« 2008年6月 | トップページ | 2008年8月 »

2008年7月

2008年7月28日 (月)

てるてるあした

著  者:加納朋子
出版社:幻冬舎
出版日:2005年5月25日
評  価:☆☆☆(説明)

 「ささらさや」の続編、「佐々良」という同じ街を舞台とした、1人の少女が経験した半年余りの物語。登場人物の街の住人たちは、前作と同じ面々。「ささらさや」の主人公のサヤも登場する。あれからどれだけ経ったのか分からないが、サヤの子のユウ坊がまだ赤ん坊のままだから、それほど月日は流れていないようだ。

 今回の主人公、照代は15歳、志望校に合格し、晴れて入学式を迎えるはずだった4月に、夜逃げするハメに陥って、遠い親戚である久代を訪ねて一人佐々良に来た。15歳の少女には少し過酷な境遇だ。子どもと言うには成長しすぎているが、一人生きていくのは難しい、まだ大人の保護が必要な年ごろ。
 この街では不思議なことが起きる。前作でサヤの死別した夫が、サヤを助けるために度々現れたような不思議なことが。今回も、照代の周辺には不思議がいっぱいだ。少女の幽霊が現れたり、発信元不明のメールが届いたり。しかし、幽霊が出てくるからと言って怪談ではない。少しホッとする物語がやわらかい文章で展開する。

 この物語は、照代の心の再生物語だ。照代は羽振りの好い家庭で育った。だが夜逃げをしなければならなくなったのは、まっとうな金銭感覚がない浪費家の両親のせいだ。多重債務によって実現した羽振りの良さだったのだ。
 カネやモノは欲しがるだけ与えていたが、愛情は十分に注がなかったようだ。少なくとも、照代自身はそう感じていた。そのためか、やさしくまっすぐなサヤから受ける言葉や親切さえ、嫌悪してしまうほど心がササクレていた。
 しかし、久代やサヤ、そしてクセのある佐々良の街の人々から、たくさんの親切を受けることで、照代の心も穏やかさを取り戻していく。

 このように書いてしまうと、ひどく一本調子でありがちな話のように思える。しかし、この著者は日常に潜むミステリーを書く人だ。ちょっとした伏線が張られていたり、意外な幽霊の正体など、良い意味で読者を裏切る仕掛けがあって楽しめる。

 最後に、この本を読まれた方にお伺いしたいことが...ここからどうぞ(ちょっとネタバレ)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

続きを読む "てるてるあした"

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「てるてるあした」 固定URL | 3.ミステリー, 34.加納朋子 | コメント (5) | トラックバック (1)

2008年7月26日 (土)

ナ・バ・テア

著  者:森 博嗣
出版社:中央公論新社
出版日:2004年6月25日初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「スカイ・クロラ」シリーズの第2作。「ナ・バ・テア」とは、"None But Air"の読みをカタカナで表したもの。本文中に「周りには、空気しかない。何もない。」という箇所があるが、そこのところを表しているんだろう。こういう英語の使い方は、他にもあるかもしれないが何となくカッコいい。

 本書の主人公の僕は、戦闘機のパイロットだ。戦闘機に乗って空を飛んでいるときだけ、自由になれる、笑うことができる。撃墜されて戻って来られないかもしれなくても、帰還して着陸するときには「次はいつ飛べるのだろう」と思うような性格の持ち主だ。主人公によると、戦闘機乗りはみんなそうなんだそうだが。
 また、他人と深く付き合うことができない、将来のことを考えない、欲と言えるのは「もっと性能の良い戦闘機に乗りたい」とか「上達したい」とかだ。それには、戦闘機のパイロットという職業以上に、その生い立ちが関係している。主人公は、キルドレと呼ばれる、子供のまま大人にならない、ケガ以外では死なない、という宿命を負っている。

 そんな主人公、他人のことに興味がないはずの主人公が、何故か「ティーチャ」と呼ばれる天才パイロットに「憧れ」を抱いた。本人にも何故そんな気持ちになったのかわからない。このことが物語の始まりになっている。
 実は、このことは本書の始まりであるだけでなく、(今のところ)シリーズの始まりにもなっている。2作目の本書は、1作目の「スカイ・クロラ」から何年か遡った物語だ。1作目で何の説明もないままだった様々なことが、本書で明らかになっていて「そういうことだったのか」という満足感が広がる。

 それに、詩のように短い言葉で綴られる空中戦のシーンが相変わらず秀逸、使われる言葉に馴染がないにも関わらず、映像が目に浮かぶようだ。それから、言い方は悪いが、独特の浮遊感で最後まで引っ張った感のある1作目と違い、ストーリーにドラマ性も見えてきた。3作目が楽しみだ。
 「作者の術中にはまるのを承知で、2作目を読むしかない。」と、1作目のレビューで書いたが、まさにその通りになったということだ。

 にほんブログ村「森博嗣ワールド 」ブログコミュニティへ
 (森博嗣さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「ナ・バ・テア」 固定URL | 3.ミステリー, 33.森博嗣 | コメント (15) | トラックバック (3)

2008年7月24日 (木)

広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由

著  者:スティーブン・ウェッブ 訳:松浦俊輔
出版社:青土社
出版日:2004年7月8日第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は、物理学者である著者が、「フェルミのパラドックス」と呼ばれる疑問の50通りの解を紹介し、その解に関連した学問上の話題を解説したものだ。「フェルミのパラドックス」とは、「銀河系に恒星間通信ができる地球外文明(Extra-Terrestrial Civilization:ETC)が相当数あると推定されるのに、どうしてまだこちらへ来ていないのか、せめて向こうからの声が聞こえてこないのか?みんなどこにいるんだろう?」というものだ。
 「銀河系にETC(車に載せるのじゃなくて「地球外文明」)が相当数あるって考えるのが、そもそも間違いじゃないの?」と多くの人が思うだろう。私もこの解を示せと言われれば、そう答えるだろう。

 ところが、銀河系には数千億もの恒星があり、一定の割合でそれぞれ複数の惑星を持っている。「(地球には特別なところは特にないとする)平凡原理」を適用すれば、生命にふさわしい環境は億単位で存在するはずなのだ。
 それでも先の「銀河系にETCが..間違いじゃないの?」と言うのであれば、「そのうちの知的生命が誕生する割合は..。さらに..」と考えていって、最終的に地球に対して通信を行うETCがゼロになることを示さなければ、解を示したことにはならないのだ。

 そして、このパラドックスに対して50通りもの解がある。このことにまず驚く。人類の想像力、知的探求心に、無限の可能性を感じる。もちろん、ある解を発展させて別の解を導いているものもある。また著者の判断では「これではこのパラドックスの解としては不十分」というものもあり、どの解も同じように確からしいわけではない。
 しかも、読み物としてはあまり確からしくないものの方が面白いから厄介だ。私が一番気に入ったのは、解1の「彼らはもう来ていて、ハンガリー人だと名乗っている」だ。フェルミがいたロスアラモス研究所には、(ノイマン型コンピュータで有名な)フォン・ノイマン他、人間離れした知性を持ったハンガリー人研究者が何人もいたそうだ。

 また、本書は科学知識の広く浅い読み物としても面白い。「フェルミのパラドックス」の解の紹介という形を取ってはいるが、取り上げられる話題が豊富だ。UFO、太陽系、宇宙物理学、相対性理論などは、本書のテーマから考えてありそうな話題だが、その他にもDNAや生命の誕生、進化など、ちょっと知的好奇心をくすぐる話も満載だ。
 難解な話も少なからずあり、くじけそうになるかもしれないけれど、宇宙と科学にちょっと興味がある方の話題作りに役立ちそうだ。

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由」 固定URL | 5.ノンフィクション | コメント (8) | トラックバック (3)

2008年7月22日 (火)

やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている

著  者:荒濱一 高橋学
出版社:光文社
出版日:2008年7月30日
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の高橋学さんからいただきました。高橋さん、どうもありがとうございました。

 本書は、2007年7月に発行された前作「結局「仕組み」を作った人が勝っている」に続く第2弾。前作で、ビジネスの「仕組み」(=「自分がさほど動かなくても自動的に収入が得られるシステム」)に焦点を当て、大きな反響を呼んだ。
 本書の冒頭の解説によると、前作では、その「仕組み」の所有者10人のケーススタディを紹介。そこでの主張は、いわゆる「ラットレース」からいかに脱出するか?そのためには仕組みの一部になるのではなくて、仕組みを所有することが欠かせない、ということだった。

 「ラットレース」という言葉を有名にしたのは、おそらくロバート・キヨサキ氏の著書「金持ち父さん貧乏父さん」だろう。そこに書かれていたことは、お金の使い道として「お金を生むもの(資産)を買え」ということ、もっと直接的な言い方をすれば投資のススメだった。ただ、あまり役に立つ情報は得られなかった。肝心の「投資の方法」はごくあっさりとしか書かれていなかったので。

 その点、本書は同じ「ラットレース」からの脱出の指南書としては、実に有益だ。9つの様々な業種業態の「仕組み」成功例が収録されている。しっかりしたインタビューを基に、その事例のポイントがまとめられている。読者は、ここから多くのものを吸収することができると思う。
 さらに巻末には、9つの事例+前作の10事例の思考を、普遍化、体系化し、さらには実践例まで書かれている。この部分については正直に言って、枠にムリに押し込めることで、カドを丸めてしまう(各事例のとんがった部分があいまいになる)恐れを感じた。しかし、これは「前作とは異なる斬新な切り口を..」という、著者お2人の奮闘努力の成果であり、まずはそれを称えたい。
 起業を考えている人、組織の中でも変革を望んでいる人(もう少し組織の中での「仕組み」にもページを割いて欲しかった)には、一読をオススメする。得るものがあると思う。
 
 最後に。中に1つ株式投資の事例がある。プログラムの指示通り売買をする「システムトレード」という手法だ。確かに、プログラムが仕組みとなって働き、自分がさほど動かなくても収入が得られる。しかも、そのプログラムは自ら開発したものだ。だから、「仕組み」の成功者として本書で取り上げるのに不都合はないのかもしれない。
 しかし、私は、この事例にだけは違和感を感じた。誰かが、こういう投資スタイルを実践するのは構わない。だから、紹介された方を非難するのではない。これを「良い事例」にしてはいけないと思うのだ。
 なぜなら、こうした企業経営を全く無視した投資スタイルが一般化すれば、市場の乱高下を招いてしまう。さらに言えば、これは投資ではなくギャンブル、でなければゲームだ。競馬の必勝法があるとして、それを実践した人も「仕組み」成功者なのか?それに、著者が「おわりに」で言うところの「顧客心理」という要素が、この事例に限っては全くないと思うが、どうだろうか?

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている」 固定URL | 6.経済・実用書 | コメント (5) | トラックバック (2)

2008年7月17日 (木)

大量監視社会 誰が情報を司るのか

著  者:山本節子
出版社:築地書館
出版日:2008年4月20日初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 著者は、行政ウォッチャー、調査報道ジャーナリストとして、主に環境問題、ゴミ問題に取り組んでこられたようだ。他の書籍は読んだことがないのでわからないが、本書を読む限り、膨大な資料を読み解き、そこから1つの文脈を探り当てる手法のようだ。その手腕は並大抵のものではない。各章末に記載される参照資料の量が、著者の分析力とエネルギーを表している。

 高速道路に設置されたETCやNシステム、コンビニやスーパーなどの商業施設に留まらず街中に設置された監視カメラなどによって、我々の生活は監視されている。本来、「監視」というのは、悪を為す可能性のある者を見張ることであったはずが、「安心、安全のため」という名の下に、国民全員を監視する仕組みが出来上がってしまっている。これが、タイトルの「大量監視」の意味するところだ。

 話は、官僚と企業との癒着、いや実際には企業に主導権を取られている実態とか、米国の悪名高い盗聴システム「エシュロン」の話とか、様々に発展して行き、それぞれ読み応えがある。そして、その発展が収斂していく先にあるものは、「日本はまた戦争をするのではないか?」という重大な懸念だ。
 住基ネット、教育基本法改正、有事関連法、IT機器やGPSの利用など、一つ一つの出来事は、若干の違和感はあっても、許容範囲、もしくは好ましい変化だとさえ思えるようなものであっても、あるフィルターを通して見ることで、とんでもない方向を指し示していることが分かる、そんな感じだ。

 9.11以降、国外や入出国を見ていた米国の監視の目が、米国内に向き始めた。日本の警察組織だって、国民の安全を守る組織もあるが、国の治安や体制維持のためには、国民を監視し、場合によっては拘束する組織だってあるのだ。
 本書は、最後の章でナチスのユダヤ人虐殺の際に、いかに情報システムが有効に使われたかを示している。そういったことを考え合せると、一見バラバラに取得されているように見える、我々の生活の断片の情報が、一か所に集約される可能性があるとしたら、サブタイトルの「誰が情報を司るのか」の答えが「国家」であるとしたら...著者の重大な懸念が、起こりうる現実となって迫ってくる。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「大量監視社会 誰が情報を司るのか」 固定URL | 5.ノンフィクション | コメント (1) | トラックバック (1)

2008年7月14日 (月)

家守綺譚

著  者:梨木香歩
出版社:新潮社
出版日:2004年1月30日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「家守」はヤモリではない、イエモリと読む。さらに、平安貴族でも徳川一族でもない。主人公綿貫征四郎は、亡くなった親友の高堂の実家が空くのに伴い、そこに住んで管理をしている。つまり「家の守」をしている。それで家守。
 場所は京都。山一つ越えたところに湖がある、その湖から引いた疎水の近くとあり、文中に登場する山の名前などから考えると、山科から大津にかけてのあたりらしい。時代は、トルコの軍船の遭難事件への言及などから推察するに、明治の中ごろか。
 山科は古くから宿場町として栄え、この頃には鉄道も通っていたので、決して辺鄙な田舎町ではなかっただろう。それでも100年以上前の日本には、この小説のような、濃密な自然や異世界を感じる空気が流れていたに違いないと思う。

 そう、本書では様々な怪異なことが起こる。死んだ親友の高堂は壁の掛け軸を通ってやってくるし、主人公は何度か異界へ迷い込みそうになる。河童や鬼、狐狸妖怪の類が次々登場する。そういった短編が28編収められている。
 しかし、決して怪奇小説のような怖さを感じさせないのは、話の背景を流れる時間がゆったりしていることと、こういった怪異な現象を、登場人物たちが普通に受け止めているからだろう。
 とくに隣家のおかみさんが、いい味を出している。池の端に落ちていた気味の悪い布か皮か分からないものを見て「河童の抜け殻に決まっています」。散歩の途中で見かけた不思議な老人のことを聞くと「それはカワウソですよ」しかも「この辺の最近の子供なら、みんな知っている」とくる。悪さをするものならそれに備えるのが知恵だし、害がないのなら特に騒ぐこともない。誠に自然体の暮らしぶりなのだ。

 私は、乱読多読気味の読書なので、基本的には時間と気力のある限りドンドン読み進めます。本書もそうして読んでいたのですが、なかなか先に進まない。つまらないわけではないのにどうしてだろう、と思っていました。
 それは、本書の時間の流れがゆったりしているからなんだと思います。気が付くと、何となく今読んだ話を思い返して浸っていました。そんなことを一話ごとにやっていたので読み進まないのでした。
 この本は、手元に置いといてゆったりと一話ずつ読む、そんな読み方が似合うのでしょう。そんなことを思った本は初めてなので、そうしてみたいと思います。

 本書は、「鴨川ホルモー」のレビューにコメントをくださったLazyMikiさんから薦められて読みました。LazyMikiさん、良い本を教えてくれてありがとう。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「家守綺譚」 固定URL | 2.小説, 25.梨木香歩 | コメント (16) | トラックバック (2)

2008年7月10日 (木)

36倍売れた! 仕組み思考術

著  者:田中正博
出版社:ライブドアパブリッシング
出版日:2008年7月3日初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 著者は、「おまかせホットライン」という保険代理店を創業し、ちょっと長めのサブタイトル「なぜ私は営業マン0人で営業利益1億円を稼げたのか?」のとおり、驚異的な利益を稼ぎ出している経営者。そのセールス手法を余すところなく公開したものが本書。
 書いてある内容は至ってシンプル。シンプルという言葉は英語では必ずしもほめ言葉ではないらしいが(つまらない、無知な、という意味もある)、私が意味しているのは「単純」であり、だから「わかりやすい」ということ。さらに言えば、読んだ人が実践しやすいし、応用も効く。ノウハウ本としてはすごく大事なことだと思う。

 著者の主張をひとことで言ってしまうと「売らずに、売れる」ようにする、である。そのための方程式があって、それは「(商品を魅力的に見せる)×(それを欲しいと思う人を探す)×(目の前にそっと置く)」だ。なんだか、当たり前すぎて拍子抜けしてしまいそうだけど、本書の素晴らしいところは、これを実践するための電話の掛け方と、DMの作り方と送り方が紹介されている点だ。それも、その手法は著者の会社で効果が実証済みときている。セールスに関わる方には一読の価値があると思う。

 電話とDMと言えば、どこから情報を仕入れるのか、頼んでもいない様々なDMが届き、家にいると「この度、大変オトクな○○が発売され....」という電話セールスに辟易する。そんな経験をお持ちの方が多いのでは?本書では、このテのセールス手法を「間違い」と言って切り捨てている。電話でセールスするのも、DMが届いた頃に電話フォローするのも、ああ言えばこう言う式の食い下がりも、きれいなデザインのDM封筒も、あれもこれも間違い。

 詳細は本書に譲るとして、1つだけ有益なヒントを。それは、著者のオリジナルではなく、ホイラーという経営学者の考えだそうですが、[YOU]能力というもの。つまり相手側に立つ能力、お客の目を通して自分の商品を見る能力、が大事だということ。上に書いた電話セールスやDMが好きな人は少ない。ということは、これらの手法は[YOU]能力に欠けていることは明らかなわけだ。

 最後に、タイトルの「36倍売れた!...」は、著者の会社のDMの成約率が11.56%で、これをDMの世界で言われる「センミツ(千三つ)」、つまり1,000に3つぐらいしかレスポンスがない、の0.3%と比較して36倍というわけ。
 そして、サブタイトルの「営業利益1億円...」だけど、どういう期間の金額なのかこのレビューに書こうとして、ザッと読み返したけれど、書いてある場所が見つけられなかった。それで、色々探していてあるものを見つけた。月刊アントレの6月号に「創業わずか2年で年商1億円」という記事。そして、本書の著者紹介には「創業2年半で営業利益1億円」。きっとチャンとした説明はあると思いますが、なんだか不思議な数字。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「36倍売れた! 仕組み思考術」 固定URL | 6.経済・実用書 | コメント (7) | トラックバック (3)

2008年7月 9日 (水)

あなたの余命教えます

著  者:幸田真音
出版社:講談社
出版日:2008年3月24日
評  価:☆☆☆(説明)

 自分の余命が正確に分かるとしたら、それを知りたいと思いますか?
 本書の主人公の永関恭次は知りたい思った、それが物語の始まり。電機メーカーに勤める部長代理、年齢は56歳、家族は妻と大学生の娘。高校時代の同級生の訃報を受けたことをきっかけに、自分はあと何年生きるのだろうか?それが分かれば生き方も変わるかもしれない...という思いを抱いた時に、余命を高精度で診断する会社に遭遇したわけだ。

 あなたの余命..というタイトルだが、何も余命が気になるのは自分のとは限らない。介護が必要な家族を抱えている場合とか、遺産目当てに年寄りと結婚したとかで、近しい人の余命が分かれば、と思うことがあるだろう。本書の他の登場人物たちは、様々な理由で自分以外の余命を知ろうと余命診断を申し込んだ人々。
 人の生き死にのことだから、どんな理由であろうと、他人の余命を知りたいと思うこと自体が不謹慎だとマユをひそめる向きもあろう。登場人物たちもそのような後ろめたさを持っている。余命診断の説明会で出会った主人公を含む4組5人の男女は、その後ろめたさからか奇妙な連帯感を持ち、メールアドレスや電話番号を交換し(名前は偽名を名乗って)、連絡を取り合うことになった。

 物語は、他の人々の事情に振り回される永関の様子が健気(56歳のおっさんには似合わない言葉だけど)で、声援を送りたくなる。なぜか、全員から相談を受けることになる。人から悩みや相談ごとを打ち明けられるのは久しぶりだ、などと言っていて、ちょっと嬉しくてはりきってしまっている。おまけに、その内の一人の17歳年下の美女とは、親密な関係になりそうな予感までして。
 読み終わって思うのは、「余命を知る」ということが、想像以上に感情を揺さぶるということだ。自分の余命はもちろん、他人のものであっても。予想に反した結果が出た時はもちろん、特に予想をしていなかった場合でさえ、受け取った結果に狼狽している。やはり、生き死にを知るのは、我々には荷が重すぎるのだ。

 人の死を扱っているのだけれど、ウツウツとした感じはしない。ヒドイ悪人も登場しないし、ちょっとホロリとさせる場面もあるし、軽めの読書にもオススメ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「あなたの余命教えます」 固定URL | 2.小説 | コメント (6) | トラックバック (1)

2008年7月 8日 (火)

九年目の魔法(上)(下)

著  者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:浅羽莢子
出版社:東京創元社
出版日:2004年11月10日初版
評  価:☆☆☆(説明)

 この本は、私には少し合わなかったようだ。読み終わった直後の感想はそうだった。ジョーンズ作品は十数冊読んできて、程度の差はあってもどれも楽しめたのに。途中打ち切りのためにあわてて最終回を迎えたテレビドラマのようだった。
 途中で起きた様々な出来事が、最後の一章で見事に収束したようになっている。しかし、私にはとっ散らかった話が、ほったらかしになっているように見える。あの事件は何のためだったの?この人は結局誰なの?何でこんなことになったの? 数多くの?が、頭の中で渦巻く。

 主人公は、19歳の大学生ポーリィ。自分の部屋の写真を見ていて、今自分が覚えているものとは、少しずつ違う別の記憶があることに気づく。10歳から数年間の記憶が二重になっているようだった。
 そして、10歳のハロウィーンの日に近くの屋敷で出会った男性トーマス・リンとの関係を中心に記憶を呼び覚ます。その後、周囲の協力を得て、自分とトーマスに何が起きたのかを突き止める。
 ポーリィのトーマスに対する感情が、少女の大人の男性に対する憧れから、もう少しハッキリした恋愛感情に移っていくあたりは、ラブストーリーとしても読ませる。上下巻2冊で合計500ページを超える大書にも関わらず、読み切るのに苦労させない筆運びはさすがだと思う。

 しかし、冒頭に書いた数多くの?には困ってしまった。登場人物たちの不可解な行動、普通では起こりえない不思議な出来事。裏に陰謀や魔法の存在を強く漂わせて最終章に至るが、謎は謎のまま?
 ネット上の感想を見ると、ジョーンズ作品の中でも本書が一番、という方が結構いらっしゃる。「本を読みなれた人じゃないと難しいかも」という意味のコメントもあって、ちょっとヘコんでしまった。
 巻末の解説によると、「詩人トーマス」と「タム・リン」という2つの民間伝承が理解のカギを握るらしい。どちらも妖精国の女王に囚われた男の話で、日本で言えば浦島太郎や桃太郎のように、英国では誰でも知っている物語なのだそうだ。この2つの話は、本文中に名前が出てくるし、各章の扉には引用もされている。しかし、訳詩のほんの短い引用なので、意味を理解することは難しい。

 そして、解説に書いてあるあらすじを頭に入れて、何カ所か再読してみると...あら不思議、話の要点がスルスルと頭に入ってくる。これは、誰でも知っているおとぎ話を現代に置き換えた、少女の成長の物語(ポーリィはヒーローになろうと修行していた)だった。これなら面白いし、好きだという人がいるのもうなずける。
 だから「詩人トーマス」と「タム・リン」のことを知ってから読めば、ずっと理解しやすい。反面、お話の先行きが予想できてしまうかもしれない。本書を読む前に頭に入れるか、読んだ後にするかは、読む人次第だが、どちらにしても2つの民間伝承のストーリーを仕入れることを強くオススメする。

 にほんブログ村「ファンタジー」ブログコミュニティへ
 (ファンタジー小説についてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「九年目の魔法(上)(下)」 固定URL | 1.ファンタジー, 14.ダイアナ・ウィン・ジョーンズ | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年7月 4日 (金)

「本屋さんへ行こう!」に掲載されました。

 「本屋さんへ行こう!」というサイトの「あなたの書評」コーナーに、私の「青い鳥」の書評が掲載されました。ここに400~600字の書評を投稿すると、週に1本が選定されてサイトに掲載されます。そして、掲載されると、1000円分の図書カードがもらえます。ラッキ~。

 このサイトは、日本書店商業組合連合会が運営しています。街の本屋さんの団体ですね。ネット書店に押されて厳しい状況が続いてるんだろうなぁ、と思います。私の家の周辺でも廃業されるところがチラホラ。がんばって欲しいですね。
 かく言う私も、本屋さんにある本はそこで買いますが、探してもない本はネットで買います。取り寄せに10日間と言われると、ちょっと待てない...。

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「「本屋さんへ行こう!」に掲載されました。」 固定URL | | コメント (7) | トラックバック (0)

2008年7月 2日 (水)

レイン・レインボウ

著  者:加納朋子
出版社:集英社
出版日:2003年11月30日
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「ななつのこ」で、鮎川哲也賞を受賞してデビューした著者の連作短編集。「ななつのこ」と同じように独立した短編がリレーのようにつながり、1つのストーリーを紡ぎだしていく。「ななつのこ」よりも、全編を通したストーリーが大きくしっかりとした太い流れになっている。連作短編集という、著者のスタイルが確立されてきたということなのだろう。とても面白く読んだ。

 ストーリーは、高校のソフトボール部のOGの死から始まる。
 その葬式に7年ぶりにかつての部員たちが集まる。その後は1編ずつ、1人ずつそれぞれを主人公とした、それぞれの生活が描かれる。何気ない生活の中のちょっとした事件を描くのに、著者は長けているので、1つ1つが短編として面白い。だから、最初の葬式は人物紹介の代わりかと思って、短編と短編のつながりをあまり意識しないでいた。
 しかし、読み進めるに従って、ある短編から別の短編へと、細いつながりがあることに気付いた。物語は何かに向かって進んでいることが分かる。何に向かって進んでいるのかは、何が起きているのかが明らかになる最後まで分からないが、とても大きな流れを感じることができる。素晴らしい構想力だと思う。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「レイン・レインボウ」 固定URL | 3.ミステリー, 34.加納朋子 | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2008年6月 | トップページ | 2008年8月 »