16.上橋菜穂子(守り人)

2009年10月 8日 (木)

獣の奏者 3.探求編、4.完結編

著  者:上橋菜穂子
出版社:講談社
出版日:2009年8月10日第1刷 9月10日第5刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書に先立つ2冊「獣の奏者 1.闘蛇編、2.王獣編」を読んでから2年。待望の続編というか完結編を読むことができてうれしい。2年前のレビューには、「色々なことが着地しないまま物語は終わってしまう。続編がないのなら、これはいただけない。」と、偉そうに書いているぐらいだ。

 前2冊で物語が完結しているかどうかという点では、私と違う意見の方も多くいるようだ。その筆頭は著者自身で、あとがきに「「獣の奏者」は、<闘蛇編><王獣編>で完結した物語でした。」と、また「きれいな球体のように閉じた物語」ともおっしゃっている。
 その著者がなぜ続編を?ということは、あとがきに記されているのでここでは置くとする。ただ、前2冊の物語の中に、これだけの壮大な物語の種が潜んでいたのだから、完結していなかった、ということなのだと思う。著者さえもこの物語の種には当初は気が付かなかったのだと。(「私は気が付いていた」と言いたいのではないので、誤解のなきよう。)

 物語は「王獣編」のラストの「降臨の野」の出来事から11年後、主人公エリンが闘蛇衆の村を訪ねるシーンから始まる。王獣の医術師を目指していたエリンが、なぜ故郷に近い闘蛇衆の村に?と思うが、これは大公シュナンの命で闘蛇の大量死事件の調査に赴いたのだった。
 闘蛇の大量死と言えば、エリンの母ソヨンが死罪に問われた事件を思い出す。エリンにとっては、この調査は母の事件の調査でもあり、過去へ遡る探求の道でもあるのだ。この調査が象徴するかのように「探求編」はもちろん「完結編」も、エリンによる過去のそして真実の探求を描いている。この国の誕生前に神々の山脈の向こうで起きた事件の真実は?

 本書は完結するための2冊だから、あいまいさを残したままでは終われない。様々なことに決着をつけなければならない。もう初々しい若者ではないエリンやシュナンや真王セィミヤは、それぞれに決断をしその結果に責任を負わなくてはいけない。その決断の結果は過酷であり、「もう少し良い方法はないのか」と何の責任も持たない私は思うが、恐らくこれ以外にはないのだ。母とは違う道を選んだエリンのしなやかな強さが印象に残った。ファンタジーの大河ドラマがここに完結した。

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2008年11月29日 (土)

精霊の木

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2004年6月初版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

  守り人シリーズで、圧倒的な感動巨編を紡いだ著者のデビュー作。本書は、再版を願う読者の声に応える形で復刊された新版。アジアンハイファンタジーという、どこか古代の香りが漂う作品群で知られる著者のデビュー作は、何とSFだった。しかし、文化人類学を学んでいた著者が、沖縄の信仰の場所でその核となる着想を得たというこの物語は、他のどの作品よりも著者らしい、その思いが現れた作品だった。

 舞台は、環境破壊のため住めなくなった地球を出て人類が移住した星、ナイラ星。時代は、物語の中で、白人がネイティブアメリカンを迫害してから400年で地球が破滅、その後人類がナイラ星に移住してきてから200年、とあるから今から400年ほど後のことになるのだろう。そして、この星には知的な先住民がいたが約100年前に滅んでいる。
 主人公は、14歳の少女リシアと、少し年上のいとこの少年シン。彼らの家系にはある秘密があり、その秘密に関連してリシアにある特殊な能力が発現する。彼らは政府によって幾重にも隠匿されてきた、この惑星への移住と先住民族の滅亡に関する陰謀に巻き込まれる。
 そして、リシアの特殊能力は、100年前の出来事、さらには1000年前の出来事を一つに結びつけて、彼女は人々が1000年の間、脈々と受け継いできた希望の最後の一片となる。
 なんという構想力だろう。偕成社のHPによると、著者は出版社に電話をかけて、この物語の原稿を読んでもらったそうだ。そんな経緯で作家デビューしたのには驚く。その時の担当の人が、この物語に目を留めたことに感謝する。でなければ、私は著者の作品に出会っていなかったかもしれないのだから。しかし、この物語自身にそれだけの力が宿っているのも間違いない。著者のファンならずとも、皆さんにおススメだ。

ここから先は、ちょっと思ったこと書いています。お付き合いくださる方はどうぞ

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2008年6月21日 (土)

流れ行く者 守り人短編集

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2008年4月初版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「守り人」シリーズの外伝の短編集。バルサ13歳、タンダ11歳の時の物語。バルサが故郷のカンバルから養い親のジグロと共に逃げ出してから7年。バルサはトロガイの家にジグロとともに暮らしていて、その麓にタンダが住む村がある。
 バルサとタンダの関係を紐解く、そして本編ではほとんど語られなかったジグロの人となりを垣間見ることができる。「浮き籾」「ラフラ<賭事師>」「流れ行く者」の3編と、超短編「寒のふるまい」の1編を収録。

 心に残ったのは「浮き籾」と「流れ行く者」の2編。
 「浮き籾」では、タンダの住む村の暮らしと情景が、目に浮かぶかのように描き出される。村人たちが共同して稲を育て、害虫に立ち向かい、収穫する。人々は工夫して生活を営み、大人は家族と村を守り、子どもには子どもの役割がありそれを果たす。
 「守り人」シリーズの舞台は、その多くが宮廷であったり、街であったりして、農村は物語の背景に押しやられていた。本当は、国の大部分が農村であったはず。この農村が、「守り人」シリーズの終盤では破壊される。平和が侵されるということは、この暮らしが破壊されるということでもあったわけだ。

 さらに、ここで描かれているのは幼いバルサとタンダの心の交流だ。なんと言ってもタンダが幼い。11歳ということだが、もっと幼い4,5歳かと思うような振る舞いもする。それに比べると、バルサはたった2つ年上なだけだがしっかりしている。
 タンダは薬草師としての才能の片鱗を見せているが、何としても幼い。バルサから見れば「守ってあげる」対象でしかなかったと思う。それが、年を経てタンダを必要とするように発展するのだが、そういった兆しは見当たらない。そこの部分の物語は、知りたいような知りたくないような微妙な気分だ。

 次は、表題作の「流れ行く者」。ジグロはバルサの庇護者として、普通の親とは違った方法で彼女を護る。娘に短槍を持たせて護衛の旅に連れてくるなど、周囲からも護衛士仲間からも、なかなか理解されない。しかし、ジグロは自分がいつ死ぬともわからないことも、自分が死ねばバルサは自分で自身を守るしかないことも知っている。
 そしていよいよ危機が迫った時には「自分の命を守ることに、全力をつくせ。」という言葉にすべての思いを乗せるしかないのだ。

 しかし、バルサはジグロに守られるだけの存在ではなかった。重傷を負い、高熱を出して倒れたジグロを救ったのは、バルサの機転と厚い介抱によるものだ。逃亡生活の7年の間に、2人の関係はお互いを必要とするものになっていた。バルサは「闇の守り人」でジグロの思いを改めて受け止めることになるが、そこにはさらに複雑な感情が渦巻いていそうだ。

 本書は、「守り人」シリーズの読者を対象としたものだと思った方が良い。本書だけ読んでも面白いかもしれないが、その面白さ半端なものになってしまうだろう。逆に言えば「守り人」シリーズの読者にはオススメ。読めば、シリーズの世界観や人間関係に何か感じるものが必ずあるはず。

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2007年10月21日 (日)

獣の奏者 1.闘蛇編、2.王獣編

著  者:上橋 菜穂子
出版社:講談社
出版日:2006年11月21日
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「守り人」シリーズの著者による長編ファンタジー。時代も場所も架空の物語だが、なんとなくアジアの古代を思わせる。魔法がなくてもファンタジー小説は成り立つのだと、改めて分かった。

 舞台は、リョザ神王国、真王が国を治めているが、血の穢れをきらう真王に代わって、大公が他国からの侵略に対する防衛の任に就いている。その大公が兵器として使うのが「闘蛇」、巨大な蛇のような生き物だ。そして、闘蛇の唯一の天敵が「王獣」、翼を持つ崇高な獣で、真王のシンボルとされる。(大公の闘蛇より優位にある、という意味もあるらしい)

 主人公エリンは、闘蛇の世話をする母の子として生まれ、曲折を経て長じてから王獣の医術師となり、この世で唯一人王獣を慣らすことができる能力を得る。
 しかし、いくら心を通わせたと思っていても、獣と人間の隔たりは大きく、どうやら太古には人間と王獣の関わり方が原因となって、国が破滅するような悲惨な事件が起こったらしい。エリンの母の民族である「霧の民」が厳しい掟を作って、闘蛇や王獣を人間が飼い慣らすことのないようにしたのは、2度と同じ過ちを繰り返さないためと言う。

 面白い。一気に2冊読ませるような面白さだ。しかし、2つ意見を言いたい。
 一気に読んだ最後に結末を迎えた読者は、突然放り出されたような感覚を味わう。色々なことが着地しないまま物語は終わってしまう。続編がないのなら、これはいただけない。
 もう1つ、この話はエリンの成長物語なのだとしても、その他の人の話も少し肉付けしたらどうだろうか。エリンの成長に合わせて周辺には色々な人が現れ、それなりに個性的な背景を持つな人々なのに、エリンがいる舞台が移ると、背景の書割のように消えてしまう。魅力的な登場人物もいるのでもったいない気がする。

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2007年8月18日 (土)

天と地の守り人 第三部

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2007年3月初版1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 いよいよ「守り人」シリーズの大団円。チャグムとバルサは再び別々の道を行く。バルサはタンダを救出するための旅に、チャグムはロタとカンバルの兵を率いてタルシュ帝国軍との戦いに臨む。

 目に情景が浮かぶような場面が1つ。タルシュ軍に攻められ防戦一方の新ヨゴの砦で、南から来た援軍を見て指揮官が叫ぶ「ロタ騎兵が助けに来てくれたぞ!希望をすてるな、ヨゴの武者たちよ!」
 目に浮かんだのは、ロードオブザリングで、ペレンノール野の戦場にローハン軍がゴンドールの救援に駆けつける場面。そして、チャグムは「ロタとカンバルの勇士たちよ、志あらばわれにつづけ!」と先頭に立って戦場に飛び出す。
 あまり簡単に感動しないたちなのだが、ここでは身体が震えた。このシーンのために是非映画化して欲しい。NHKで「精霊の守り人」がアニメ化されたが、できれば実写がいい。(もちろん、お金をたっぷりとかけた実写)

 チャグムと帝の親子の関係がどうなるかも気になっていたが、著者はよく練られた回答を用意していた。天災を告げられ、自らの治世の誤りを認めなくてはならなくなった時に、帝は言う、「そなたはそなたの道をいくがいい。」冷たく突き放したような言い方にも聞こえるが、そうではない。父が子を認めた瞬間だったのではないか。決して誤ることのない「神の子」としては、これ以上の言葉はない。

 「守り人」というシリーズ名は、バルサの職業である「用心棒」から由来しているのだろう。しかし、10冊のシリーズが終わってみると、真の主人公はチャグムだった。著者がそう考えていたかどうかはわからないが、おそらくは著者にも意外な展開だったと思う。チャグムの成長を一番うれしく思っているのは、他ならぬ著者自身ではないだろうか?

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2007年8月12日 (日)

天と地の守り人 第二部

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2007年2月初版1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「守り人」シリーズ最終章 第3部の2。今回の舞台はカンバル王国、バルサの故郷だ。チャグムとバルサはカンバル王にロタ王国との同盟を説くために王城を目指す。
 もちろん、そうすんなりとは事は運ばない。タルシュの刺客に襲われ、頼りの王の盾はタルシュへの内通者だし、山の王に仕える民である牧童の協力は得られなかった。しかも、カンバル王はすでにタルシュとの密約に1歩踏み出してしまっていた。これを逆転する策などあるのだろうかと、絶望的な気持になる。

 このような、「この世」の政治ドラマと共に、シリーズを通して語られてきた「向こう側」のナユグにも大きな動きがある。それも、この第2部で明らかになる。それが「この世」サグに与える影響も。新ヨゴ皇国は、南のタルシュ帝国の侵攻以外にも大きな危機に瀕していることが明らかになる。ますます絶望的だ。

 冒頭の国境越えの際に、盗賊にわざと荷物を「捨て荷」として落としていくシーンがある。盗賊がそこそこの成果をあげて引き上げていくための方策だ。これが、この巻の最後になって重要な意味を持つ。希望が見えるエンディングに少し心が晴れる。

 新ヨゴにもカンバルにもタルシュへの内通者がいる。彼らとて故国を思えばこその背反だ。弱い国がだどる運命の何と過酷なことか。

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2007年8月 9日 (木)

天と地の守り人 第一部

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2006年12月初版2刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「守り人」シリーズがバルサの物語、「旅人」シリーズがチャグムの物語、という示唆が「蒼路の旅人」のあとがきでされていたが、本書はバルサの物語というわけではない。「精霊の守り人」以来7冊のシリーズに続く最終章の3部作の1冊目だ。
 バルサとチャグムはもちろんのこと、タンダやシュガ、トロガイなどの主だった登場人物それぞれに、運命の岐路を迎えることになる物語の始まりだ。

 まずは、「蒼路の旅人」の最後で夜の海に飛び込んだチャグムを捜すバルサの旅を中心にストーリーは展開する。
 チャグムの消息は意外にあっさりと知れる。この後の物語を考えれば、ここで手間取るわけにはいかない、といったところか。しかし、ロタ王国の港町から、大領主の館、そして王宮と、チャグムの足取りはいつもバルサの数歩先に行ってしまって、なかなか追いつけない。
 しかも、チャグムの、ロタと新ロゴ皇国の同盟という思いは次々と裏切られてしまう。それだけでなく、ロタ王国は内部に南北の対立を抱えており、そのあおりも受けて命も狙われている。

 バルサの方も命の危険を冒しながら、チャグムの後を追い、遂にチャグムの危機に間一髪で間に合う。正直に言えば、お話なのだから「遂に間に合いませんでした」と終わってしまうはずがないことは分かっているのだけれど、「本当に良かった」と思わせるほどの迫真の展開だった。

 それにしても、内紛はロタだけではなく、タルシュ帝国も2人の王子が相争い、新ヨゴも大勢はチャグムの味方ではない。しかも、タルシュの密偵がバルサを救出し、チャグムを守るのはロタ王の護衛だ。敵味方入り乱れた展開なのだが、登場人物のそれぞれの性格付けや描写が鮮明で、わかりにくくならない。著者の筆力によるものだろう。

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2007年8月 2日 (木)

蒼路の旅人

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2005年5月初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「守り人」シリーズの外伝、ではないらしい。著者は「あとがき」で、”バルサをめぐる物語を「守り人」の物語として書き、チャグムのような少年が(中略)歩んでいく物語を「旅人」の物語として書いてみたい"と書いている。
 つまり、本作は「虚空の旅人」に続く、バルサが登場しない外伝的作品ではなく、チャグムの物語の序章、ということだ。(チャグムのような...の「...ような」の部分が少し引っかかるが)

 今回チャグムは今までにない試練を通して大きく成長する。「今までにない」とは、今回はチャグムは1人で問題を克服しなければいけない点だ。バルサはもちろん、シュガも同行していない。様々な善き人に出会い、チャグムの味方をしてくれるが、それらの人もそれぞれの立場と信念で生きていて、その身を投げ打ってでもチャグムを守ってくれるわけではない。

 そのチャグムが背負っているものも、今回はとても大きい。南の帝国タルシュの前に風前の灯同然の祖国、新ヨゴ皇国と、さらには隣国のロタやカンバルの国と、そこに暮らす幾万の民の運命を背負わされている。15歳の少年には重過ぎる荷物だろう。
 登場人物の一人が、チャグムが「ナユグ」を見ることができると知って、「逃げられる場所が見えているのに、逃げないで生きていくのは苦しいことだろう」と感じる場面があるが、その通りだ。今まで気が付かなかったけれど、チャグムには閉じこもることができる避難場所があるのだ。あるのに、そこには逃げられない。

 それにしても、ヨゴ(新ヨゴ皇国もヨゴ枝国も)の為政者たちのありさまはどうだろう。狭い国の中で、自分の保身と権力闘争のために国を危うくしてしまっている。
 チャグムは今回船でタルシュ帝国まで旅をし、先々で帝国の壮大な建物を見、自分の国が片隅に小さく描かれた地図を見た。辛くても彼にとっては良い経験だろう。為政者に必要なことの1つは、自分の国と世界とのバランスを知る世界観だろうから。「鎖国」を言い出す将軍にも、その言を重用する帝にも、その世界観は備わっていない。

 読み終えて、月並みな言葉が口をついた。「続きが読みたい」

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2007年6月12日 (火)

神の守り人 来訪編,帰還編

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2003年2月第1刷 2003年2月第2刷
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 「守り人」シリーズで、初めて2巻からなる長い物語。今回活躍するのは、バルサとタンダ。チャグムとシュガは登場しない。「虚空の旅人」で2人がカンバル王国へちょうど出かけている時期に設定されている。

 今回バルサが絡むのは、ロタ王国に住む「タルの民」の娘アスラ。彼女は、かつて絶大かつ暴力的な力でロタを支配した神「タルハマヤ」を、その身に宿す。そして、兄や自身の身を守るために念じると、「タルハマヤ」の力によって、周囲にいる者を大量殺戮してしまうという危険をはらんでいた。
 このまま、「タルハマヤ」の力がアスラの心を蝕んでしまえば、この世を支配する暴力的な神の再来となってしまう。

 だからと言って、幼い少女を殺してしまうことに納得できないバルサはアスラを守って逃走し、ロタ王国の影の軍団「カシャル(猟犬)」が、この世の平和のために2人を追う、という構図。
 もちろん、物語はそんな単純なままではない。虐げられた民族の歴史から、ロタ王国内の不和、王弟の恋愛、父娘の確執までを絡めて、複雑にねじれて行く。長編ではあるけれど展開が速く退屈しない。最後にはうまく収まるのだろうと思いながらも、どうなるのか目が離せない、という感じ
 これまでのシリーズの中では、今回は最大の危機だ。しくじれば、とんでもない神をこの世に招いてしまう。世界全体の問題だ。「バルサよ、気持ちは分かるが本当に大丈夫か?」と、途中で問いかけたくなるような物語だ。

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2007年5月11日 (金)

虚空の旅人

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2001年8月第1刷 2001年9月第2刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 女用心棒バルサが活躍する「守り人」シリーズの外伝的な物語。バルサは登場しない。主人公は、新ヨゴ皇国の皇太子チャグムと星読博士のシュガ、舞台も新ヨゴ皇国ではなく、南の隣国サンガル王国。

 サンガル王国の第一子に男児が誕生し、その祝いの儀式への出席のために、チャグムとシュガが出掛ける、という設定。
 サンガル王国は、かつては海賊だった今の王家の祖先が周辺の島々を征服して統一した国。王家の男たちは「海の男」であり、戦にも漁にも進んで出て行く。皇宮の奥深くにいる新ヨゴ皇国の皇族とは随分と違う。
 そして、女たちは更に特徴的だ。王家と王国を安定させるため、幼いころから権謀術数を学ぶ。大人になれば、島々の領主に嫁いでいくのだが、それも王家の一員として領主たちを監視し、操っていくための方策なのだ。今回の物語でも、この王家の女たちは重要な役割を担っている。

 バルサが登場しないので、外伝という扱いなのだが、シリーズの中では重要な位置づけの1冊と思われる。舞台のサンガル王国以外にも、ロタ王国や南の大帝国であるタルシュ帝国などが紹介され、それらの特色や力関係などが明らかになる。「守り人」シリーズの世界観がぐっと広がった感じがするし、サンガルの王子タルサンとチャグムとの間の友情も今後の展開が期待されるところだ。

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2007年2月17日 (土)

夢の守り人

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2000年6月第1版
評  価:☆☆☆(説明)

 守り人シリーズの第3弾。今回の舞台は再び新ヨゴ皇国。登場人物も、ほぼ第1巻ろ同じ顔ぶれ。第2巻で舞台が違う国になってしまったので、新しい物語と登場人物を求めて、色々な国に行く旅物語形式なのかと思った。同じ顔ぶれでは、不思議な物語も作りづらいたろうから、と。しかし、著者にとってはそうでもなかったらしい。ちゃんと1巻とのつながりも確保しながら、不思議な物語を紡ぎだしている。

 今回の不思議世界は「夢」。人は夢の中では一切のしがらみから解き放たれる(実際には、現実の世界と同じように苦労している夢を見ることもあるけど)。精神世界を研究している人の中には、夢というのは魂の世界での連絡方法だと言う人もいるようだ。この物語もそう。夢というのは、魂が別世界へ言っている状態ということになっている。

 現実に大きな問題を抱えてしまうと、夢の世界から戻りたくなくなり、目覚めなくなってしまう。戻ってこなくなった魂たちを救うために、現実世界ではバルサが、魂の世界ではタンダとトロガイ師が活躍する。

 この世の中は、水中の気泡のように近づいたり離れたりしているたくさんの世界の1つ、というのが、このシリーズの世界観だ。時々2つの世界が行き来できるほど近づいた時に不思議なことが起きる。現実の不思議事件もそうして起こるのかもしれない。

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2007年2月14日 (水)

闇の守り人

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:1999年2月第1刷
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 女用心棒バルサが活躍するアジアンファンタジーの第2弾。
 今回は舞台がバルサの故郷カンバル王国。登場する人物はバルサ以外は全員新顔。(回想シーンを除けば)
 バルサが故郷を追われることになった事件のてん末など、第1巻からの伏線が成就する。著者は、ここまでの物語について、第1巻の執筆時には少なくとも構想を持っていたのだろう。
 この物語は、この世ならぬ不思議なものが色々と登場するが、今回の主たるテーマは、人間ドラマだ。そのドラマに引き込まれる分、前作よりもしっかりした読み物になっているように思う。

 1つのドラマは、バルサの養い親ジグロとその兄弟、一族を巡るドラマ。真実は別にあるとしても、故郷では反逆者の烙印を押されているジグロ。残された兄弟や一族にはつらい時期があったことは想像できる。さらに、ジグロを討って国宝の金の輪を取り返したとして英雄となった弟には、秘められた過去がある。

 もう1つのドラマは、バルサとジグロとの間のドラマ。ジグロはすでに亡くなっているので、このドラマはバルサが1人で背負い込む宿命としてこれまで語られていた。しかし、今回思いもよらない形で、バルサとジグロが思いをぶつけ合うこととなる。
 そこで聞いたジグロの心の叫び「バルサさえいなければ...」、そしてバルサの心の叫び「私に何ができたと言うのだ」
 深い。「守り人」シリーズは、少年少女向けの物語とされているが、ここまで深い心の掘り下げは、バルサ自身の年代、そう30年以上は人生を経験した者でないと、なかなか伝わるものではないと思う。

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2007年1月15日 (月)

精霊の守り人

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:1996年7月第1刷 1997年5月第3刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 アジアンハイファンタジーというジャンルになるらしい。また、NHKでアニメ化が決定しているらしい。「らしい」と書いたのは、この本を手に取った時には、そんなことは知らなかったので。今、この感想を書くときに書籍データを調べていて知った。

 とても良い本に出会えたと思う。この後、何巻も続編がある。読んでみたい本がたくさん現れたことになって、とてもうれしい。

 舞台は、新ヨゴ皇国という架空の国。主人公はバルサという名の30才の女用心棒。どうして30才なの?なんで女が用心棒なの?物語の主人公としては異色だと思う。しかし、この異色の主人公の設定が、物語の奥行きを感じさせる要なのだと、読み終わればわかる。

 帝が支配する国。この世は2重世界になっていて、こちら側が「サグ」、あちら側は「ナユグ」。サグとナユグは支えあって存在している。あちら側の生き物が、こちら側の子どもに卵を産みつける。そしてそれは、両方の世界にとってとても大切なもので...。バルサはその子どもを、目に見えないあちら側の魔物からだけではなく、こちら側の帝の追っ手からも守る。

 ところで、私の知る限りでは、キリスト教をはじめとする宗教では、世の東西を問わず、この世とは別の世界、例えば天国や地獄という考えはあるが、それはこの世とは「別の場所」にある、という風に考えられているように考えられているように思う。
 この物語ではそうではなく、この世に重なるように目に見えない世界が存在する。宗教が広まる前の古代は、そういった目に見えない世界が確かに感じられる世界だったのではないかと思う。そんなことを感じさせる本だ。

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