1.ファンタジー

2017年10月11日 (水)

こそあどの森の物語 はじまりの樹の神話

著  者:岡田淳
出版社:理論社
出版日:2001年4月 初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 久しぶりの児童文学。「こそあどの森の物語」というシリーズの中の1冊。シリーズは1994年の「ふしぎな木の実の料理法」から始まって、今年(2017年)2月に発行された12冊目の「水の森の秘密」で完結した。本書はその6番目の作品。

 息の長い人気シリーズだから知っている方もいると思うけれど、シリーズの説明を。舞台になるのは「こそあどの森」。「この森でもあの森でもその森でもどの森でもない森」。主人公はスキッパーという名の少年。スキッパーはバーバさんと住んでいる(バーバさんは旅に出ていてあまり家にいない)。

 他にはトワイエさん、ポットさんとトマトさんの夫婦、スミレさんとギーコさんの姉弟、ふたご(彼女たちはしゅっちゅう名前が変わる)、という風変わりな住人たちが、それぞれ風変わりな家に住んでいる。例えば、ポットさんたちは「湯わかし」の家、スミレさんたちは「ガラス瓶」の家に住んでいる。ここまではシリーズ全体の設定。

 本書では、この森にハシバミという少女がやってくる。ある夜にしゃべるキツネがスキッパーの家にやって来て「森のなかに、死にそうな子がいるんだ」と言う。それで、スキッパーとキツネで助け出したその「死にそうな子」がハシバミだ。

 ぜひ読んでもらいたいので詳しくは書かないけれど、ハシバミはずっと前の時代から来た少女で、スキッパーたちはその時代の出来事に深く関わることになる。この物語は、神話の時代と現代との間の、数千年の時間を越える壮大スケールの話なのだ。

 本書の特長はこのスケールの大きさだけではない。進歩発展してきた私たちに、少し立ち止まってこれでいいのか?と問いかけるメッセージが込められている。「依存」して生きてることについて、それに「無知」であることについて、「戦う」ということについて。

 児童文学に、圧倒されここまで深く考えさせられるとは思わなかった。実はシリーズの他の本も何冊か読んでいるのだけれど、本書は出色の作品だと思う。

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2017年9月16日 (土)

えどさがし

著  者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2014年12月1日 発行 2016年10月15日 6刷
評  価:☆☆☆(説明)

 「しゃばけ」シリーズの第12作。裏表紙の説明に「初の外伝」とある。もともとこのシリーズは、長編、連作短編、短編集と、巻によってバラエティに富んだ構成になっている。短編集の中には、外伝に相当する短編はあったけれど、本書は収録された5編がすべて外伝。文庫オリジナル。

 1編目は「五百年の判じ絵」。シリーズの主人公の一太郎の守り役の一人、佐助が主人公。佐助が一太郎の家である長崎屋に、奉公することになったいきさつが描かれる。2編目の「太郎君、東へ」は、利根川を根城にする、河童の大親分の禰々子の話。利根川の化身として人の姿に化した坂東太郎も登場する。この短編は「Fantasy Seller」にも収録されている。

 3編目は「たちまちづき」。妖封じで名高い高僧の寛朝が、亭主に憑いた妖を退治してほしい、という依頼を受ける。しかし亭主に何かが憑いている様子はない。4編目は「親分のおかみさん」。人はいいけれど腕はそうでもない、岡っ引きの親分、清七のおかみさんが主人公。

 5編目が表題作の「えどさがし」。一太郎のもう一人の守り役、仁吉が主人公。ところが舞台はなんと明治の街。仁吉が一太郎と暮らしていた時代から100年は経っている。仁吉たち人ならぬ身の妖は、長寿で千年を越えて生きる。だから必ず親しい人を見送ることになる。

 このシリーズが長く続いているし、人間以外にも、妖、河童、天狗、雷様、神様、川や山..と、なんでも人格化して、自由な広がりを見せている。だから登場人物が多い。それぞれが主役を張れる魅力と人物造形を持っている。その特長が、こうして「外伝」として結実したわけだ。

 いつもの主人公の一太郎は登場しないし、舞台となっている長崎屋さえほとんどでてこない。「えどさがし」なんて、時代まで違う。それでも5編全部が、しっかりと「しゃばけ」の世界観を持っている。自由に広げているようでいて、著者はしっかりとこの、世界の根っこを押さえているのだろう。

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2017年8月26日 (土)

玉依姫

著  者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2016年7月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

  八咫烏シリーズの第5弾。このシリーズは新しい巻が出るたびに、それまでとは趣向の違う物語になっていて、毎回「そう来たか!」と思ったけれど、今回もそうだった。

 このシリーズの舞台は、八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らし、雅やかな感じが平安京を連想させる世界だった。「だった」と過去形なのは、本書は違うからだ。本書の舞台はなんと1995年の日本だ。主人公は東京に住む女子高校生の志帆だ。八咫烏からも平安京からも、ずい分と遠い。

 とは言え、当然ながら、志帆には八咫烏とのつながりがある。志帆の祖母の出身地の山内村には「神様のいる山」がある。その山の神域を挟んで私たちの世界と八咫烏の世界はつながっているらしい。志帆は、その山の神に捧げる「御供」にされてしまったのだ。

 志帆は、いきなり命の危機に瀕するわけだけれど、主人公でもあり、それを切り抜ける。その先に待っていたものは、なんと八咫烏の若宮と大猿、そしてさらに過酷な運命だった。高校生の志帆には過酷すぎるけれど、彼女はその運命に立ち向かう。本人の意思なのか、もっと大きなものの意思が働いたのか、それは分からないけれど。

 もう1回言うけれど、現代の少女の登場に「そう来たか!」という感じ。まぁどこか頭の片隅に予感はあった。もしかしたら、解説かインタビュー記事に書いてあったのかもしれない。そうでなければ「十二国記」からの連想だろう。第3弾の「黄金の烏」のレビュー記事にも書いたけれど、このシリーズには「十二国記」と重なる世界観を感じる。

 「女子高校生」「訳も分からず異世界に連れてこられる」とくれば、十二国記の陽子を思い出す。運命に立ち向かう、というところも同じだ。今後の活躍が期待される。

 念のため。十二国記との類似について書いたけれど、著者のオリジナリティに対して疑問を呈しているのではない。世の中にたくさんの物語があるので、「何かに似ている」ことは、ある意味で不可避なことだ。ただシリーズを通して読むと、著者が描き出そうとしてるものが、オリジナリティの高いものであることを強く予感させる。

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2017年7月12日 (水)

空棺の烏

著  者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2017年6月10日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「烏に単は似合わない」「烏は主を選ばない」「黄金の烏」に続く、八咫烏シリーズの第4弾。出版界やファンタジー、ミステリーファンが注目するシリーズとなっている。

 八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らしている、という世界。平安京にも似たその宮廷を中心に、貴族政治が行われている。今回は、宗家の近衛隊の武官の養成所である「勁草院」が舞台。主人公は、勁草院に新たに入学してきた若者たち、茂丸、明留、千早、雪哉の4人が、章ごとに交代で務める。

 「勁草院」は男子のみの全寮制。同じ年頃の男子が集団で修行する。座学あり実技あり、貴族の子と平民の子が共に学ぶ。各所の説明で「ホグワーツ魔法魔術学校」に例えられることが多いようだけれど、間違えてはいないけれど、少し違和感もある。こちらは武官専門のエリート養成所だし、女子はいないから、もっと汗臭くてきな臭い。

 趣向としては青春モノ、学園モノ。出自の違いや属するグループの違いから、お互いに反目する場面もある。主人公4人が抱える事情も、ここに来た目的も違う。そうしたものを乗り越えて成長する。私は、こういうのは嫌いじゃない。

 著者を「すごい」と思うのは、本書がそれ自体で面白い上に、この一見して趣向が違う話を(実は、全作がそれぞれ趣向が違うとも言えるけれど)、シリーズの中に取り入れて、しっかりとした位置付けが感じられることだ。前作までで、この世界を危うくする危機が描かれている。本書は、それから切り離されたような学園生活が描かれる。しかし、物語はきちんと本流へと戻っていく。あの4人は、今後、重要な役割を担うに違いない。

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2017年5月14日 (日)

ひなこまち

著  者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2015年12月1日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「しゃばけ」  シリーズの第11作。このシリーズは、巻によって長編あり短編ありのバラエティに富んでいるのだけれど、本作は5編からなる連作短編集。それぞれの短編が完結しながら、全体で一つの出来事を追う形になっている。

 1編目のタイトルは「ろくでなしの船箪笥」。主人公の一太郎は病弱のため出歩いたり遊んだりすることが少なく、友達と呼べる仲間もあまりいない。その数少ない友達の一人の七之助が来て、助けてほしいという。祖父から形見として残された船箪笥が開かない、しかもその船箪笥が来てから、気味の悪いことが起こるようになった、と言う。

 2編目は「ばくのふだ」悪夢を食べるというあの「ばく」の話。3編目は「ひなこまち」江戸で一番美しい娘を選んで、その娘をモデルにひな人形を作る、という趣向。4編目は「さくらがり」一太郎たちとしては珍しく、花見をしに上野へ出かける。5編目は「河童の秘薬」1編目の「ろくでなしの船箪笥」で河童を助けた、その恩返しにもらった秘薬が騒動を起こす。

 「河童を助けた」と、何の補足もなく書いたけれど、このシリーズでは、河童はもちろん、付喪神や貧乏神やらの人ならぬ妖(あやかし)が、特に説明もなく驚きもなく登場する。知らないうちに他人の夢の中に入り込んでしまったり..。つまり「何でもあり」になってしまうのだけれど、今回もその「何でもあり」ぶりが楽しかった。

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2017年5月11日 (木)

図書館の魔女 第一巻

著  者:高田大介
出版社:講談社
出版日:2016年4月15日 第1刷 6月28日 第5刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 講談社の公募文学新人賞である「メフィスト賞」受賞作品。つまり著者のデビュー作。文庫の帯に「「読書メーター」読みたい本ランキング(文庫部門)日間 週間 月間、すべて1位」と書いてあって、興味をひかれたので読んでみた。

 主人公は、山里で生まれ育った少年のキリヒト。舞台は西大陸と東大陸が狭い海を挟んで対峙する架空の世界。数多くの部族国家が鎬を削りあっているが、この100年ほどは安寧の時を過ごしている。本書は権謀術数が渦巻く世界を描いた、全4巻からなる異世界ファンタジーの1巻目。

 キリヒトは師に連れられて、「一ノ谷」と呼ばれる街にある「高い塔」に来る。「一ノ谷」とは東大陸の西端、諸州諸民族が行き交う要所にあって、この世界に覇権を布く王都。「高い塔」には「図書館」がある。キリヒトはその図書館を統べる「図書館の魔女」に仕えるためにやって来たのだ。

 これ、面白そうだ。図書館には叡智が詰まっている。図書館を観念的に捉えてそういう言い方をすることがある。しかし、本書では「図書館の魔女」は、その叡智を自分のものとしたかのようで、内政外交の意思決定に的確な意見を述べる。先代の「図書館の魔法使い」は、同盟諸州に書簡を送って同盟市戦争を未然に防いだことで知られている。

 「図書館」にこういう意味や役割を持たせた卓越性や、そこに配置した人々の意外性がとても興味を掻き立てる。どういう意外性かは、敢えて書かないけれど、およそその場に似つかわしくない個性が、それぞれの役割を演じる。正直に言って、壮大な遠回りをしている気がするが、それがいいのだろう。

 「面白そうだ」と推察の形にしているのは、まだ分からないからだ。全4巻の1巻目だから、ほとんど何も起きていない。それでもページを繰る手を止めることなく読めた。次巻以降に期待大だ。

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2017年1月11日 (水)

ハリー・ポッターと呪いの子

著  者:J.K.ローリング、ジョン・ティファニー、ジャック・ソーン
出版社:静山社
出版日:2016年11月11日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 ハリーポッターシリーズの8番目の物語。と言っても、これまでの7作とは少し違う。本書はシリーズ著者のJ・K・ローリングさんが書いた新たな物語を基にした舞台劇、その脚本を書籍化したもの。描かれている舞台も7作目の「ハリー・ポッターと死の秘宝」の19年後だ。

 「死の秘宝」のエピローグも「あの出来事(「ホグワーツの戦い」と言われているらし)」の19年後。ハリーの息子たちがホグワーツ特急に乗る、キングズ・クロス駅のプラットフォームのエピソードが描かれている。実は本書の冒頭は、そのエピソードとそっくり重なっている。そういう意味で、前の7作と本書は確かにつながっている。

 本書の主人公は、そのエピソードで初めて登場した、ハリーの二男のアルバス。同じくその場面にいた(ほとんど名前だけで、セリフはなかったけれど)、ドラコ・マルフォイの息子のスコーピウスが、重要な役割を担う。そう、本書は前7作でホグワーツにいた面々の、息子たちの物語。

 アルバスはハリーの息子として、重いものを背負っていた。スコーピウスもドラコの息子であるが故の偏見と闘っていた。19年経ってもなお人々は「あの出来事」を引きずっていた。世間の「目」を感じて、それぞれに孤独を抱えた、アルバスとスコーピウスの間には共感が生まれ、急速に近づいていく。

 引きずっているのはハリーも同じ、ドラコも同じ。そして一連の事件で息子を失った老魔法使いも。そんな中で、ハリーの額の傷が再び痛みだす...。
 面白かった。楽しめた。正直に言ってそんなに期待していなかった。「ハリーポッター」は既に完結した物語だし、その設定を使って「おまけ」のような話を作っても、大したものにならないだろう。そう思っていた。でも「完結した物語」の「その後」をうまく昇華した、読み応えのある作品になっていた。

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2016年11月13日 (日)

君の名は。Another Side:Earthbound

著  者:加納新太 原作:新海誠
出版社:KADOKAWA
出版日:2016年8月1日 初版 2016年10月10日 7刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 大ヒット映画の「君の名は。」には、3つの作品がある。映画と、新海監督が書き下ろした原作の「小説 君の名は。」と、そして本書。映画を観て本書を読んだ人が口をそろえて言う「この本は読んだ方がいい」あるいは「読むべきだ」と。そう言われて読まない選択はないと思う。

 最初に言うと、本書は映画か小説かの、少なくともどちらかを観たか読んだかした人向けの作品だ。だから、ここでも登場人物やストーリーの紹介はしない。そういうことは既に知っている、という人でないと本書を読んでも分からない。

 映画と小説の違いは、小説が一人称で語られることで、映画では想像するしかなかった、主人公の三葉と瀧の心情が言葉で表されていることだ。ストーリーやエピソードに違いはない。本書は章ごとに(本書では第一話、第二話..となっている)、瀧、テッシー、四葉、三葉と四葉の父の俊樹、と主人公が変わる。そこには映画にも小説にもないエピソードが綴られている。

 読み終わって「これはやられたな」と思った。著者のというのか、映画のマーケティングのというのか、とにかく制作側の術中にはまってしまった。清々しいぐらいに。..皮肉な言い方になってしまったけれど、素直に言えば「とてもよかった」ということだ。

 第一話、第二話までは、「映画と同じストーリーを別の視点で」という、言ってしまえばそれだけなので、気軽に読んでいた。ところが、第三話の四葉の物語で趣が変わって、読者はちょっと遠いところに連れていかれる。

 そしておそらく本書のキモとなるのは、第四話の俊樹の物語。映画でも小説でも、その心情があまり描かれることなく、ネガティブな印象が残った俊樹、それ以上に描かれなかった、三葉と四葉の母の二葉のことが描かれる。私自身と一番近いのは俊樹だと気が付いた。

 私も「映画を観て本書を読んだ人」として、他の人たちの仲間入りをする。映画を観た人は、この本は読んだ方がいい。絶対。

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2016年10月 6日 (木)

小説 君の名は。

著  者:新海誠
出版社:KADOKAWA
出版日:2016年6月25日 初版 2016年9月30日 18刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 大ヒット上映中の映画「君の名は。」の原作。映画の監督・脚本・編集ほかを務めた、新海誠監督による書き下ろしなので、「原作」というより「小説版 君の名は。」と言った方がいいかもしれない。ヒットした映画にままある公開後ではなく、8月の映画公開に先立って出版された。

 ストーリーは映画と同じ。映画をご覧になった方には、紹介する必要がないけれど、まだご覧になってない方のために。

 主人公は、山深い田舎町の糸守町に暮らす女子高生の三葉(みつは)と、東京で暮らす男子高校生の瀧(たき)の二人。ある朝、瀧が目覚めると、三葉の体の中に入っていた!そう、これまでにもいくつかの作品で扱われた「男女入れ替わり」の物語だ。

 物語が進んでいくと、この入れ替わりには大きな意味があったことがわかる。その時間・空間のスケールの拡大が、この物語の魅力。..と、ここまでは映画の宣伝のようなもの。これだけであれば映画を観たなら、わざわざもう一度小説で読むこともない。

 でも私は、わざわざもう一度小説で読んで良かったと思う。冒頭に書いた「「原作」というより「小説版 君の名は。」」という部分に通じるけれど、本書は新海監督によるもうひとつの別の「君の名は。」だと思う。何よりの違いは、本書は三葉と瀧の一人称で語られることだ。映像とセリフで進行する映画では分からなかった、あの時の三葉の、そして瀧の心情が言葉となって書かれている。

 映画を観て「良かった」と思う人にもおススメ。それから本書を読んで「良かった」と思った人には映画もおススメする。映画の映像美と音楽は、小説では分からないから。

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2016年9月 4日 (日)

黄金の烏

著  者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2015年6月10日 第1刷 2016年7月5日 第3刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「烏に単は似合わない」「烏は主を選ばない」に続く、八咫烏シリーズの第3弾。本書で物語が大きく動き出した感じだ。これまでの2巻は、それはそれで面白かったが、シリーズが描く物語としては序章、まだ何も始まってなかったことが分かる。

 八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らしている、という世界。平安京にも似たその宮廷が舞台。本書の主人公は前作「烏は主を選ばない」と同じで、地方貴族の家の少年の雪哉。前作での皇太子である若宮の側仕えを終えて帰郷していた。

 事の発端は、雪哉の故郷で起きた事件。人間でいうと「クスリでもやった」ように正気を失った八咫烏が、雪哉の目の前で女性と子どもを襲った。さらにこの事件の調査の途中で「大猿が村人たちを喰らい尽くして、集落をひとつ全滅させる」という凄惨な出来事が起きる。

 物語はこの後、舞台を中央の宮廷に移して、この2つの事件を追う。そこで展開される出来事は、この八咫烏が支配する世界の存在そのものを揺るがす深刻な問題へと行き着く。

 読んでいて「あぁこう来るのか!」と思った。著者がどのように考えておられるかはわからないけれど、小野不由美さんの「十二国記」と重なる世界観を感じる。この世界は、まだまだ広がりがある、まだまだ物語は発展する、そんな予感が充満している。

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