうだ。
 そんなわけで本書は、ジャーナリストがジャーナリズムを斬る、といった趣の本。一番詳しいようでいて、一番評価が難しいのが自分のこと、自分が属するもののこと。切れ味はどうかと思ったら、これが意外と鋭かった。

 というのも、著者は、「自分たちはジャーナリストだ」と声高に言う人が嫌いらしい。新聞記者の勉強会で、報道機関のビジネスモデルの話をした時のエピソードが紹介されている。質問がビジネスモデルのことに集中したところ、「ビジネスモデルのことばかり言うな!君たちは経営者かジャーナリストか、どっちなんだ」という発言があったそうだ。
 ジャーナリストはカネ儲けの話をするな、ということなんだろうけれど、その奥には「自分たちは特別」という意識が透けて見える。そんな閉鎖的、特権的な意識がお嫌いなんだろう。こうした経験や考えが、著者をして理性的で中立的なジャーナリズム分析を可能にしているのだろう。

 そして、本題のブログとジャーナリズムの関係では、参加型ジャーナリズムとしてのブログの可能性や影響を分析している。多くの人がブログを開設し、独自の観点から意見を表明することができる。このようにアマチュアのジャーナリズムが誕生した今、プロの仕事の意義は何か?ということが書かれている。
 まぁ実際は、本書が期待したようには、日本の参加型ジャーナリズムは盛り上がっていない。けれども、本書が出版された2006年ごろには、韓国の「オーマイニュース」が台頭し、国内でも市民記者によるレポートを掲載するサイトが開設され、アマチュアジャーナリズムの将来性が論じられれていた。本書も、そうした空気の中で書かれたものだし、予言書ではない。そういった意味では、今この本を読んで、当たり外れをあれこれ言っても価値のないことだ。
 そういった意味合いもあり、この人が「今」を論じたら何を言うのかを知りたいと思う。それで、著者の近刊「次世代マーケティングプラットフォーム」にも注目している。

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2008年10月23日 (木)

「スカイ・クロラ」シリーズ読者の方へ

 「スカイ・クロラ」シリーズの読者の方、謎解きに挑戦して身動きができなくなってしまった方、あきらめの境地に達した方に朗報?です。
 のんさんのブログ「猫も杓子も」で、謎解きの重要なヒントが紹介されていました。

 MORI LOG ACADEMYという、森博嗣さんのブログの10月18日の記事で、ご本人が、メールインタビューへの答えとして、「「スカイ・イクリプス」を読んでも、まだ読み解けない読者のために何か少しヒントをいただけないでしょうか。」という質問への答えを公開していらっしゃいます。

 どんな答えかは、実際に見ていただくとして、これまでの考察が根底から覆される人もいるんじゃないでしょうか?これは著者から読者へのプレゼントにはちがいありません。しかし、読者と戯れるようになぞなぞを仕掛けた著者です。種明かしのような答えは期待しないように。これはダンスの続きなのですから。

(2010.5.24追記)

 「スカイ・クロラ 謎解き」などの検索でこの記事に辿りついて、そのまま帰ってしまう方が多いようなので追記します。
 「MORI LOG ACADEMY」は現在は閉鎖されていますが、森博嗣ファン倶楽部「森ぱふぇ」に寄贈され、会員登録(無料)すれば、閲覧することができます。
URL http://www.pure.cc/~pramm/morifan/index.html

 登録したり、記事を探したりが面倒な人のために、森さんのヒントをここに引用しておきます。
-------------------

  A 無理に読み解かない方が良いと思います。ヒントとしては、以下のとおり。

  • シリーズ5作では、主人公(一人称)はそれぞれ1名。
  • クローン(特に短時間で人間を再生する)や記憶移植といった非科学的なものはこの世界にはない。
  • 「スカイ・クロラ」から読むから難しく感じるかもしれない。たとえば、草薙瑞季は、水素の娘だと思っている人が多いですが、土岐野がそう言っただけです。このように、何を信じるべきか、ということが重要だと思います。

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 私なりの謎解きを「「スカイ・クロラ」シリーズの謎解きに挑戦」でやっています。

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2008年10月21日 (火)

陰日向に咲く

著  者:劇団ひとり
出版社:幻冬舎
出版日:2008年8月10日初版 2008年8月24日第4刷
評  価:☆☆☆(説明)

 お笑い芸人の本だからと言って侮ってはいけない。この本は連作短編集としてよく練られている。ホームレスの人が放つ「自由の匂い」に魅かれて、試しに新宿の公園で暮らし始めた会社員を主人公とした「道草」など、5つの短編からなる。
 「よく練られた」とした理由は2つある。1つは、短編のそれぞれにちゃんとオチがあることだ。どんなオチかを言ってしまうわけにはいかないが、あっさりした品のあるオチだ。落語や漫才のオチに通じると感じたのは、著者の職業を知っているための先入観かもしれない。
 もう1つは、連作短編集として、5つの短編の各々が緩やかにつながっていることだ。ある短編の登場人物やエピソードが、別の短編でひょっこり顔を出す。1人称の視点が違うため、同じエピソードが全く違う形で語られる。何人もの人物をひとりで演じ分ける「劇団ひとり」ならではだ。と、これはちょっとウガった見方過ぎるか?(そう言えば、もう長い間、この人のそんな芸をテレビで見ないけれど)

 ただ、気になって仕方がないことがある。「見れていない」「届けれる」「つけれない」「借りれる」。本書の中に登場する言葉だが、これらは私の認識では「ら抜き言葉」で、文法上誤りとされている。
 私自身、他の人を批判できるほど正確な日本語を使っているわけではないし、「ら抜き」が言葉の「誤り」なのか「変化・進化」なのか、見解の相違や議論があることは認める。けれども私は、出版物は言語の用法については保守的であることを望むので、大変な違和感を持った。これは、出版社の校正で良としたのか、見逃したのか、作家の原稿を尊重したのか?

 さっと読めるし、話題になった本だから機会があれば読んで見るといいと思う。先ほど「よく練られている」と言った。でも、そんなに面白くはなかった。オチにつながるミスリードなどの、色々な工夫がどういうわけかあざとく感じられて、私自身も戸惑った。「なんて意地悪な読み方なんだろう」って。
 ここで、再び「先入観」の話。先入観から自由ではいられない。だから、私は「ら抜き言葉」を連発する著者を低く見て、その結果、意地悪な目で読んでしまったのかもしれない。なにしろ最初の「ら抜き」は、本文2ページ目に登場する。
 しかし、この本が良く売れたのも、著者の有名度と「お笑い芸人が書いた小説にしては..」という、先入観が私の場合とは違った向きに作用した結果かもしれない。

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2008年10月18日 (土)

この国の経済常識はウソばかり

著  者:トラスト立木
出版社:洋泉社
出版日:2008年9月22日初版
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は、今の日本の社会のありようを様々な視点から、実に見事に活写している。しかも視点の取り方がユニークだ。まぁ、著者はちょっとひねくれたところのある人なのだろう。しかし「ユニークだ」ではあっても、「間違えている」のではない。「なるほど!」と思わせる説得力は十分だ。

 一例として、「会計ビッグバンが家族に与えた影響」というのを紹介する。「会計ビッグバン」というのは、10年ほど前に日本の企業会計に取り入れられた会計基準の大きな変更を指し、ひとつの特徴に時価会計の導入がある。
 企業が時価会計の考え方を、人材の評価にも取り入れるとどうなるか?「あなたの価値は今いくら?」と問うわけだ。そして、正社員は昇給に見合った価値(能力)を向上させないと「含み損」になりうるから、取り換え可能な非正社員の活用に走る、という具合。
 まだまだある。男女の仲でも、かつてはお互いに相手の将来を何となく現在の価値より豊かに感じることができた。それが、時々に厳しい評価をするのでは、若者は経験も財力もない今現在の価値で向き合うことになる。いや、このご時世では将来は不透明で、今より差し引いて考えることもある。結婚しようという時に、これはつらい。

 また、年長者ら「古い世代」の「記憶」によって政策が決定される、という指摘はその通りだと思う。政治家など政策決定者が経験した「記憶」がない問題は、優先順位が低いしやってもトンチンカンなものになってしまうのだ。就職できない、結婚できない若者の問題。子どもを産み育てづらい社会。「古い世代」はこうした問題に遭遇していない。これからの未来を担う人の問題なのに、解決の兆しさえないのは、そういう理由なのだ。

 この他にも、医療福祉、環境、国家財政、経済政策...など、数多くの問題が論じられていて読みごたえもあって、オススメだ。
 最後にひとつ。本書は今年の9月に出版されたもので、執筆はそれより前だ。しかし、この10月に入って一気に進んだ、米国を震源とする現在の経済危機が端的に予測されている。そして著者が描いてみせたこの国の行く末は...。本書の欠点をあげるとすれば、明るい気持ちになれないことか?

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「この国の経済常識はウソばかり」 固定URL | 6.経済・実用書 | コメント (4) | トラックバック (1)

2008年10月17日 (金)

書くかどうか迷いましたが、書きます。

 私の「本読みな暮らし」と、キアさんの「活字中毒日記」の記事が盗用されているのです。
 それも、記事をまるまるコピペされて。あきれてしまいます。

 「読書を楽しもう」  http://katujityudoku.seesaa.net/
 (「katujityudoku」ってのも、あきれて開いた口がふさがらない)

 この記事を書くかどうか迷いました。実はこれが初めてではないのです。以前にも同じようにコピペされていたことがあり、その時も、プロバイダがSeesaaでした。もちろん、同じ人がやっているとは限りませんが、私は同じ人の可能性が高いと思っています。
 その時は、Seesaaに通報したところ、他の規約違反もあったそうで、とても素早い対応でアカウントが削除されました。今回も通報するつもりですが、2度あることは3度ある、同じことの繰り返しが予想されて...。

 迷ったけれども書くことに決めたのは、この記事を書けば、「読書を楽しもう」 のオーナーさんも見ると思ったからです。どういうつもりでやっておられるのか分かりません。悪いことだとは、本当に思っていらっしゃらないかもしれない。しかし、私は心を痛めています。お読みになったら、ぜひ止めてください。

---- 2008.10.23 追記 ----

 先ほど、問題のサイトにアクセスしたところ「HTTP 403 アクセス不可」という、エラーメッセージが表示されました。
 サイトが閉じられたということかと思います。ヤレヤレです。(まだ、安心できませんが)

 コメントや他のメッセージで、励ましの言葉をたくさんの方からいただきました。私より怒ってくださった方もいらっしゃいました。
 ひとまず解決ということで、ここにお礼を申し上げます。
 

 
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「書くかどうか迷いましたが、書きます。」 固定URL | | コメント (10) | トラックバック (0)

2008年10月13日 (月)

崖の国物語9 大飛空船団の壊滅

著  者:ポールスチュワート 訳:唐沢則幸
出版社:ポプラ社
出版日:2008年10月第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 虚空に向かって突き出した世界「崖の国」の物語も、外伝を除けば本書で9巻目。前書「真冬の騎士」のレビューにも書いたように、このシリーズは世代の違う3人の若者、クウィント、トウィッグ、ルークが、巻によってそれぞれ主人公となっている。
 そして、これまでにトウィッグの物語が3巻、ルークの物語が3巻、既に出ていることから考えると、9巻目はクウィントの物語の締めになるに違いないと予想した。その予想は的中、本書の主人公はクウィントだ。彼が前巻で修業した飛空騎士団を出て、父である風のジャッカルとともに空賊船に乗り込んだ後の物語だ。

 今回の物語は、「危機→脱出」の小さな波を小刻みに繰り返しながら、最後のヤマ場に向かう。ストーリーのアップダウンだけを考えれば、比較的平板な感じだ。その代りかどうかわからないが、クウィントの父に対する思いや、マリスとの関係の変化など、心の内の微妙な描写がされていたと思う。
 本書で全編に渡って物語の軸になるのは、裏切りによって家族を殺された風のジャッカルの復讐劇だ。罠だと感づいていても仇敵がいるとされる場所へ危険を顧みずに赴く。あまりの執念に、クウィントも空賊船の乗組員も怖れ慄くほどだ。
 これに、大きくは商人連合 VS 空賊連合の対決が絡み、小さくは登場人物たちの私憤や裏切りなどが絡んで物語のキーポイントになる。「平板」とは書いたが、構成は巧みで、相変わらず分厚い530ページが苦もなく読める。

 冒頭に書いたように、シリーズはこれで9巻目。3人の主人公を3巻ずつ描いてこれで完結かと思われたが、訳者あとがきと著者のオフィシャルサイトによると、もう1冊出るらしい。原書の出版が2009年2月というから、日本で出版されるのはいつになるのだろう?

 1つ言い忘れた。シリーズの読者なら承知と思うが、3人の主人公の物語の時代は近接している。だから登場人物や出来事は、3つの物語を跨ってつながっている。「あの人にはここでこんなエピソードが..」なんて読み方も、9巻が揃った今ならできる。

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「崖の国物語9 大飛空船団の壊滅」 固定URL | 1.ファンタジー, 17.P・ステュワート(崖の国) | コメント (0) | トラックバック (1)

2008年10月 7日 (火)

お客をつかむウェブ心理学

著  者:川島康平
出版社:同文館出版
出版日:2008年7月25日初版
評  価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 本書は、「ウェブ商人」を名乗る著者が、モノを売るウェブサイトの工夫の数々を紹介したものだ。「ハロー効果」「ザイオンス効果」などの、50個の心理学の知見を巧みに活用して、お客の心理を読んで「注文」ボタンを押させるテクニックが満載だ。
 50個の心理学用語がそれぞれ4ページの章建てになっていて、全部の章で、事例を交えた用語の解説と、それをウェブに落とし込む方法の例示、という同じ構成になっている。何ともまじめで親切な本だ。読みやすさの点からも評価できる。

 例えば「バンドワゴン効果」。これは、行列ができているお店に人気が集まるように、多くの人に支持されている(と感じる)ものに惹かれる現象のこと。バンドワゴンとは、パレードの先頭を行く楽隊車のことだ。
 これをウェブに落とし込むと、セミナーの告知広告なら、講師のアップの写真だけでなく、過去のセミナーの参加者の後頭部がたくさん写っている写真を載せる、となる。「こんなにたくさん人が来ているのなら、いいセミナーなんだろう」と、思ってもらえることを狙っているわけだ。
 別に取り立てて目新しいことはないように思うかもしれない。しかし、レストランのウェブサイトなどを見たらどうだろう?きれいな(無人の)店内の写真が載ってはいないだろうか?「静かで落ち着いた雰囲気」が売りならそれも良いが、そうでなければ賑わいのある写真が1枚あってもいいように思う。
 ちなみにレストランでは、客の入りの少ない時間帯は、窓際に案内することが多い。客が誰もいないと入りにくいから、というのが理由らしい。「バンドワゴン効果」という用語を知らなくても、レストランは本業ではそういったことを知っているのだ。

 敢えていくつか気になったことを言わせてもらう。1つは些細なことだが「サブリミナル効果」の紹介が不十分なこと。「アメリカの映画館で実際にあった有名な話」として、(確かに有名なコーラとポップコーンの)エピソードが紹介されている。しかしこの実験は後に、実験者自身がデータが不十分だったと告白しているので、実際にあった、と言い切るのはどうかと思う。まぁ、その後の解説には影響しないのだけれど。
 もう1つは、「ウソ」に対する許容度が、私とは少し違うと感じること。コミュニティサイトへお客のフリをして書き込むとか、玄米の紹介で(事実のあるなしは関係なく)「健康診断で医者に良いと言われた」と書いた方が効果的だとか。私はこれらはウソ、不誠実だと感じる。
 著者がいる「売れてなんぼ」の世界では許容範囲なのだろう。こんなことを言う私が甘チャンなのかもしれない。もう一つ言えば、この本の基ネタはセミナーらしい。口頭で言われる分には、私も抵抗なかったかもしれない。
 しかし、50個の用語が全部とは言わないが、相当数は役に立つし、ウェブサイト以外でも応用可能だ。だから基本的にはオススメの本だ。おいしい魚を食べていたら、小骨がノドに刺さったようなモノ。魚のおいしさが変わるわけではない。

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2008年10月 4日 (土)

スカイ・イクリプス

著  者:森 博嗣
出版社:中央公論新社
出版日:2008年6月25日初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「スカイ・クロラ」 シリーズ 番外編の短編集。読売新聞の会員制WEBサイト等で連載された作品5編と、書き下ろし3編を収録。本編で重要な脇役であった、ササクラやティーチャ、カイ、それからミズキ(!)らを中心に据えたサイドストーリーだ。連載された既出作品は、シリーズの世界で生まれた「小さな物語」。魅力的な脇役にスポットを当てて、世界観を補足したり、脇役のファンに応えたりするものだろう。(実際、ササクラやティーチャのファンは多いようだし)

 しかし、書き下ろし作品3編はそういう主旨のものとはちがう。これは、本編の5冊を読んだ読者に巻き起こった「あの「僕」は一体誰だ?」の堂々めぐりに、著者が応えたものだと思う。
 「何て読者想いの著者なのだろう」とは思うが、そこはシリーズ5冊を費やして読者に「なぞなぞ」を仕掛けた著者だ。種明かしはしてくれない。ヒントだけを残して「これでおしまい」とばかりに、またもや扉を閉じてしまった。
 ただし、提示されたヒントは、謎の核心に迫るものだった。「ここまで分かれば、ちゃんと整理し直せば、すべてがスッキリする答えにたどり着けるのでは?」という期待を抱かせるに必要十分なヒントだと思う。

 今、私の手元には本書で得たヒントを元に、出来事を組み立て直そうとしたメモがある。あと少しで分かりそうなのに..。いやいや、5冊を読み終わった後に「分からないのが楽しい」なんて言って自分に言い聞かせたはずだ。これでまた、分かりたくなってしまったではないか。著者は何てことをしてくれたのか..。
 思えば「スカイ・クロラ」を読んでからこれまで、ずっと著者の術中にはまりっぱなしで、もてあそばれたようなものだ。

 あぁ、ホントはどういうことなのか知りたい..。

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2008年10月 1日 (水)

蒲公英草紙 常野物語

著  者:恩田陸
出版社:集英社
出版日:2005年6月10日 第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 これは、泣かせる本だった。実を言うと、いよいよクライマックスというところで、ちょっと気になった場面があって、一旦は気持ちが落ち着いてしまった。それにも関わらす、気がつけば涙。ふいに目から涙がこぼれた。
 本書は、不思議な力を持つ「常野」の一族の人々や歴史を表した短編集「光の帝国」の続編、いや関連本と言った方が良いかもしれない。主人公というか、語り手は宮城県の山村に住む少女の峰子で、彼女は「常野」の者ではないので。
 今は年を取って娘と孫と一緒に東京に住んでいる峰子が、少女時代を述懐する形で物語が綴られている。「蒲公英草紙」は、峰子が自分の日記に付けた名前だ。家の窓から見える丘に群れ咲くタンポポが、峰子の故郷の原風景なのだ。

 物語の時代は、「新しい世紀を迎える」とあるから明治の中ごろか。峰子は、村の名前になっているほどの名家「槙村」の末娘の聡子のお話し相手としてお屋敷に上がる。そこには、様々な人が出入りし、中には長期に渡って逗留している人もいる。東京で洋画を学んだ画家、傷心の仏師、なんの役に立っているのかわからない発明家など。
 そんな槙村の家を「常野」の春田の親子4人が訪れる。短編集「光の帝国」の「大きな引き出し」で登場した、人の記憶や思いを丸ごと「しまう」能力を持つあの一族だ。もちろん彼らの能力は、物語で重要な役割を担う。私は「彼らの能力はこうして使うのか」と得心した。

 本書は、峰子の視点で槙村の人々を描き、「常に村のために」という「槙村の教え」を守った槙村家の悲話だ。そこに感動の、もっと言えば涙腺を刺激するツボがある。これだけでも本書の紹介として十分なのだが、蛇足と知りつつ、もう少し広い目で見て感じたことをいくつか述べる。
 槙村は、水害に会いやすい土地らしい。現在でもそうだが、100年前ではなおのこと、自然災害の前には人々は無力だ。大きな水害に合うと、村が1つ壊滅してしまう。この時代はこんなにも人々の生活が危ういものだったのだ。未来を見ることのできる「遠目」の能力は、こんな時代には至宝とも言えるだろう。
 しかし、その能力を以てしても時代のうねりには抗えない。語っている峰子の「今」は太平洋戦争の終戦の日なのだが、20世紀の前半分がどのような時代であったのかは知っての通り、戦乱の時代だ。「常野」の人々にはその予見はあったはずだが、どうしようもなかったのだ。
 いや、そんな「時代のうねり」などという大げさなものを持ち出さなくても、「常野」の力が及ばないことがある。本書の悲劇もその1つだ。

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