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2008年2月 6日 (水)

心でっかちな日本人

著  者:山岸俊男
出版社:日本経済新聞社
出版日:2002年2月25日1版1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 「心でっかち」という言葉は著者の造語。「頭でっかち」が、知識(頭)ばかりで実際の経験や行動とのバランスがとれていないことを言うように、「心でっかち」は、「心」に重きを置きすぎるものの考え方を言う。

 例えば、学校でのいじめの問題について。「いじめが起きるのは、行き過ぎた個人主義で、子どもたちから他人を思いやる「心」が失われているからだ」という言説。だから「心」の教育が大事、と続いていく。一見して受け入れられやすい話だ。だからこそ危険でもある。
 実際に子供たちに接していれば違和感を感じるはずだ。そうでなくても少しの想像力を働かせれば気が付くのではないかと思う。いじめが起きているクラスの1人1人の子どもを見れば、友達を死に追いやるような子どもが何人もいるはずはない。
 もちろん、全くいないとは言わない。でも、子どもたちに他人を思いやる「心」がない、と言うのは間違いか少なくとも過大な表現であることが分かる。大多数の子どもに「心」の欠如の問題がない以上、この問題を、「心」の教育という漠としたもので解決しようとするのはムリなんじゃないかと思う。
 しかし、先の言説があまりにスムーズに受け入れやすいために、それで良しとして、それ以上の考えも対策もなされない。だから危険なのだ。いじめだけでなく、犯罪や格差の問題など、社会の不都合なことをすべて「心」の問題にしてしまう傾向が感じられるが、それは危険なのだ。

 いじめについての著者の見解はこうだ。クラスの1人が誰か1人をいじめたとする。その時の他の子どもたちの反応が問題を左右する。ほんの少しのバランスが崩れることで、一気に凄惨ないじめに発展することも、解決することもある。
 たとえ自分1人でもそのいじめに立ち向かう子、誰かが一緒なら立ち向かう子、何人以上かが一緒なら立ち向かう子、他の全員が立ち向かうなら従う子、いろいろな子どもがクラスには混在している。逆の言い方もできる。自分もいじめに加わってしまう子、何人かがいじめ始めればそれに加担してしまう子、というように。
 さて、ここで思考実験。自分1人でも立ち向かう子が1人、誰かが一緒なら立ち向かう子が1人、他に3人いれば立ち向かう子が5人.....とすると、このクラスでは2人しか立ち向かうことにならない。しかし、もし「誰かが一緒なら立ち向かう子」がもう1人だけいれば?そう、「他に3人いれば...」の5人も加わって8人、「8人味方がいれば...」という子が何人かいれば、さらにその数は増える。初期のたった1人の行動の違いで結果は大きく左右される。

 このように考えると、いじめは子どもたちの「心」の問題というよりは、社会心理学的現象と捉えられる。そうすれば、解決の糸口も見える。
 学校では、子どもたちのそれぞれが、少しでも仲間が少なくても(3人いれば..と思っていた子は誰か1人でも一緒なら、誰かと一緒ならと思っていた子は自分1人でも、といううように)立ち向かうようにすればいいのだ。
 子どもたちは先生を見ているから、初期の先生のリーダーシップで少なからず反応が変わるはず。いじめに立ち向かおうとする子どもの後ろ盾に、先生がほんの少しでもなれば、事態は変わるかもしれない。これが解決の糸口だと思う。

(補足)
 私は、子どもたちの心に問題がないとは言いません。だから、他人を思いやる心を育ませる、という教育に異議はありません。念のため付け加えさせていただきます。しかし、制度やカリキュラムをいじることで、これができるとは思いません。

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