2017年6月 7日 (水)

すべての戦争は自衛意識から始まる

著  者:森達也
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2015年1月29日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 古い新聞記事をきっかけに本書を読んでみた。それは1925年の朝日新聞の4つの記事。「世論の反対に背いて治安維持法可決さる」「無理やりに質問全部終了 修正案討論に入る」「社会運動が同法案の為抑厭せられることはない」「定義はハッキリ下せぬがこの法律だけは必要だといふ」という文字が読み取れる。
※その記事はこちらで見られます

 最初はこの記事の画像をネットで見て、その真偽を確認するうちに、本書に紹介されていることを知った。この記事を見た時の私の気持ちに、共感してくださる方が多いことを祈る。「これは今の(共謀罪を巡る)状況にそっくりじゃないか」「歴史を繰り返しているんじゃないのか」ということ。本書を読むと、著者は私と同じ気持であったことが分かる。

 著者はノンフィクション映画監督で作家でもある。本書は著者がそれまでに書いた雑誌のエッセイや連載と書下ろしをまとめたもの。タイトルのとおり「自衛意識から戦争が始まる」ということを、繰り返し説明している。それはノンフィクション作家らしく、紛争や戦争の現場に足を運んで、人から聞き肌で感じた「実感」だ。

 例えば、パレスチナ避難民が暮らす難民キャンプ。例えば、南北に分断されたキプロスの境界線。その他には「かつての現場」である、アウシュビッツの収容所跡の博物館、南京大虐殺記念館、北朝鮮の戦勝記念館に。どこでも共通するのは、自分たちを「守る」ために戦い、そのためには「善良なままに人を殺す」そういう姿だ。

 本書にはその他に、知っておいた方が良い事柄がたくさん書いてある。例えば、南京大虐殺記念館にある「百人斬り超記録」という日本の新聞記事。日本の軍人がしていた「中国人を何人斬ったか競争」の状況を国内に報じていたのだ。例えば、韓国人なら誰でも知っているのに、日本人はほとんど知らない「乙未事変」。朝鮮の王妃が日本の公使に軍刀で殺害された事件だ。

 こういったことを「自虐史観」と非難する人たち向かっては、「呼びたければ呼べ」と著者は言う。振り返って「戦争はダメ!」という人にも「それだけではダメだ」と言う。「戦争のメカニズムを知らないと「戦争を回避するために抑止力を」というレトリックに対抗できない」。それではまた繰り返すことになる。...肝に銘じよう。もうすでに繰り返しが始まってしまっているのだから。

 最後にもう一つ。キプロスの分断された両側の地区に、若者たちが描いた「禁止マークに入った銃」と「ヘッドホン」の落書きがたくさんあるという。これは彼らの「銃は捨てる。音楽を聴く」というメッセージ。

 日本のネットなら「お花畑」と言われるだろう。「とことん話して、酒を飲んで..」と言った学生を袋叩きにしたように。正直言って私も「甘い」ように思うのだけれど、このことが本書の中で希望を一番感じたことだった。これが唯一、解決につながる道なのかもしれない。

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2017年6月 4日 (日)

我ら荒野の七重奏

著  者:加納朋子
出版社:集英社
出版日:2016年11月10日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の2010年の作品「七人の敵がいる」の続編。

 主人公は「七人の敵がいる」と同じく山田陽子。出版社の編集者でモーレツに忙しい。息子の陽介くんと夫の信介との3人家族。前作で陽子は、PTAや自治会などで、けっこうハデなバトルをやらかしている。

 本書は、前作の直後で陽介くんが小学校6年生の時、信介の上司の中学生の息子、秀一くんの吹奏楽の発表会から始まる。秀一くんのトランペットに感激した陽介くんは「秀一くんの学校に行きたい。吹奏楽部に入って、トランペット吹きたい」と、中学受験を決意する。

 職場でも「ブルドーザー」と呼ばれている陽子だけれど、陽介くんのことになると、さらに猪突猛進の度合いが高まる。陽介がN響でピカピカのトランペットを華麗に吹きこなす姿まで想像する。本書は、こんな感じの陽子が、陽介の中学3年までの吹奏楽部の活動に伴走する姿を描く。

 楽しめた。若干ひきつりながらではあるけれど。「あとがき」に「匿名希望の某お母様及びそのお嬢様」に取材したとあるけれど、エピソードの細かい部分までがリアルだ。「仰天エピソード」はフィクションだと思うから笑える。「これマジだわ」と感じるとそうはいかない。「ひきつりながら..」というのはそういう意味だ。

 吹奏楽のパート決めの悲喜こもごもも、会場取りのための努力も、保護者やOBからのプレッシャーも、いかんともし難い実力差も..脚色はあっても創作はない。我が家の娘二人も中学では吹奏楽をやっていた。私自身が経験したことではないけれど、こういう話はよく耳に入って来た。

 陽子の「ブルドーザー」ぶりは相変わらずだけれど、学習したのか少しうまく立ち回れるようになった。正論をはいて敵を作ってしまうけれど、結局たいへんな仕事を担って、改善も実現して役にも立っている陽子を、助けてくれる「チーム山田」的な人も現れた。「一人で猪突猛進」よりも、「チームで解決」の方がスマートなのは言うまでもない。

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2017年6月 1日 (木)

日本をダメにしたB層の研究

著  者:適菜収
出版社:講談社
出版日:2015年11月1日 発行
評  価:☆☆(説明)

 ここのところ政府にとって都合の悪いことが次々と話題になっている。その割に支持率が下がらない。「どうして?」と思っているうちに「B層」という言葉が頭に浮かんだ。「たしか「B層の研究」っていう本があったよな」と思って、本書を探し出して読んでみた。

 「B層」というのは、2005年のいわゆる郵政選挙の時に、広告会社が作成したコミュニケーション戦略による概念。「構造改革に肯定的か否定的か」と「IQが高いか低いか」の2つの軸で、国民をABCDに分類し、「構造改革に中立から肯定的でIQが低い」層のことを「B層」と名付けている。

 国民の多数がこの層に属していて、この層は深く考えることなく、印象で物事を決めてしまう。だから「郵政民営化に賛成か反対か」「改革派か抵抗勢力か」と、問題を単純化してして、テレビで大量に投げかける、というのがその戦略。

 そうすると、具体的なことはよく分からないけれど(「改革派」の方がいい感じがするので)「郵政民営化賛成!改革派ガンバレ!」となって、その結果として自民党は圧勝、というワケ。「国民をバカにするな!」と憤りを感じるけれど、戦略通りに自民党は圧勝したわけだから、憤るだけ虚しいというものだ。

 ちょっと「B層」の説明が長くなってしまった。それで本書は、タイトルからして「日本をダメにした」と形容しているわけで、その「B層」を「研究」と称して、徹底的にバカにしている。それだけでなく「B層」を支持基盤にした、小泉さん以降の歴代の首相を、党を問わずバカ呼ばわりする。

 いいことも言っているし、なかなか鋭い考察もあるし、著者は哲学や古典にも通じているようだ。しかし、こんなふうに他人を順番に俎上に載せて、次々と切って捨てているのでは、飲み屋で吠えている酔客のようで、心情的に距離を置きたくなった。

 繰り返すけれど、いいことも言っているし、なかなか鋭い考察もある。積極的にはおススメしないけれど、私が上に書いたことを承知した上で、それでも興味があれば、読んでみてもいいかもしれない。

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2017年5月28日 (日)

スノーデン 日本への警告

著  者:エドワード・スノーデン、青木理、井桁大介、ベン・ワイズナーほか
出版社:集英社
出版日:2017年4月19日 発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 本書はエドワード・スノーデン氏が滞在先のロシアから参加した、2016年6月に東京大学本郷キャンパスで行われた、シンポジウムの内容を書籍化したもの。言うまでもないけれど、スノーデン氏はアメリカ政府がインターネットを通じた大規模な監視体制を、秘密裏に構築していたことを、資料と共に暴露した人だ。

 シンポジウムのタイトルは「監視の"今"を考える」。第一部がスノーデン氏へのインタビューと質疑応答、第二部が「信教の自由・プライバシーと監視社会 ~テロ対策を改めて考える」と題したパネルディスカッション。本書のそれに沿って2つの章で構成されている。

 スノーデン氏の話はどれも心に響いた。2つ紹介する。一つ目は「秘密主義は政治の意思決定のプロセスや官僚の質を変えてしまう」という話。「政府が安全保障を理由として、政策の実施過程は説明せず、単に法律に従っていると説明するだけとなれば(中略)やがて政府による法律の濫用が始まるでしょう」と語っている。現在の国会の状況を正確に予想していたかのようだ。

 二つ目は「言論の自由とプライバシー」についての話。「言論の自由やプライバシーの権利は社会全体に利益をもたらすものです(中略)異色な存在でなくとも、言論の自由やプライバシーの権利がもたらす利益を十分に享受しているのです」と言う。「普通に暮らしていてやましい事がないなら、共謀罪なんて心配しなくもいい」という考えが誤りだと分かる。

 パネルディスカッションはさらに刺激的だ。スノーデン氏が暴露したのはアメリカ政府の秘密で、幾分「対岸の火事」的な感覚がある。ところが米国と同じように、日本国内でもムスリムに対する監視が行われていたことが分かっている。イスラム教徒である、モスクに出入りしている、という理由だけで、「コンビニで何を買ったか」まで、調査されていた。

 最後に。「共謀罪」に関係して話題になった「国連の特別報告者」について。特別報告者の任命に至る経緯が書いてあった。2013年に「デジタル時代のプライバシー」という国連総会決議があり、各国の決議の実施状況を調査するために任命されている。決議にはもちろん日本も賛同している。国連からしてみれば「個人の資格で..」などと、どの口で言うのか?ということだろう。

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2017年5月24日 (水)

好調を続ける企業の経営者はいま、何を考えているのか?

著  者:鈴木博毅
出版社:秀和システム
出版日:2017年4月25日 第1版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の鈴木博毅さまから献本いただきました。感謝。

 本書は、著者が8つの超成長企業の経営者にしたインタビューをまとめたもの。「超成長企業」の意味するところは、過去5年間に売上高が2~5倍、経常利益についても同水準で増加している「一部上場企業」だ。一時期よりは持ち直してはいくけれど、まだまだ経営環境は厳しい。その中で伸び続けている企業には「何かがあるはず」、それを聞き出そうという意図だろう。

 その8社は具体的には「ユーグレナ」「ディップ」「ファンコミュニケーションズ」「朝日インテック」「LIFULL」「イーブックイニシアティブジャパン」「日本M&Aセンター」「オプティム」の8社。「一部上場」というと「有名企業」というイメージがあったけれど、浅学の私は半分以上知らなかった。

 8社のすべての社長さんのお話がどれもとても刺激的だ。特に最初の「ユーグレナ」の出雲社長の話が心に残っている。社長は、ミドリムシの食用屋外大量培養に成功し、同社はその多様な商品開発を行っている。事業化のパートナーを探して500社に断られた話、エネルギー問題への取組、「世界をよい方向に変える」という理念。

 本書が魅力的なのは、「超成長企業」の社長の話の魅力に負うところが多い。ただ、それだけでは「成功事例」を集めただけになってしまう。著者は「新業態を打ち出す」「業態を変更する」という、2種類の「業態変革」を切り口にして、各社の分析を試みている。それも示唆に富んでいいと思う。

 実は私は少しだけれど株式投資をやる。基本的には東証一部の企業しか買わない(それなのに「半分以上知らなかった」のだから、恥ずかしい限りだ)。これからは、ここに載っている会社にも注目しておこうと思う。(※本書では全社が「一部上場企業」のように読めるけれど、調べてみると1社は二部のようだ) 

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2017年5月21日 (日)

ヒア・カムズ・ザ・サン

著  者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2014年4月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第10弾。

 舞台は、東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。前作の「オール・ユー・ニード・イズ・ラブ」の続き。「東京バンドワゴン」を営む堀田家の1年を描く。

 今回も、大小のミステリーと人情話が散りばめられている。ミステリーの方は、白い影が見えるとかすすり泣きが聞こえるとかの幽霊騒ぎ、近くの区立図書館に古書が置かれるという謎の事件、宮内庁からの招かざる客、等々。

 人情話の方は、ご近所の青年の恋愛がらみの騒動や、以前に堀田家に救われたかつての不良少年(今は一児の父)の話、万引き少年の更生の機会、等々。それから、今回は少し悲しい別れもいくつかある。

 前作のレビューで「子どもたちの成長が楽しみになってきた」と書いたけれど、今回はその成長をはっきりと感じることができた。高校2年生の花陽ちゃんの啖呵がよかった。そして、登場回数は多くなくても、今回の一番の主役は、中学3年生の研人くんだ。何とも甘酸っぱいことになった。

 このシリーズのタイトルは、第1作を除いてビートルズの曲名(第3作「スタンド・バイ・ミー」はジョン・レノンによるカバー)。これまではその巻のイメージに「何となく合っている」感じだった。今回は、ストーリーにうまくはまっている。

 Here comes the sun, and I say It's alright. ♪

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2017年5月18日 (木)

失敗の本質 日本軍の組織論的研究

著  者:戸部良一、鎌田伸一、野中郁次郎ほか
出版社:中央公論新社
出版日:1991年8月10日 初版 2015年5月20日 53刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は1984年の発行の後30年あまりの間に、何度か注目をされてきた。例えば東日本大震災の後の政府の対応や、それ以前の危機管理の問題点を指摘する際に、多く言及されたという。何か大きな「失敗」や「危機」を感じた時に立ち返って紐解く、そんな本らしい。

 副題に「日本軍の組織論的研究」とある。本書は大東亜戦争時の日本軍の戦い方(特に失敗した戦い方)を、組織論の観点から研究したもの。その研究成果を、現代の日本の組織への教訓として活用することを目的としている。

 第三章まであるうちの第一章は、具体的な作戦を紹介、分析している。取り上げられた作戦は「ノモンハン事件」「ミッドウェー作戦」「ガダルカナル作戦」「インパール作戦」「レイテ海戦」「沖縄戦」の6つ。

 本書のキモはこの後で、第二章で6つの事例から共通する要素を取り出して、第三章でさらに理論的な考察を深めている。例えば「あいまいな戦略目的」「主観的で帰納的な戦略策定」「属人的な組織の統合」「プロセスや動機を重視した評価」などの項目が上がっている。

 正直に言って読むのに忍耐を強いられた。特に第一章がつらい。要約や妥協をすることなく作戦を詳細に記してあり、膨大な情報量に圧倒されて一読しただけでは頭に入らない。この章はケーススタディのケースにあたる部分なので、短く要約してしまうわけにはいかないのも分かるけれど、それにしても細かい。

 最後に。本書が、著者たちの英知の結晶で大変な労作だということはよくわかる。ただ、第二章と三章で抽出された項目は、「戦略・目的はあいまいではいけませんね」といった、ごくありふれたものばかりだと思う。

 それでもなお本書が「名著」と言われるに値するのは、「大東亜戦争時の日本軍の戦い方の研究」という大仕掛けによるところが大きい。いきなり「戦略・目的は明確に」と言われてもありがたくもなんともないからだ。これってつまり「プロセスや動機を重視した評価」ってこと?というのはひねくれ過ぎか。

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2017年5月14日 (日)

ひなこまち

著  者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2015年12月1日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「しゃばけ」  シリーズの第11作。このシリーズは、巻によって長編あり短編ありのバラエティに富んでいるのだけれど、本作は5編からなる連作短編集。それぞれの短編が完結しながら、全体で一つの出来事を追う形になっている。

 1編目のタイトルは「ろくでなしの船箪笥」。主人公の一太郎は病弱のため出歩いたり遊んだりすることが少なく、友達と呼べる仲間もあまりいない。その数少ない友達の一人の七之助が来て、助けてほしいという。祖父から形見として残された船箪笥が開かない、しかもその船箪笥が来てから、気味の悪いことが起こるようになった、と言う。

 2編目は「ばくのふだ」悪夢を食べるというあの「ばく」の話。3編目は「ひなこまち」江戸で一番美しい娘を選んで、その娘をモデルにひな人形を作る、という趣向。4編目は「さくらがり」一太郎たちとしては珍しく、花見をしに上野へ出かける。5編目は「河童の秘薬」1編目の「ろくでなしの船箪笥」で河童を助けた、その恩返しにもらった秘薬が騒動を起こす。

 「河童を助けた」と、何の補足もなく書いたけれど、このシリーズでは、河童はもちろん、付喪神や貧乏神やらの人ならぬ妖(あやかし)が、特に説明もなく驚きもなく登場する。知らないうちに他人の夢の中に入り込んでしまったり..。つまり「何でもあり」になってしまうのだけれど、今回もその「何でもあり」ぶりが楽しかった。

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2017年5月11日 (木)

図書館の魔女 第一巻

著  者:高田大介
出版社:講談社
出版日:2016年4月15日 第1刷 6月28日 第5刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 講談社の公募文学新人賞である「メフィスト賞」受賞作品。つまり著者のデビュー作。文庫の帯に「「読書メーター」読みたい本ランキング(文庫部門)日間 週間 月間、すべて1位」と書いてあって、興味をひかれたので読んでみた。

 主人公は、山里で生まれ育った少年のキリヒト。舞台は西大陸と東大陸が狭い海を挟んで対峙する架空の世界。数多くの部族国家が鎬を削りあっているが、この100年ほどは安寧の時を過ごしている。本書は権謀術数が渦巻く世界を描いた、全4巻からなる異世界ファンタジーの1巻目。

 キリヒトは師に連れられて、「一ノ谷」と呼ばれる街にある「高い塔」に来る。「一ノ谷」とは東大陸の西端、諸州諸民族が行き交う要所にあって、この世界に覇権を布く王都。「高い塔」には「図書館」がある。キリヒトはその図書館を統べる「図書館の魔女」に仕えるためにやって来たのだ。

 これ、面白そうだ。図書館には叡智が詰まっている。図書館を観念的に捉えてそういう言い方をすることがある。しかし、本書では「図書館の魔女」は、その叡智を自分のものとしたかのようで、内政外交の意思決定に的確な意見を述べる。先代の「図書館の魔法使い」は、同盟諸州に書簡を送って同盟市戦争を未然に防いだことで知られている。

 「図書館」にこういう意味や役割を持たせた卓越性や、そこに配置した人々の意外性がとても興味を掻き立てる。どういう意外性かは、敢えて書かないけれど、およそその場に似つかわしくない個性が、それぞれの役割を演じる。正直に言って、壮大な遠回りをしている気がするが、それがいいのだろう。

 「面白そうだ」と推察の形にしているのは、まだ分からないからだ。全4巻の1巻目だから、ほとんど何も起きていない。それでもページを繰る手を止めることなく読めた。次巻以降に期待大だ。

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2017年5月 7日 (日)

これは経費で落ちません! 経理部の森若さん

著  者:青木祐子
出版社:集英社
出版日:2016年5月25日 第1刷 2017年2月28日 第9刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 昨年5月の発売以来、じわじわと部数を伸ばして重版を重ねて、私が購入した本を見ると、1年足らずで9刷になっていた。どうやら先月には続編も出たらしい。

 主人公は森若沙名子。27歳。天天コーポレーションという石鹸や入浴剤、化粧品などのメーカーの経理部に勤めている。社員が持ってくる領収書の経理処理をする。中には用途不明にものもあり、物語の冒頭に受け取った領収書には「4800円、たこ焼き代」と書いてあった。

 タイトルからは「たこ焼き?これは経費で落ちませんよ!」という流れが想像できるし、物語自体も「経費使い込み社員vsそれを見破る経理部員」式かと思われる。ところが「たこ焼き」は経費で落ちるし、物語もそういうものではない。

 ではどういう物語かと言えば、天天コーポレーションの営業部や秘書課や開発室で起きる、ちょっとした事件簿だ。大きな犯罪というよりは、駆け引きや行き違い。森若さん自身の恋や身の上のことも少しある。

 面白く読めた。「使い込みを見破る経理部員」の話でなくてよかった。巨悪に立ち向かう「正義」はカッコいいけれど、社内規定に合わない領収書をはねつける「正義」はウケないし(もちろん必要な正義だとは思うけれど)。

 森若さんは経理担当らしく、几帳面だし情に流されることもない。しかし「正義」の人でもない。彼女が心に留めているのは「フェア」ではなくて「イーブン」であること。互いに得るものがあれば「公正」や「公平」にはこだわらない。そういう主人公の態度が、この物語を小気味よいものにしている。

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