2.小説

2019年2月 3日 (日)

彼女は頭が悪いから

著  者:姫野カオルコ
出版社:文藝春秋
出版日:2018年7月20日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 実際の事件に着想を得たフィクション。その「実際の事件」は「東大生 強制わいせつ事件」と検索すれば、たくさんの情報が得られる。様々な意味で問題作。

 主人公は二人。神立美咲と竹内つばさ。物語の始まりでは、美咲は横浜の市立中学の1年、つばさは渋谷区の区立中学の3年。その後、美咲は県立高校を経て水谷女子大学に、つばさは横浜教育大学の付属高校を経て東大に進学。物語はここまでは駆け足で進む。

 それぞれにそれなりに「青春」を経験する大学生活を描いて、主人公の二人は物語の中盤、美咲が大学2年、つばさが大学4年の時に出会う。いささか軽薄ではあるものの、いい感じでスタートした二人の関係は、しかしすぐに不穏なものになり、あまり時を経ずに「事件」の日を迎える。

 「事件」について。何があったかは、ここには書かない。というか「書けない」。小説を読んでいて、こんな怒りを感じたのは始めてだった。本を持つ手に力が入り、引き裂いてしまいそうになった。小説でひどいことが起きることなんて、特に珍しいことではない。「実際の事件」があることを知っていたので、より過剰に反応したのかもしれない。

 注釈をしておく。あとで裁判記録や報道を調べると、「事件」について著者は実際の出来事に即して描いている。おそらく敢えてそうしたのだろう。そうしなければ「ウソ」になってしまうからだ。本書と「事件」は容易に結び付けられ、私を含めて読者は、フィクションと現実をうまく区別できない。違うことを描けば「あれはウソだ」という非難を受けてしまう。

 冒頭に「様々な意味で問題作」と書いた。その「意味」の一つは、本書が「東大生」「東大」に対する強烈な不快感を、読者に催すことだ。私もつい「東大なんてなくなってしまえばいいのに」と口走ってしまった。

 本書が催す不快感は、東大の関係者にとっては、本書に対する不快感に転化することは想像に難くない。東大で行われたブックトークで、東大の教授(もちろん東大卒)が「集団としての東大を不当に貶める目的の小説にしか見えなかった」という学生の感想を紹介し、「リアリティ」を問題にしたそうだけれど、気持ちは分からないでもないけれど、的を外していると思う。

 参考:
 「彼女は頭が悪いから」ブックトークに参加して見えた「東大」という記号の根深さ:ハフポスト

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2019年1月26日 (土)

下町ロケット ゴースト

著  者:池井戸潤
出版社:小学館
出版日:2018年7月25日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「下町ロケット」シリーズ第3作。昨年TBS系列で放映されたテレビドラマの前半は、本書が原作となっているらしい。(私は観ていないけれど)

 今回、佃製作所が手掛けるのはエンジンの動力を伝えるトランスミッションだ。社長の佃航平が、農業用のトラクターの運転を見て、自分で実際に動かしてみて思いついた。乗り味や作業精度を決めるのは、エンジンではなくトランスミッションだと。高性能のエンジンとトランスミッション、その両方を作れるメーカーになれないか?と。

 トランスミッションのノウハウはなくても、そこに使われるバルブは得意分野だ。国産ロケットのエンジンに採用された技術力がある。そのように決まれば、佃製作所の面々の動きは早い。トランスミッション製造で、急速に業績を伸ばすベンチャー企業「ギアゴースト」の、バルブ調達のコンペに参加できることになった。

 例によって「大企業対中小企業」という図式や「特許」を巡る訴訟問題などが物語の軸になる。「ファブレス」のビジネスモデルといった、近年のトレンドも取り込んである。それから人間ドラマも少し。期待を裏切らない感じで、安心して読んでいられる。「安心」が良いこととは限らないけれど。

 あぁそうだ。「天才エンジニア」の島津裕の今後が気になる。

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2019年1月23日 (水)

花だより みをつくし料理帖 特別篇

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2018年9月8日 第1刷 10月28日 第5刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「天の梯」で10巻シリーズが完結した「みをつくし料理帖」の特別巻。澪や野江、種市や清右衛門先生たちが帰ってきた。うれしい。

 全部で4つの短編。シリーズ完結で、澪たちが江戸を離れて大坂に旅立ってから約4年後、江戸の種市の話「花だより」から始まる。行き倒れていたところを助けた占い師から、「来年の桜を見ることは叶いますまい」と言われた種市。澪に会おうと大坂行きを決断する。

 二つ目は「涼風あり」。小野寺数馬の妻、乙緒(いつを)が主人公。ほぼ初登場。蟻の行列を1時間眺めていても飽きない。とっても素敵な女性。数馬の母の里津も素敵だ。三つ目は「秋燕」。澪の幼馴染の野江が主人公。主要な登場人物でありながら、あまり語られることのなかった野江の半生と心根が垣間見える。

 四つ目は「月の船を漕ぐ」。満を持して澪が主人公。大阪を疫病が襲う。澪の夫の源斉は医師。手を尽くしても患者を誰ひとり救うことができない。澪も夫に対して誠心誠意尽くすが、力になれない..。つらい展開はこれまでにもあったけれど、ここまで暗い影を感じる物語は珍しい。澪はこの苦難を乗り越えられるのか。

 「ありがとう」と著者に伝えたい。野江の物語が読みたかった。野江のために文字通り命を懸けた、又次とのことが知りたかった。そんな期待に見事に応えてくれた。「涼風あり」の数馬の母の里津と、「月の船を漕ぐ」の源斉の母のかず枝、二人の「母」の心構えに心を打たれた。「料理」が主題のこのシリーズだけれど、食べ物が身体だけではなく心の養生にも大切であることが、本書では特に切々と分かった。

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2019年1月12日 (土)

おやすみ、東京

著  者:吉田篤弘
出版社:角川春樹事務所
出版日:2018年6月18日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 4年ほど前に「つむじ風食堂の夜」を読んで、味わい深い物語と洒落た文章がよかった。それを覚えていたので、また読んでみようと思った。

 東京の夜を舞台にした13章からなる物語。主人公は章ごとに入れ替わる。1回だけの人もいるし、2回、3回の人もいる。例えば、映画会社の小道具倉庫の「調達屋」のミツキ、夕方から早朝まで専門のタクシー運転手の松井、電話相談室の深夜帯担当の可奈子、明け方までやっている食堂を共同経営するアヤノ..。

 深夜に働く人が多い。ミツキも監督の要請で、様々なものを探して深夜の街を彷徨する。それは本書が東京の夜、それも深夜から明け方の物語だからだ。全ての章は午前1時から始まる。タイトルは「おやすみ、東京」だけれど、街が眠った後の眠らない人々の物語。

 「つむじ風食堂の夜」と同じく、味わい深い物語だった。章ごとに別々のエピソードがつづられるのだけれど、前後の章は共通の登場人物を通してつながっている。大きな事件は起きないけれど、少しずつ進展する。ある章で主人公が出会った人が、別の章に登場する人の探し人だったり..。

 「洒落た文章」とはちょっと違うけれど、心に残る言い回しは前著と同じくあった。一つだけ紹介。

 この世に「おいしい」という言葉があってよかった。

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2018年12月 9日 (日)

熱帯

著  者:森見登美彦
出版社:文藝春秋
出版日:2018年11月15日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 森見登美彦さんの最新刊。体調不良による休筆から、2013年に「聖なる怠け者の冒険」で復帰されて、以降「有頂天家族 二代目の帰朝(2015年)」「夜行(2016年)」そして本書と、1年半~2年間隔でコンスタントに新刊が出ている。ファンとしてはそれがうれしい。

 これはかなり奇妙な構造をした物語だ。冒頭部分に「千一夜物語」の説明がある。「千一夜物語」はシャハリヤール王に侍ったシャハラザートが語った寝物語。シャハラザートが語る物語の中の登場人物が、さらに物語を語ったりするので、いわば物語のマトリョーシカみたいな入れ子構造をしている。そして、本書もそうなっている。

 入れ子構造を簡単に説明する。入れ子の一番外側は、森見登美彦さん自身が登場。次の作品の着想が全く浮かばない日常の中で、学生時代に途中まで読んだところで失くしてしまった「熱帯」という本を思い出す。そして別の日に編集者に誘われていった読書会で、「熱帯」を持った女性と出会う。

 入れ子の2番目は、その女性、白石さんの語り。白石さんは勤め先のお客さんである池内さんに誘われて「熱帯」のことを研究する「学団」という集会に参加する。そして「熱帯」を巡るミステリーに巻き込まれる。3番目は、「熱帯」の謎を追って京都に旅立った池内さんから、白石さんに届いたノートに綴られていた物語。4番目は...。

 このような感じで物語は、最初の森見さんの日常から遠くへ遠くへと流れるように展開する。入れ子のかなり内側の物語に、それを研究しているはずの「学団」の人物が登場したり、そもそも本書のタイトルが「熱帯」なので、「学団」が研究しているのは本書なのか?という考えが頭をよぎったり、循環参照的な複雑さを呈している。

 入れ子の何番目かには、「熱帯」という本に記された(らしき)物語が語られる。これがなかなかの奇想文学で、これだけ取り出しても中編作品になったと思う。それが、この複雑な構造の中に、違和感なく収まっている。著者は良いお仕事をしたと思う。

 「複雑な構造」に「読みづらいのでは?」と思う人もいるかもしれないけれど、それは杞憂だ。構造なんて気にしないでドンドン読んでしまえばいい。循環参照になっていても「へぇ~面白いな」と思えばいい。「あれ?これ、そもそもどういう話だっけ?」と我に返ったりしないでいい。コロコロと転がるような展開に、身を任せてしまうと楽しめる。

 そうそう、「吉田山」とか「進々堂」とか、著者のゆかりの場所を知っている人は、そういうのも楽しめる。

 コンプリート継続中!(単行本として出版された作品)
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2018年11月28日 (水)

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ

著  者:辻村深月
出版社:講談社
出版日:2009年9月14日 第1刷 11月6日 第3刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「ハケンアニメ」「東京會舘とわたし」「かがみの孤城」と、最近の作品に連続して☆5つ。それで「私は辻村さんの作品が大好きなのだ」と気が付いた。その辻村さんの2009年の作品。

 二部構成。第一部の主人公は神宮司みずほ。30歳。山梨県甲州市出身。29歳の時に結婚し、今は東京に住んでいる。職業はライター。雑誌に記事を書いている。母親を殺して逃走中(という疑いをかけられている)の、幼馴染の望月チエミの行方を捜している。そして第二部の主人公がその逃走中の望月チエミ、という趣向。

 第一部でみずほは、かつての同級生、遊び仲間たちを順に訪ねる。チエミの行方につながるような情報を聞き出すために。最近会ったのはいつか?とか、その時はどんな様子だったか?とか、その他に何か知っていることはないか?とか、そんなことを聞いて回る。

 聞き出せた情報は、それぞれは他愛もないものだけれど、みずほはチエミと事件の真相に近づいて行った。読者もその気になれば、みずほと一緒に謎解きができる、というミステリー作品に仕上がっている。

 ただ、この物語はミステリー以外の要素も色濃い。久しぶりに会う同級生たちとのやり取りや、差し挟まれる回想によって、様々なことが徐々に形づくられる。中学まで同じ学校に通って、高校で進路が別れたみずほとチエミの関係性。地元に残った遊び友達たちと、東京に出たみずほの間にあるすき間。みずほと実家の母親が抱える過去..。

 こうして、形づくられるのはザラザラとした手触りの悪いものだった。著者自身が山梨県出身でライターではないけれど文筆業ではあるので、なんとなくみずほと重ねて見てしまう。そうした時に「これ、大丈夫なのかな」と心配になるぐらい、ザラザラしている。

 分量的には第一部が約4分の3。第二部は、第一部の答え合わせであり、結末でもある。この第二部によって、ザラザラしたものも、きれいに「洗い流す」とはいかないけれど、そういうものを「乗り越える」ことはできた。

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2018年11月17日 (土)

コーヒーが冷めないうちに

著  者:川口俊和
出版社:サンマーク出版
出版日:2015年12月6日 初版 2016年11月10日 第34刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 2017年の本屋大賞ノミネート10作品のうち、この本だけはまだ読んでなかった。本屋大賞は10位とはいえシリーズ100万部突破で、今年の9月には有村架純さん主演の映画が公開されている。

 「恋人」「夫婦」「姉妹」「親子」の4話を収録。それぞれの物語に主人公がいる。舞台は、路地裏の地下にある喫茶店「フニクラフニクリ」。この喫茶店には都市伝説がある。ある座席に座ると、座っている間だけ望んだ通りの時間に移動できる、というもの。本書は「タイムスリップもの」だ。

 都市伝説は本当で過去に行ける。ただし制限事項がたくさんある。主なものを3つ。タイムスリップできるのは、移動するときに淹れたコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ。その席から動くことはできない。過去に戻ってどんなに努力しても現実は変えられない。

 誰か大切な人を事故で亡くしたとして、過去に戻って事故に会わないよう忠告しても、その大切な人はやっぱり亡くなってしまう。この制限によって、「タイムスリップもの」でよくある「人生のやり直し」はできない。そんなことでタイムスリップする意味あるの?という疑問は浮かぶが、意味はある。4話それぞれの主人公はそれでも心残りの時間に行くことを選ぶ。

 4話のタイトルはすべて会いに行く二人の間柄を表している。それぞれ「彼氏に」「夫に」「妹に」「娘に」会うために時間を越える。例え現実が変わらなくとも、無駄足になるかもしれなくても、わずかな時間だけでもいいから会いたい。そう思うほどの強い気持ちを感じるのは、こういう近しい間柄の人にう対してなのだろう。

 極めて真っすぐな感動話だった。「あの時こうしていれば」という後悔のないように生きなくては、と思う。しかし、本書にはそれ以上のメッセージが込められている。それには「現実は変えられない」という制限が効いている。「過去を変えても現実は変えられない。でも...」

 すでに続編として、「この嘘がばれないうちに」「思い出が消えないうちに」の2冊が出ている。

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2018年10月24日 (水)

花々

著  者:原田マハ
出版社:宝島社
出版日:2009年3月18日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書のことは、「カフーを待ちわびて」のレビュー記事へのコメントで、日月さんに教えていただきました。感謝。

 著者のデビュー作にして人気作「カフーを待ちわびて」の関連本。「カフー~」の与那喜島で、明青と幸の物語と並行して繰り広げられていた、もう一つの物語。ダイビングショップのアルバイトの純子と、明青の同級生で東京で働く成子の2人を主人公として、沖縄の島で暮らす女性たちの人生が交差するドラマ。

 純子は、三十歳手前で故郷の岡山の町を飛び出して、沖縄周辺の島をいくつか巡った後、この島にやって来た。しばらくは旅を続けるつもりだったのに、この島の景色に「安住」という二文字が浮かんだ。村営住宅のアパートで、先輩アルバイトの奈津子の部屋の隣室で暮らしている。

 成子は、日本有数の都市開発企業に勤め、都心の巨大な複合開発のプロジェクトリーダーとして、昼夜を分かたず働いている。結婚5年目。子どもはいない。夫とは仲は悪くないけれど、円滑な結婚生活とは言えない。リゾート開発計画が持ち上がった故郷の島に、帰郷した時に純子と出会う。

 島にやって来た純子と、島を出て行った成子。逃げるように旅する純子と、追い求めるように働く成子。正反対に見える二人が出会うことで、それぞれに次の道が示され、その道の先にさらに次への道しるべが..という具合に発展する。

 彩りと花の香を感じるような物語だった。「花々」というタイトルの通り、花の名前が章題で、その話のキーアイテムにもなっている。上に「女性たちの人生が交差」と書いたけれど、その女性たちは一人ひとりどれかの花と結びついている。女性たちは様々な屈託を抱えているのだけれど、その身の処し方はとても軽やかだ。沖縄の海と空と花々と女性たちが、物語を軽やかに明るく彩る。

 最後に。冒頭に「続編」ではなく「関連本」と書いたのは、時間的に「続き」ではないことと、明青と幸をはじめ「カフー~」の主要な人物が、ほとんど登場しないからだ。しかし、最後まで読むと、本書が紛れもない「続編」であったことが良くわかる。本書は「カフー~」のためにあり、「カフー~」は本書によって新たに躍動を得る。

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2018年9月30日 (日)

ファーストラヴ

著  者:島本理生
出版社:文藝春秋
出版日:2018年5月30日 第1刷 7月25日 第5刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 2018上半期の直木賞受賞作。

 主人公は臨床心理士の真壁由紀。30代半ば。結婚して10年。夫と小学生の息子と3人で暮らしている。コメンテーターとしてテレビにも出演している。知名度が高いこともあって、出版社から本の執筆を依頼される。それは、世間の耳目を集めている、女子大生が父親を刺殺した事件の容疑者を取材して、その半生を臨床心理士の視点からをまとめる、というものだ。

 その容疑者の名前は聖山環菜。22歳。女子アナウンサー志望の環菜は、キー局の面接で具合が悪くなり途中で辞退。数時間後に、父親が講師を務める美術学校で、父親を包丁で刺した。自宅へ戻り、母親と言い争った後、自宅を飛び出す。多摩川沿いを顔や手に血を付けたまま歩いていたところを目撃され、警察に通報される。

 物語は、環菜との面会を通じて、由紀が事件の真相を解き明かす様子を軸に描かれる。「真相」と言っても、「事実」にはあまり争うことはなく、もっぱ「動機」についてだ。環菜は取り調べで「動機は自分でも分からないから見つけて欲しいくらいです」と答えた。本人にも分からない「動機」。臨床心理士の由紀になら明らかにすることができるのか?

 冒頭からずっと不穏な緊張感が漂っている。最初はその緊張感を、軸となる「環菜の物語」と並行して明かされる、過去の「由紀の物語」が放っている。環菜の事件の担当弁護士が由紀の義弟で、二人の間に何かがあったことが仄めかされる。そちらが少しずつ明らかになるに従って、今度は環菜の生い立ちや環境が、何か禁忌に触れそうになって、心を騒めかせる。そして2つの物語が響き合い..。

 登場人物の多くが心に傷を負っている。帯に「「家族」という名の迷宮を描く」とある。外からは分からない関係性がある、さらにそれぞれの心の奥は、家族同士にもうかがい知れない。そういう意味で「家族」は「迷宮」だ。本来、疲れた体と心を癒すはずの「家族」が、そのような場所ではない(かもしれない)ことを問う。本書は「問題作」だと思う。

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2018年9月26日 (水)

最果てアーケード

著  者:小川洋子
出版社:講談社
出版日:2012年6月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の作品を時々読みたくなる。本書は2012年の発行。その前の2011年に「BE・LOVE」というコミック誌の連載マンガの原作として書き下ろされた。表紙の装画は酒井駒子さん。

 舞台は世界で一番小さなアーケード。路面電車が走る大通りからひっそりした入り口を入って、十数メートルで行き止まってしまう。使い古しのレース、使用済みの絵葉書、持ち主が手放した勲章やメダル、様々な動物(のはく製)や人形用の義眼、ドアノブ..「一体こんなもの、誰が買うの?」という品を扱う店が集まっている。入口にあるドーナツ屋は例外。

 主人公は、このアーケードの大家の娘。彼女が16歳の時、町の半分が焼ける大火事があって、その時に父親(つまりこのアーケードの大家)は亡くなってしまった。物語は、時間軸を移動して大火事の前後を行ったり来たりする、全部で10編の物語で構成されている。

 私が好きな物語は「紙店シスター」。レターセットやカード類などを扱うお店の話。そこの店主が「たくさん買ってくれるのは、善いお客さんだ」と言う。儲けのことを言っているのではなく、たくさんの便りを書く人は、それだけ大勢の友人や知人、親族を持っている、という意味だ。

 それからこの店は、使用済の絵葉書を置いている。誰かが誰かのために出した絵葉書。ここにあるからには用済みになったものだけれど、店主はその一枚一枚にも、本当に求める人がいるはずだと思っている。そしてその絵葉書からの主人公の回想に、私は心打たれた。その内容は敢えて書かない。

 「あぁそうだった。小川洋子さんはこういう物語を描く人だった」と思った。「ミーナの行進」のレビューにも同じようなことを書いて「静かな音楽を聴いているような心地よさ」と表現したけれど、それとは違う。読み進めるほどに「何かが少しだけおかしい」という思いが募るのだ。小川さんの作品を時々読みたくなるのは、こういう物語が私は好きなんだろう。

 最後に。「何かが少しだけおかしい」という感覚は、読み終えても残る。気になった私はコミックを読んでみた。こちらにはこの「おかしい」にはっきりした輪郭が与えられていた。

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