2018年2月14日 (水)

たゆたえども沈まず

著  者:原田マハ
出版社:幻冬舎
出版日:2017年10月25日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。著者はフリーのキュレーターで、その美術の知識を生かした作品がいくつかある。「楽園のカンヴァス」ではアンリ・ルソー、「暗幕のゲルニカ」ではパブロ・ピカソ、「サロメ」ではオーブリー・ビアズリーを題材に、史実を巧み取り入れた物語に仕上げている。そして本書の題材は、フィンセント・ファン・ゴッホ。

 主人公は、ファン・ゴッホの弟のテオと、パリで日本美術を扱う美術商の専務である加納重吉。舞台はパリ。時代は1880年代後半から90年にかけて、ファン・ゴッホが亡くなるころまで。ちなみに、ファン・ゴッホの評価が確たるものになるのは没後なので、本書の中では、高く評価する人はいるものの、まだ日の目を見ない時期。

 主人公のテオはパリの画廊で働いていた。兄のフィンセントも、かつてはその画廊で働いていたが、曲折があって今はベルギーに滞在して聖職者を目指している。もう一人の主人公の重吉は、学校の先輩の林忠正が美術商を営むパリにやってきた。忠正は単身渡仏して美術商を興し、目下パリの美術市場に「ジャポニズム」という名の嵐をもたらす風雲児となっていた。

 物語はこの後、いわば商売敵であるテオと重吉の「親友」と呼ぶに相応しい交流、テオの献身的な支えによって絵に打ち込むフィンセント、この兄弟の日本美術とりわけ浮世絵への傾倒、これらに対する忠正の影響、等々を描く。美術に対する知識と優しさをふんだんに織り交ぜて描く。

 これは面白かった。読み応えがあった。繰り返しになるけれど、本書は「史実を巧み取り入れたフィクション」。どの部分が史実でどの部分がそうでないかは、私には分からない。ただ重吉は架空の人物らしいが、その他の主要な人物は実在している。背景となる出来事などは多くが史実。本書を読めば、ファン・ゴッホや印象派以降の美術に詳しくなって、興味が湧くこと必定だと思う。

 また、著者の一連の作品は「アートミステリー」と位置付けられていて、ミステリーの要素があったが、今回はそれがない。インタビューで著者自身が「今回は、ミステリーやホラーといったジャンルの要素を極力排してみました。直球勝負の物語が読者に届くと本望です」と応えている。著者はズシンとくるいい球を投げた。

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2018年2月11日 (日)

奔る合戦屋

著  者:北沢秋
出版社:双葉社
出版日:2011年7月3日第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 ヒット作「哄う合戦屋」の続編。続編と言っても時間軸で見れば「哄う合戦屋」の前の出来事。

 主人公は前作と同じで石堂一徹。時代は戦国時代。物語の始まりは天文2年(1533年)。舞台は村上義清が治める北・東信濃。この頃は、越後は長尾、甲斐は武田、駿河は今川と、大大名が周辺の国を統一されつつあったが、信濃は多数の豪族が自立していた。その中で村上氏の勢力は抜きんでていた。そういう時代。

 一徹は村上家の次席家老を務める石堂家の次男。物語の始まりの時には、まだ19歳だった。ただし、15歳の初陣以来、並外れた武勇と優れた駆け引きとで、この頃には既に「村上家の将来を背負って立つ逸材」と目されていた。

 物語はこの一徹の「並外れた武勇と優れた駆け引き」を余すところなく描く。冒頭の城攻めのシーンで、槍先で騎馬武者を天高く放り上げる姿は「武勇」を絵に描いたようで、退いては押しての戦法で城門を破る策略は「策士」そのもの。本書の中で数回の戦が描かれるが、毎回、胸がすく思いがする。(相手にとっては悪夢のようだけれど)

 一徹の活躍の他にも本書には魅力がある。それは一徹の周辺の人物の機微が描かれていることだ。一徹の妻となった朝日姫、郎党頭の三郎太、郎党の一人である「猿」と呼ばれる少年..主である村上義清も含めて、悩みや感情を持った人間が、物語の中で生きている。

 本書の終わりは天文10年、前作の始まりは天文18年。一徹が村上家に仕えていたことは、前作でも説明され、その時一徹は流浪していたのだ。信濃随一の豪族の元で功成り名遂げた武将が、一人流浪するに至るには、相応の物語があったに違いないと、私は思っていた。こういう物語があったのだ。

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2018年2月 7日 (水)

太陽と乙女

著  者:森見登美彦
出版社:新潮社
出版日:2017年11月20日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、著者が2003年のデビュー以来14年間にわたって、新聞や雑誌などのさまざまな媒体に発表してきた文章を収録したもの。他の作家さんの文庫本の解説や舞台パンフレットに載せたコメント、といった「レアもの」もある。数えてみると全部で86本もあった。

 「読書」「お気に入り」「自著とその周辺」「旅(ぶらぶら)」「日常」などのテーマに分類されている。私としては「自著とその周辺」がうれしい。けっこう正直な気持ちが伝わってくる。著者は「「作家の言葉」なんて信用できるものではない」と言うのだけれど、たぶん著者独特の「強がり」だと思う。

 特に「四畳半神話大系公式読本」に掲載された「或る四畳半主義者の想い出」が、質・量ともによかった。著者が京都大学に入学し、アパートの四畳半に入居するところから始まり、「太陽の塔」でデビューを果たし、「四畳半神話大系」に至るまでの一部始終。

 さらに中でも「太陽の塔」が「日本ファンタジーノベル大賞」を受賞した時の、親友明石氏と交わした会話が素敵だ。「君の恥ずべき行状が暴露されてしまうがいいのか?」「かまわん。俺は恥ずべきことは何もしていない」

 最後に。著者のこれまでを語るのに避けられない話題について。著者は2011年の夏に、精神的緊張から体調を崩し、すべての雑誌連載を中断。その後2年足らずの「沈黙」の期間がある。驚いたことに、その頃になんと台湾の雑誌にコラムを書いていたそうだ。そのコラムをはじめとして色々なところで「沈黙」の頃のことが少しずつ語られる。森見さんが、良い伴侶を得られたことも分かる。

 コンプリート継続中!(単行本として出版された作品)
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2018年2月 4日 (日)

報道しない自由

著  者:西村幸祐
出版社:イースト・プレス
出版日:2017年12月1日 第1刷 12月24日 第2刷 発行
評  価:☆(説明)

 私は、基本的には読みたいと思った本を読んでいるのだけれど、時には、私自身の考えと相容れない本を敢えて読むことがある。その考えを知るのには、書籍を読むのがテレビや雑誌の記事よりも何倍も正確だと思うからだ。本書もそう思って読んだ本。つまり本書は、私自身の考えと相容れない。おススメもしない。

 本書は、メディアが特定の目的をもって「報道すべきニュースを報道していない」と主張する。「特定の目的」とは、例えば「憲法改正阻止」であり、その背景には「反日ファシズム」つまり「東アジアで冷戦構造を保とうとする全体主義」がある、としている。

 「憲法改正阻止」はともかく「反日ファシズム」については、何のことかも正直分からない。個別の例で言うと、森友問題は「北朝鮮の脅威を隠すための策略」で、加計問題は安倍総理の「憲法改正スケジュール発表への打撃」が目的なんだそうだ。それぞれ、北朝鮮のミサイル開発や、憲法改正スケジュールを「報道しないために」打ち上げたキャンペーンというわけだ。

 「牽強付会」という四字熟語が頭に浮かぶ。それらしい論理の組み立てに見えるけれど、自分に都合の良い話を寄せ集めているだけだ。そして「都合の良い話」と言っても、「某民放テレビ局幹部」の発言とか、「政権内からこんな声が漏れ聞こえていた」とか、あるいは著者と同じような思考の人の意見や調査とか、疑わしいものが多分に含まれている。また、都合の悪いものがあれば「明らかな嘘」で、片づけられる。

 こんな感じで、私には得るものが少なかった本なのだけれど、ひとつは収穫があった。それは「閉された言論空間」という江藤淳氏の書籍と、その中で言及されているGHQの検閲に関する文書のこと。この書籍と文書が、この手の論者がいう「偏向報道」の論拠になっているらしい、ということが分かった。

 GHQの文書には、占領下の日本で検閲・削除の対象とした30項目か記されている。それに「GHQが憲法を起草したことに対する批判」「朝鮮人に対する批判」「中国に対する批判」などが含まれていて、著者らは「偏向報道」の理由と証拠の恰好の素材として、「これが今も続いているんだ!」と飛びついた、ということらしい。

 70年以上前の占領下での検閲が今も続いている、という主張については敢えて論評しないけれど、江藤淳氏の書籍とGHQ文書は、ちょっと興味がある。

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「報道しない自由」 固定URL | 7.オピニオン | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年1月31日 (水)

盤上の向日葵

著  者:柚月裕子
出版社:中央公論新社
出版日:2017年8月25日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

  本屋大賞ノミネート作品。著者の作品を読むのは初めて。浅学寡聞のためお名前も知らなかったけれど、「臨床真理」という作品で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞してデビューした後、いくつかの賞を受賞され「ミステリーの旗手」と紹介されることもあるようだ。

 主人公は佐野直也。30過ぎの埼玉県警大宮北署地域課の刑事。大宮の北にある山中で発見された、死体遺棄事件の捜査に携わっている。事件の手掛かりは、一緒に埋められていた将棋の駒。名工の手になるもので、鑑定の結果600万円の価値があるものと判明した。

 物語にはもう一人重要な人物がいる。棋士の上条桂介六段。東大卒、外資系企業を経てITベンチャーを立ち上げ成功、突如として棋士の道に転身し、奨励会を経ない異例の経歴のプロ棋士となった。佐野たちが駒の所有者の線を追いかけるうちに捜査線上に浮上する。

 物語は、佐野たちの捜査を描く現在と、上条の生い立ちを追う過去の、2つのパートを概ね交互に積み重ねていく。現在のパートは徐々に捜査範囲が絞りこまれ、過去のパートは加速度的に時代が進む。いわば平面的と時間的の双方からクライマックスに迫る。緊迫感が増す。

 ミステリーのネタを明かすわけにはいかないので、詳しくは描かないけれど、本書には業の深いドラマが、深く刻み込まれている。勝負事の狂気の淵を覗いているような怖さもある。

 最後に。何度も対局の場面が描かれて、例えば「9一角」といった棋譜の表し方で駒の動きが説明される。それをキチンを追いかけられる人にだけ分かる面白さもあるのかもしれないけれど、さっぱり分からなくても大丈夫。

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2018年1月27日 (土)

星の子

著  者:今村夏子
出版社:朝日新聞出版
出版日:2017年6月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。2017年上半期の芥川賞候補、2017年野間文芸新人賞受賞作。

 主人公の名前は、林ちひろ。ちひろが回想する形で、自分が赤ん坊のころから中学三年生までを物語る。家族はサラリーマンの父と専業主婦の母、5歳上の姉の4人家族。

 生まれてすぐのころ、ちひろは体が弱かった。生後半年のころに、湿疹が全身に広がって、専門医がすすめる薬も、あれこれと試してみた民間療法も効かない。そんな時に、父の会社の同僚がすすめてくれた「水」が効いた。その水は「宇宙のエネルギーを宿した水」だという。

 こんな経緯で、ちひろの両親はその水の効能を信じ、その水を販売する団体の活動に傾倒していく。「集会」とか「研修」に、子どもたちも連れて参加する。物語の後半では、身なりにも構わなくなり、金銭的にも困窮してしまう。

 もうお分かりだと思うけれど、ちひろの両親は「へんな宗教」にはまってしまった。奇異な言動が目立つようになって、周囲からは浮き上がってしまうし、ちひろの学校生活や友人関係にも影響を与える。

 読んでいる間中、不穏な思いがして落ち着かなかった。不穏な出来事なんて、ほとんど起きていないにも関わらずだ。子どもの視点で描かれていて、その眼には、いたって普通の暮らしが映っている。「何かおかしいな」と思うことはあるけれど、自分の家族のことしか知らないのだから、それが「普通」だ。

 読者は、ちひろの目を通して描かれる「普通」を読んでも、その外やその先にある出来事を想像してしまう。だから不穏な思いがするのだ。その意味では、主人公の子供のころの回想という物語の形が、とても効果を発揮している。著者は敢えて描かないことで、不穏な出来事を読者自身に描かせた。技あり。

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2018年1月24日 (水)

自分を操る超集中力

著  者:メンタリストDaiGo
出版社:かんき出版
出版日:2016年5月27日 第1刷 7月1日 第5刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の顔はテレビで見たことがあり、「メンタリスト」という職業か肩書かなのだということも知っていた。でも「メンタリスト」が何なのかは知らない。著者紹介によると「人の心を読み、操る技術」を「メンタリズム」と言い、その技術を駆使する人を「メンタリスト」と呼ぶそうだ。

 本書は、その著者が、自分の「集中力をコントロールする術」について書いている。著者は「メンタリスト」だから、人の心を操る技術に長けているわけで、その技術を自分に使えば、心の問題でもある「集中力」を「コントロール(操る)」することもできるわけだ。

 本書の主張はこんな感じ。「ウィルパワー」という、脳の前頭葉を源とする「思考や感情をコントロールする力」。この「ウィルパワー」には一定の量があり、集中力を使う度に少しずつ消耗する。枯渇してしまえばもう集中力を使えなくなる。だから、その「ウィルパワー」の量を増やすか、消耗を減らすかすることが、集中力を高めることになる。

 「量を増やす」と「消耗を減らす」。本書は多くのページを費やして、この二つの方法を紹介している。それも「具体的な行動」に落とし込んで紹介しているので、明日からでも取り入れることができる。例えば「机の周りを片付ける」「15分に一度は立ち上がる」「1~2時間にコップ1杯の水」等々。

 ひとつ「確かにそうだよな」と思ったこと。「脳は小さな意思決定の連続によって疲弊していく。しかも「今は面倒だから..」と後回しにすると、持続的に疲れが増していく」。仕事でも家庭でも、思った以上に多くの、細々とした意思決定を私たちは行っている。面倒な事、特に雑事ほど、すぐに片づけてしまった方がいい。

 もうひとつ。「集中力の高い人は、実は短時間の集中を繰り返している」。25分の集中と5分の休憩を繰り返す、というのが目安らしい。これは使えそう。

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2018年1月20日 (土)

スティグマータ

著  者:近藤史恵
出版社:新潮社
出版日:2016年6月20日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「サクリファイス」シリーズの5作目。日本人選手の白石誓を軸に、自転車ロードレースの世界を、風が感じられるような筆致で描く。ミステリーと人間ドラマも特長。

 前作の「キアズマ」は大学の自転車部に舞台を移したもので、その前の「サヴァイブ」はスピンオフの短編集だから、本編とも言える白石の物語は「サクリファイス」「エデン」に続くいて3つ目。時間的には白石がヨーロッパに渡って6年目、「エデン」の3年後という設定。

 白石は、フランスバスク地方の「オランジュフランセ」というチームにいる。プロの中では弱小チーム。そこに、ニコラ・ラフォンという若手の有力選手が移籍してきた。ツール・ド・フランスで総合優勝も狙える。白石は「アシスト」で、「エース」のニコラのレースをサポートする役割だ。

 物語は、ツール・ド・フランスの約3週間を描く。そのツールにで、5年前にドーピングでレースの世界を去った、メネンコというかつてのスター選手が復活を果たす。レースを前にして、白石はメネンコからある依頼をされそれを受ける。

 今回も楽しめた。もっと言えばこれまでの中で最も安定感を感じる。じっくりと作品世界に浸ることができる。それはたぶん、「サヴァイブ」を含めてこれまでに3作の、「白石の物語の蓄積」があるからだろう。

 もう少し説明を試みる。ニコラが「エデン」でライバルチームのエースだったように、本作で脇を固める他の選手たちも、多くは前作までに登場して描きこまれている。本作では彼らが、血の通ったキャラクターとして、物語を支えてくれている。

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2018年1月17日 (水)

インターネットは自由を奪う

著  者:アンドリュー・キーン 訳:中島由華
出版社:早川書房
出版日:2017年8月25日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 インターネットによって、私たちの生活が便利で快適になった。しかしその裏では様々な悪弊や破壊が起きている。本書はそういったインターネットの負の側面をあぶりだす警告の書。原題は「The Internet Is Not The Answer」(インターネットは解決策じゃない/日本語のタイトルは内容をうまく表せていないと思う)。

 タイトルでわざわざ「解決策じゃない」と謳っているのは、「解決策だ」と思っている人がいて、それがある程度は世間に認められているからだ。インターネットは、「一般の人々に発言権」を与え「多様性」と「透明性」をもたらす。あるいは「社会的・経済的機会」を「平等に広く行き渡らせる」。それは違う、と著者は声高に言う。

 著者によると、シリコンバレーの企業家に、こういうインターネットを礼賛する人が多いらしい。著者自身もシリコンバレーで起業経験があり、現在も起業家や投資家を相手としたサロンを運営している。そこで出会う人々は、疑うこともなく「インターネットが世界を良くする」と考えているそうだ。

 ところが実際に起きていることは、とてもそうとは言えない。経済格差・文化格差は広がり、多様性は損なわれている。皆が知っている分かりやすい例でいうと、アマゾンが書店をドンドンと廃業に追い込んでいる。米国の研究所の調査によると、売上高1000万ドル当たりの従業員数が、実店舗のある書店では47人、アマゾンは14人。米国で2万7000人の雇用を破壊した計算になるそうだ。

 問題視すべきなのは、経済的な破壊だけではない。グーグル、フェイスブック、ツイッターは、私たちの「ライフログ」をお金に換えている。「いつ誰とどこに行ったか」「何を買ったか」「どんなことに興味があるか」。彼らの事業は「個人情報」という商品を生成する工場のようなもの。私たちは、検索したり投稿したりすることで、せっせと商品を生成する。その工場でタダ働きしているようなものなのだ。

 というような、インターネットとシリコンバレーの企業家についての、とてもネガティブな情報が満載。冒頭に書いたように「私たちの生活が便利で快適になった」ことは事実で、そのことにほとんど触れられていない本書は、その意味ではバランスが悪い。しかし、これは知っておくべきこと、意識しておくべきことだと思った。

 最後に覚えておきたい一文を。「彼らのような伝道師がおかしている間違いは、インターネットのオープンな分散型のテクノロジーが、そのまま社会の階層構造および格差の解消につながると決めつけている点である

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「インターネットは自由を奪う」 固定URL | 5.ノンフィクション | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年1月14日 (日)

マスカレード・ナイト

著  者:東野圭吾
出版社:集英社
出版日:2017年9月20日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「マスカレード・ホテル」の続編、数年後の設定。本書の前に「~ホテル」の前日譚となる「マスカレード・イブ」が刊行されているから、本書でシリーズ3作目。帯によると累計267万部突破、だそうだ。

 舞台はこれまでと同じホテル「コルテシア東京」。主人公も同じで警視庁の刑事である新田浩介と、「コルテシア東京」の山岸尚美。山岸は、前作ではフロントクラークだったが、今回はホテルが新設したコンシェルジュ・デスクに就いている。

 今回はこんな事件。練馬区のマンションで女性の遺体が発見された。死因は心臓麻痺らしい。外傷も苦しんだ形跡もない。一見すると事件性は乏しい。しかし、事件の発端が「匿名通報ダイヤル」の通報だということから、捜査を進めるさなかに「密告状」が届く。そこにはこの事件の犯人が、コルテシア東京のカウントダウン・パーティに現れる、と書いてあった。

 匿名の通報者と密告状の送り主は同一人物なのか?犯人との関係は?そもそも犯人を告発したいのなら、その素性を伝えてくればいいわけで、このような回りくどいことをする目的は何なのか?捜査本部は翻弄される。そんな中で新田はフロントクラークとしてホテルに潜入して捜査を始める。

 超一流ホテルは、様々な素性の人間が利用する。夫婦や家族を装う者も、偽名を使う者も少なくない。いわば素顔を隠して仮面を付けた人間が集まる。そういったことを、このシリーズ全体の共通のタイトルの「マスカレード(仮面舞踏会)」は表している。

 それはこれまでは比喩だったけれど、今回の「カウントダウン・パーティ」は、なんと仮装パーティで、参加者は文字通り仮面を付けている。バットマンやアンパンマンや目玉おやじがウロウロする現場。捜査が面倒なことは言うまでもない。この難しい条件で、事件を(そもそも何が起きるかもわかっていないのだけれど)未然に防ぎ、犯人を追い詰める。それが本書の見どころ。

 見どころはまだある。山岸がコンシュルジュになった。「客室の窓から見える遠くのビルのポスターが気になるから何とかしてくれ」「レストランでプロポーズをするので、彼女に気付かれずに後ろにバラの花道を作ってくれ」こんなムリめな要望に彼女がどう応えるか?これがけっこう読者の関心を引き付ける。

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