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2006年5月

2006年5月25日 (木)

反社会学講座

著  者:パオロ・マッツァリーノ
出版社:イースト・プレス
出版日:2004年6月23日第1刷 2004年10月5日第6刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の素性は不明。恐らくはどこかの大学の社会学の先生なのだろう。何しろ、膨大な資料を読み込んでいる。これだけの資料・文献にアクセスでき、情報を整理して結論を導き出すのは、誰にでもできることではない。社会学の専門家に違いない。
 このような作業を経て、著者が全20回の講座で明らかにしたことは全て、世の中で社会学、統計によって語られている言説への反証だ。

 世の中で心配されている少年犯罪の増加も、フリーター・ニート問題も、少子化もすべて社会学によるトリックで、スーペーさん(超悲観主義者:スーパーペシミストと著者は呼んでいる)と、問題がないと困る官僚などによるでっち上げだと言い切る。
 社会学の手は、世の中の出来事に対して、「ある仮説を立てる→調査によって証明する」という方法であり、実験による証明は難しい。そうである以上、仮説を証明するための都合のよい調査結果だけを取り上げてしまう過ちから無縁ではいられない。意図的に行えば、どんなでっち上げの結論も導き出せる。
 このような手法で、いろいろな言説の裏付けがなされていると、著者は主張している。しかし、著者の反証の方法も、同じ手法から一歩も出ていないのだが、これも仕方ないことか?

 そんな中で、冒頭の少年犯罪の増加についての記述は秀逸だと思う。平成元年からの少年凶悪犯罪のグラフを見ると2倍の増加、ということになる。しかし、その左、つまり過去をグラフに付け足すと、昭和35年ごろに今の3倍以上を記録していて、以降全般的には下降傾向にありることが分かる。少年犯罪の増加を主張する人々やメディアは、グラフの右端部分を拡大することで、未曽有の事態が起きていることを演出したのだ。

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2006年5月15日 (月)

崖の国物語2 嵐を追う者たち

著  者:ポールスチュワート 訳:唐沢則幸
出版社:ポプラ社
出版日:2001年10月第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 前号を読んだ時の感想「今後に期待したい」に、応えてくれる内容だった。
 話の設定や目標が明確だし、適度なサプライズもある。そして何よりテンポがいい。前号の単調な繰り返しと比べたら、続きとは思えないほどだ。
 「地上町」「神聖都市」「薄明の森」「泥地」と、舞台が代わって行き、それぞれの場所の性格もユニークだからテンポ良く感じるのだろう。さらに、前号では人格がしっかりと描写されているのは主人公のトウィッグだけで、その他にでてくるのは、ただの怪獣に過ぎなかった。しかし、本書では船長に乗組員、光と闇の博士、悪役のヴィルニクス等々、登場人物が多彩だ。ファンタジーはこうでなくては。

 非科学的であっても設定は面白い。
 浮力を持つ石である「浮遊石」、この世界では、この浮遊石を使って船を空に飛ばしている。また、空中都市サンクタフラクスは巨大な浮遊石の上に建設されている。そして、浮遊石の浮力とのバランスをとるための石「嵐晶石」、嵐晶石は暗いところではとてつもない重さになる、同時に汚染された水を浄化する作用もある。

 ストーリーは、サンクラフラスクを地上につなぎとめておくための鎖の製造によって、水の汚染が進み、汚染された水の浄化のために嵐晶石が使われてしまい、さらにたくさんの鎖が必要になる、という完全な悪循環からスタートする。
 この悪循環を断ち切るためには新たな嵐晶石が必要、というわけで、それを求める冒険が本書の内容だ。

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「崖の国物語2 嵐を追う者たち」 固定URL | 17.P・ステュワート(崖の国) | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年5月 4日 (木)

号泣する準備はできていた

著  者:江國香織
出版社:新潮社
出版日:2003年11月20日発行 2003年12月25日3刷
評  価:☆☆☆(説明)

 第130回直木賞受賞作品。久しぶりの純文学ということもあり、期待が大きかった。そのためか肩透かしをくらった感じだ。男女(とは限らないのだが)2人の関係が音も無く静かに崩れていく様子を、静かな語り口で綴った、というところが評価されて受賞に至ったのだろうと思う。確かに、そういった静かな悲しみが伝わってきた。

 短篇集なので、読むのに苦労はいらない。さすがに読みやすい。しかし、あまりにも平凡過ぎないだろうか?話によって設定はいろいろ、レズのカップルもあれば、嫁姑の旅行もある。表題の「号泣~」では、イギリスのノーフォークという街で知り合った放浪癖のある男女の話。のーふぉーくという街に何か意味があるのかどうかは分からない。木がない電飾だけのツリーというのがとても悲しいのらしいのだけど、これも意味は分からない。
 分からないのにいろいろ言ってはいけないのだけれど、分かる部分だけで感想を言うと、「それで....。何か?」だ。

 とてもしっくり行っていて、何の不安もなかった男が浮気した。もちろん浮気はいけないし、ショックなことだと思うけれども、それで泣きたくても泣けなかった、なんて話にみんなが感動したり同情したりする世の中でもないように思うが、どうだろう。
 これが等身大の人々の心の描写なのかもしれない。だから深く感情移入できる人もいるのだろう。しかし、私は小説には、現実とは別のものを求めているらしい。

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