2.小説

2019年4月 4日 (木)

宝島

著  者:真藤順丈
出版社:講談社
出版日:2018年6月19日 第1刷 12月19日 第5刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2018年下半期の直木賞受賞作。著者のことは寡聞にして知らなかった。プロフィールによると、2008年にダ・ヴィンチ文学賞大賞や日本ホラー小説大賞など、4つの賞を別々の作品で受賞している。

 舞台は沖縄、コザ市。この街に生まれ育った、グスク、レイ、ヤマコの3人の若者の物語。時代は1952年から1972年までの約20年間。念のため言うと、1952年はサンフランシスコ講和条約締結の年、1972年は本土復帰の年。どちらも沖縄の歴史に関連する、特に1972年は特別な年だ。そう、この物語は沖縄の言葉でいう「アメリカ世(ゆ):アメリカの統治時代」を描いている。

 物語は冒頭から疾走する。グスクとレイが「オンちゃん」の隣を走っている。嘉手納基地の中を、アメリカ兵の追撃を振り切るために必死に走っている。グスクとレイは、アメリカ軍の倉庫から、資材や医薬品、食料などを盗み出してくる「戦果アギヤー」の一員。「オンちゃん」は、そのリーダー。盗み出した「戦果」を街中に配るだけでなく、学校まで作った。オンちゃんは地元の「英雄」になっている。

 ところがオンちゃんは、冒頭の嘉手納基地での逃走劇のさなかに、行方知れずになってしまう。生死さえわからない。グスクはオンちゃんの親友で、レイは実弟、ヤマコは恋人だ。いなくなった「英雄」を追いかけて、探して、永遠の別れを自身に言い聞かせる、残された3人の三様の年月を、物語は描く。それは、本土復帰までの20年間の沖縄の真実を、その内側から描くことでもある。

 奔流のような物語に圧倒された。レイは触れると切れるカミソリのようになり、自分までも傷つけかねない。グスクはいくらか真っ当に見えるけれど、それでも危険な綱渡りだ。ヤマコはしなやかで力強いが、その中に脆さが見える。ハラハラし通しだ。正体が明らかにされない「語り部」の存在もとても効果的だと思う。

 最後に。一文を引用。

 勘弁してくれ、もう勘弁してくれ。この島の人たちはみんな、理不尽な運命にあらがう処世術を、見のよじれるような悲鳴や憎悪からの自衛手段を教えられて、いまもそれを次の世代へと引き継いでいる。

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2019年3月24日 (日)

愛なき世界

著  者:三浦しをん
出版社:中央公論新社
出版日:2018年9月10日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。そして2冊続けての三浦しをん作品。「愛なき世界」だけれど、愛をたっぷり感じる物語。

 読み始めてしばらくして「これは「舟を編む」の系統だ!」と思った。著者には一部で「お仕事小説」と呼ばれる作品群がある。例えば「舟を編む」は辞書の編纂、「仏果を得ず」は文楽の大夫という、「お仕事」とそれに従事する人にフォーカスした小説、と言える。そして著者の「お仕事小説」が、私は例外なく好きだ。だから本書も期待を持って読んだ。

 主人公は藤丸陽太。20代初め。東京のT大赤門前の洋食屋「円服亭」の住み込み店員。もう一人。本村紗英。20代半ば。T大学理学部で植物の研究をしている大学院生。20代の男女二人が出会ったのだから、なるべくしてなったということで、藤丸くんが本村さんに恋をした。そういうお話。

 「そういうお話」なのだけれど、本村さんの方がウンと言わない。彼女は「植物の研究にすべてを捧げる」と決めている。だから誰ともつきあうことはできないし、しない。あぁ藤丸くん、残念。

 それでも藤丸くんが本村さんに魅かれ続けるし、本村さんだって藤丸くんからたくさんの影響や気付きを受ける。本村さんが所属する「松田研究室」には、いつも黒いスーツを着て陰鬱な殺し屋みたいな松田教授をはじめ、魅力的なキャラクターが揃っている。たくさんのエピソードのそれぞれがとても心地いい。

 そんな具合で今回は「植物の研究者」という「お仕事」に(藤丸くんの「洋食屋の店員」にも少し)フォーカスが当たっている。本村さんだけじゃなくて、研究室の面々の「植物への愛と好奇心」が半端じゃない。それがとても好ましい(家族にいたらちょっと困るかも?)。読者もその一端を垣間見ることで、ちょっと新しい世界を知ることができる。

 期待を持って読んだけれど、本書はその期待に十分以上に応えてくれた。私の「著者の「お仕事小説」が例外なく好き」も継続中だ。

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2019年3月21日 (木)

ののはな通信

著  者:三浦しをん
出版社:KADOKAWA
出版日:2018年5月26日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 主人公は、野々原茜と牧田はな。物語の始まりには、二人とも横浜の女子高校の2年生でクラスメイトだった。今「物語」と書いたけれど、通常の意味の「物語」ではなく、本書は全編が、この二人が互いに相手に書いた手紙で成っている。つまり書簡文学。「のの」と「はな」の間の手紙の往来。タイトルはそういう意味。

 また「手紙」と書いたけれど、郵便による手紙もあれば、授業中に回したメモもあり、後半には電子メールもある。郵便と電子メールには日付が付されていて、これがいつの出来事なのかがはっきり分かることも、本書の特長かもしれない。物語の最初は昭和59年(1984年)、最後は2011年。なんと30年近い時間が流れている。

 これは、「のの」と「はな」の友情を超えた絆の物語。1章は二人が高校生のころ。2章は進路が分かれた大学生のころ。3章は20年のブランクを経た2010年。4章は...3章の「その後」。各章の終わりには二人の関係の「終わり」があり、各章の始まりには「新しい始まり」がある。そうやって二人の関係は決別と再会を繰り返して30年続いた。

 あらすじは敢えて紹介しない。 読み進めると「え?!そう来たのかよ。そっちか!」という「驚き」が何度か。その「驚き」を、これから読む人にも感じて欲しいから。たぶん誰にも予想できない展開だと思う。

 最初の「驚き」が1章の真ん中あたりである。「これはちょっと趣味が合わない」と思うかもしれないけれど、それでもぜひとも2章、3章と読み進めて欲しい。私が「誰にも予想できない」と書いたのは、最初の「驚き」もそうだけれど、むしろ3章の展開の方を指している。

 「しをんさんは、私をどこに連れて行こうとしているのか?」と、最初の「驚き」で不安に思った。しかし、読み終わって連れて行ってもらったのは、読む前よりも少し自分の視界が開けた場所だった。

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2019年3月17日 (日)

下町ロケット ヤタガラス

著  者:池井戸潤
出版社:小学館
出版日:2018年10月3日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「下町ロケット」シリーズの第4作。前作の「下町ロケット ゴースト」と一体の物語。昨年TBS系列で放映されたテレビドラマの後半は、本書が原作となっているらしい。(私は観ていないけれど)

 前作「ゴースト」で、トランスミッションの開発に参入した佃製作所が、今回手掛けるのは「無人農業ロボット」。衛星の測位情報を基に、誤差数センチで自動運転を行う。作業は昼夜問わず可能で、作業効率が向上し経営面積を増やせることで、世帯収入が飛躍的に増加する。日本の農業の危機を救えるかもしれない。

 「手掛ける」と言っても、佃製作所の担当はトランスミッションとエンジン。トラクターは、因縁はあるものの佃製作所の取引先である帝国重工で製造し、肝心の自動運転の制御部分は、大学の研究室の研究成果を利用する。ロケット開発に勝るとも劣らない「最先端」の技術開発に挑む。

 物語に引き込まれた。著者は今回もたくさんの要素を盛り込んた。今回、大企業の帝国重工と組んだ佃製作所のライバルは、中小企業の技術を結集した「ダーウィン・プロジェクト」。いつもの「大企業vs.中小企業」。ただし佃製作所は、今回は「大企業」側だ。

 それから、技術開発に対する姿勢の問題。どんな小さなものでも、問題の兆候を見逃してはいけない。ましてや保身のために目を逸らしてはいけない。あとは、何のための技術開発か?ということ、技術は結局「人」なのだということ、それから日本の農業が直面している問題、等々。

 実用までのどの段階にあるのかは分からないけれど、実際に「無人農業ロボット」の研究は進んでいるらしい。期待が膨らむ。

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2019年3月 6日 (水)

さざなみのよる

著  者:木皿泉
出版社:河出書房新社
出版日:2018年4月30日 初版 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。著者は2014年に「昨夜のカレー、明日のパン」で、本屋大賞第2位を受賞している。その時の大賞は和田竜さんの「村上海賊の娘」。

 全部で14話ある連作短編。主人公は一話ごとに変わる。第1話の主人公の名前はナスミ。富士山が間近に見える所にあるマーケットストアの、三人姉妹の次女として生まれ、20代で東京に出て結婚し、故郷に戻って来た。そしてガンで亡くなった。享年43歳。

 第2話からは、ナスミに関係のあった人物が順番に主人公になる。第2話は姉の鷹子、第3話は妹の月美、その後は、夫の日出夫、大叔母の笑子、同級生の清二と続く。途中で語りが鷹子に戻ることがあるけれど、語られる人物は、清二の妻、東京時代の同僚、ナスミの知り合いの後輩の妹!なんて、遠くへと広がっていく。

 実に巧みな構成だった。ナスミと生前に関係のあった人々が、思い出の中のナスミが残した言葉を語ることで、ナスミという人とその人生が浮かび上がる。そして浮かび上がったナスミという人は、とてもチャーミングな人だった。品行方正ではないけれど、自分にも周りの人にも正直で、しかも思いやりがあって。巧みな構成とチャーミングな人物。面白くないはずがない。

 心に残るエピソードはたくさんあるけれど、やはりナスミ自身が病院のベッドで語る心境が一番ささる。些細なことでした日出夫との喧嘩を思い出して、「あれ、なんだったの」とおかしくて笑ってしまうこと。意地悪をしてみてもみんな優しく笑うだけで「自分はこの世界から降りてしまったのだ」と気がつくこと...。

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2019年2月14日 (木)

左京区桃栗坂上ル

著  者:瀧羽麻子
出版社:小学館
出版日:2017年7月2日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「左京区七夕通東入ル」」「左京区恋月橋渡ル」に続く「左京区」シリーズの5年ぶりの新作。

 シリーズのこれまでは、京都の大学を舞台とした学生たちの「恋バナ」で、「七夕通東入ル」ではおしゃれな女子学生の「花」が、「恋月橋渡ル」では不器用な理系学生の「山根」が主人公だった。本書も基本的に「恋バナ」なのだけど、描き方をちょっと変えてきた。

 本書の主人公は璃子と安藤の2人。「描き方を変えてきた」と言ったのは、物語を璃子が4歳の時から始めたからだ。大学生の「恋バナ」を描くのに4歳から..。転勤族の父の異動で、璃子は北海道から奈良に引っ越してきた。引越しの翌日に璃子がベランダから外の公園を見ると、ジャングルジムのてっぺんで手を振る女の子がいる。後に親友となる同い年の果菜で、安藤は果菜の兄だ。

 小学校4年の時に、またまた璃子の父の転勤で離ればなれに..そして再会。そして...という物語。璃子と果菜は親友とは言っても、離れて暮らしているから、関係もそれなりの距離がある。安藤はその兄だから、さらに距離がある。その距離がある関係をページ数を使って丹念に描く。後半に入ってもまだ「これ、誰と誰の恋バナなの?」という感じ。

 いい話だった。おだやかなラブストーリー。シリーズで登場人物は共通している。安藤は1作目から登場しているし、本書には花も山根も登場する。それで、シリーズを読み返すと分かるけれど、安藤クンらしい恋愛だった。

 著者はかつてインタビューで「安藤君は恋をするのかどうか……」なんて答えている。4歳から書き始めたのは、そんな安藤の恋愛を描くのに他にない方法だったと、読み終わって分かる。

 最後に。果菜が璃子に書いた自分の手紙を読んで、オチがないことに落胆するシーンがある。「これ、全然おもろないわ」と。分かる気がする、その気持ち。

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2019年2月 3日 (日)

彼女は頭が悪いから

著  者:姫野カオルコ
出版社:文藝春秋
出版日:2018年7月20日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 実際の事件に着想を得たフィクション。その「実際の事件」は「東大生 強制わいせつ事件」と検索すれば、たくさんの情報が得られる。様々な意味で問題作。

 主人公は二人。神立美咲と竹内つばさ。物語の始まりでは、美咲は横浜の市立中学の1年、つばさは渋谷区の区立中学の3年。その後、美咲は県立高校を経て水谷女子大学に、つばさは横浜教育大学の付属高校を経て東大に進学。物語はここまでは駆け足で進む。

 それぞれにそれなりに「青春」を経験する大学生活を描いて、主人公の二人は物語の中盤、美咲が大学2年、つばさが大学4年の時に出会う。いささか軽薄ではあるものの、いい感じでスタートした二人の関係は、しかしすぐに不穏なものになり、あまり時を経ずに「事件」の日を迎える。

 「事件」について。何があったかは、ここには書かない。というか「書けない」。小説を読んでいて、こんな怒りを感じたのは始めてだった。本を持つ手に力が入り、引き裂いてしまいそうになった。小説でひどいことが起きることなんて、特に珍しいことではない。「実際の事件」があることを知っていたので、より過剰に反応したのかもしれない。

 注釈をしておく。あとで裁判記録や報道を調べると、「事件」について著者は実際の出来事に即して描いている。おそらく敢えてそうしたのだろう。そうしなければ「ウソ」になってしまうからだ。本書と「事件」は容易に結び付けられ、私を含めて読者は、フィクションと現実をうまく区別できない。違うことを描けば「あれはウソだ」という非難を受けてしまう。

 冒頭に「様々な意味で問題作」と書いた。その「意味」の一つは、本書が「東大生」「東大」に対する強烈な不快感を、読者に催すことだ。私もつい「東大なんてなくなってしまえばいいのに」と口走ってしまった。

 本書が催す不快感は、東大の関係者にとっては、本書に対する不快感に転化することは想像に難くない。東大で行われたブックトークで、東大の教授(もちろん東大卒)が「集団としての東大を不当に貶める目的の小説にしか見えなかった」という学生の感想を紹介し、「リアリティ」を問題にしたそうだけれど、気持ちは分からないでもないけれど、的を外していると思う。

 参考:
 「彼女は頭が悪いから」ブックトークに参加して見えた「東大」という記号の根深さ:ハフポスト

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2019年1月26日 (土)

下町ロケット ゴースト

著  者:池井戸潤
出版社:小学館
出版日:2018年7月25日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「下町ロケット」シリーズ第3作。昨年TBS系列で放映されたテレビドラマの前半は、本書が原作となっているらしい。(私は観ていないけれど)

 今回、佃製作所が手掛けるのはエンジンの動力を伝えるトランスミッションだ。社長の佃航平が、農業用のトラクターの運転を見て、自分で実際に動かしてみて思いついた。乗り味や作業精度を決めるのは、エンジンではなくトランスミッションだと。高性能のエンジンとトランスミッション、その両方を作れるメーカーになれないか?と。

 トランスミッションのノウハウはなくても、そこに使われるバルブは得意分野だ。国産ロケットのエンジンに採用された技術力がある。そのように決まれば、佃製作所の面々の動きは早い。トランスミッション製造で、急速に業績を伸ばすベンチャー企業「ギアゴースト」の、バルブ調達のコンペに参加できることになった。

 例によって「大企業対中小企業」という図式や「特許」を巡る訴訟問題などが物語の軸になる。「ファブレス」のビジネスモデルといった、近年のトレンドも取り込んである。それから人間ドラマも少し。期待を裏切らない感じで、安心して読んでいられる。「安心」が良いこととは限らないけれど。

 あぁそうだ。「天才エンジニア」の島津裕の今後が気になる。

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2019年1月23日 (水)

花だより みをつくし料理帖 特別篇

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2018年9月8日 第1刷 10月28日 第5刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「天の梯」で10巻シリーズが完結した「みをつくし料理帖」の特別巻。澪や野江、種市や清右衛門先生たちが帰ってきた。うれしい。

 全部で4つの短編。シリーズ完結で、澪たちが江戸を離れて大坂に旅立ってから約4年後、江戸の種市の話「花だより」から始まる。行き倒れていたところを助けた占い師から、「来年の桜を見ることは叶いますまい」と言われた種市。澪に会おうと大坂行きを決断する。

 二つ目は「涼風あり」。小野寺数馬の妻、乙緒(いつを)が主人公。ほぼ初登場。蟻の行列を1時間眺めていても飽きない。とっても素敵な女性。数馬の母の里津も素敵だ。三つ目は「秋燕」。澪の幼馴染の野江が主人公。主要な登場人物でありながら、あまり語られることのなかった野江の半生と心根が垣間見える。

 四つ目は「月の船を漕ぐ」。満を持して澪が主人公。大阪を疫病が襲う。澪の夫の源斉は医師。手を尽くしても患者を誰ひとり救うことができない。澪も夫に対して誠心誠意尽くすが、力になれない..。つらい展開はこれまでにもあったけれど、ここまで暗い影を感じる物語は珍しい。澪はこの苦難を乗り越えられるのか。

 「ありがとう」と著者に伝えたい。野江の物語が読みたかった。野江のために文字通り命を懸けた、又次とのことが知りたかった。そんな期待に見事に応えてくれた。「涼風あり」の数馬の母の里津と、「月の船を漕ぐ」の源斉の母のかず枝、二人の「母」の心構えに心を打たれた。「料理」が主題のこのシリーズだけれど、食べ物が身体だけではなく心の養生にも大切であることが、本書では特に切々と分かった。

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2019年1月12日 (土)

おやすみ、東京

著  者:吉田篤弘
出版社:角川春樹事務所
出版日:2018年6月18日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 4年ほど前に「つむじ風食堂の夜」を読んで、味わい深い物語と洒落た文章がよかった。それを覚えていたので、また読んでみようと思った。

 東京の夜を舞台にした13章からなる物語。主人公は章ごとに入れ替わる。1回だけの人もいるし、2回、3回の人もいる。例えば、映画会社の小道具倉庫の「調達屋」のミツキ、夕方から早朝まで専門のタクシー運転手の松井、電話相談室の深夜帯担当の可奈子、明け方までやっている食堂を共同経営するアヤノ..。

 深夜に働く人が多い。ミツキも監督の要請で、様々なものを探して深夜の街を彷徨する。それは本書が東京の夜、それも深夜から明け方の物語だからだ。全ての章は午前1時から始まる。タイトルは「おやすみ、東京」だけれど、街が眠った後の眠らない人々の物語。

 「つむじ風食堂の夜」と同じく、味わい深い物語だった。章ごとに別々のエピソードがつづられるのだけれど、前後の章は共通の登場人物を通してつながっている。大きな事件は起きないけれど、少しずつ進展する。ある章で主人公が出会った人が、別の章に登場する人の探し人だったり..。

 「洒落た文章」とはちょっと違うけれど、心に残る言い回しは前著と同じくあった。一つだけ紹介。

 この世に「おいしい」という言葉があってよかった。

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