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2007年8月

2007年8月18日 (土)

天と地の守り人 第三部

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2007年3月初版1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 いよいよ「守り人」シリーズの大団円。チャグムとバルサは再び別々の道を行く。バルサはタンダを救出するための旅に、チャグムはロタとカンバルの兵を率いてタルシュ帝国軍との戦いに臨む。

 目に情景が浮かぶような場面が1つ。タルシュ軍に攻められ防戦一方の新ヨゴの砦で、南から来た援軍を見て指揮官が叫ぶ「ロタ騎兵が助けに来てくれたぞ!希望をすてるな、ヨゴの武者たちよ!」
 目に浮かんだのは、ロードオブザリングで、ペレンノール野の戦場にローハン軍がゴンドールの救援に駆けつける場面。そして、チャグムは「ロタとカンバルの勇士たちよ、志あらばわれにつづけ!」と先頭に立って戦場に飛び出す。
 あまり簡単に感動しないたちなのだが、ここでは身体が震えた。このシーンのために是非映画化して欲しい。NHKで「精霊の守り人」がアニメ化されたが、できれば実写がいい。(もちろん、お金をたっぷりとかけた実写)

 チャグムと帝の親子の関係がどうなるかも気になっていたが、著者はよく練られた回答を用意していた。天災を告げられ、自らの治世の誤りを認めなくてはならなくなった時に、帝は言う、「そなたはそなたの道をいくがいい。」冷たく突き放したような言い方にも聞こえるが、そうではない。父が子を認めた瞬間だったのではないか。決して誤ることのない「神の子」としては、これ以上の言葉はない。

 「守り人」というシリーズ名は、バルサの職業である「用心棒」から由来しているのだろう。しかし、10冊のシリーズが終わってみると、真の主人公はチャグムだった。著者がそう考えていたかどうかはわからないが、おそらくは著者にも意外な展開だったと思う。チャグムの成長を一番うれしく思っているのは、他ならぬ著者自身ではないだろうか?

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2007年8月14日 (火)

終末のフール

著  者:伊坂幸太郎
出版社:集英社
出版日:2006年3月30日 第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 2007年本屋大賞の第4位。小惑星の衝突によって、あと3年で人類が滅びるという設定で、仙台北部のヒルズタウンという20年前にできたマンションの8組の住人の生活を、時に交差しながら描く短編集。

 あと3年で死ぬことがわかっている、(本当は小惑星なんて衝突しないんじゃないかという期待が心の片隅にあるとしても)ある種の極限状態。しかし、登場する人々の行為はそれにしては穏やかだ。
 それもそのはずで、小惑星衝突が明らかになったのは5年前、当初は大混乱し、暴動も殺人もそして自殺も数限りなく起きて、自制心を失った人々はその頃に死んでしまったり、捕まったりして、街からいなくなってしまった。今、残っているのはそうした混乱をなんとか乗り越えた人々なのだ。

 8編を通して感じるのは、終わりが見えるということが、人の心を鮮明にするということ。自分がしなくてはならないこと、本当にしたいことが初めて分かる。
 それは、家族の関係の修復であったり、贖罪であったりと色々だ。難病の子どもを抱えた父親は、子どもを残して自分が死んでしまう可能性がほとんどなくなったことに、この上なく幸せを感じている。
 もちろん、どうせあと3年で終わるのだから、そんな面倒くさいことをしてもしょうがない、と思う人もいる。しかし、より良き人生を送りたいと思う人が多いのではないだろうか。

 あと3年で終わりなのに、少なくなったとは言えスーパーは開いているし、そこで商品を買うのにお金を払う。そのことを不思議に思う場面がある。財産や金銭に価値があるようには思えないのに。案外、今までのやり方を変えることはできないのかもしれない。

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2007年8月12日 (日)

天と地の守り人 第二部

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2007年2月初版1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「守り人」シリーズ最終章 第3部の2。今回の舞台はカンバル王国、バルサの故郷だ。チャグムとバルサはカンバル王にロタ王国との同盟を説くために王城を目指す。
 もちろん、そうすんなりとは事は運ばない。タルシュの刺客に襲われ、頼りの王の盾はタルシュへの内通者だし、山の王に仕える民である牧童の協力は得られなかった。しかも、カンバル王はすでにタルシュとの密約に1歩踏み出してしまっていた。これを逆転する策などあるのだろうかと、絶望的な気持になる。

 このような、「この世」の政治ドラマと共に、シリーズを通して語られてきた「向こう側」のナユグにも大きな動きがある。それも、この第2部で明らかになる。それが「この世」サグに与える影響も。新ヨゴ皇国は、南のタルシュ帝国の侵攻以外にも大きな危機に瀕していることが明らかになる。ますます絶望的だ。

 冒頭の国境越えの際に、盗賊にわざと荷物を「捨て荷」として落としていくシーンがある。盗賊がそこそこの成果をあげて引き上げていくための方策だ。これが、この巻の最後になって重要な意味を持つ。希望が見えるエンディングに少し心が晴れる。

 新ヨゴにもカンバルにもタルシュへの内通者がいる。彼らとて故国を思えばこその背反だ。弱い国がだどる運命の何と過酷なことか。

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2007年8月 9日 (木)

天と地の守り人 第一部

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2006年12月初版2刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「守り人」シリーズがバルサの物語、「旅人」シリーズがチャグムの物語、という示唆が「蒼路の旅人」のあとがきでされていたが、本書はバルサの物語というわけではない。「精霊の守り人」以来7冊のシリーズに続く最終章の3部作の1冊目だ。
 バルサとチャグムはもちろんのこと、タンダやシュガ、トロガイなどの主だった登場人物それぞれに、運命の岐路を迎えることになる物語の始まりだ。

 まずは、「蒼路の旅人」の最後で夜の海に飛び込んだチャグムを捜すバルサの旅を中心にストーリーは展開する。
 チャグムの消息は意外にあっさりと知れる。この後の物語を考えれば、ここで手間取るわけにはいかない、といったところか。しかし、ロタ王国の港町から、大領主の館、そして王宮と、チャグムの足取りはいつもバルサの数歩先に行ってしまって、なかなか追いつけない。
 しかも、チャグムの、ロタと新ロゴ皇国の同盟という思いは次々と裏切られてしまう。それだけでなく、ロタ王国は内部に南北の対立を抱えており、そのあおりも受けて命も狙われている。

 バルサの方も命の危険を冒しながら、チャグムの後を追い、遂にチャグムの危機に間一髪で間に合う。正直に言えば、お話なのだから「遂に間に合いませんでした」と終わってしまうはずがないことは分かっているのだけれど、「本当に良かった」と思わせるほどの迫真の展開だった。

 それにしても、内紛はロタだけではなく、タルシュ帝国も2人の王子が相争い、新ヨゴも大勢はチャグムの味方ではない。しかも、タルシュの密偵がバルサを救出し、チャグムを守るのはロタ王の護衛だ。敵味方入り乱れた展開なのだが、登場人物のそれぞれの性格付けや描写が鮮明で、わかりにくくならない。著者の筆力によるものだろう。

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2007年8月 7日 (火)

図解雑学 超ひも理論

著  者:広瀬 立成
出版社:ナツメ社
出版日:2006年11月27日初版
評  価:☆☆(説明)

 テレビで、宇宙の成り立ちを解き明かす究極の理論として「超ひも理論」を紹介していた。それを観たときには少しわかったような気がした。だから、本を読んでもっと良く知ろうと思って本書を手にした。

 結論から言えば、私向きの本ではなかったようだ。超ひも理論のおぼろげな形を掴むことさえできずじまいだった。
 本書は、「図解雑学」というシリーズの1冊で、その他には「人体の不思議」や「世界の歴史」など、自然、社会、人文科学のテーマが50あまり並んでいる。本書のテーマ「超ひも理論」はかなり難解な部類に入るだろう。
 左ページに解説、右ページにはその説明図、という構成で、平易な説明をしよう、という意思が、この構成からも文章からも伝わる。それでも難しかった。

 量子力学と相対性理論の概略から始まって、この相対する2つの理論の統合の道のりが丁寧に説明されている。これが今の科学のあり方なのかもしれないが、「相反する理論A(例えば量子力学)と理論B(例えば相対性理論)が、ともに正しいとすると、こうでなければうまく説明できない。→であれば、こんなものが存在するはずだ」という、哲学のような論理展開が多い。
 そして、理論的に存在を予言されたものを実験で発見できれば、理論の正しさが証明された、となるわけだ。これは良いのだけれど、実験で裏付けられていない物質は「まだ発見されていない」という言い方をするらしいが、これには違和感がある。理論に誤りや見逃しがあったら一生見つからないのではないか?
 また、今はないけれど、「ビッグバンから10の-44乗秒後から10の-36乗秒後までの間には存在した状態」なんてことを、サラッと言われてもついていけないし、そんな一瞬以下の時間に意味があるようにも思えない、なんて思ってしまうのは、私が科学者ではないからか?

 そもそもは、テレビでは「超ひも」は、10次元、11次元の世界に存在する、ひも状の振動だと言っていた。そして、多次元の存在であることを、パラレルワールドの考え方と関連付けていたので、興味を持ったのだ。これについては、本書からは得るものはなかった。テレビがテレビ特有の味付けで「超ひも」を料理してしまっていたのかもしれない。

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2007年8月 2日 (木)

蒼路の旅人

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2005年5月初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「守り人」シリーズの外伝、ではないらしい。著者は「あとがき」で、”バルサをめぐる物語を「守り人」の物語として書き、チャグムのような少年が(中略)歩んでいく物語を「旅人」の物語として書いてみたい"と書いている。
 つまり、本作は「虚空の旅人」に続く、バルサが登場しない外伝的作品ではなく、チャグムの物語の序章、ということだ。(チャグムのような...の「...ような」の部分が少し引っかかるが)

 今回チャグムは今までにない試練を通して大きく成長する。「今までにない」とは、今回はチャグムは1人で問題を克服しなければいけない点だ。バルサはもちろん、シュガも同行していない。様々な善き人に出会い、チャグムの味方をしてくれるが、それらの人もそれぞれの立場と信念で生きていて、その身を投げ打ってでもチャグムを守ってくれるわけではない。

 そのチャグムが背負っているものも、今回はとても大きい。南の帝国タルシュの前に風前の灯同然の祖国、新ヨゴ皇国と、さらには隣国のロタやカンバルの国と、そこに暮らす幾万の民の運命を背負わされている。15歳の少年には重過ぎる荷物だろう。
 登場人物の一人が、チャグムが「ナユグ」を見ることができると知って、「逃げられる場所が見えているのに、逃げないで生きていくのは苦しいことだろう」と感じる場面があるが、その通りだ。今まで気が付かなかったけれど、チャグムには閉じこもることができる避難場所があるのだ。あるのに、そこには逃げられない。

 それにしても、ヨゴ(新ヨゴ皇国もヨゴ枝国も)の為政者たちのありさまはどうだろう。狭い国の中で、自分の保身と権力闘争のために国を危うくしてしまっている。
 チャグムは今回船でタルシュ帝国まで旅をし、先々で帝国の壮大な建物を見、自分の国が片隅に小さく描かれた地図を見た。辛くても彼にとっては良い経験だろう。為政者に必要なことの1つは、自分の国と世界とのバランスを知る世界観だろうから。「鎖国」を言い出す将軍にも、その言を重用する帝にも、その世界観は備わっていない。

 読み終えて、月並みな言葉が口をついた。「続きが読みたい」

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