1Z.その他ファンタジー

2017年1月11日 (水)

ハリー・ポッターと呪いの子

著  者:J.K.ローリング、ジョン・ティファニー、ジャック・ソーン
出版社:静山社
出版日:2016年11月11日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 ハリーポッターシリーズの8番目の物語。と言っても、これまでの7作とは少し違う。本書はシリーズ著者のJ・K・ローリングさんが書いた新たな物語を基にした舞台劇、その脚本を書籍化したもの。描かれている舞台も7作目の「ハリー・ポッターと死の秘宝」の19年後だ。

 「死の秘宝」のエピローグも「あの出来事(「ホグワーツの戦い」と言われているらし)」の19年後。ハリーの息子たちがホグワーツ特急に乗る、キングズ・クロス駅のプラットフォームのエピソードが描かれている。実は本書の冒頭は、そのエピソードとそっくり重なっている。そういう意味で、前の7作と本書は確かにつながっている。

 本書の主人公は、そのエピソードで初めて登場した、ハリーの二男のアルバス。同じくその場面にいた(ほとんど名前だけで、セリフはなかったけれど)、ドラコ・マルフォイの息子のスコーピウスが、重要な役割を担う。そう、本書は前7作でホグワーツにいた面々の、息子たちの物語。

 アルバスはハリーの息子として、重いものを背負っていた。スコーピウスもドラコの息子であるが故の偏見と闘っていた。19年経ってもなお人々は「あの出来事」を引きずっていた。世間の「目」を感じて、それぞれに孤独を抱えた、アルバスとスコーピウスの間には共感が生まれ、急速に近づいていく。

 引きずっているのはハリーも同じ、ドラコも同じ。そして一連の事件で息子を失った老魔法使いも。そんな中で、ハリーの額の傷が再び痛みだす...。
 面白かった。楽しめた。正直に言ってそんなに期待していなかった。「ハリーポッター」は既に完結した物語だし、その設定を使って「おまけ」のような話を作っても、大したものにならないだろう。そう思っていた。でも「完結した物語」の「その後」をうまく昇華した、読み応えのある作品になっていた。

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2015年9月24日 (木)

アルケミスト 夢を旅した少年

著  者:パウロ・コエーリョ 訳:山川紘矢+山川亜希子
出版社:KADOKAWA
出版日:1997年2月25日 初版発行 2014年2月5日 50刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は、1988年にブラジルで発表されて、大きな評判を呼んだ。その後に英語を始めとして各国語に翻訳され、世界的なベストセラーとなった。ブラジルではもちろんフランスやイタリアなどでもベストセラーリストの1位に何回も顔を出し、各国で文学賞を受賞しているそうだ。日本語訳は1994年に発行。

 主人公はサンチャゴという名のスペインの羊飼いの少年。ただ少年と言っても16歳まで神学校にいて、羊飼いとしての流浪のの暮らしを2年間しているので、物語の始まりの時で18歳ぐらい。

 サンチャゴは「エジプトのピラミッドに来れば、隠された宝物を発見できる」という同じ夢を二度見た。彼は夢を解釈してくれる老女に会い、セイラムの王メルキゼデックを名乗る老人に会い、彼らの言葉に従ってエジプトを目指すことになる。

 この後サンチャゴは、騙されたり危ない目に会ったり、助けられたり導かれたりして、エジプトへ向かう旅路を行く。「困難を乗り越えて目的地に達する」パターンで、ドラマあり教訓もありなのだけれど、正直に言って、最近の類似の物語に比べると、圧倒的に「もの足りない」。

 だから、この物語が世界的なベストセラーになったのは、冒険のハラハラドキドキに、読者が興奮したからではない。むしろ「興奮」とは逆。随所にちりばめられた「勇気付けられる言葉」「ハッとさせられる言葉」を、ひとり「静かに」胸に納めるようにして、この本が大事な本となったのだろうと思う。

 例えば、クリスタル商人の言葉。受け止め方は様々だろう。私は、自分の中にこんな考えがないか、自問してみた。

 今の店は、わしが欲しいと思っていたちょうどその大きさだ。わしは何も変えたくない。どうやって変化に対応したらいいかわからないからだ。わしは今のやり方に慣れているのだ。

 もう一つ。メルキゼデック王の言葉。

 人は人生のある時点で、自分に起こってくることをコントロールできなくなり、宿命によって人生を支配されてしまうということだ。それが世界最大のうそじゃよ

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2015年8月 1日 (土)

バケモノの子

著  者:細田守
出版社:KADOKAWA
出版日:2015年6月25日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 多くの紹介は必要はないだろう。細田守監督の同名の映画が現在公開中。公開18日で約212万人の観客動員というヒット作になっている。本書はその原作小説で、細田監督自身による書き下ろしだ。

 主人公の名は蓮。9歳の時に母親が交通事故で亡くなった。父親は以前に母親と離婚している。そのため、母の親戚たちに引きとられることになった。しかし、蓮はそれを拒否して一人で生きていくことを選ぶ。

 この後、蓮は「バケモノの世界」に迷い込んで、「熊徹」という名の乱暴者の弟子となる。そして「九太」という名で生きていく。物語は「バケモノの世界」での「人間の子」の九太の成長を中心に描く。

 映画公開後20日あまりなので、ストーリーについてはこれ以上触れない。ただ、とてもよく練られたストーリーだと言っておく。少年の成長、それと裏腹の孤独、抱えた闇、もう一つの世界、冒険、衝突、回復、再生。

 私は「映画」を先に見て「小説」を後から読んだ。監督自身による書き下ろしということもあって、ストーリーに違いはない。違いはないけれど、この順番でよかったと思う。「映画」を観てワクワクした。「小説」を読んで「あのシーン」の意味がよく分かった。

映画「バケモノの子」公式サイト

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2015年2月16日 (月)

野に出た小人たち

著  者:メアリー・ノートン 訳:林容吉
出版社:岩波書店
出版日:1969年5月20日 第1刷 2004年4月5日 第13刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 スタジオジブリ作品「借りぐらしのアリエッティ」の原作「床下の小人たち」の続編。

 前作で住んでいた大きな家の床下を追い出された、小人のアリエッティと、そのお父さんのポッド、お母さんのホミリーの3人家族のその後の冒険。

 アリエッティたちは、ホミリーに兄であるヘンドリアリたちが暮らしている(はずの)アナグマの巣を目指す。それは土手を登り生垣を通り抜け果樹園を通過して...アリエッティたち小人にとっては大変な道のりだ。

 それでも何とか辿りついたけれど、それからが大変。小人たちは基本的にひっそりと隠れるように暮らしている。ヘンドリアリたちもそれは同じ。簡単には見つからない。途中で見つけた「編み上げぐつ」を家がわりにして暮らしながら、じっくりと探すことに。物語はこの間の出来事を中心に描く。

 お父さんのポッドは、ちょっと理屈っぽいけれど頼りになる。お母さんのホミリーは感情的で気ままなところがあるけれど、誰よりも家族想いだ。アリエッティは好奇心がいっぱい。デフォルメされているけれど、3人で家族のいいバランスを感じる。

 なかなかスリリングな冒険譚で楽しめた。章タイトルがアリエッティが付けていた「日記格言集」からの引用の格言になっているのだけれど、これがその章の内容にうまくはまっていたり、微妙な感じだったりする。章タイトルではないけれど、なかなか良い格言をひとつ「酒がはいれば、知恵が出ていく」

 本書だけでも楽しめるけれど、はやり前作「床下の小人たち」から順番に読んだ方がいいと思う。ちなみにシリーズは全5巻ある。

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2014年7月24日 (木)

Fantasy Seller(ファンタジーセラー)

編  者:新潮社ファンタジーセラー編集部
出版社:新潮社
出版日:2011年6月1日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 大好評の「Story Seller」シリーズ(123Annex)の仲間ということで良いかと思う。ファンタジー作家さん7人の作品を収録したアンソロジー。7人に共通しているのは、ファンタジーノベル大賞で賞を受賞しているということ。

 収録順に作品名と著者を紹介する。「太郎君、東へ/畠中恵」「雷のお届けもの/仁木英之」「四畳半世界放浪記/森見登美彦」「暗いバス/堀川アサコ」「水鏡の虜/遠田潤子」「哭く戦艦/紫野貴李」「スミス氏の箱庭/石野晶」「赫夜島/宇月原晴明」。

 こうして列記してそれぞれの作品を思い出して感じるのは、ファンタジーには、ずいぶんと様々な作品があるのだということ。河童や雷や竜といった和製ファンタジーのキャラクターものや、古典文学をベースにした創作、怪奇現象やホラー色の強い題材、そして学園ものまで。(意外なことに、ファンタジーの定番の魔法系はなかった)

 私としては、馴染のある作家さんということもあって、畠中恵さんの「太郎君、東へ」が楽しめた。徳川時代の初め、関八州に聞こえた河童の大親分、禰々子(ねねこ)の物語。女性ながらめっぽう腕っぷしが強い。利根川の化身である坂東太郎とのやり取りも面白い。

 もう一人の馴染のある作家さんは森見登美彦さん。「こんなところに新作が!」と思ったのだけれど、森見さんの作品は小説ではない。「四畳半」について、自分の作品と絡めながらグダグダと書いたものだ。(「グダグダ」なんて書いたけれど貶すつもりは毛頭ない。「グダグダ」は森見さんの作風なのだ)

 他には、前から気にはなっていた仁木英之さんの「雷のお届けもの」と、「かぐや姫」をベースにした宇月原晴明さんの「赫夜島」がよかった。これを機会に他の作品を読んでみたいと思った。

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2014年7月17日 (木)

バーティミアス ソロモンの指輪1 フェニックス編

著  者:ジョナサン・ストラウド 訳:金原瑞人、松山美保
出版社:理論社
出版日:2012年1月 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 7年前に読んで面白かった「バーティミアス」3部作に、新刊が出ていることを知って読んでみた。

 時代は、以前に読んだ「バーティミアス」3部作から、ざっと3000年ぐらい前。妖霊のバーティミアスが2000歳ぐらいのころ。..と、なんだか時間の感覚がおかしくなりそうな設定だけれど、「妖霊」というのはいわゆる「悪魔」で何千年も生き続ける。だから3000年前と言えば、私たちには「歴史」だけれど彼らには「経験」なのだ。

 2000歳のバーティミアスは、古代イスラエルの王であるソロモン王に仕える魔術師に仕えていた。魔術師は妖霊を召喚し、妖霊はその魔術師の命令を聞くことになっている。ただし魔術師に呪文を間違えるなどのスキがあれば、襲ってもいいことになっている。

 物語は、バーティミアス、ソロモン王、シバの女王、女王の近衛兵、のパートが入れ替わって進む。ソロモン王とシバの女王の争い、魔術師たちの確執、陽気で冷酷な妖霊たちの小競り合いなどを描く。腕は立つけれど口が悪く不真面目なバーティミアスは、その性格のせいでずいぶんと面倒なことを引き寄せている。まぁそれが面白いのだけれど。

 それで、私がうっかりしていたのがいけないのだけれど、本書は完結していない。中途でブッツリと切れて終わっている。読んでいて後半になっても、どうも物語が収れんしていかないと思っていたら、そういうことだったのだ。正直言って本書では「何も起きない」に近い。

 そんなわけで、物語は次巻の「ヤモリ編」、そして「スナネコ編」に続く。

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2014年5月26日 (月)

蛇を踏む

著  者:川上弘美
出版社:文藝春秋
出版日:1999年8月10日 第1刷 2003年7月25日 第11刷
評  価:☆☆☆(説明)

 友達に紹介してもらったので読んでみた。表題作「蛇を踏む」を含む3編を収録した短編集。「蛇を踏む」は1996年上半期の芥川賞受賞作。

 「蛇を踏む」の主人公はヒワ子。数珠屋で店番として働いている。ある日、藪で蛇を踏んでしまう。蛇は「踏まれたらおしまいですね」と言ってどろりと溶け、次いで煙のような靄のようなものになり、最後に人間の形になった。50歳ぐらいの女性になった。

 その日から蛇はヒワ子の家で、ヒワ子の母だと名乗って暮らしだす。ヒワ子はそれが自分の母ではないことは分かっているのだけれど、食事の支度などをしてくれるものだから、ズルズルと2人の暮らしを続ける。

 物語は、ヒワ子と蛇の暮らしと、ヒワ子と数珠屋の夫婦の会話を、特に怪異譚としておどろおどろしくするでもなく、むしろ淡々と何事もないように語られる。しかし、蛇の化身との暮らしが、何事もないはずがなく...。

 2編目の「消える」は、両親と3人兄妹の5人家族の物語。ある日、上の兄が消えてしまう。消えてしまったけれど、どうもそこらにいるらしい。3編目の「惜夜記(あたらよき)」は、主人公と少女の幻想的な物語の偶数章と、様々な夢幻のようなできごとの奇数章が、交互に重ねられる。

 正直に言って「蛇を踏む」を読んだ直後は「???」という感じだった。蛇が人間に化身する話は古今あるので、それ自体は構わない。全体につかみどころがなく、エンディングが突然でいきなり放り出されてしまうのだ。

 読み進めながら、いろいろな作家さんのいろいろな作品を思い出した。最初は梨木香歩さんの「沼地のある森を抜けて」「f植物園の巣穴」そして「裏庭」、次には三崎亜記さんの「海に沈んだ町」「バスジャック」。そして「惜夜記」を読み進める内にジョージ・マクドナルドさんの「リリス」。

 「リリス」まできて思い至った。この3編は「幻想文学」なのだ。著者が「あとがき」で「うそばなし」と呼んでいるものも「幻想」と言える。「幻想文学」という枠を得ると「蛇を踏む」の輪郭がくっきりとした。芥川賞もナットク。

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2013年4月 3日 (水)

星の牧場

著  者:庄野英二
出版社:角川書店
出版日:1976年11月20日 初版発行 1986年9月20日 5版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の3月の指定図書。

 最初の刊行は1963年に理論社から。翌年の産経児童出版文化賞、野間児童文芸賞、日本児童文学者協会賞を受賞。戦後児童文学の屈指の名作と言われる長編ファンタジー。1980年代にはテレビドラマや映画化もされている。

 時代は終戦後しばらくしたころ。舞台は山の牧場。主人公はモミイチという名の青年。モミイチは南方の戦線で従軍した後、復員して山の牧場に帰ってきた。ただ、マラリアの高熱と戦争の悲惨な経験のためか、従軍中の記憶をほとんど失っていた。自分が世話をしたツキスミという名の馬のこと以外は。

 物語は、モミイチが彼だけに聞こえる馬の蹄の音に、導かれるようにして山の奥に踏み入れ、そこで出会ったジプシー(山を愛して自由にさまよいながら暮らす人々)たちとの交流を描く。ジプシーたちは大勢いて、自然の恵みを得て生計を立て、音楽を愛し楽器を奏でて暮らしている。

 どうも不思議なことが重なって、このジプシーたちとのエピソードは本当のことなのか?という疑問が浮かぶ。しかし、そういうことには囚われないで、そのまま素直に受け止めた方がいい。何しろ本書は「ファンタジー」なのだ。

 モミイチが最初にジプシーと出会ったのは、山の奥に分け入って林を抜け、崖を上ったところにある一面の花畑。ここは恐らく「異界」だ。モミイチは「私たちの世界」と「異界」を行き来して、失ったものを少しづつ取り戻す。

 最後に。これは50年も前の作品。その作品で既に「あくせくはたらきすぎてくるしみがふえるようなこと」への警鐘が鳴っている。その警鐘は50年間全く生かされなかったようだ。私たちはジプシーたちの暮らしから、「幸せに暮らすために、多くのものは必要ない」ということを学ぶべきだと思う。

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2012年12月 5日 (水)

薄紅天女

著  者:荻原規子
出版社:徳間書店
出版日:1996年8月31日 初版発行 1998年1月10日 9刷発行 
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「空色勾玉」「白鳥異伝」に続く「勾玉」シリーズ3部作の3作目。正確な年代は定かではないが、「空色勾玉」から「白鳥異伝」までに数百年。本書「薄紅天女」は、そこからさらに数百年下り、奈良時代の末の物語。伝説の勾玉の1つで「白鳥異伝」で失われた「明玉(あかるたま)」が、キーアイテムになる。

 本書は二部構成で、第一部の主人公は、武蔵の国に17歳の少年の藤太(とうた)と阿高(あたか)。2人は叔父と甥という関係ながら同じ歳でもあり、双子のように育った。

 実は、阿高の出生には秘密があり、その秘密に引き寄せられるように、出生の地である蝦夷へ向かう。藤太と友人2人は、都から来た少将の坂上田村麻呂と共に阿高を追う。そして彼らは蝦夷の地で、阿高が秘める力と重すぎる運命を知ることになる。

 第二部の主人公は、時の帝の娘、つまり内親王の苑上(そのえ)15歳。その頃、都には頻繁に怨霊が出没し人々を害していた。皇族であってもその被害を免れず、兄の皇太子にまで危害が及んでいること知り、苑上は怨霊に立ち向かうために宮を出て、その途上で阿高に出会う。

 面白かった。前作「白鳥異伝」のレビューの最後に「魅力的な登場人物が配置され、キャラ読みしても面白いかもしれない」と書いたが、本書はそれに輪をかけて登場人物が魅力的だ。以前の自民党の総裁の言葉を借りれば「キャラが立っている」

 例を挙げると、優しい藤太とつれない阿高は、二人とも若い娘にモテモテのイケメン。お転婆な内親王の苑上。大男の豪傑ながら面倒見の良い田村麻呂。その他にも、武芸に長けた男装の麗人、若くして一門を開いた型破りの僧....その人を主人公にスピンアウト作品ができそうな登場人物がゴロゴロいる。

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2012年11月24日 (土)

白鳥異伝

著  者:荻原規子
出版社:徳間書店
出版日:1996年7月31日 初版発行 
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「空色勾玉」に続く「勾玉」シリーズ3部作の2作目。前作から時代がずっと下って、前作で語られた物語が伝説となったころの物語。

 主人公は遠子(とおこ)と言う名の少女と、幼馴染の小倶那(おぐな)という名の少年。遠子は橘という一族の分家の娘で、小倶那は生まれたばかりの頃に捨てられ、川を流れてきたところを、遠子の母に拾われた。活発な遠子がおとなしい小倶那を心ないいじめから守る、という図式ではあるが、2人は双子のように育てられた。

 2人が12歳の時、まほろばの都から来た大王(おおきみ)の息子、大碓皇子(おおうすのおうじ)に見い出され、都に上って大碓皇子の元で教育を受けることになった。別れに際して小倶那は「強くなって戻ってくる」と、遠子と約束する。

 物語は別々の場所で暮らす2人の運命を描く。2人は場所だけでなく、その生き方までが大きく隔たってしまう。しかもそれぞれの、特に小倶那の意思に反する形で。後になって2人の別れの約束は、哀しくも皮肉な形で訪れる..。

 実は遠子は、前作で語られた「闇(くら)」の血を引き、小倶那は「輝(かぐ)」の血を引く。つまり、「空色勾玉」の主人公である狭也と稚羽矢のそれぞれの末裔にあたる。その血が2人に過酷な運命をもたらす。

 主人公2人の位置付けも、物語全体の雰囲気も前作とよく似ている。しかし、本書の方が物語の拡がりが感じられた。魅力的な登場人物が配置され、キャラ読みしても面白いかもしれない。

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