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2007年6月

2007年6月24日 (日)

パズル・パレス(上)(下)

著  者:ダン・ブラウン 訳:越前敏弥、熊谷千寿
出版社:角川書店
出版日:2006年4月5日初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「ダ・ヴィンチ・コード」のダン・ブラウンのデビュー作。
 本書の5年後に「ダ・ヴィンチ・コード」を刊行したということを考えると、なるほどと思うことが多い。

舞台は、NSA(米国国家安全保障局)。主人公は暗号解読のエキスパートで、美人のNSA職員。彼女のパートナーは言語学の大学教授。主人公の名はソフィーではなく、大学教授もラングドンではないが、「ダ・ヴィンチ・コード」の主人公2人を思い出さずにはいられない。
 それに、本書には宗教上のうんちくはないが、ITと暗号に関する高度な知識がちりばめられている。つまり、少し難しい話を利用してストーリーをけん引する手法は、著者の既刊の3冊と趣きが似ている。いや、本書がデビュー作なのだから、1冊目からそのスタイルを確立していたというべきか。

大学教授の方は、ある指輪を求めてスペインのセビリアの街を走り回ることになる。これが実に目まぐるしく展開して、ペースがいい。少しご都合主義的なところはあるが、これも愛嬌だ。
 ストーリーは、NSAの副長官で主人公の上司の野望が基で、NSA、いや自由主義世界全体が危機に陥る。その原因はコンピュータウィルス(登場人物のSEは、ウィルスではなくワームだと言っているが)だ。ウィルスが原因で、システムが破壊されるというのは、今であれば、ありきたりの設定で、いささか陳腐な感じがしないでもない。
 しかし、本書は1998年の刊行、先見性があったと言わねばならないだろう。

登場する日本人の名前が、全く日本人らしくないのが気にはなるが、それもご愛敬。慣れてしまえば楽しく読める。

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2007年6月20日 (水)

数学的にありえない(上)(下)

著  者:アダム・ファウアー (訳:矢口 誠)
出版社:文藝春秋
出版日:2006年8月25日第1刷 2006年9月15日第2刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 原題は、Improbable(ありそうもない)、だ。邦題に「数学的に」と付いているのは、主人公はケインという名の大学院生で、複雑な計算に瞬時に答を出す天才、物語の随所で様々なことが起きる確率を計算しながら行動しているからだろう。
 例えば冒頭では、ポーカーの勝負で自分が負ける確率を、場の札などから26,757分の1ぐらい(この時は、吐き気がひどくで正確な計算ができなかったから「ぐらい」なのだ)、とはじき出して大勝負に出る。残念ながらこの勝負には負けてしまう。26,757分の1の確率、これを「数学的にありえない」というのだろうか、その確率の出来事が起きてしまったのだ。

 実は、ケインの能力はこの計算だけではなく、更に信じられない能力を開花させる。この能力を狙った陰謀に巻き込まれていくことになる。ケインはこの能力によって、陰謀から逃れるために、さっきのポーカーの負けなど比べ物にならない低い確率の「数学的にありえない」出来事を引き起こしていく。危機を脱したと思ったら、さらなる危機が迫り、それをまた思いも付かない方法で乗り越え、といったジェットコースター・サスペンスだ。

 本作は、著者の処女作。処女作にしてこれだけの起伏のあるストーリーを紡ぎだせるのだから恐れ入る。いくつもの伏線が絡み合い、読者をだますための巧妙な仕組みも潜んでいるし、CIA、FBI、KGB、NSAなどの政府機関やその陰謀など、面白くする要素もギッチリ詰まっている。
 しかし、少し苦言を呈すると、あまりにストーリーの起伏や転換を狙いすぎではないか。もうこれは、著者自身が楽しんでいるのではないかとさえ思える。
 ケインの能力を使えば、ありえないことも実現してしまうのであるが、その能力を以ってしてもこれはないんじゃないかという出来事がいくつかある。例えば、逃走中にハイウェイで走ってきた車を止めると、恩師が運転していた、なんてことだ。
 また、思わぬ人の協力や裏切りがストーリー進行に必要なのだけれど、ちょっと簡単に協力しすぎだと思う、ご都合主義的なところも散見される。さらに、これでもかというほど、意外な登場人物のつながりが明らかにされるが、そんなにしなくても十分に面白いのに、と思う。

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2007年6月12日 (火)

神の守り人 来訪編,帰還編

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2003年2月第1刷 2003年2月第2刷
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 「守り人」シリーズで、初めて2巻からなる長い物語。今回活躍するのは、バルサとタンダ。チャグムとシュガは登場しない。「虚空の旅人」で2人がカンバル王国へちょうど出かけている時期に設定されている。

 今回バルサが絡むのは、ロタ王国に住む「タルの民」の娘アスラ。彼女は、かつて絶大かつ暴力的な力でロタを支配した神「タルハマヤ」を、その身に宿す。そして、兄や自身の身を守るために念じると、「タルハマヤ」の力によって、周囲にいる者を大量殺戮してしまうという危険をはらんでいた。
 このまま、「タルハマヤ」の力がアスラの心を蝕んでしまえば、この世を支配する暴力的な神の再来となってしまう。

 だからと言って、幼い少女を殺してしまうことに納得できないバルサはアスラを守って逃走し、ロタ王国の影の軍団「カシャル(猟犬)」が、この世の平和のために2人を追う、という構図。
 もちろん、物語はそんな単純なままではない。虐げられた民族の歴史から、ロタ王国内の不和、王弟の恋愛、父娘の確執までを絡めて、複雑にねじれて行く。長編ではあるけれど展開が速く退屈しない。最後にはうまく収まるのだろうと思いながらも、どうなるのか目が離せない、という感じ
 これまでのシリーズの中では、今回は最大の危機だ。しくじれば、とんでもない神をこの世に招いてしまう。世界全体の問題だ。「バルサよ、気持ちは分かるが本当に大丈夫か?」と、途中で問いかけたくなるような物語だ。

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2007年6月 9日 (土)

地下鉄(メトロ)に乗って 特別版

著  者:浅田次郎
出版社:徳間書店
出版日:2006年7月31日第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 映画化され、そのテレビCMを見て面白そうだと思ったのを思い出して、読んでみた。
 予想にたがわず、面白かった。著者の体験や、父親の話がベースになっているそうだが、独特の世界が流れていて楽しめた。

タイムスリップものである。現在は1994年。主人公は大会社の社長の二男だが、訳あって下着会社の営業をやっている。長男は子供のころに自殺。弟の三男が父親の会社で副社長をしている。
 そして、主人公は、地下鉄の出口、ホーム、電車の中などをタイムトンネルにして、兄の自殺の日、戦後の闇市、戦時中の満州、父親の出征の日などにタイムスリップし、様々な真実を知る。

 よくあるタイムスリップものとしては、不都合な現在を変えるために、過去へ行ってその時点の出来事を修正する、というのがある。しかし、本書では少し違う。主人公は無力だ。兄の自殺を止めようとするのだが、その運命を変えることはできなかった。もし、できていたら、今の主人公の家族の有りようは、ずいぶん変わっていただろうに。

 そして、ストーリーは最後に思いもよらない方へ急展開する。唯一人すべてを知る主人公には辛い結末かもしれない。

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2007年6月 7日 (木)

ダークホルムの闇の君(上)(下)

著  者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:浅羽莢子
出版社:東京創元社
出版日:2006年7月28日初版
評  価:☆☆☆(説明)

 舞台は、魔法使いたちが住む世界。大学や様々な国があり、エルフやドワーフ、グリフィンなどの様々な人種や生き物、もちろん神と悪魔、ドラゴンまで登場する。ファンタジーの王道と言うか、これだけ聞くとちょっと型にぎゅうぎゅうに押し込めたような感じがするが、本書はそうではない。

 ファンタジーらしくないことが1つ。この世界の住人達は、もちろん本当に魔法使いやエルフなのだけれど、同時にそれらを演じさせられてもいること。別の世界の観光会社との契約によって、観光客相手に魔法の世界を大がかりに演じて見せているのだ。
 善と悪の軍団の戦いとか、人々を惑わす魔女とかを巨大なテーマパークのように、年に100回以上も繰り返しやっているわけ。そして、観光客らの手で魔王を倒して、旅行クライマックスを迎え、自分たちの世界へ帰っていく。倒される魔王が「闇の君」で、本書の主人公の魔法使いダーク。
 毎年、闇の君に選ばれた者が、観光会社との契約に従ってすべてを手配しなくてはならない。家族の助けを得て準備に取り掛かるが、次々と難題が降りかかる、というストーリー。

魔法世界の人々が、魔法世界を演じるという設定もひねりがあるし、それなりの伏線や誤解や裏切り、家族愛など、ドラマがちりばめられていて面白い。しかし、少しばかり冗長というか、エピソードが多すぎるような気がする。上下巻でなく、1冊分ぐらいに凝縮すればよかったかも、と。
 一般的に「悪」の側の、ドラゴンや悪魔が登場する時には、緊張感が漂う。ところが、彼らは大きくストーリーに絡んでこないのはなぜ?まぁ、これ以上、ストーリーを混ぜっ返すのはどうかと思うけれど、悪魔やドラゴンにはそれなりの役回りがあるように思う。

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