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2008年5月18日 (日)

ぼくには数字が風景に見える

著  者:ダニエル・タメット 訳:古屋美登里
出版社:講談社
出版日:2007年6月11日第1刷 7月10日第2刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は、サヴァン症候群とアスペルガー症候群という脳の障害を持っているロンドンの生まれの30歳の男性。巻末の解説によると、サヴァン症候群の人は、記憶、計算、芸術などの領域において超人的な才能を発揮する。
 実際、著者は、円周率を22,514桁暗証することができ、驚異的なスピードで言語を習得することができ(例えば、アイスランド語を1週間で)、10ヶ国語を自在に操る。その他にも、カレンダー計算や、ある数が素数かどうかの判断などが一瞬でできる。我々の想像をはるかに超えた「天才」なのだ。

 しかし、彼のことをただ「天才」と呼ばないのは、アスペルガー症候群でもあって、対人関係を築くのが難しかったり、予想外の出来事にうまく対応できなかったりするからだ。
 さらに、彼の素晴らしい能力でさえ、大多数の我々のような「普通の人」(こういう言い方は不適切かもしれないが)とは、脳の働き方が違うという意味では「異常」なので、脳の機能障害とされるからだ。

 本書は、そういった背景を持つ著者が、自分の幼年時代から現在までを克明につづった回想録だ。もちろん、さまざまな出来事があり、苦悩することもあり、ドラマチックでさえある。しかし、正直に言って、赤の他人の自分史を読んでいるわけで、「私はいったい何のためにこの本を読もうと思ったのか?」という気分になってきた。あるところまでは。
 気分が変わるのは、彼が単身東欧の国へ10か月のボランティアに出かけるあたりから。そんなことして大丈夫なのか?しかし、著者自身が本書の中で述べるように、彼はこのことのよって、新しく生まれ変わったようになる。

 読み終わって思い返すと、本書は、ある特殊な障害を持った人間の自己革新ともいえる成長の記録だと分かる。それは、同じ障害を持つ人やその周囲の人々に勇気を与える。そして、我々「普通の人」にも勇気を与える。
 「あんな障害を持った人でさえ...」という言い方は、差別意識を含んでいるのかもしれないけれども、そんな感想が私の心を奮わせた。

 最後に1つ。彼の両親のことを。
 彼の両親は、彼を含めて9人の子どもを育てた。想像するに、とても手間のかかる子どもだったに違いないのに、他の兄弟姉妹と共に、惜しみなく愛情をかけ、さらには、彼の決断を尊重して海外へ送り出した。
 さらに特筆すべきは、彼の両親は彼の病気についての知識はなかったことだ。他の子どもとは違っているように感じられる自分の子どもを、普通の親として育てた。素晴らしい。

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5.ノンフィクション」カテゴリの記事

コメント

こんばんは。
興味深いお話ですね。
サヴァン症候群、アスペルガー症候群という脳の障害をもつ方は皆さんこのような特殊な才能をもつものでしょうか。この方が特別なんでしょうね?

対人障害を持つとはいえ、他の言語を1週間で習得でき、10カ国語を操るなどは羨ましくさえあります。

だいぶ前になりますがNHKの「クローズアップ現代」でパソコンの世界大会上位入賞者は知的障害者(日本人でした)という番組、見ました。健常者と知的障害者のくくりがわからなくなるとコメントしていました。

投稿: 「 | 2008年5月19日 (月) 21時06分

こういう本を読んだ時の心境、何となくわかります。結構深く反省するところや、その力に驚くところ、私は偉人伝を読むより、心に響くものがあります。この本も読んでみたいと思いました

投稿: ピッピ | 2008年5月19日 (月) 21時24分

すごく良さそうな本ですね!
読んでみたいと思います。

そういえば、似たような本で
マンゴーのいた場所というのを読んだことがあります。
http://emity0310.blog34.fc2.com/blog-entry-694.html
すごくいい本だったのを思い出しました。

投稿: えみ | 2008年5月20日 (火) 23時42分

「ふーこ」さん?コメントありがとうございました。

巻末の解説等によると、サヴァン症候群の方はその方それぞれですが、皆さん傑出した能力を持っているそうです。と言うか、脳の機能障害の内、このような能力を伴ったものをサヴァン症候群と呼ぶそうです。(「サヴァン」とは仏語で「学がある」という意味)
アスペルガー症候群の方は、本文に書いたような自閉症に似た特徴がある障害で、特殊な能力の有無は関係ないようです。
しかし、サヴァン症候群の患者の半数は自閉症者で、残りの半数も他の発達障害があると言われています。

--
ピッピさん、コメントありがとうございました。

偉人伝の主人公は「何かを成したか」が評価されるけれど、この本の著者は「いかに生きてきたか」を感じさせます。そして私たち自身には「いかに生きるか」の方が大事だということだと思います。

--
えみさん、コメントありがとうございました。

紹介していただいた「マンゴーのいた場所」も良さそうな本ですね。
いつか読んでみようと思います。

投稿: YO-SHI | 2008年5月21日 (水) 14時13分

こんにちは、桜吹雪です。

桜の花がヒ~ラヒラ~。

私も、脳の機能障害の一種です。

精神障害なのですが、

知的障害でも自閉症でもなく、

アスペルガーでもなく、

引きこもりでもなく、

ましてや天才でもないです。

専門家でも難しい症状だそうでして……。

それでも生きてますよ……。

才能なくても、好きなことはありますし。

投稿: 桜吹雪 | 2008年5月21日 (水) 16時21分

桜吹雪さん、コメントありがとうございます。

本や私の記事に関する感想などがあれば、またコメントください。

投稿: YO-SHI | 2008年5月22日 (木) 15時35分

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