1.ファンタジー

2009年12月14日 (月)

崖の国物語10 滅びざる者たち

著  者:ポールスチュワート 訳:唐沢則幸
出版社:ポプラ社
出版日:2009年9月第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「崖の国物語」堂々の完結編!。9巻目の「大飛空船団の壊滅」のレビューにも書いたが、このシリーズは、世代が違う血のつながったクウィント、トウィッグ、ルークの3人の若い頃の物語が、順序を変えながら綴られてきた。それぞれを主人公にして3巻づつで、バランスとしては9巻目が最終巻と思われたが10巻目の本書が出た。これが本当の最終巻。3人の物語には発展があるのか?

 時代はなんと、ルークの時代から約300年後。クウィント、トウィッグ、ルークの3人はそれぞれ空賊や槍騎兵として、伝説上の人物になっていた。そして今回の主人公は、鉱山で点灯夫という仕事をしているネイトという若者。彼と伝説の3人の関係は分かっていない。ただ父から遺されたメダルに描かれた空賊の肖像画には、何か意味があるらしい。
 そして、ネイトが鉱山を追われた後、ヒロインのユードキシアら数々の出会いと危機を経て運命に導かれるストーリーを中心に、複数の物語が並行して進められる。一見して無関係意のそれぞれの物語が、ネイトのメインストーリーに次々と縒り合わされていく。この辺りの手法は見事だ。

 このシリーズの特長とさえ言えるのだけれど、本が厚い。本書は101章、860ページ超もある。これが苦もなく読み切れるのだから、いかに物語に牽引力があるかが分かるだろう。スピード感と起伏に富んだストーリーが楽しめる。
 前9巻の内容を上手にすくい取ったという意味では、よくできた「完結編」だ。よくできてはいるけれど、壮大な物語をまとめるにはちょっと力不足だったかも。しかし、そんなこととは別に構わない、ネイトの物語が充分に面白い。ネイトとユードキシアという魅力的なキャラクターの物語はまだ始まったばかりだ。「これが本当に最終巻」という言葉は保証の限りではない。

 とは言え、現在のところ公式には最終巻ということなので...
 この「崖の国」シリーズは、ファンタジーが好きな方にはオススメ。魔法は出てこないけれど、とても面白い冒険活劇的異世界ファンタジーの傑作。ただし、私の感想では第1巻がちょっと退屈でいただけない。2巻でグンと良くなり3巻4巻5巻...と巻を重ねるごとに面白くなる。7巻は最高傑作だと思う(8巻以降がダメという意味ではない。念のため)。だから、このシリーズを読もうと思った方は、是非少なくとも2巻までは読んで欲しい。

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2009年11月25日 (水)

オデュッセウスの冒険 サトクリフ・オリジナル5

著  者:ローズマリ・サトクリフ 訳:山本史郎
出版社:原書房
出版日:2001年10月10日 第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者が伝説や神話の再話を試みた作品群、サトクリフ・オリジナルの第5弾。第4弾の「トロイアの黒い船団」の「イーリアス」に続いて、ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」を基にしたもの。「イーリアス」が描いたギリシアとトロイアの間の戦いの後、ギリシアの勇将イタケの王オデュッセウスが故郷を目指す冒険が描かれている。

 「故郷を目指す冒険」?伝説だから確かなことは言えないけれど、小アジア半島のエーゲ海沿岸にあったとされるトロイアから、オデュッセウスの故郷イタケ島とされる島までは、ギリシア半島を回って距離およそ1000キロ。遠いようでも船で数日の距離。冒険と呼ぶには近すぎる。
 ところが、トロイアを発った船団は風に恵まれず、いきなり正反対の方向のエーゲ海の北「トラキア」に流れ着いてしまう。その後も神々や巨人族、魔女、そして手下らの軽率な行いに翻弄されて、実に故郷イタケ島の土を踏むまで19年もの歳月がかかってしまう。

 まぁ次から次へと災難に会いその度に部下たちを失いながら、その都度の判断によって危機を逃れる。現代の小説のような捻りや伏線などはないけれど、その物語は正に英雄譚。屈託なく楽しめた。
 実は、故郷へ帰るまでの冒険は本書の前半分。後半は、帰り着いた故郷での物語。余りに長い王の留守の間に、不作法な貴族たちに好き放題にされていた宮殿の大掃除だ。冒険もいいけれど、こっちの方が面白かった。

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2009年11月11日 (水)

いさましいちびの駆け出し魔法使い

著  者:ダイアン・デュエイン 訳:田村美佐子
出版社:東京創元社
出版日:2009年9月25日初版
評  価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 「駆け出し魔法使い」シリーズ第3弾。第1巻の 「駆け出し魔法使いとはじまりの本」のレビューで、「これはあり得ないでしょ」という場面があるけれどあまり深く気にしないようにした、と書いた。それは、第2巻「駆け出し魔法使いと海の呪文」はもちろん、本書でもそうだ。前作で深海に行った魔法使いたちは、今回は遠くへと飛び出してしまう。

 登場人物は前作までと同じだが、今回の主人公はデリーン。前作までの主人公の1人ニータの妹だ。デリーンは前作で、姉のニータと友達のキットが魔法使いだという証拠をつかんだ。しかし「全部話してもらうからね」と言い置いただけで、深くは追求せずに2人に協力したのだ。仮病を使って両親の気を引いたりして。
 そう、デリーンは前作ですでに、主人公の姉を凌ぐ人気キャラクターになっていた。生意気だけれど正義感があり頭もいい少女。詳しくは第2巻を読んで欲しいが、上に書いた仮病だってまだ11才とはとても思えない周到さなのだ。そして、本書では彼女がスゴ腕のハッカーであることも判明する。恐るべしだ。

 ストーリーは、ニータの「魔法の指南書」を見て「誓約」を立ててしまったデリーンが、魔法使いになるための「最初の試練」を描く。スターウォーズの熱狂的なファンで、ライトセイバーでダースベイダーと戦うことが夢、という彼女の「最初の試練」の場は「宇宙」。
 それも地球からの観測限界である「事象の地平線」をはるかに越える遠い宇宙。そこで「力ある者たち」との遭遇と戦いが展開される。宇宙空間やターミナルの描写が、とても活き活きしている。著者はあの「スター・トレック」シリーズの著作も手がけているそうだ。なるほど。

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2009年11月 8日 (日)

キャットと魔法の卵 大魔法使いクレストマンシー

著  者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:田中薫子
出版社:徳間書店
出版日:2009年8月31日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 大魔法使いクレストマンシーシリーズの最新刊。著者の作品は、新作と初期の作品が並行して日本語訳して出版される。初期の作品も面白いのが多いのだが、やっぱり新しい作品は物語の練られ方が違うように思う。
 特にこのクレストマンシーシリーズは、すでに7冊が出版され、魅力的なキャラクターが多く生み出されている。それぞれのキャラクターを奔放に活躍させれば楽しい物語になるわけで、読者としては「あのキャラクターのその後」に再会することができる。

 そして今回の主人公の1人はキャット。シリーズ最初の作品「魔女と暮らせば」で、魔力のある姉と共にクレストマンシー城に引き取られた少年だ。キャットは9つの命を持って生まれた大魔法使いであることが分かり、次期のクレストマンシーとなる。その後、短編には登場したが、長編の主人公になるのは初めて。本書は「魔女と暮らせば」の翌年という設定だ。
 本書のもう一人主人公はマリアン。クレストマンシー城の近くの村に住む、ピンポー家という魔法使いの一族の女の子。物語の半分は彼女を中心に回る。ピンホー家の一族には秘密があり、それが原因となって近隣の一族を巻き込む大騒動へと発展していく。キャットとマリアンは協力して問題の解決に当たるが...という物語。

 キャラクターの話に戻ると、マリアンはもちろん彼女の兄のジョーも新登場のキャラクター。魔法と機械を結びつける才能がある。今回、クレストマンシーのクリストファーの息子ロジャーとの友情も育んだ。またまた魅力的なキャラクターがシリーズに加わったというわけだ。何年か先になるだろうけれど、マリアンとキャットのその後や、ジョーとロジャーの活躍が読めるかもしれないと思うとワクワクする。

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2009年10月 8日 (木)

獣の奏者 3.探求編、4.完結編

著  者:上橋菜穂子
出版社:講談社
出版日:2009年8月10日第1刷 9月10日第5刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書に先立つ2冊「獣の奏者 1.闘蛇編、2.王獣編」を読んでから2年。待望の続編というか完結編を読むことができてうれしい。2年前のレビューには、「色々なことが着地しないまま物語は終わってしまう。続編がないのなら、これはいただけない。」と、偉そうに書いているぐらいだ。

 前2冊で物語が完結しているかどうかという点では、私と違う意見の方も多くいるようだ。その筆頭は著者自身で、あとがきに「「獣の奏者」は、<闘蛇編><王獣編>で完結した物語でした。」と、また「きれいな球体のように閉じた物語」ともおっしゃっている。
 その著者がなぜ続編を?ということは、あとがきに記されているのでここでは置くとする。ただ、前2冊の物語の中に、これだけの壮大な物語の種が潜んでいたのだから、完結していなかった、ということなのだと思う。著者さえもこの物語の種には当初は気が付かなかったのだと。(「私は気が付いていた」と言いたいのではないので、誤解のなきよう。)

 物語は「王獣編」のラストの「降臨の野」の出来事から11年後、主人公エリンが闘蛇衆の村を訪ねるシーンから始まる。王獣の医術師を目指していたエリンが、なぜ故郷に近い闘蛇衆の村に?と思うが、これは大公シュナンの命で闘蛇の大量死事件の調査に赴いたのだった。
 闘蛇の大量死と言えば、エリンの母ソヨンが死罪に問われた事件を思い出す。エリンにとっては、この調査は母の事件の調査でもあり、過去へ遡る探求の道でもあるのだ。この調査が象徴するかのように「探求編」はもちろん「完結編」も、エリンによる過去のそして真実の探求を描いている。この国の誕生前に神々の山脈の向こうで起きた事件の真実は?

 本書は完結するための2冊だから、あいまいさを残したままでは終われない。様々なことに決着をつけなければならない。もう初々しい若者ではないエリンやシュナンや真王セィミヤは、それぞれに決断をしその結果に責任を負わなくてはいけない。その決断の結果は過酷であり、「もう少し良い方法はないのか」と何の責任も持たない私は思うが、恐らくこれ以外にはないのだ。母とは違う道を選んだエリンのしなやかな強さが印象に残った。ファンタジーの大河ドラマがここに完結した。

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2009年10月 4日 (日)

魔法泥棒

著  者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:原島文世
出版社:東京創元社
出版日:2009年8月28日 初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 またまたジョーンズ作品。これは、1992年の作品。訳者あとがきによれば、ジョーンズが20年以上の歳月を経て、再び大人を読者対象とする長編に挑戦したものだそうだ。児童文学に分類されているとは言え、捻りの効いた展開と辛口のユーモアが持ち味の著者の作品の中で、本書は比較的素直な部類だ。では「大人向き」とされる理由は?

 物語は主に「地球」と「アルス」という場所の2つの舞台で進行する。地球では「裁定評議会」と呼ばれる魔法使いたちが、世界の安定を保っている。アルスは「五国」と呼ばれる並行世界の1つに浮かぶ要塞都市のようなものらしい。そこでは、地球を含めた異世界の監視と、五国の若者の訓練が行われている。
 そして、アルスが地球の科学技術を盗み取っているらしいと気が付いた裁定評議会は、選りすぐりの魔法使いたちをアルスに送り込む。アルスにいるのが男ばかり(後で判明するのだが、訓練中のため禁欲を強いられている)だと知った評議会が送り込んだその襲撃部隊は..この辺りが「大人向け」の所以だ。

 物語の展開が巧みなのはもちろん、並行世界が地球の科学技術を盗むに至る着想が面白い。いわゆる主人公とされる1人の登場人物はなく、地球とアルスを合わせて10人ほどが次々と役割を演じていく。混乱が予想されるところだが、性格付けなどがしっかりしているので、読み進める内にそんな心配はなくなる。「大人向け」ということを考慮して、ちょっと背伸びしたハイティーンぐらいからならいいかなと思う。

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2009年9月27日 (日)

ぼくとルークの一週間と一日

著  者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:大友香奈子
出版社:東京創元社
出版日:2008年8月25日 初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 ジョーンズの初期の作品。オフィシャルファンサイトによると、児童書としては3作目、「うちの一階には鬼がいる!」の次に出版されたものだ。表紙裏に「現代英国児童文学の女王の初期傑作登場。」とあるが、確かにこれは傑作だ。
 ジョーンズ作品は一定の需要が見込めるのだろう。邦訳されていない作品を求めて、ここのところ過去へ遡る傾向が続いている。まだこんな面白い作品が残されているのだから、出版社が邦訳作品獲得に熱心になるのも分かる。

 両親を亡くした主人公デイヴィッドは、大おじのプライス家に引き取られ、普段は寄宿学校に行っている。休暇になると、プライス家に戻らないといけないのだが、それがいやでたまらない。大おじをはじめ、その家の人々が家政婦まで含めて邪険に扱われているのだ。
 そんな境遇を打ち破り、プライス家の人々にひと泡吹かせようと、デイヴィッドがやったことは、デタラメに考え付いた呪いの言葉を高らかに唱えること。なんとも幼稚な思い付きだが、これが本当に効果があったのか、地面が揺れてレンガの塀が崩れる。と、そこに現れたのがルークという名の少年だ。二人はすぐに意気投合し、デイヴィッドが必要とすればルークが駆けつけるという仲になる。

 そして二人は、「降りかかるトラブルを協力して乗り越え」「大人たちをアッと言わせて」「面白可笑しく暮らして..」という展開は児童文学的にはありだが、ジョーンズに限って言えばあり得ない。どうもルークは普通の少年ではないらしい。言動がちょっと常識からズレているし、誰かに追われているらしい。事件の背景には少年の手には負えない大きな出来事があって...

 ジョーンズが描く家族や親戚は一クセも二クセもある。今回の大おじたちも例外ではない。でも訳者あとがきにもあるように、「人は見かけどおりではない」というのが、ジョーンズ作品のメッセージ。今回も悪人だと思っていた人がそうでなかったりで、テンポの良い物語の展開とともに楽しめる。

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2009年9月 6日 (日)

トロイアの黒い船団 サトクリフ・オリジナル4

著  者:ローズマリ・サトクリフ  訳:山本史郎
出版社:原書房
出版日:2001年10月10日 第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は、歴史小説・ファンタジー小説家。オリジナル作品を多く手がけ、「ともしびをかかげて」でカーネギー賞を受賞するなど評価も高いが、私が注目しているのは、著者が伝説や神話の再話を試みた作品。以前に読んだ、アーサー王物語3部作は名作だと思う。
 そして、本書はホメロスの叙事詩「イーリアス」が描くトロイア戦争の物語の再話だ。「イーリアス」の名前は知っていても、少々敷居が高く、手に取って読んだ人は少ないのではないかと想像する。それが著者の手にかかれば、新たな息吹が吹き込まれ、活き活きとしたファンタジーに変身する。

 ギリシア神話がベースなので、華々しい神々が登場人物の一角を占める。ゼウスにアポロンにポセイドン、アテナにアフロディテら女神。それから、アキレウスやオデュッセウスら英雄が縦横に活躍する。まさに神話の時代の人間界に神々が介入した大決戦なのだ。
 戦の発端は、トロイアの王子パリスがスパルタの王メネラオスから、絶世の美女と言われる妻のヘレネを奪ったこと。大決戦の原因としてはいささか俗っぽいが、王子と王の間のいざこざだから、すぐに国同士の問題になった。
 さらにメネラオスの兄アガメムノンが、ギリシア各地の王に君臨する大王であったことから、2国間の争いは、地中海世界を二分する大戦争に発展。これに、それぞれの思惑によってゼウスやアテナら神々がどちらかに肩入れして、どちらかが滅びるまで収集がつかない大決戦となってしまった。

 戦いはこの後10年に及ぶが、物語は10年目に入った辺りから詳述される。それは「イーリアス」がそうであるからだ。訳者あとがきによれば、戦いに至る経過と、戦いの結末は「イーリアス」には含まれていないそうだ。さらに、個々の戦いのエピソードも、時間的な整合性なく記述されている。それらを著者が他の文献などから補って、発端から終結まである完成された物語にしたということなのだ。
 一進一退を繰り返す戦争にはイライラさせられるが、伝説を楽しむという意味では充分に堪能できた。トロイア戦争と聞いて「トロイの木馬」しか思い浮かばない人は(私もそうだった)、こんなに様々な出来事や英雄の物語の一部であったことに驚くだろう。ところで、アキレウスの弱点だから「アキレス腱」という名前がついたのだけれど、どうしてそこが弱点になったのか知ってます?(答えは本書の中に)

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2009年8月19日 (水)

天地のはざま

著  者:たつみや章
出版社:講談社
出版日:2001年3月26日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「月神の統べる森で」「地の掟 月のまなざし」に続く連作ファンタジーの3冊目。前作で再会を果たした縄文のムラのポイシュマと弥生のクニのワカヒコの少年2人が、さらに過酷な運命に立ち向かう。

 シリーズを通して、縄文と弥生の文化の衝突と、それを通しての現代の社会や文明への疑問を投げかけてきた。自然や動物を神として崇める気持ちを失ったことや、「所有」の概念が生んでしまった身分制度や陰謀などなど。
 そして今回物語の俎上に上がったのは「交渉」。弥生の悪しき習慣を一身に体現するホムタという男がいるのだが、彼が別のムラとの産物の交換の場でこう言う「すこしでも得な交換をするのが、おれたちの役目」このあとホムタは「なんていやしいやつだ」とか言われて足蹴にされてしまう。
 「交渉」が「いやしい」とは..。身分制度や陰謀という言葉に感じる負のイメージは「交渉」にはない。だいいち仕事でも生活でも、誰かに何かを頼んだり頼まれたり、どこを向いても交渉だらけなのだ。(関西人だし。過度な交渉は自粛しているけれど)..でも、本書を読んでいると確かに「いやしい」と思えてしまう。

 話を本書に戻すと、これまでの縄文のムラと弥生のクニに加えて、さらに強大なクニが物語に絡んでくる。そして、ポイシュマが大化けする。物語がスケールアップして、いよいよ佳境にはいる予感を残して終わる。次が最終巻。読むのが楽しみだ。

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2009年8月13日 (木)

地の掟 月のまなざし

著  者:たつみや章
出版社:講談社
出版日:2000年1月28日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「月神の統べる森で」に続くシリーズ2冊目。前回、縄文のムラと弥生のクニの敵同士として出会い、心のわだかまりがすっかり晴れたとは言えないまでも、「次に会う時は友に」と別れたポイシュマとワカヒコの2人の少年のその後を描く。

 少年たちを待っていたのは、大人の理屈の世界と言える。心根の真っ直ぐな縄文のムラの人々でさえ、災いを背負うと言われる星の息子であるポイシュマをすぐに受け入れることはできない。少年がそこを出て行けば、1人で生きてはいけないだろうことは分かっていてもだ。
 弥生のクニに帰還したワカヒコの運命はさらに厳しいものだった。ムラとは違って身分制度があるクニでは、人々は謀(はかりごと)を覚えてしまった。女王ともいえるヒメカの甥という身分は、ワカヒコの安全を保証するどころか、謀略の対象となる原因となってしまった。

 稲作を覚え、周囲を柵で囲って定住する弥生文化は、その前の狩猟採集生活の縄文文化より優れていると考えられがちだ。技術の観点からは断絶がないかぎり、前の時代の上に積み重ねていける以上、後の時代のものが前の時代のものより優れていると言うこともできる。しかし、社会制度は新しいものが必ず優れているとは言えない。
 「所有」の概念が身分制度を作ったとはよく指摘されるが、身分制度が謀を生み出したとも言えるのではないか、と思う。前作では自然や動物の神性を見ることができるかどうかという違いであったが、本書では悪しき概念(謀、裏切りなど)までが弥生のクニでは生まれている。その差がポイシュマを救いワカヒコには厳しく覆いかかる。
 あえて理屈を付ければこんな感想が言えるが、運命を背負った2人の少年の物語が、起伏にとんだストーリーで進む。それだけを楽しんで読む方が素直な読み方かもしれない。

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