1.ファンタジー

2019年5月 5日 (日)

鹿の王 水底の橋

著  者:上橋菜穂子
出版社:KADOKAWA
出版日:2019年3月27日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2015年の本屋大賞、そして日本医師会の日本医療小説大賞を受賞した作品「鹿の王」の続編。

 主人公は医師のホッサル。前作「鹿の王」は、ヴァンという名の戦士とこのホッサルの2人が主人公で、本書はそのうちのホッサルの「その後」を描いている。

 ホッサルは250年前に滅びたオタワル王国の末裔。オタワルの民は、土木・建築・金属などの様々な技術に優れ、東乎瑠帝国に飲み込まれ国が滅んだ後も、その技術力で命脈を繋いできた。中でも抜きんでて優れていた技術が、ホッサルが身につけた医術。皇帝の妃を難病から救ったことで、皇帝の後ろ盾を得て、帝国の中で確かな支持を得て広まりつつあった。

 今回の物語のきっかけは、ホッサルの施療院に出入りする祭司医の真那から、真那の父が治める領国への同道を求められたこと。真那の姪の病をホッサルに診てもらいたいらしい。ホッサルは助手で恋人でもあるミラルと共に、真那の招きに応じる。

 前作の「鹿の王」が日本医療小説大賞を受賞したように、この作品もテーマは「医療」だ。それも「医療とはどうあるべきか?」という奥深いテーマだ。

 真那は「祭司医」だ。東乎瑠帝国の医術は、国教の「清心教」という宗教が根本にある。宗教だから「祭司」医。宗教だから頑なな側面がある。例えば、オタワルの医術で行われる「輸血」は「異教徒の穢れた技」になる。生き永らえたとしても身体は穢され、死後に神の御許に行くことができない。

 医術で治療しても永遠に生きることはできない。身が穢れたと思いながら生きることを強いるのが良いのか?いや、わが子が目の前で死に瀕していても、それを救う方法を知っていても、身体を穢さないことを選ぶのか?難しすぎる。

 この二つの医術の対立以外にも、次期皇帝争い、民族の存亡、愛する人への想い等々、たくさんのテーマが重層的に描かれる。一流のエンターテイメントになっている。

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2019年2月17日 (日)

ヘブンメイカー

著  者:恒川光太郎
出版社:KADOKAWA
出版日:2015年11月30日 初版 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「スタープレイヤー」の続編。「スタープレイヤー」の最後で、主人公の夕月が「ヘブン」という街を目指している。そして本書のタイトルが「ヘブンメイカー」。そうか、夕月が目指す街の創生の物語なんだな、と考える。

 世界観の設定を一応。スタープレイヤーというのは、抽選に当選した人で、地球とは別の惑星に送られるが、そこで十個の願いを叶えることができる。その気になってうまくやれば、街を一つ(それ以上でも)作ることができる。前作で実際にそうしたスタープレイヤーも登場している。

 そして本書。主人公は2人。高校2年生の鐘松孝平と大学生の佐伯逸輝。

 孝平は、ある日見知らぬ部屋で眠りから覚める。部屋の外に出ると街が広がっていて、多くの人がいた。広場のプレートには「ようこそ、死者の町へ」の文字。続いて、この町の創造主かららしいメッセージ。「(あなたたちが)ここを「天国」にできることを私は切に望んでいます」と書かれていた。

 逸輝は、中学の同級生で好きだった華屋律子と、大学生になって再会。ところが律子が殺されてしまう。失意の中でふらりと行った海辺で、大男に出会い抽選。「一等、スタープレイヤー」に当選。そう、逸輝はスタープレイヤーになった。

 物語は、孝平の「ヘブン」パートと、逸輝の「サージイッキクロニクル」パートが交互に語られる。孝平のパートは、人々が協力して街を作り上げていく。逸輝のパートは、スタープレイヤーの能力を使って、思いつきを実現する。例えば、故郷の藤沢そっくりの街を作って、律子を呼び出す、とか。

 2つのパートは、別々の物語を紡いでいくが、予想通りにやがて交錯する。

 ちょっとグロテスクな場面もあるけれど、面白かった。孝平も逸輝もいいやつだ。前作もそうだったけれど、願いがなんでも叶うというのは、思うほどいいことではない。

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2019年1月30日 (水)

風と行く者 守り人外伝

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2018年12月 初版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の代表作と言える 「守り人」シリーズの外伝。シリーズとしては2012年の「炎路を行く者」以来6年ぶり、小説作品としても「本屋大賞」を受賞した2014年の「鹿の王」以来4年ぶりの作品。まぁとにかく久しぶりに著者が綴る物語を読むことができてうれしい。

 主人公はシリーズ全体の主人公でもある、女用心棒のバルサ。本編の最終巻「天と地の守り人 第三部」の、タルシュ帝国との死闘から1年半。荒廃した国土で復興が始まっていた。バルサは訪れた市で、16歳の頃に養父のジグロと共に護衛をしたことがある「風の楽人」たちに出会い、再びその護衛を引き受けることになった。

 物語は、現在と16歳の頃の記憶を行き来しながら、時にはその2つが重なるように進む。今回も過去にも「風の楽人」たちは狙われていた。その頭の女性には、ある禁域の封印を解く力がある。その力を排除しようとしているらしい。背景には、氏族間の衝突と融和の歴史があり、数百年前の事件も絡んでいるようだ。

 著者の研究者としての専門分野である文化人類学的な視点を、心躍る深い物語に落とし込んでいて、まさに「上橋菜穂子らしい」作品になっている。そして「守り人」のファンであれば、多くの人が読みたいと思うであろう「ジグロとバルサ」の物語を、たっぷりと堪能できる。うれしい。

 「あとがき」によると「いさんで書きはじめて数百枚も書いたのに、とちゅうで書けなくなった物語」が、著者には数作あるそうだ。本書もそうしたもののひとつ。それが何かのきっかけを得て書けるようになることがある。その他の「書けなくなった物語」にもそんな時がくることが待ち遠しい。

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2018年12月13日 (木)

スタープレイヤー

著  者:恒川光太郎
出版社:KADOKAWA
出版日:2014年8月31日 初版 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 これまでに読んだことのない作家さんの作品を読もうと思って、図書館の書棚を巡っていて見つけた本。著者が、日本ホラー小説大賞を受賞してデビューされた「ホラー作家」だと知ったのは後からで、本書は「異世界ファンタジー」。

 主人公は斉藤夕月、女、34歳、無職。買い物の帰りに「運命のくじ引き」を引いた。三等・一億円、二等・五億円、一等・???。明らかに胡散臭いけれど。そうしたら一等が当たった。一等は「スタープレイヤー」。スタープレイヤーになると、地球とは別の惑星に行って、十個の願いを叶えることができる、という。

 信じられない話だけれど、それは本当だった。夕月は、実家を豪華にした家を建てて住む場所を確保し、若返りと美容整形をして絶世の美女になり、壁で囲まれた広大な庭園を造って宝石をバラまいた。我ながら「下品だ」と思いながら。これで使った願いは3つ。まだ7つある。

 この後、他のスタープレイヤーが訪ねて来たり、そのスタープレイヤーが作った「村」を訪問したり、そこから現地民の村を訪ねていったりする。自分の家の周囲しか描かれていなかった地図が、徐々に範囲を広げていくように、夕月の世界も、そして読者の世界が広がっていく。

 世界が広がるのは良いことばかりでなく、衝突も起きるようになる。この世界ではスタープレイヤーは、死者さえ生き返らせる「全能の神」のような存在。しかし、使える回数に限りがあるその力を「何に使うか?」は、とても悩ましい問題だ。本書の主題はたぶんそういうこと。何人ものスタープレイヤーが登場するが、幸せに暮らしている人ばかりではない。

 面白かった。夕月の願いの使い方は、最初は「下品」かもしれないけれど、分かる。途中、ちょっと危なっかしいこともあったけれど、概ね「良い使い方」を心得るようになった。帯に「新シリーズ、堂々開幕」とあるので、この後も続くのだろう(続編「ヘブンメイカー」が既に出ている)。楽しみだ。

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2018年10月14日 (日)

後宮の烏

著  者:白川紺子
出版社:集英社
出版日:2018年4月25日 第1刷 9月12日 第7刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 書店で多面陳列で、ずいぶんと推しているので買って読んだ。「中華風ファンタジー」なるジャンル(こういう言い方があるとは知らなかったけど、POPに書いてあった)は好きなので。「十二国記」とか「八咫烏シリーズ」とか「僕僕先生」とか、古典を元にした「封神演義」なんかもそれに当たるか。

 舞台は宮廷。後宮の奥深くにある館に住む「烏妃」と呼ばれる妃が主人公。烏妃は妃でありながら夜伽をすることがない。冒頭の帝の訪いのシーンから察するに、夜伽どころか訪問することさえこれまでなかったらしい。烏妃は、呪殺や招魂などの不思議な術を使う女仙か幽鬼で、「会えば災厄がある」とも言われているからだ。

 まぁこんな感じで神秘性を塗り重ねた存在の烏妃だけれど、実にあっさりと正体が明かされる。物語が始まって5ページで、15、6歳の少女だと判明。名前は「寿雪」という。帝に対して「おぬしの頼みは聞かぬ、さっさと去ね」と言い放つ気性と、帝を扉の外に放り出す不思議な術が使えることも分かる。

 この後「そんな理由か」という経緯を踏んで、帝の頼みごとに協力。神秘的な存在のはずが、自分の足で後宮内を動き回って情報収集、というフットワークの軽さを見せる。こういうのをライトノベル風と言うのだろうか?

 「底の浅そうな話だな」と、ここまでの紹介では感じると思う。実際に読んでもそう感じるだろうし、興味をなくして読み進めるのをやめてしまうかもしれない。だから言っておくと、浅そうに見えて深いものが仕込まれている。

 帝の頼み事は、その一族の血塗られた過去や、その陰にあったいくつかの悲恋につながっている。実にあっさりと判明した烏妃の正体も、実はそれは表層で2枚目3枚目の正体が、後に明らかになる。次回があるのかどうか分からないけれど、出ればたぶん読むと思う。

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2018年8月 5日 (日)

未来のミライ

著  者:細田守
出版社:KADOKAWA
出版日:2018年6月25日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 この夏の細田守監督の最新作「未来のミライ」の原作小説。監督自身の書下ろし。

 映画の方は公開後2日間で観客動員29万5000人、興収4億円の大ヒット。ストーリーを紹介する必要があるのか、または紹介していいのか、疑問だけれど一応物語の初めのあたりを。

 主人公はくんちゃん。「訓」と書いて「くん」と読む。4歳。横浜の磯子の街で、建築士のお父さんと、総合出版社に勤めるお母さんと、ミニチュアダックスフントのゆっこ、と一緒に暮らしている。ある日、お父さんとお母さんに赤ちゃんが生まれ、くんちゃんの家に妹のミライちゃんがやって来た。

 お父さんとお母さんはミライちゃんの世話で、これまでのようにはくんちゃんには手をかけられない。くんちゃんは面白くない。ミライちゃんのことは「好きくない」。とうとう癇癪を起しておもちゃでミライちゃんをたたいてしまう。そんな毎日のある日、未来から中学生になったミライちゃんがやって来て..。

 私はこの物語はすごく好きだ。映画と同じように。4歳の男の子の成長を感じるし、お父さんとお母さんの愛情を感じるし、過去から続く命のバトンを感じるからだ。映画についての世間の評判を見ると、私に同意してくれない人もかなりの数いるようだけれど、まぁそれは仕方ない。

 映画と本との違いについても書いておく。ストーリーに違いはない。違うのは人物や場面の描写の細かさ。映画を三人称で描くことは難しいけれど、小説ならそれが容易にできる。登場人物が説明できないことも描くことができる。

 例えばお母さんについては「真面目で責任感が強い完璧主義者。(中略)裏を返せば神経質で、心配性で、ゆえに人の評価に敏感な性格だった」と描写されている。映画の画面からもその一端は伝わってきたけれど、ここまではっきりとは分からない。このお母さんがあのセリフを言うのだと思うと感じ方も違う。

 列車についてとか、エンジンなどのメカについてとか、お母さんの出身地の上田の街や、くんちゃんが自転車の練習をする根岸森林公園や、オートバイで走る磯子の街など、私には過剰に思えるくらい説明が詳しい。それで思った。この本の主人公はくんちゃんではなく、語り手つまり細田監督自身なんじゃないかと。

 細田作品の映画を、隣にいる監督の解説を聞きながら観る。そんな疑似体験が(時にうっとおしく感じるかもしれないけれど)できる。

映画「未来のミライ」公式サイト

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2018年7月25日 (水)

烏百花 蛍の章

著  者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2017年7月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 八咫烏シリーズの外伝。このシリーズは、八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らしている、という世界で、平安京にも似たその宮廷が舞台。本書には6編の短編を収録。6編を簡単に紹介する。

 「しのぶひと」は、若宮妃付きの真赭の薄と、その弟の明留、若宮の護衛の澄尾の物語。真赭の薄の縁談に絡んで、それぞれの想いが表出する。「すみのさくら」は、若宮妃の浜木綿の物語。身分をはく奪され「墨丸」と呼ばれていた子どもの頃の回想。「まつばちりて」は、下層の遊郭で生まれながら、その才によって宮廷務めに取り立てられた少女、松韻の悲劇的な物語。

 「ふゆきにおもう」は、貴族の娘の冬木と、彼女に仕えていた梓の物語。二人の行く道は一旦分かれ再び交わる。若宮の側近の雪哉の出生について語られる。「ゆきやのせみ」若宮とその側近の雪哉の物語。若宮の気ままな行動に振り回される雪哉。「わらうひと」冒頭の「しのぶひと」と対をなす真赭の薄と澄尾の物語。盲目の少女、結についても語られる。

 6巻ある本編が「后選びの宮廷物語」「皇位継承を巡る陰謀」「外界からの魔物の侵入」「全寮制の男子の成長物語」「異界に迷い込んだ女子高生」「種族間の対決」と、その振り幅の大きさは他に類を見ない。そのためもあって「主要な登場人物」も多いのだけれど、それぞれにきちんと性格付けがされている。本書は、その一人一人の背景にある物語を描く。

 また、カバーに「語られなかったあの人たちの物語」と書いてある。細かいことを言うようだけれど「語られなかったあの人の」「物語」と、「語られなかった」「あの人の物語」と両義になっている。松韻と冬木と梓は、本編ではほとんど、あるいは全く語られていない。その他は、本編で多く語られているが、本書で人物造形が補強され、中にはとても魅力的になった人もいる。

 外伝なので、本編を読んでから読んだ方がいい。また、本編を読み通した人は、本書も読んだ方がいいと思う。というか、読まずに済ませることなんてできないだろう。

 「蛍の章」ということは、これからまだ外伝が出るということだろう。期待が膨らむ。

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2018年7月 4日 (水)

神々と戦士たち1 青銅の短剣

著  者:ミシェル・ペイヴァー 訳:中谷友紀子
出版社:あすなろ書房
出版日:2015年6月30日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 私はけっこう海外のファンタジーが好きで、トールキンCSルイスサトクリフDWジョーンズ...などなど、以前はよく読んでいたのだけれど、ここ3年ほどは、年に1~2冊ぐらいしか読んでいなかった。それで、できれば、新しい作家さんの新しいシリーズを、と思って、図書館で探していて本書を見つけた。

 著者のミシェル・ペイヴァーさんは、石器時代のヨーロッパを舞台にした「クロニクル 千古の闇」シリーズで高い評価を受け、2010年に最終巻の「決戦の時」でガーディアン児童文学賞を受賞。本書は、新たに始まった全5巻シリーズの1巻目。

 物語の時代は古代ギリシア。ただし、よく映画や物語の舞台になる、アテネやスパルタといった都市国家が興る2000年ぐらい前の「青銅器時代」。主人公はヒュラスという名の12歳の少年。もっと幼いころに妹と一緒に山で拾われた。以来「よそ者」として村の外でヤギの世話をして暮らしていた。

 ある日、青銅の鎧に身を固め、黒いマントをまとった戦士の一団がヒュラスたちを襲う。ヒュラスは運よく逃げ出したが、妹とはぐれてしまう。どうやら「よそ者」を全員殺そうとしているらしいが、なぜ自分たちが命を狙われるのかはさっぱり分からない。物語はこうして始まったヒュラスの逃避行を描く。

 他の登場人物を2人。族長の息子であるテラモンはヒュラスの親友。身分違いのため周囲には秘密だ。ケフティウという島の大巫女の娘であるピラは、本人に意思に反して結婚のためにここに連れてこられた。同じ年頃の子どもとして相通じる感性と、立場の違いから分かりあえない反発が、うまく物語の中で表現されている。

 その他、まだ名付けられていない「地を揺るがす者」や「野の生き物の母」といった神々への信仰や、「女神の使い」とされているイルカの描写など、本書には興味深いことが描き込まれている。全5巻。ということで、今回はひと山を越えただけ。物語は始まったばかり。これからが楽しみだ。

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2018年5月20日 (日)

たぶんねこ

著  者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2015年12月1日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「しゃばけ」シリーズの第12作(「えどさがし」は文庫オリジナルの「外伝」。これを含めれば13作品目)。5編からなる連作短編集。それぞれで完結する短編が5つまとまって、もう一つの物語を形づくっている。

 短編5編の前に「序」、後に「終」という短い章がある。連絡短編集はこれまでにもあったけれど、こういう章建ては初めてだと思う。このシリーズには、これまでに様々な新趣向があったけれど、12作目にしてまた新しい工夫。

 その「序」に、シリーズ始まって以来の出来事が描かれている。主人公の一太郎が2カ月の間病気にならなかった。これを機に一太郎の体を丈夫にするために、半年の間「必ず守ってほしい」約束をいくつか、守り役の仁吉と佐助から言い聞かせられた。「仕事をしないでゆっくり過ごす」「恋もお預け」「友達のことを心配し過ぎない」等々。

 本作の短編は、その約束の半年間の出来事。1編目「跡取り三人」一太郎と江戸の大店の跡取り息子2人との仕事探し競争。2編目「こいさがし」知り合いの若い娘が長崎屋に行儀見習いに来る。3編目「くたびれ砂糖」菓子屋に奉公する友達が、そこの小僧に振り回される。4編目「みどりのたま」仁吉が記憶喪失に。5編目「たぶんねこ」以前に居た「神の庭」に戻りたい幽霊。

 いつも通りの面白さだった。「序」の約束は守られないのだけれど、物語がそれでダメになるわけではない。約束が守られないことにだって意味はある。これまでに登場した人物や妖は数多く、それがいい感じでちょっとだけ顔を出す。このことについて、池上冬樹さんの「解説」で、米国のマーベル・コミックスとの例えがあったけれど、なかなか的を射た意見だと思う。

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2017年12月17日 (日)

弥栄の烏

著  者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2017年7月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

  八咫烏シリーズの第6弾。これにて第一部の完結。 このシリーズの舞台は、八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らす「山内」と呼ばれる世界。ところが、前作の「玉依姫」はいきなり1995年の日本が舞台となった。そして今回は再び「山内」に物語が戻ってきた。

 こんな感じで舞台は大きく振幅するのだけれど、前作と今回は背中合わせに密接した構成になっている。前作で描かれた東京の女子高校生の志帆の物語の同じ時間に、山内の八咫烏たちには何が起きていたか?を描く。

 「大猿」の襲撃を受けた山内は戦々恐々としていた。そこに、その「大猿」の頭が堂々と禁門を通って現れる。厳戒態勢にあった八咫烏たちは、一斉に攻撃するが、矢も刃も効かない。そして大猿は八咫烏の若宮の奈月彦にこう言う「久しぶりだようなぁ、八咫烏の長よ」

 大猿は奈月彦に「山神」の居る「神域」に共に来るように言い、奈月彦はそれを受ける。この後は、前作で志帆の視点で描かれた物語を、奈月彦の視点で描きなおすと同時に、山内の八咫烏たちの動静を語る。物語に厚みが増す。

 色々な謎に答えが出て、色々な出来事に決着が着く。冒頭の繰り返しになるけれど、これにて第一部の完結。ただし、すべての答えが出て、すべての決着が着いたわけではない。私としては「描き切った」感はあまり感じなかった。まぁ、第二部が予告されているのだから当然だ。

 八咫烏シリーズ公式Twitterによると、第二部で終了の予定。つまりここで折り返し。第1巻「烏に単は似合わない」から「ずい分遠くまで来たけれどまだ半分か」と思う一方、「もっと長く読んでいたい」とも思う。来年中には第二部をスタート、が目標とか。ぜひ目標を達成してほしい。

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「弥栄の烏」 固定URL | 1.ファンタジー3.ミステリー1E.阿部智里(八咫烏) | コメント (0) | トラックバック (1)

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