崖の国物語9 大飛空船団の壊滅
著 者:ポールスチュワート 訳:唐沢則幸
出版社:ポプラ社
出版日:2008年10月第1刷
評 価:☆☆☆(説明)
虚空に向かって突き出した世界「崖の国」の物語も、外伝を除けば本書で9巻目。前書「真冬の騎士」のレビューにも書いたように、このシリーズは世代の違う3人の若者、クウィント、トウィッグ、ルークが、巻によってそれぞれ主人公となっている。
そして、これまでにトウィッグの物語が3巻、ルークの物語が3巻、既に出ていることから考えると、9巻目はクウィントの物語の締めになるに違いないと予想した。その予想は的中、本書の主人公はクウィントだ。彼が前巻で修業した飛空騎士団を出て、父である風のジャッカルとともに空賊船に乗り込んだ後の物語だ。
今回の物語は、「危機→脱出」の小さな波を小刻みに繰り返しながら、最後のヤマ場に向かう。ストーリーのアップダウンだけを考えれば、比較的平板な感じだ。その代りかどうかわからないが、クウィントの父に対する思いや、マリスとの関係の変化など、心の内の微妙な描写がされていたと思う。
本書で全編に渡って物語の軸になるのは、裏切りによって家族を殺された風のジャッカルの復讐劇だ。罠だと感づいていても仇敵がいるとされる場所へ危険を顧みずに赴く。あまりの執念に、クウィントも空賊船の乗組員も怖れ慄くほどだ。
これに、大きくは商人連合 VS 空賊連合の対決が絡み、小さくは登場人物たちの私憤や裏切りなどが絡んで物語のキーポイントになる。「平板」とは書いたが、構成は巧みで、相変わらず分厚い530ページが苦もなく読める。
冒頭に書いたように、シリーズはこれで9巻目。3人の主人公を3巻ずつ描いてこれで完結かと思われたが、訳者あとがきと著者のオフィシャルサイトによると、もう1冊出るらしい。原書の出版が2009年2月というから、日本で出版されるのはいつになるのだろう?
1つ言い忘れた。シリーズの読者なら承知と思うが、3人の主人公の物語の時代は近接している。だから登場人物や出来事は、3つの物語を跨ってつながっている。「あの人にはここでこんなエピソードが..」なんて読み方も、9巻が揃った今ならできる。
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