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2007年7月

2007年7月31日 (火)

陰と陽の経済学

著  者:リチャード・クー
出版社:東洋経済新聞社
出版日:2007年1月4日発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 副題は「我々はどのような不況と闘ってきたのか」。著者は、野村総研のチーフエコノミスト。各国政府や中央銀行への影響力を考えると、国内の随一の経済学者、世界的にも五指に入ると言っても過言ではないだろう。

 本書で著者が繰り返し述べているのは、過去15年間の日本の不況についての次のような分析だ。
 (1)バブルの崩壊 → (2)企業が保有する資産価値の低下 → (3)バランスシートの損傷(債務超過) → (4)企業が債務の最小化に経営の軸を置く → (5)企業がカネを借りなくなる → (6)市場の資金流通量が減る → (7)景気が悪化する
 バランスシートの損傷と修復が原因となる不況なので、著者はこれを「バランスシート不況」と命名している。

 この中で大きなポイントは(4)だ。経済学の常識では民間企業は、利益の最大化を目的に経営される。しかし、バランスシート不況では、経営の軸が債務の最小化に移ってしまっている(債務超過の状態が公になると、企業価値を大きく損ねるからだ)。
 「カネ」は経営資源のひとつで、たくさんあるに越したことはない。だから通常は、金利ゼロの「カネ」を借りない経営者なんて存在しないはずなのだ。しかし、金利ゼロでも債務には違いない。債務の最小化を目指す企業は、借りようとしない。つまり、経済学の常識が通用しない事態が過去15年間起きていたというわけだ。

 これは、本当に卓越した分析だと思う。著者はこの理論を整理発展させ、今後の同様の事態への処方箋としての確立を、他の経済学者にも呼びかけているのだが、それもうなづける。バランスシート不況は、今までの経済政策では克服できないからだ。
 経済政策には、金融政策と財政政策がある。ゼロ金利でも借金しないのでは、金融政策には打つ手がない。積極的な財政政策は財政赤字の膨張を伴う。

 著者は、バランスシート不況への対応策として、積極的な財政出動を支持ている。これによって、市中の資金流通量を維持するという考えだ。もちろん、通貨の信用を損なうようなことがあってはいけないし、無尽蔵に国の借金を増やすわけにはいかない。「どのような時に、どのくらいの量の財政出動を、いつまで行うか」を、定める方法をこれから精査しなければならない。

 ちなみに、著者の理論では、竹中平蔵氏の行った銀行改革や不良債権処理も、カネの貸し手である銀行側の改革であるので、このたびの不況への対策としては無意味どころか、マイナスであったと、切って捨てている。 日本経済は「竹中氏がいたから」ではなく、「竹中氏がいたにも関わらず」回復した、と。

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2007年7月13日 (金)

図書館内乱

著  者:有川浩
出版社:メディアワークス
出版日:2006年9月30日初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「図書館戦争」の続編、シリーズ化が決定したわけだ。とは言え、前作で振ってあった主人公と両親の関係や、上官とのいきさつなどが、本作で結論を得ることを考えると、少なくともこの2作目までの構想は、前作からあったと思われる。

 スピードとエンタテイメント性は前作のレベルを保っている。今回はそれに加えて、主人公周辺の登場人物の描き込みが進み、ストーリーが立体的になった。上官の1人には、もう子ども扱いできない、年下の幼なじみがいる。抜群の成績を誇る同僚には、意見が合わないが越えることもできない兄がいる。美人のルームメイトには心の葛藤がある、といった具合。
 前作が、なんとなくありがちなストーリーの軽さが否めなかったの対して、今回はドラマ性もあって深みも加わってGOOD。

 さて、今回のタイトルは「図書館内乱」、図書館内での争い。国家権力に抗する図書館も一枚岩ではない。「図書館の自由に関する宣言」を言葉通りに実践する「原則派」、行政がコントロールすべきだとする「行政派」があり、さらには図書館を国家機関に格上げしようと画策するエリートたちもいる。
 主人公のように、図書館が市民の権利を守ることは正しいのだ、いかなる場合も正しいことを行うのは正しい、という単純なものではない。
 宗教でも他の宗教との争いより、同じ宗教の中の異端排斥の方が苛烈だと言う。こちらの争いも、表面的には穏やかでも、ドンパチやっていた前作よりもダークで激しい戦いになっている。今後の展開にさらに注目。

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2007年7月 6日 (金)

図書館戦争

著  者:有川浩
出版社:メディアワークス
出版日:2006年3月5日初版 8月30日6版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 第4回本屋大賞(4月5日発表)の5位。「図書館」と「戦争」という、関係性の薄い2つの言葉の組み合わせのタイトルが目を惹く。

 時代は正化31年という架空の年。しかし、昭和の後だということなので、まぁ平成31年。昭和の終わりごろに分かれた別の時空で、今から10年あまり後ということか。
 物語の時空では、昭和の最後の年にメディア良化法という、公序良俗に反するメディアを取り締まる法律が成立している。これによって、国家が不可とする本を、国家権力の元で実力で排除することができる世の中になってしまっている。
 図書館は、その国家の検閲に抗して、市民が自由に本を閲覧する権利を守るために警備隊を持つに至る。銃器による抗争も起きている。それが「図書館戦争」

 荒唐無稽な設定と言って差し支えないだろう。しかし、このムリめな設定に、冒頭の1ページで読者をグイと引き込む。「念願の図書館に採用されて、私は今_ 毎日軍事訓練に励んでいます。」
 主人公は、図書館の新人女性兵士。先の言葉は、彼女が両親に宛てた手紙の1文だ。本書は、主人公が上官や同僚に囲まれ、励まされながら成長していく成長物語。そういう意味ではありがちな展開なのだが、中に収まっているエピソードは、本書の設定以上に「あり得ない」ものが多い。
 しかし、物語にスピード感があるせいか、読むのが楽しかった。「あり得なく」ったってそれが何だ?これは無いでしょう、というのが逆に心地いい、そんな気分になる。エンタテイメント性が光る1冊だ。

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