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2008年8月

2008年8月30日 (土)

夜をゆく飛行機

著  者:角田光代
出版社:中央公論新社
出版日:2006年7月25日発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の本は「八日目の蝉」に続いて2冊目。「八日目の蝉」が面白かったので(評価は☆3つだけれど)、いつか他の作品も読もうと思っていた。それで、図書館の棚にあった一番最近に出た本として手に取った作品が本書。やはり人気があるらしく、近著は借りられていたらしい。

 主人公は、商店街で酒屋を営む家族の末娘で高校生の里々子(リリコ)。彼女は上から有子(アリコ)、寿子(コトコ)、素子(モトコ)の3人の姉と両親がいる。その他に祖母や叔父・叔母など親戚も多くいて、正月には毎年どこかの家に集まって宴会をする。一時代前には普通にあった家族・親戚の在りようだ。
 一時代前風なのは、家族で営む酒屋も同じだ。これは、1999年の秋からの約1年間の物語。今から10年近く前とは言え、奥の暖簾の向こうに居間があって、ちゃぶ台が置いてあるような店は十分に時代遅れだろう。だから、近所にオシャレなショッピングセンターができると、ピタリと客足が途絶えてしまった。

 こうした舞台の上で、事件が起きる。誰の身にも起きることではないが、誰の身に起きてもおかしくないような事件が。例えば、突然、叔母が病気で亡くなる、とか。その時、里々子の父(亡くなった叔母から見れば兄)が取った行動は..。常識的には考えられないことだが、その後の行動を見れば、それが父の性格をすごく良く表していることが分かる。
 性格描写という点では、本書では一家6人の性格が、セリフや小さなエピソードの積み重ねによって、くっきりと描かれている。そして、6人の性格がバラバラだ。これで、家族としてまとまるのかと心配なほどで、実際危うい場面もある。でもなぜか、気が付けば父の立てた方針で足並みが揃っている。「どうしようもなく家族は家族」という帯の惹句の通りだ。

 それから、里々子について。彼女は、周囲の人の多くが気に入らない。姉たちの言動にイラつくし、姉の元恋人、義兄、元クラスメイトはキライだ。でもそれを口に出しては言わない。
 また、家族の誰かが、1人で出かけたくない時に誘われるのは、決まって里々子。そんな時にも、イヤとかダメとか言えない。そんな彼女の「自分のなさ」にイライラする人もいるだろう。しかし、私はそれを、18才の女の子の素の姿なんだろうと思った。

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2008年8月26日 (火)

チョコレートコスモス

著  者:恩田陸
出版社:毎日新聞社
出版日:2006年3月20日発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 これは、面白かった。著者の本はこれで3冊目。人気作家であることも知っているし、この前に読んだ「ドミノ」がとても面白かったので、他の本も..と思ったけれど、ホラー系は苦手なもので、どの作品を読むかずっと逡巡していた。
 本書の表紙を見て「ドミノ」と同じようなテイストを感じて手に取った。でも帯には「そっち側へ行ったら、二度と引き返せない」なんて書いてあるし、表紙だって良く見直したらガイコツだ。ちょっとためらったが、読むことにした。結果的に正解。読んで良かった。こんな面白い本を2年半も放っておいたことがくやしいぐらいだ。

 今回は演劇界の話。役者や作家、監督、プロデューサーなど、舞台に関わる人たちがそれぞれ懸命に生きている世界。そして主人公は、その世界の底辺?に位置する、まだ公演経験もない学生劇団に、新しく入った大学1年生の女子、飛鳥。
 彼女の目線で語られる部分はほんの僅かだし、彼女に絡んでくる女優の響子の方が、その心理が物語のタテ糸として機能しているので、飛鳥を主人公とは言わないのかもしれない。しかし、飛鳥なくしてはこの物語は展開しないし、そもそも始まりさえしなかった。

 飛鳥は、演技の経験が学芸会ぐらいしかないにも関わらず、その卓越した演技で劇団の先輩を驚愕させただけでなく、作家やプロデューサーらプロの度肝をも抜く。どのような演技かは、簡単に紹介できるものではないので、本書を読んでもらうしかない。その場に居合わせた登場人物たちと同じように、読んでいて私も震えが来た。これは、物語に入り込んでしまっていることの証とも言える。もちろん著者の筆力のなせる技だ。
 しかし、私がそれ以上にスゴいと思ったのは、著者のアイデアの豊富さだ。何度もオーディションのシーンがあり、それぞれに難題とも言える課題が課せられる。主人公の飛鳥だけでなく、何人もがそれに挑戦するのだが「そんなやり方があったか」という解答をそれぞれが演じてみせる。当たり前だが、この解答はすべて著者の頭から生まれたもの。恐るべき発想力だ。
 物語のタテ糸を構成する、響子の心理も見もの。オススメの1冊だ。

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2008年8月24日 (日)

ウェブ時代をゆく -いかに働き、いかに学ぶか

著  者:梅田望夫
出版社:ちくま新書
出版日:2007年11月10日第1刷 2007年12月5日第4刷
評  価:☆☆☆(説明)

 あとがきによれば、本書はベストセラーとなった「 ウェブ進化論」と対になった本である。前書がウェブ時代の意味を書いたものであるのに対し、本書は「その時代に生まれる新しい生き方の可能性」をテーマとしたものだ。
 実は、私が本書を手にした時に期待していたのは、「ウェブ進化論」を読んだ時の新鮮な驚きや、現状が整理されて目の前が晴れるような感覚の再来だった。そして残念ながら、そういったものは、本書にはない。
 しかし、それは当然である。冒頭のように、本書は前書の続編や新版ではないのだから。私の勝手な期待が叶えられなかったにすぎない。サブタイトルに「いかに働き、いかに学ぶか」とあるのだから、テーマが違うことに気が付くべきだったのだ。

 まずここで思考実験。あなたは、航空宇宙工学で熱の制御を専門に博士号を取得しようと勉強中です。就職先として専門を生かせるNASAやボーイング社が考えられるけれど競争は厳しそうです。そんな時、Googleが巨大コンピュータシステムの熱処理の課題を抱えていて、そこに新しい職業が生まれそうだと聞きました。直感的にパッと考えて、NASAやボーイング社とGoogleのどちらを選びますか?
 著者は、前者を「古い職業」後者を「新しい職業」として、その人の志向性を試している。2つの職業には優劣は全くない、だた「新しい職業」もあるのだよということを、著者は特に若い人に言いたいのだ。そして「飯を食う」つまり自分と家族を養うだけ稼ぐには、色々な方法があるのだよと言っている。

 「新しい職業」にはルールがなく不安定だということで、「道しるべ」のない「けもの道」という言い方を著者はしている。著者自身、1980年代に20才代半ばにしてコンサルタントという「けもの道」を歩き出して今日に至っている。そしてその頃に比べると、知りたいことは「すぐに」「無償で」ウェブで手に入る。今後は、ウェブの世界とリアルの世界の境界に、新しい職業や新しい雇用の形が次々に生まれてくる。だから、自身の時より「けもの道」も歩きやすくなっているはずだ、というわけだ。
 本書では、もっと具体的に「けもの道」の歩き方の指南がされている。先ほどの思考実験で「新しい職業」を選んだ人、大組織の中で生きづらいと感じている人、好きなことでやりたいことがある人は、一読をお薦めする。ただし、簡単にできる方法が書いてあるわけではないので、そのつもりで。

 ここから先は、書評ではなく、本書中にあった「人を褒める能力」ということに関して、思ったことを書いています。
 興味のある方はどうぞ

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2008年8月21日 (木)

ダウン・ツ・ヘヴン

著  者:森 博嗣
出版社:中央公論新社
出版日:2005年6月25日初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「スカイ・クロラ」シリーズの第3作。今回はいきなり戦闘シーンから始まる。このシリーズでは、独特の浮遊感がある空の飛行シーンが評判になっている。たとえ戦闘シーンであったとしても、自由感や開放感が感じられて私も好きだった。
 ところが、今回はそのようなシーンがこの冒頭を除いてはない。空の飛行シーンはそれなりにあるが、主人公は自由に飛ばせてもらえなていないからだ。私が感じていた自由感や開放感は、主人公が感じていたものを共有したものだったのだ。

 その主人公「僕」は、今回も草薙水素だ。前作でティーチャが去った今、この基地だけではなく、会社全体のエースパイロットになっている。そして、彼女には会社の広告塔としての役割が期待され、その結果上に書いたように、自由に飛べる機会を失ってしまったわけだ。
 それから、ここで行われている戦争は、多分に政治的な意図を持ったものらしい。「政治的でない」戦争というものは想像し難いので、もう少し説明が必要だろう。この戦争は、国民に一定の緊張感を与えると同時に、反政府感情を抑制することを「政治が意図した」戦争、しかも戦禍が必要以上に広がらないよう「コントロールされた」戦争なのだ、。
 こういったことは、読者はウスウス感じているかもしれないが、主人公は、初めて聞かされる。彼女にとっては「聞きたくないこと」だ。「空に上がって敵を墜とす」「自分の方が下手であれば墜とされる」というシンプルなことだけが重要で、それ以外のことは雑音に過ぎない。雑音を知ったことが、さらなる閉塞感を生んでいる。

 戦争のウラ事情や、会社の上層部の思惑などは「大人の(汚れた)世界」の話。本書では所々で、「子供と大人」の話が出てくる。冒頭の戦闘シーンにも「あれは、子供のやることじゃない」というセリフがある。
 この巻は、キルドレである(つまり大人にならない)草薙水素が、大人の世界に引き出されて摩擦を起こして傷つく巻であり、「死」を恐れない故に、却っていままで考えることのなかった自らの「死」を、考えることになってしまった巻でもある。
 彼女が、この後、どのように「大人の世界との摩擦」にケリを付けるのか、あるいは付けないのか。気になるところである。

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2008年8月20日 (水)

海駆ける騎士の伝説

著  者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:野口絵美
出版社:徳間書店
出版日:2006年12月31日初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

  なんと、この作品はジョーンズの1970年のデビューを4年遡る1966年に書かれた作品。著者が30才のころ、3人の子育てに追われながら自分の楽しみのために書いた、6つの作品の6番目だという。つまりは素人作品ということ。それでこの面白さ、ワクワク感は驚きだ。

 舞台は100年以上前のビクトリア時代の英国。主人公は、16才のセシリアと12才のアレックスの姉弟。2人は海辺の丘に住んでいて、そこから浅瀬でつながる島には、幽霊が出るとか、行った人は帰って来ないとかいう噂がある、廃墟となった城がある。
 ある夜、その島から来たという中世の騎士のような出で立ちの男が、助けを求めて2人の家を訪れたことから、2人の冒険が始まる。島へ渡る秘密の道、隠された王国、そこで起きる陰謀。この作品がもっと早くに世に出ていたら、著者の代表作になったのではないかと思わせる完成度の高さだ。

 完成度の高さ、という点には少し補足が必要かと思う。本書は比較的短い作品だということもあって、ストーリーに複雑さが少ない。後の作品のような、入り組んだ展開や隠された意味のような仕掛けが少ない。
 複雑な伏線はジョーンズの持ち味とも言えるが、読み手の力量が足りないと、読み終わっても何だかスッキリしない、もう1回遡って読んで何とかやっと分かる、という事態に時々陥る。本書は、こういった心配がないので、これを私は敢えて「完成度が高い」とした。もちろん裏を返せば「平板でつまらない」とする向きもあるだろう。
 しかし「平板でつまらない」と思うかどうかは、読んでみないと分からない。(私はつまらないとは思わなかった。)だからジョーンズファンの人には、これを読まないという選択はないように思う。

 こういった現在の作品との比較のことは、「訳者あとがき」にも同様のことが書いてある。ついでに訳者の言葉を借りれば「ジョーンズ作品を読みなれていない読者にもおすすめ」である。ジョーンズが初めての人は「ハウル」や「クレストマンシー」シリーズの前に、本書を読んでみてはどうか?と思う。

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2008年8月17日 (日)

姑獲鳥の夏

著  者:京極夏彦
出版社:講談社
出版日:1994年9月5日第1刷 1996年6月10日第16刷
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は、1994年に刊行された著者のデビュー作にして、その後に現在まで続く「百鬼夜行シリーズ」の第1弾。著者はこの本の原稿を講談社に持ち込んで、出版が叶ったというから、すごい新人作家の華々しい登場、といったところだっただろう。本書は、LazyMikiさんからお薦めいただいて読みました。

 この本は傑作だと思う。おもな舞台は殿様のご典医として名を成した病院。その因習に囚われた旧家を襲う陰々滅々とした風聞の数々。そのうちには真実はあるのか、あるいは名家に対する人々の嫉妬に過ぎないのか?随所にちりばめられた伏線、それを1つに結びつけて真実を鮮やかに解き明かす結末。推理探偵小説の醍醐味が、上下段組みの430ページという決して短くない長編にぎっしりと詰まっている。映画やドラマになれば評判を呼ぶことだろう。
 さらに、この本が傑作だと思う理由は、祟りだとか憑き物だとか妖怪だとかの「非科学的」な恐怖を、認知科学のウンチクを交えて論駁していく、魅力的な登場人物、中禅寺明彦こと「京極堂」を創造したことだ。彼の存在が、長く続くシリーズを引っ張って来たことは疑いない。

 しかし、この物語は私の感覚では、かなりキワドイ。新生児の死亡、婿入りした医師の失踪、20か月も身ごもったままのその妻、という事実が、様々な風聞いや醜聞の元になっている。鬼子母神の近くという病院の立地もあって、赤子喰いだとか、その祟りだとか、いやあの家はもともと...などという、ちょっと口に出しては言えないような話題が、物語の基本部分だ。さらに、事件の背景で起きていた出来事は、これまた世間で禁忌とされていることだったりする。こういったことの1つ1つに嫌悪の情を持ってしまうと、後味の悪いものになってしまう。
 京極堂は、古書店経営という職業の他に、神社の宮司であり、祈祷師の一種である「憑物落とし」をやっている。いわば、科学の対極に位置するような人物なのである。しかし「この世には不思議なことなど何もないのだよ」というセリフが口癖で、オカルト的な恐怖を理詰めで解明しようとする理論家でもある。彼が、事件にまつわる様々な気味の悪い出来事を解き明かして説明してくれるのだが、私には「それでもやっぱり...」といううすら寒さが残ってしまった。

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2008年8月12日 (火)

ももいろの童話集

編  者:アンドルー・ラング 監修:西村醇子
出版社:東京創元社
出版日:2008年7月25日 初版
評  価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 編者のアンドルー・ラングは、19世紀から20世紀初頭にかけて、世界各地の民話・昔話を収集再話した、英国の古典学者、民俗学者。よりすぐりの作品を子どもたちに提供するため、全12巻の童話集を刊行した。その童話集には、青、赤、緑、黄、....と色の名前が付けられていた。
 本書「ももいろの童話集」は、東京創元社が刊行する、同じ色の名前が付いた12巻シリーズの5巻目になり、スウェーデン、デンマーク、シチリアなどの昔話が25編収録されている。それぞれの巻は、ラングの原書のすべてではなく、各巻より作品を選んで収録している。あまりに残酷なものや、差別的態度のもの、日本で入手しやすいものや日本の昔話などは、選から除外したそうだ。

 世界の昔話を収集・再話したということだから、多くの話が1か所に勢ぞろいしていることによる資料的価値に意義がある。たとえば、並べて読んでみると、兄弟・姉妹では末っ子がしっかりして、ダメ兄貴は失敗する話が多いこととか、「~してはいけない」と言われると必ずそうしてしまうこととかが分かる。しかし、半ば安心して半ば飽きながら読んでいると、そういったパターンから逸脱している話もちゃんとあって、さらに興味深い。

 もちろん、それぞれの話の面白さとか、展開の巧みさとか、込められたメッセージとか、評価したい点はいくつもある。しかし、逆に言えば、そういった小説を論評するような分析的な目で見ていると、批判したくなる部分も出てきてしまう。「それじゃぁ、元も子もないじゃないか」とか、「えっ、そんな終わり方でいいの?」とかいう話も1つや2つではない。
 でも、そのことが本書の価値を左右するものではないはずだ。ある地域で語り継がれてきた話を、不都合があるからと言って面白くしたり、教訓的にしたりといった歪曲を行うべきではないのは自明なのだから。というわけで、今回は、個々の話についての評価はしないことにした。

 物語が好きな人、子どもに聞かせる話のレパートリーを広げたいと思う人は、何色でもいいからこのシリーズ1冊を読んでみるといい。気に入ったならもう1冊、と増やしていけばいい。また、漢字にはすべてルビが振ってあるので、小学校低学年でも読める。本を読む年ごろのお子さんに贈るのもいい。
 子どもは、いろいろなお話を聞いて、読んで、想像力や創造力、さらには生きる知恵などを身につけていく、そして大人よりも多くのものを吸収するのだと思うから。

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2008年8月 8日 (金)

西の魔女が死んだ

著  者:梨木香歩
出版社:新潮社
出版日:2001年8月1日発行 2008年2月25日第51刷
評  価:☆☆☆(説明)

 「家守綺譚 」の著者による100万部超の大ベストセラー、「渡りの一日」という後日談の短編を収録した文庫版で読んだ。2008年6月には映画が公開されている。

 本書の背景に流れる時間も、「家守綺譚」と同じく現在とは違う。いや「時代」としての「現在」ではなくて、便利なものに囲まれて暮らしている「生活」としての「現在」とは違う、という意味だ。
 飼っている鶏の卵を採って朝食に食べ、大物の洗濯はタライを使って足で踏む。そんな生活は、日本ではいつごろまで普通に見られたのだろう。私には小さい頃に田舎に行って、そんな光景を見たかすかな記憶しかない。それが、そこでは普通のことだったのかどうかも分からない。

 物語は、学校へ行けなくなった中学生の少女 まい が、母方の祖母との素朴で平和な暮らしのなかで、心の健康を取り戻していく過程を描いたもの。祖母は英国人、祖父は日本人でまいが小さいころに亡くなっている。
 「西の魔女」とは、この英国人の祖母のことだ。自分の家系は魔女の家系で、自分の祖母(つまり、まいの高祖母)は、予知能力があったという話をまいに聞かせている。そして、自分も魔女になれるかというまいに、魔女修行を勧める。
 しかし、祖母が言う魔女とは、魔法使いのことではなく、自然から得た知恵を活かして、身体を癒したり、困難をかわしたり、耐え抜く力を持った者のこと。そして、ここがこの本の主題だと思うが「外からの刺激にいたずらに反応しないこと」、つまり、自分で考え判断することができる者が上等の魔女だと言う。

 長く読まれている話だけあって、良いお話だ。色々なメッセージも伝わってくる。子どもには子どもの、大人には大人の読み方があって、世代を越えて読める。「大人の読み方」ということになるだろうか、私には、まいの父と隣家のゲンジが、何かを象徴しているようで気にかかった。
 良い人であるが、ものの表層だけで本質を見ない父。品性を学ばないで年をとってしまい、悪い人ではないのだが、まいにとっては汚れた大人にしか見えないゲンジ。祖母が言う上等の魔女とは対極にある人物像だ。自戒をこめて言うが、こういう大人が実は多い。

 本書の本筋からはズレてしまうが、感じたことを1つ。まいが学校へ行けなくなった理由はいじめだ。女子のグループ作りがなんとなくあさましく感じて、そういうことをしなかっただけのために、クラスの女子全員を敵に回してしまったのだ。
 こういったことは人の性として直しようがないのかと、暗くなってしまった。本書が単行本で出版されたのは1994年だ。それから十数年経ったが、何かが良くなったという話は聞かない。

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2008年8月 4日 (月)

生物と無生物のあいだ

著  者:福岡伸一
出版社:講談社
出版日:2007年5月20日第1刷 2008年2月8日第14刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 50万部を超えるベストセラー。比較的安価で手に取りやすい新書であることを考えても、学術的なテーマであることを考えると、よくこれだけ売れたものだ、と思う。
 本書は、生物と無生命との境界線(著者はエピローグで、界面(エッジ)という用語を使っている)を、著者の専門である分子生物学の知識をベースにさぐる良書だ。生物と無生物の境界線をさぐることは、つまりは「生命とは何か」を考えることでもある。
 そして「生命とは何か」というテーマは、深遠でありながら、多くの人の興味を引く、抜群の魅力というか市場性のある「おいしいテーマ」だ。それを、本人の研究成果や、この分野のちょっと気の利いたエピソードを交えて、平易な言葉で軽く、しかしあくまで真剣に綴る。最初に「よくこれだけ売れたものだ」とは書いたけれど、読んでみて分かったが、これだけ条件が揃っているのだから、売れるべくして売れたのかもしれない。

 詳細は、本書を読んでもらうとして、ちょっとだけ中身を紹介。前半は、今や中学で教える学校もある、DNAの二重らせん構造の発見を中心とした、ノンフィクションドラマ風読み物だ。その分野に属する人々には周知のことかもしれないが、外部の人はほとんど知らない「本当はこうなんだよ」という話が次々と語られていて、とても面白い。
 後半は、いよいよ「生命とは何か」について、少しづつ少しづつ論を進めて、生命の姿を現していく。大学の生涯学習講座を聴講しているかのような分かりやすさだ(そして、基礎知識さえ持たない聴講生が飽きないような工夫も)。
 「生命とは何か」という命題に対する本書の結論には、批判や不服もあるだろうが、著者なりの結論は出ているし、私はこれで良いと思った。

 ところで、皆さんが食べ物として摂取したタンパク質に含まれる窒素は、体重が変わらないとすると、食べ物を口にした後、どうなると思いますか?このことを知りたいと思った人なら、本書を面白く読めると思う。きっと新鮮な驚きがありますよ。

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2008年8月 1日 (金)

だから片づかない。なのに時間がない。

著  者:マリリン・ポール 訳:堀千恵子
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2004年6月10日 第1刷 2004年7月7日 第2刷
評  価:☆☆(説明)

 ビジネス書・実用書を中心に書評を書かれているブログ「本読みサラリーマン」で、たかさんが紹介されていた本。片付かないし、仕事の期限に追われている身を思い、参考になればと思い読んでみた。

 この本は、私に向かって書いているようでもあり、私には合わないようでもあった。中に例として出てくる「滑り込みで締切に間に合わせたことに達成感を感じる人」とは、正に私のことだ。大事な会議の資料を10分前に仕上げて、周囲に迷惑をかけておきながら「間に合わせる自信はあった」なんて言う始末だ。
 その一方で、著者がかつてそうだったと言う「散らかった部屋は温かみがあり、きれいに整った部屋はなんだか冷たい」「だらしなさは創造性の源」なんていう考えには、全く賛成できない。だらしない人は言い訳の天才、というくだりもあるが、片づけないことの言い訳としてもかなり程度が低い。こういう考えの人を対象にしているなら、私とは合わない。

 サブタイトルにある「7つのステップ」とは、(1)目的をはっきりさせる (2)ビジョンを描く (3)現状を検討する ...という感じで、(7)心を深く掘り下げ、変化を維持する、まで続く。そして、それぞれのステップごとに「やってみよう!」というワークシート的なものがいくつかついて、親切な作りになっている。
 ただ難点なのは、このステップの1つ1つが(したがって全体ではさらに)面倒なことだ。習慣や意識を変えようというのだから、そうそう簡単にはいかないのはわかる。でも、面倒なことができないからこそ「だらしない」のではなかろうか?
 それから、この7つのステップは、企業経営のステップに似ている。これは、恐らく偶然ではなく、著者が組織改革等を専門とするコンサルティング会社の経営者だからだと思う。企業のワークフローを変えるのと同じアプローチで、個人の習慣を変えようという考えなのだろうか?どちらも、相当エネルギーを必要とすることでは共通しているが。

 「習慣を変える」ということで言えば、本書のかなりの部分で繰り返されているのは、「それが習慣になるまで続ける」「挫折しても、元に戻ってしまっても、またやり直す」ということだ。何度でも、何年でも。著者も、机の上を整理する習慣化のために30~40回トライしたという。正論ではあるけれども、これも「だらしない人」には苦手なことだろう。
 その点、随所にちりばめられている「ちょっとしたアイデア」には使えるものもある。例えば「所要時間を実際に計ってみる」。所要時間を短く見積もってしまって失敗することがあれば、実際にやってみたらあっという間に終わってしまうこともある。洋服をハンガーにかけてしまうのは面倒だけれど、実は15秒しかかからないことが分かると苦にならないかもしれない。
 この本を読んでキチンとした習慣が身につくかどうかは疑問。大きな期待をしないで少しでもヒントを拾おうというぐらいが良いと思う。

補足があります。こちらからどうぞ。

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