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2008年6月18日 (水)

ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている

著  者:スティーブン・ジョンソン 訳:山形浩生 守岡桜
出版社:翔泳社
出版日:2006年10月3日初版第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 本書が、いわゆる「ゲーム脳」をはじめとする、ゲームやテレビを見るとバカになるだけでなく、脳に悪影響を及ぼして人格破壊さえ引き起こす、という言説へのアンチテーゼになっていることは間違いない。「テレビゲームは頭を良くしている」という副題は、そういった言説を「信じている」、もしくは「そうかもしれない」と思っている、良識のある人たちにとって、挑戦的でさえある。挑戦的すぎて、読もうともしないのではないかと懸念される。
 だからこそ敢えてゲームやテレビを排斥しようとする「良識のある人」にも読んでもらいたい。そういった人には、バランスとして「ゲーム脳」と相反する書籍を読む必要があると思うからだ。

 内容について言えば、評価と落胆が相半ばする。挑戦的なサブタイトルに反して、非常に冷静な分析が続く。しかし、それは別の言い方をすれば、インパクトがあるようなことは書かれていない、とも言える。それ故、評価は☆3つとした。

 でも、著者がこの本を出した意図は、サブタイトルが表すような、テレビやゲームを全面的に擁護し、それが頭を良くすることを知らしめることではない。「メディアの暴力表現は現実の暴力につながるのか否か」「テレビゲームがキレやすい子どもを作っているのか否か」という議論をヤメにして、あるいは、こういう議論だけではなくて、メディアやテレビゲームの悪影響も効用も同じように研究して、読書や野外活動やその他の体験とのバランスや「適切な摂取量」を考察するための議論をしようよ、ということなのである。
 この作者の隠れた意図に興味がおありでしたら、一読をオススメします。

ここから先は、詳しい内容に触れています。
興味のある方は、どうぞ

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 著者は、テレビやゲームが伝える「内容」ではなく、「構造」に焦点を絞って論を進めている。「内容」を主題にすると、良いものは良く、悪いものは悪い、としか言いようがない。読書が子どもの心を育むということに異論を唱える人は少数だろうが、保育園児にポルノ小説を与えて良しとする人はさらに少数だろう。要は「内容」は選別が必要なだけなのだ。

 「構造」に焦点を当てるとは、例えばこういうことだ。現代の米国のテレビドラマは、1回の放送の中でたくさんのエピソードが並行して進行し、かつそれぞれのエピソードが複雑に交錯する。こういった複雑な構造は、30年前のテレビドラマにはなかったことである、という具合だ。
 「ER」や「ザ・ホワイトハウス」などをご覧になった方は、この意味が良く分かるだろう。ほとんど主要な登場人物の数だけ、別々のエピソードが並行して進行する。私などは初めて「ザ・ホワイトハウス」を観た時には、あまりに目まぐるしくて、ついていくのがやっとだった。
 著者の調査によると、30年前までのドラマでは、1回の放送で並行して進むエピソードはせいぜい3つだったそうだ。それが今は、10個ぐらいのエピソードは平気で含まれているし、何週間も前にちょっと出た話の続きが、前触れなく登場することもあるという。

 このことによる、著者の主張はこうだ。「30年前のテレビ視聴者より、現在の視聴者の方が、複数の物事を同時に追い、記憶しておく能力に長けていることは確実だ」。なぜなら、テレビを観ることで、そのトレーニングが行われているから。ちょうど私が「ザ・ホワイトハウス」を、今はリラックスして観ることができるようになったように。
 そして、「受動型のテレビの視聴によって、どんどん人々がモノを考えなくなっている」という言説もウソだと言う。

 同じように、テレビゲームのことを「なんでも思い通りになる仮想世界」として、こういう世界に浸っていると、思い通りにならない現実にキレてしまう、という論にも切り返す。「ゲームの目的を達成するためには、気が遠くなるような退屈な作業をこなさなければならない。何でも思い通りになったりしない。」と。
 確かに、「何でも思い通りになる」なんて思う人は、ゲームをやったことがない人だろう。さらに、ロールプレイングゲームを例にとって、目的の達成のためには、「ルールを把握」して、「調査(人に聞く、調べる)」し、「仮説を立てる」などの作業が必要とする。複雑化する一方のゲームに取り組むことは、こういった能力を鍛え上げることになる、としている。

 さて、考えられる効用は、この他にもいくつか挙げられているが、実証性となるとどうなのだろう?本書では、ここ30年のIQが急上昇していることを挙げている。ちょうどメディアが複雑化していった時期と重なるというわけだ。著者はこの因果関係を補強する説明を試みているが、あまり成功したとは言えない。
 この意味では、「過去10年ほどの間に少年の凶悪犯罪が増えているのは、ゲームの普及の時期と重なっている」と言うのと、その因果関係の信憑性において大きく変わらない。(もっとも「少年の凶悪犯罪の増加」という部分自体にも疑義があるのだが)
 だから、この本を以てして、テレビやゲームは頭を良くする、と言うにはムリがある。一方で「ゲーム脳の恐怖」が「トンデモ本」と言われながらも、その内容を基にした講演が保育園で行われ、ポスターが小学校に貼られている現状がある。本書が、著者の意図どおり、従来の不毛な議論から1歩踏み出す契機となれば、十分ではないかと思う。

 
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コメント

はじめまして。
映像制作会社の株式会社アーツテック代表の酒井靖之と申します。
今回、『メディア』についての記事を書いたので、
勝手ではありますが、コメント、トラックバックさせていただきます。

よろしければ、覗いてみて下さい。

投稿: 酒井靖之 | 2008年7月 8日 (火) 19時21分

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