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2008年6月22日 (日)

ワーキングプア 日本を蝕む病

著  者:NHKスペシャル「ワーキングプア」取材班
出版社:ポプラ社
出版日:2007年6月11日第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2006年の7月と12月に放送されたNHKスペシャル「ワーキングプア ~働いても働いても豊かになれない~」「ワーキングプア2 ~努力すれば抜け出せますか~」の取材を基に、数多くの事例を紹介するドキュメンタリー作品。この国を蝕む「新貧困」問題を問う議論するための絶好の事例集となっている。

 「新貧困」や「ワーキングプア」とはどういったことか?「ワーキングプア」とは、「働いても生活保護水準以下の暮らしを強いられている人たち」と、本書の中では紹介されている。「新貧困」については、明確に定義されている箇所はないようだ。しかし、海外に目を向けて、飢餓に直面するような「貧困」と区別するために「新」を冠した、ということのようだ。 
 新しい事態を表すためには、新しい言葉が必要となる。「新貧困」という言葉自体が適切なのかどうかはまだ判断できないが、「貧困」と区別したのは正解であると思う。なぜなら、報道番組やワイドショーのコメンテーターの中に、「世界の飢餓に苦しむ人に比べれば、日本はまだいい方ですよ」とか、「日本ほど格差のない社会は、世界中見渡しても数すくないんじゃないですか」という発言をする人が散見されるからである。
 意図的であるのかどうかは別にして、より程度のひどいものを持ち出すことで、問題を軽く(あるいは問題なんかないように)見せる手法だ。同じ「貧困」という言葉で括れば程度の差で比較してしまう。だから違う言葉で語った方が良いと思うのだ。確かに飢餓に直面する「貧困」に比べれば、日本の「貧困」問題はその悲惨さにおいて大したことがないのかもしれないから。

 しかし、問題は確かにそこにあって、放置しておけない状態にまで悪化している。本書はそれを分らせてくれる。政治家や官僚の皆さんには、是非目を通してもらいたい。

 「ワーキングプア」にも一括りにして言えないほど、様々なパターンがある。どんなに真剣に職探しをしても「派遣」や「日雇い」などの不安定な職しか見つからない、子育てをしながらパートを2つ掛け持ちしても月収が10数万円にしかならない女性、海外の安い労働力との競争で単価を極限まで切り詰められて、働き詰めでも手元にほとんど現金が残らない中小零細企業など。
 様々な例の中には、政策の失敗と思われるものも少なくない。労働者派遣法の改正は、企業活動にはプラスの効果があったかもしれないが、働く者の立場を危うくしたことは否めない。政府が打った「自立支援」策は、結果的に補助すべき人々をさらに窮地に陥れている。

 政策の失敗とまでは言い切れないが、衝撃を受けたのは岐阜の繊維産業の惨状だ。安い中国製品との競争で仕事が減ったり、単価が安くなったりした。このことは想像の範囲内で、もはや到る所で同じ問題が起きている。ここの問題はさらに根が深い。中国などから研修生や実習生という名目で来日した人々が7,000人もいて、同じ現場で働く労働人口の実に4割も占めるという。
 その研修生、実習生が時給200円で、日に10時間以上、月に1日あるかないかの休みで就労しているというのだ。これはもちろん違法で許されることではないのだが、競争はこの条件を含んでいて、異常な低水準の単価で行われている。法律を守る業者はいずれ退場するしかないのが現状だ。

 日本は高品質で容易にマネのできない製品で勝負、という経済界や官僚の勇ましいカケ声は一見前向きでもっともらしい。しかし、その「Made in Japan」を中国からの研修生、実習生が低賃金で作っているのでは、そのカケ声は虚ろにしか響かない。
 この研修生、実習生の制度は、日本の発展途上国に対する国際貢献を目的として制度化された。違法行為を想定した制度などないだろうが、国の政策には違いない。国の政策が国の産業と国民を窮地に追い込んでいることも事実なのだ。

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 本書を読んでいて、いくつか心に浮かんだことがあるので、それを書きます。

 まず、「自立支援」策について。政府は様々な自立支援策を打ってきます。障害者の自立支援、ホームレスの自立支援、生活保護受給者の、失業者の、母子家庭の.....。それぞれには、キチンとした理念があり効果的な施策があり、それで救われた人が数多くいらっしゃるであろうことは想像できます。
 しかし、政府が想定した対象から少しはずれてしまうと、その恩恵が受けられないばかりか、新しい法律や制度によってより困窮してしまうケースも多いようです。本書でも、児童扶養手当法の改正によって、制度の理念が困窮家庭の経済的援助から、自律支援へ大きく舵を切ったことによって、手当の額を減らされるケースが紹介されている。
 その代り、自立支援のための各種就業支援策が講じられているのだが、それらは資格や技能を身につけるといったものが多く、お金や長期間の休業が必要で、生活していくのがやっとという家庭では利用のしようがない。

 このことで私が思い当たったのは、仕事上でお付き合いのある官僚や公務員の皆さんの仕事ぶりについてです。優秀な方ばかりで、仕事に誇りと熱意を持っておられます。しかし、施策を考える時にあまり大勢では考えない。よって、想定外の要因があると、たちまち意味をなさないものになってしまうことが、あまりに多い。囲碁などで言う「勝手読み」です。「こうしたらこうなるだろう」と勝手に決めてしまうんです。人間が決めることですから読み違いもあると思いますが、違ったら直せばいいのですが....。

 次に「派遣」や「臨時」について。私には、幸いにも定職があります。採用の際には面接をする立場にもあります。今から書くのは、ここ数年の採用の時の感想です。私の職場でも本書で登場する製造現場と同じく、臨時の割合が高いです。組織の方針で、正規が退職するとその後を臨時で補って来た結果です。
 そして、応募してこられる方の履歴書を見ると、20代半ばから30代で、学校を卒業後に最初に就いた職がアルバイト、という方が多くいらっしゃいます。そして、私の職場で仮に採用しても、1年契約なのでいつまた無職に戻るかわかりません(昇給も賞与もありませんし)。
 特別な技能があるわけではないですが、真面目に勉強して大学を卒業した普通の若者が定職につけない現状は、このことを通して私にも分かっていたんです。

 それから、私の職場でも職業訓練に関係した仕事もあるのですが、ある時、長いお手紙をいただいたことがあります。「就職のために資格とか技術を身につけて、とか、ステップアップとか言いますが、私は特に取り柄のない普通の人でも仕事がある、そんな社会がいいと思います。」というようなことが書いてありました。
 その他にも、わが身の不運を嘆く文面が長々と綴られていたこともあり、その時は、ちょっと考えが後ろ向き過ぎる、と思っただけでしたが、上の政府の自立支援の考え方と併せて考えると、何とも生きにくい国になってしまったと思うのです。

 
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