2.小説

2018年1月20日 (土)

スティグマータ

著  者:近藤史恵
出版社:新潮社
出版日:2016年6月20日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「サクリファイス」シリーズの5作目。日本人選手の白石誓を軸に、自転車ロードレースの世界を、風が感じられるような筆致で描く。ミステリーと人間ドラマも特長。

 前作の「キアズマ」は大学の自転車部に舞台を移したもので、その前の「サヴァイブ」はスピンオフの短編集だから、本編とも言える白石の物語は「サクリファイス」「エデン」に続くいて3つ目。時間的には白石がヨーロッパに渡って6年目、「エデン」の3年後という設定。

 白石は、フランスバスク地方の「オランジュフランセ」というチームにいる。プロの中では弱小チーム。そこに、ニコラ・ラフォンという若手の有力選手が移籍してきた。ツール・ド・フランスで総合優勝も狙える。白石は「アシスト」で、「エース」のニコラのレースをサポートする役割だ。

 物語は、ツール・ド・フランスの約3週間を描く。そのツールにで、5年前にドーピングでレースの世界を去った、メネンコというかつてのスター選手が復活を果たす。レースを前にして、白石はメネンコからある依頼をされそれを受ける。

 今回も楽しめた。もっと言えばこれまでの中で最も安定感を感じる。じっくりと作品世界に浸ることができる。それはたぶん、「サヴァイブ」を含めてこれまでに3作の、「白石の物語の蓄積」があるからだろう。

 もう少し説明を試みる。ニコラが「エデン」でライバルチームのエースだったように、本作で脇を固める他の選手たちも、多くは前作までに登場して描きこまれている。本作では彼らが、血の通ったキャラクターとして、物語を支えてくれている。

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2018年1月 4日 (木)

2030年の旅

著  者:恩田陸、瀬名秀明、小路幸也ほか
出版社:新潮社
出版日:2017年10月25日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 新年の1冊目ということで、未来のことを考えてみようと思って、本書を選んだ。

 本書は2030年の日本の姿を、8人の作家さんがそれぞれ描いたアンソロジー。恩田陸さん、瀬名秀明さん、小路幸也さん、支倉凍砂さん、山内マリコさん、宗田理さん、喜多喜久さん、坂口恭平さん。恩田さんと小路さんは、私にとってお馴染みの作家さんだけれど、他の方は多分初めて。

 どれも短い中で展開の上手い物語になっていて面白かった。2作品だけ紹介する。

 1つ目は恩田陸さんの「逍遥」。ロンドン郊外に集まった3人の男性の話。そこでちょっとした事件がらみの、落し物の時計を探す。「集まった」と言っても、実はRR(リモート・リアル)という技術を使っていて、一人はマレーシア、一人は香港に実体がある。物に触ることもできるし、その場所では他の人からも見える。

 「他の人からも見える」となると、同時に2か所に居るようなものだから、アリバイなんて作り放題で、こんな技術が実現したら、犯罪捜査は大変だ。

 2つ目は山内マリコさんの「五十歳」。老齢の両親を助けるために帰郷した五十歳の女性の話。帰郷した時にはピンピンしていた両親があっけなく亡くなり、今は実家で一人暮らし。市の嘱託職員として、高齢者をショッピングモールや病院に送迎する仕事をしている。その日は新人を研修として、仕事に同行させる。

 予備校で英語を教えていたけど、少子化のあおりで閉校、その後に始めた英会話教室も、生徒が集まらずにクローズ。自動翻訳の機能が飛躍的に向上してわざわざ英語を勉強する人がいなくなってしまった。この経歴に「これはたぶん確実に起きる未来だ」と思った。

 2030年というと、今から12年。時代の変化が激しいとは言っても、まったく予想できないというほど先でもない。本書でも、AIやVRといった技術の進歩と、少子高齢化といった社会の変化という、現在既にみられる方向性が共通して題材になっている。

 帯に「日本のアカルイミライ」と書いてあるけれど、明るいとばかりは言えない。でも、このくらいの未来なら「まずまず良いシナリオ」だと思う。

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2017年12月24日 (日)

3時のアッコちゃん

著  者:柚木麻子
出版社:双葉社
出版日:2017年10月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 2014年の本屋大賞ノミネート作品「ランチのアッコちゃん」の続編。表題作「3時のアッコちゃん」を含む4編を収録した短編集。

 「3時のアッコちゃん」の主人公は、「ランチの~」と同じで澤田三智子。先頃、東京にある大手の商社で、派遣社員から契約社員に昇格した。宣伝部でシャンパンのキャンペーンの企画チームにいる。傍目には順風に見えるかもしれないけれど、実態はそうでもない。

 キャンペーンの企画が行き詰っている。そんな時に三智子の前に現れたのが黒川敦子。三智子の元上司のアッコさん。これまでも突拍子もないことを言い出していたけれど、今回も。自分がアフタヌーンティーを出すから、5日間続けて企画会議を3時に開け、と。

 まぁ、アッコさんが出す紅茶(と三智子に出すアドバイス)が抜群の効果を発揮する。前作もそうだけれど「うまく行きすぎる」と思う部分はある。でも、うまく行く行かないは、こんなちょっとしたことで変わるのかもしれない、と思わせるぐらいには筋が通っている。

 この他の3編は、主人公が、デリバリーサービスの電話オペレーター、お菓子メーカーのデザイナー、就職活動中の女子大生、とそれぞれ違う。後半の2編は関西が舞台で、アッコさんは直接は登場しない。でも、アッコさんが経営するスムージー屋が登場する。関西に進出したらしい。

 最後に。お菓子メーカーのデザイナーが主人公の「シュシュと猪」は神戸の東の端、阪急岡本駅付近が舞台。タイトルと舞台の組み合わせでピンと来た人は、そうでない人よりきっと楽しめるはず。

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2017年12月20日 (水)

X’mas Stories

著  者:朝井リョウ、あさのあつこ、伊坂幸太郎、恩田陸、白河三兎、三浦しをん
出版社:新潮社
出版日:2016年12月1日 発行 12月15日 第3刷
評  価:☆☆☆(説明)

 もうすぐクリスマスなのでクリスマス・アンソロジー。朝井リョウさん、あさのあつこさん、伊坂幸太郎さん、恩田陸さん、三浦しをんさん、という私が大好きな作家さんが名を連ねる、夢のコラボレーション。白河三兎さんはたぶん初めて。

 収録作品を順に。朝井リョウさんの「逆算」は、1日に何度も逆算してしまう女性の話。お釣りの小銭が少なるように、時間に間に合うように。街で見かける人のこれまでの人生まで想像してしまう。あさのあつこさんの「きみに伝えたくて」は、好きだった高校の同級生の思い出を抱えた女性の話。ホラーミステリー。

 伊坂幸太郎さんの「一人では無理がある」は、サンタクロースの話。クリスマスにプレゼントをもらえない子どもたちに、プレゼントを配る組織。ケアレスミスが思わぬ結果を。恩田陸さんの「柊と太陽」は、遠い将来の日本の話。「再鎖国」をしてクリスマスの習慣も忘れら去られて久しい。

 白河三兎さんの「子の心、サンタ知らず」は、リサイクルショップでバイトする司法浪人の男性の話。店主は美人のシングルマザー、その子どもは小賢しいガキ。そのガキから共謀を持ちかけられる。三浦しをんさんの「荒野の果てに」は、タイムスリップもの。江戸時代の天草から現代の地下鉄明治神宮前駅に、武士と農民がタイムスリップ。

 どれも面白かったけれど、最後の「荒れ野の果てに」が、心にしみた。「天草」から想像できると思うけれど、キリシタンの迫害が物語の背景にある。タイムスリップして来た彼らから見れば、今は「理想の世界」。大事にせねば、と思う。

 クリスマスをテーマに、趣の違った物語が楽しめた。六者六様だけれど共通しているのは「クリスマスには何か特別なことが起きる」という気持ちだ。そういう気持ちはいいことだと思う。

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2017年12月 2日 (土)

5年3組リョウタ組

著  者:石田衣良
出版社:KADOKAWA
出版日:2010年5月16日 初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 先月読んだ「アキハバラ@DEEP」に続いて石田衣良さんの作品。これも友人が私のために選んでくれた。感謝。

 主人公は中道良太。25歳、小学校の先生。舞台は、良太が勤める「希望の丘小学校」。清崎県清崎市、東京から新幹線で北東に1時間半の海と山に囲まれた街にある。かつては清崎市立第一小学校、いわゆるナンバースクールで、今でも地元では「名門校」に位置付けられている。

 物語はこの学校の1年間を、4つのエピソードで綴る。例えば1つ目のエピソードは4月。良太のクラスのとても勉強のできる生徒が、授業中に教室からの脱走を繰り返す。自分のことを「ダメ人間」というその生徒に対して、良太が取った行動は?学校の対応は?というお話。

 この他には、職員室内でのいじめ、生徒の家の放火事件での学校のマスコミ対応、クラス間の競争、がテーマになる。この他に、保護者との関係、生徒の自主性と教師による管理、教師としての目標、障害児教育、ついでに良太の淡い恋愛などが、細かいエピソードとしてちりばめられる。校長以下の教師たちも個性派が揃っている。

 「まいったなこれ」と、ある場面で思った。泣けて泣けて仕方なかった。人前で読んでなくてよかった。物語の中でも、登場人物のほとんどが泣いたり、目を赤くはらしたりしていた。作為のない良太の行動が心に響く。

 念のため。良太はいわゆる「熱血教師」ではない。教師という職業も「さして考えもせずに」なった。物語を通して描かれるクラス間の競争にも、あまり興味がない(おかげで万年下位を低迷して「バカ組リョウタ組」なんて影で言われている)。目の前で起きていることに真っすぐに対応する。ただそれだけ。ただそれだけがとても清々しい。

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2017年11月 8日 (水)

かがみの孤城

著  者:辻村深月
出版社:ポプラ社
出版日:2017年5月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 辻村美月さんの最新刊。

 「東京會舘とわたし」がすごく良かったこともあって、私の要注目の作家さん。本書の紹介の前に言ってしまうけれど、☆5つ。実は昨年は「東京會舘とわたし」、一昨年は「ハケンアニメ」で☆5つを付けている。☆5つは、1年間に多い年でも数個でゼロの年もある。「要注目」どころか「大好き」ということだ、と今さら気が付いた。

 主人公の名は「安西こころ」。中学校に入学して最初の4月だけ通って、その後、行けなくなってしまった。不登校。そして一人では外に出かけられない「ひきこもり」状態。おかあさんは「これからだよ、がんばろう!」と言ってくれるが、こころはそれに応えられるかわからない。

 そんなこころに奇跡が起きる。ある日、部屋にある姿見の鏡が光り出し、手を触れて少し力を入れると、鏡の向こう側に引きずり込まれた。そこは「お城」だった。ディズニーランドのシンデレラ城のようなお城。そしてピンクのドレスを着て、顔には狼のお面を付けた少女がいた。

 というわけで、物語はファンタジックな幕開けをする。お城には他にも6人の中学生が来ている。そして、自分の家と城を行き来して、城の中に隠されている鍵を探す。その鍵で「願いの部屋」に入った者の願いが叶う。期限は3月30日。そういうルールのゲームが始まる。ますますファンタジックだ。マンガかアニメにありそうだ。

 これでは「マンガかアニメみたいな設定」という紹介にしかならない。何がいいのか分からない。しかし、☆5つの理由を説明するには、物語の大事な部分を盛大にネタバレしないとできない。困った。本当に困った。

 そんなわけで、これ以上言えるのは、この一言だけ。

 これは「壮大な「救い」の物語」だ。

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2017年11月 1日 (水)

アキハバラ@DEEP

著  者:石田衣良
出版社:文藝春秋
出版日:2004年11月25日 第1刷 2006年6月15日 第7刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 友人が私のために選んでくれた本。感謝。

 著者は著名であるし多作でもあるのだけれど、これまであまり読んでいなかった。単行本では「愛がいない部屋」を初めて読んで、そのあと「親指の恋人」で、それで終わり。それから9年も経っている。私には「あまり合わない」、そう思っていた。

 主人公は、ページ、ボックス、タイコとお互いを呼び合う、秋葉原のオタク、いや「ギーク」たち。ページはライターとして、ボックスはグラフィックデザイン、タイコはデスクトップミュージックで、指名の仕事が入るほどの腕がある。ただ3人とも、ちょっとした困りごとを抱えている。ページは吃音、ボックスは強度の潔癖症・女性恐怖症、タイコは体が硬直する発作を起こすことがある。

 この3人に、天才ハッカーのイムズ、元引きこもり(今は家に帰れない「出っ放し」!?)のダルマと、紅一点の武闘派美少女のアキラを加えた6人で、「アキハバラ@DEEP」という会社を作る。物語は、彼らが開発した人工知能による検索エンジン「クルーク」を巡る攻防を描く。

 これは面白かった。前途に立ちはだかる強大な大企業に、一歩も引かない姿が危うくて痛快だった。物語終盤の予言的な言葉が本書をよく表している。「不適応者の群れが、新しい時代のチャンピオンになる。最弱の者が、次の世で最強に生まれ変わる」

 他の作品を「あまり合わない」と感じて、著者を敬遠していたのだけれど、本書はそんなことはなかった。友人が「私に合う」と思って薦めてくれたわけで、改めて感謝する。

 実は、主人公たちが開発した「クルーク」は、自己学習によってパーソナライズされ、まさにこの「私に合う」ものを(GoogleやAmazonのレコメンド機能なんかとは違う次元で)選んでくれる、良きパートナーのような検索エンジン。まぁ私には友人がいるのでいいのだけれど、ちょっと欲しい気もする。

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2017年10月29日 (日)

戦の国

著  者:冲方丁
出版社:講談社
出版日:2017年10月18日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は「決戦!」という競作のシリーズ6冊「桶狭間」「川中島」「本能寺」「関ヶ原」「関ヶ原2」「大坂城」から、著者が執筆した作品6編を取り出して、加筆修正の上、再結合したもの。信長の登場から家康の勝利まで、時代的に戦国時代をほぼカバーしている。

 収録された6編は「桶狭間」から「覇舞謡(織田信長)」、「川中島」から「五宝の矛(上杉謙信)」、「本能寺」から「純白き鬼札(明智光秀)」、「関ヶ原」から「真紅の米(小早川秀秋)」、「関ヶ原2」から「燃ゆる病葉(大谷吉継)」、「大坂城」から「黄金児(豊臣秀頼)」。( )内は主人公の名前。

 どれも戦国時代の有名な戦いで、主人公たちも信玄や秀吉、家康こそいないけれど、全員が有名な武将たち、物語の大筋はよく知られているものだ。ただし、フィクションであるので、著者は大胆な解釈を取り入れている。特に、主人公たちの内面にそれが現れる。

 例えば「覇舞謡(織田信長)」では、敵となる今川義元に深い敬意を感じていることになっている。お互いに深く理解し合っている、と思っている。だからこそ「勝つ」という苛烈極まる一念でもって攻める。義元の首に「これでようやく語り合えますな」と話しかけるのは、ここだけ取り出すと奇異に感じるけれど、物語の流れの中ではむしろ自然に感じる。

 この「敵との相互理解」は、他の物語にも継承される。そして継承されるものがもう一つある。それは、鉄砲、弓、槍、騎馬の四種からなる部隊編成による戦法だ。これは上杉謙信が村上義清の戦いぶりを聞いて編み出したもので、他の武将たちによって、戦国時代を通して洗練されていった、という解釈だ。

 戦国時代の出来事を、実際に見た人はもういないわけだし、人の心の中は覗けない。だから描き方にはかなり自由がある。それが「戦国もの」の物語が、尽きることない泉から湧くように生まれる所以なのだろう。

 その「戦国もの」の中で本書の特長は、桶狭間から大坂の陣までの「戦国時代」を、とてもコンパクトに描いたことだ。「戦の国」というタイトルを、大胆にもよくぞ付けたものだと思う。

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2017年9月13日 (水)

けむたい後輩

著  者:柚木麻子
出版社:幻冬舎
出版日:2014年12月5日 初版 2017年7月25日 4版 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の本はこれまで「ランチのアッコちゃん」「本屋さんのダイアナ」「ナイルパーチの女子会」と3冊読んでいて、どれも女性同士の関係を描いていた。出版年で言うと本書はこの3冊に先立つ作品で、やはり女性同士の関係を描く。

 登場するのは主に3人の女子大生。一人は羽柴真実子。小樽から横浜にある聖フェリシモ女学院に進学してきた。次は浅野美里。真実子の幼稚園時代からの親友。同じ大学、同じ寮、同じ部屋。身体の弱い真実子の世話を何かとやいている。最後は増村栞子。真実子たちの1年先輩。14歳の時に詩集を出版して作家デビューしている。

 真実子は13歳の時に栞子の詩集を読んで魅了された。大学でその栞子と出会った真実子は、すぐに彼女の崇拝者となった。それも一途に。どんなことでも言うことをきき、呼び出されれば飛んでいく。真実子は喘息を患っているのに、栞子は平気で真実子の前で煙草を吸う。

 美里から見て、真実子の崇拝ぶりは度を越している。何より栞子は「14歳の時に詩集を出した」以外には、これといった魅力があるわけではない。だから美里は、真実子をたしなめる。栞子のことが気に入らない。

 栞子の方も美里のことが気に入らない。栞子は自分が「普通の子と違う」ことに価値を見出している。だから煙草を吸うし、けだるそうに話すし、何かに真面目に取り組んだりしない。真実子の自分を崇める目が心地いい。敵意や軽蔑が潜む美里の目は気に入らない。

  真実子は、栞子のことを崇拝しているし、美里とは自他ともに認める親友だ。こうして、女性3人の三角関係が出来上がる。三角形のどの辺でも衝突や綱引きを起こしながら、物語は真実子たちの大学の4年間を描く。

 私は50代の男で、強いて言えば話の中でしか登場しない、彼女たちの父親に近い。というか、私にも大学に通う娘がいるので、父親そのものだ。だからその目で見てしまう。

 美里はともかく真実子も栞子も、もう心配でならない。真実子なんか死んじゃうんじゃないの?と思う。栞子は「イヤな女」キャラなんだけれど、無駄なプライドを抱えていて、それが呪いとなっている。飄々としているけれど、実は一番不安定だ。

 そうそう、男性も登場する。ゲスな大学教授と、自分探し中のカメラマン志望。どっちもダメダメ。

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2017年9月 7日 (木)

パーマネント神喜劇

著  者:万城目学
出版社:新潮社
出版日:2017年6月20日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の最新刊。2010年から17年まで、断続的に文芸誌に掲載したものを単行本化した作品。

 表紙に描かれているふくよかなおっさんが主人公。この人は、なんと神様なのだ。神様として最初の配属先が今いる神社で、ざっと千年ぐらいここでお勤めしている。専門は「縁結び」。「リアルなお勤めを紹介した本」を作るために、ライターさんの取材を受けているところから、この物語は始まる。

 彼の「縁結び」のやり方はこんな感じ。時間を止めて、縁を結びたいカップルの片方に話しかける。そのカップルがうまく行くのに必要な事柄を、言霊にしてそいつに打ち込む。話しかけられた人間は、このことは覚えていない。神様が作ったものだから、言霊に込められたことは、その通りになる。こんな感じで千年もやってきた。

 神様なんだから、人の心ぐらいチョイといじれそうだし、そうすれば縁結びが簡単にできそうなものだけれど、そういうことはしないらしい。あくまでも、恋愛成就を妨げているものを、間接的に取り除くようなやり方。まどろっこしいけれど、面白くもある。

 そんな感じで本書は、この神様が言霊を打ち込む場面や、それを受けた人がどんな具合に変わっていって、どう恋愛を成就するかを、コミカルに描く。最初に書いたけれど、神様にも配属があるように、会社のような組織になっている。昇進やらお偉方との確執やらと、妙に俗っぽい神様の暮らしぶりが描かれる。最後の方は、ちょっとホロッと。

 万城目学さんらしい、肩の力の抜けた物語だ。もっとも本人にお会いしたことはないので、「らしい」のかどうか分からないけれど、エッセイやインタビューを拝読する限りは、何事も深刻にならずにゆるゆるとしていることを好まれる方だと感じる。これまでの作品にも、そういう感じはにじみ出ていたkれど、今回はそれが前面に現れたように思う。

 そうそう、「バベル九朔」とか「かの子ちゃん」とか、著者のファンなら「おっ」と思うモノや人も登場する。その登場に「おっ」と思う以上の意味があるのかないのか分からないけれど、私はこういうのはけっこう好きだ。

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