1D.仁木英之(僕僕先生)

2017年11月11日 (土)

鋼の魂 僕僕先生

著  者:仁木英之
出版社:新潮社
出版日:2012年4月20日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「僕僕先生」シリーズの第6弾。元ニート青年の主人公の王弁と、彼が師と仰ぐ仙人の僕僕先生の旅を描く。一行は中国大陸を南へ縦断し、雲南へと差し掛かる。

 雲南は唐の版図の外にあり、その西には吐蕃(現在のチベットの王朝)がある。つまり国境地帯ということだ。漢人、雲南人、吐蕃人と多彩な民族が行き交う。政治的には複雑な関係の上に成り立っている。こういう情勢が今回の物語の底にある。

 今回は、唐の王朝から派遣された「捜宝人」という、宝探しの専門家が新たな登場人物として加わる。彼が皇帝から探すように命じられたものが「鋼で作られた神」。神話の時代に使われたものらしい。タイトルの「鋼の魂」との関係が推し量られる。

 前作の「先生の隠しごと」では、人の心の内側まで見通せる仙人の僕僕先生が、あろうことか胡散臭い王の話に取り込まれかかって危機に瀕した。今回は、そういう危なげなことはないのだけれど、大活躍するわけでもない。出番自体少ない。

 その代わり重要な役割を演じるのが、新たに加わった「捜宝人」。このシリーズは毎回ちょっとした人情噺が埋め込まれているのだけれど、今回はこの「捜宝人」を巡るもの。それも「ちょっとした」ではなくて、なかなかにドラマチックだった。

 前作で登場した医師が今回も途中で登場したので、「おやっ」と思ったのだけれど、なんと隠された素性があった。これが次回への伏線になっているらしい。続きも楽しみだ。

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2016年3月20日 (日)

先生の隠しごと 僕僕先生

著  者:仁木英之
出版社:新潮社
出版日:2011年4月20日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「僕僕先生」シリーズの第5弾。元ニート青年の主人公の王弁と、彼が師と仰ぐ仙人の僕僕先生の旅を描く。前作の「さびしい女神」で訪れた苗人の国を発って、「ラクシア」という名の新興王国に着く。

 「ラクシア」はラクスという若い王が治める国。「ラクシア」は、ラスクの故郷の言葉で「光の国」を意味する。彼はここに、身分も貧富の差もなく、人々を縛る法さえない、自由な理想郷を造ろうとしていた。王弁の言葉を借りれば「胡散臭い」。

 人の心の内側まで見通せる仙人の僕僕先生なら、こんな胡散臭い話なんかすぐに見破れそうだ。しかし今回は、僕僕先生の態度がどうにも生ぬるい。ラクスが言葉巧みに語る理想に、取り込まれてしまったかのようだ。それには、はるか昔の神話の時代の、僕僕先生のの経験が関係していた。

 僕僕先生は、今回はあまり活躍しない。もちろん、ここぞという時には、なくてはならない。しかし今回は、王弁を始めとした、僕僕先生の旅の道連れとなった面々が、それぞれの特技を生かして、できることを最大限にして、そのことが事を動かす。

 前作に続いて、僕僕先生の素顔が垣間見える。この物語がこの先どこへ向かうのか楽しみだ。それにしても、「理想」とはこんなにも危ういものなのか。

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2015年7月29日 (水)

さびしい女神 僕僕先生

著  者:仁木英之
出版社:新潮社
出版日:2010年4月20日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「僕僕先生」「薄妃の恋」「胡蝶の失くし物」につづくシリーズ第4弾。元ニート青年の主人公の王弁と、彼が師と仰ぐ仙人の僕僕先生の旅を描く。今回は前作で道連れとなった苗人の姫「蚕嬢(故あって巨大な蚕の姿をしている)」の国での物語。これまで3作は連作短編の形を取っていたが、今回は長編だ。

 蚕嬢の故郷である峰西は隣の峰東とともに、ひどい日照りに苦しんでいた。山の頂にある社におわす神に仕える巫女が、勤めの途中で逃げ出したことが原因らしい。その巫女がだれあろう「蚕嬢」。蚕の姿をしているのはその報い。ああなるほどそういうことか。

 この蚕嬢の話とは別に、主人公の王弁は山の頂で女神と出会う。「女神」という言葉から想像する麗しさとはかけ離れた姿。がさがさの体にくちびるからはみ出た歯、鼻は上を向き目は左右で極端に大きさが違う。名を「魃(ばつ)」という。

 これまでで一番読み応えがあった。長編ということもある。ただそれ以上に、スケールが大きいことと、これまで秘められた様々なことが分かってきたことが、その理由だ。なんと言っても今回の物語は、天地に秩序をもたらした神々の戦いに端を発している。僕僕先生その人も関係している。

 知らぬ間に逞しくなった王弁は、この度は師匠の僕僕先生の言うことを素直にきかない。これまでは二人の関係がどうなっていくのか?というのは、いわばただの下世話な興味を引いていただけだ。僕僕先生の「ありのままの姿」が垣間見えた今は、それがこのシリーズの大きなテーマへと変貌したように思う。

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2015年4月25日 (土)

胡蝶の失くし物 僕僕先生

著  者:仁木英之
出版社:新潮社
出版日:2009年3月20日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「僕僕先生」「薄妃の恋」につづくシリーズ第3弾。元ニート青年の主人公の王弁と、彼が師と仰ぐ仙人の僕僕先生の旅を描く。前作で僕僕先生が救いの手を差し伸べた、薄妃を道連れにして中国大陸を南下していく。

 僕僕先生と王弁は、行く先々で病や災害に苦しむ人々を救って来た。感謝されることはあっても、恨まれることはないはずなのだけれど、「救世主」を喜ばない人々も存在する。今回の物語の発端は、朝廷の何処かから発せられた僕僕先生の暗殺指令。

 今回も面白かった。川を司る女神、巨大な蚕の姿をした少女ななど、多彩な登場人物たちが個性的でかつ憎めない。女神とか高僧とかの恐れ多い立場の人たちも人間臭いし、殺し屋さえ心の隅に優しさを抱えている。

 仙人としての術も、剣術などの武芸も、どれを取っても超絶強い僕僕先生だから、何事が起きても危なげないのだけれど、弟子の王弁くんがいろいろやらかしてくれる。

 僕僕先生と王弁くんの関係がどうなっていくのか?本書のラストによると、旅はまだまだ続きそうだから、しばらく楽しめそうだ。

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2014年8月24日 (日)

薄妃の恋 僕僕先生

著  者:仁木英之
出版社:新潮社
出版日:2008年9月20日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「僕僕先生」につづくシリーズ第2弾。主人公の王弁は、もともとは親の財産でノラクラと暮らしていたニート青年。前作では、師である僕僕先生の旅に同道して、大したことはできないけれど、他の人が真似できないことはできたりして、何となく弟子として認められた。

 今回は、それから5年後。王弁を残して神仙の世界へ行ってしまった僕僕先生が戻って来た。王弁と僕僕先生は再び旅に出る。今回は大陸を南下する。物語はその行く先々での事件→僕僕先生による王弁への「ムチャ振り」→解決、を描く。

 料理対決、豪雨に沈む街、許されざる愛、店の跡継ぎ問題、仇討ち...。とてもバラエティに富んだ事件が、2人の前に立ち現れる。もしかしたら僕僕先生の神通力を以てすれば、簡単に解決できそうな気もするが、修行の身の王弁が体当たりとも言える奮闘でことにあたる。

 前作より今回の方が楽しめた。舞台がずっと「こちら側の世界」だったからかもしれない。もちろん、こちら側の世界の事件であっても、裏には人外の者がたくさん関係している。そうした中に、親しみやすいキャラクターが登場していることも、楽しめた理由だろう。

 そのキャラクターとは、雷の子の砰(ばん)と人間の子の董虔(とうけん)、皮一枚の身体の薄妃(はくひ)さん。砰くんと董虔くんは「Fantasy Seller(ファンタジーセラー)」にも登場した。私にとってはこのシリーズの入り口になった存在。本書のタイトルでもある薄妃さんは、旅の途中で一行に加わった。この後も道ずれとなるのだろう。

 気になるキャラクターもいる。「面縛の道士」と呼ばれ、僕僕先生一行とは敵対する。この対立が今後の物語の展開の軸になるのだろうか?

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2014年8月 3日 (日)

僕僕先生

著  者:仁木英之
出版社:新潮社
出版日:2006年11月20日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の作品は以前から気になっていたし、先日読んだ「Fantasy Seller(ファンタジーセラー)」に収録されていた作品もけっこう私の好みに合っていたので読んでみた。著者のデビュー作にして、2006年の日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

 舞台は中国。時代は玄宗皇帝の治世の前半、つまり唐の絶頂期。県令という地方の行政長官の家に生まれた、王弁という22歳の若者が主人公。彼は、父が貯め込んだ財産で自分が無為に生きてもおつりがくることに気が付いて、仕事もしない勉学にも励まない、ダラダラとした暮らしをしていた。

 そんな彼が、父の使いで山の庵に住むという仙人を訪ねる。その彼を迎えたのが、姓は僕で名も僕という仙人。つまり僕僕先生。年齢は数千歳だか数万歳だか定かではない。それなのにこの先生、何と美少女の姿をしている。

 この出会いの後まもなく、王弁は僕僕先生の旅に同道することになる。その道中で、他の神仙の者たちや玄宗皇帝その人にも出会い、王弁自身も幾ばくかの才能を開眼させる。

 何とも楽しげな物語だった。僕僕先生は神仙の中でも一目置かれるような強力な仙人、王弁は今でいうニート青年。一見してアンバランスながら、王弁の中に何かを見た僕僕先生が導く、王弁の成長物語である。ただ、二十歳過ぎの青年と美少女という組み合わせが話を面白くする。いや、ややこしくする。

 普段は飄々とした僕僕先生が、真剣な表情を見せたり、かと思うと王弁に甘えたり。時々見せるいつもと違う側面に、物語の奥行を感じさせる。シリーズが現在7冊あるらしい。しばらくは楽しめそうだ。

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