2016年8月24日 (水)

烏は主を選ばない

著  者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2015年6月10日 第1刷 2016年7月25日 第11刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「烏に単は似合わない」の続編。いや「続編」という言い方は正確ではなくて、本書は前作と全く同じ時間に起きた別の出来事を描いた物語。著者はインタビューで、当初は前作と本書がひとつの物語だったことを明かしている。だから「続編」よりは「下巻」、いや「裏編」と「SideB」とかが適切な表現か。

 改めてシリーズを紹介すると、私たちと同じ人の形になっている八咫烏の世界、平安京に似た宮廷を舞台としたファンタジー・ミステリーだ。前作では、皇太子である若宮の后選びを舞台に、后候補となった4人の姫たちを描いた。

 そして本書の主人公は、若宮の近習となった少年の雪哉。雪哉の目を通して、前作でほとんど何も明かされなかった、若宮に起きた出来事が描かれる。「若宮の后選び」という時間を、后候補の姫たちの側から描いた前作と、若宮の側から描いた本書、2作でひとつの物語、というわけだ。

 とは言うものの、本書では「若宮の后選び」は、ほとんど描かれない。描かれているのは「后選び」どころではない、その身を危うくするような事件だ。若宮は、10年前の政変で兄を追い落として皇太子の座に就いた。その兄の一派が巻き返しを図ってきたのだ。
 面白かった。人気が出るのも頷ける。前作の美しい姫が4人も登場するキラキラした感じから一変、気を抜くと殺されてしまうようなハードボイルドな展開。信頼と裏切り。正義と悪。ジャンプのマンガのようでワクワクさせる。

 「ぼんくら次男」と呼ばれている雪哉と、「うつけ」扱いされている若宮。「解説」にも書いてあったが、物語の主要な登場人物で「ぼんくら」や「うつけ」として現れて、本当にそうだった試しはない。本当の姿が早々にチラっと見えるのも楽しい。

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2016年8月21日 (日)

新しい道徳 「いいことをすると気持ちがいい」のはなぜか

著  者:北野武
出版社:幻冬舎
出版日:2015年9月10日 第1刷 2015年9月25日 第3刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 北野武さんが「道徳」についてツッコミを入れた本。明確には書かれていないけれど「道徳の教科化」という背景がある。2018年に小学校で、翌年には中学校で「特別の教科」としての指導が始まる。

 もうひとつ。著者は何か具体的な道徳の教材を読んで、本書を記している。もしかしたらその教材を読んだことが、本書を書いたきっかけだったかもしれない。その教材は、おそらく文部科学省が制作した「私たちの道徳」だ。

 全部で5章42項の短めの文章が収録されている。第一章のタイトルは「道徳はツッコミ放題」。例えば「なぜ本を読みながら歩いていた二宮金次郎は銅像になって、スマホ片手に歩いている女子高生は目の敵にされるのか」なんていう項目がある。そういう芸風なのか性格なのか、皮肉で斜に構えた文章が続く。

 そんな芸風(性格?)の著者が、一定の評価を受け尊敬もされているのは、映画監督としての実績の他に、辛辣な皮肉の中に一片の真実が光るからだろう。例えば「道徳を教えるのと、良心を育てるのは別のことなのだ」なんて言葉は至言だと思う。「公共心を芽生えさせるなんて目的で、道徳を押しつけてはいけない」は今の社会に必要な警句だろう。

 最後に。サブタイトルの「いいことをすると気持ちがいい」について。著者が読んだ教材に、お年寄りに席を譲る、という場面のイラストに「いいことをすると気持ちがいいよ」と書いてあるそうだ。(「私たちの道徳」の32ページにもそう書いてある)。これを「席を譲るのは、気持ちがいいという対価を受け取るためなのか」と、ひどくご立腹のようだ。

 私としては、著者の言いたいことは分からないでもないけれど、これに拘泥し過ぎだと思う。他の部分でも何度も触れているし、サブタイトルにまでしているし。でも、実際のページを見ると、詩の一文に過ぎないし、「気持ちいいからいいことをしよう」と書いてあるわけではない。

 著者自身も「いいことをすると気持ちがいい」ことは自体は否定していない。私も、人に親切にしたり、何かをしてもらった時にお礼を言ったり、困っている人を助けることができたりした時には、「気持ちいい」と感じる。そういうことを子どもたちにも伝えたいと思う。

参考:道徳教育用教材「私たちの道徳」について:文部科学省

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2016年8月17日 (水)

海の見える理髪店

著  者:荻原浩
出版社:集英社
出版日:2016年3月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 先月に発表された2016年上半期の直木賞受賞作品。

 表題作の他、「いつか来た道」「遠くから来た手紙」「空は今日もスカイ」「時のない時計」「成人式」の計6編を収めた短編集。6編に共通しているのは、「家族」を描いていること。それも「欠落」を抱えた家族を描いていること。

 表題作「海の見える理髪店」は、海辺の小さな町にある理髪店が舞台。そこの大きな鏡には背後の海が、鏡一杯に広がって映る。大物俳優や政財界の名士が通いつめたという店。そこにきた若者に、店主が自分の来し方を語る。

 「いつか来た道」は、母娘の話。反発して家を飛び出した娘が16年ぶりに母を訪ねる。弟に「いま会わないと後悔する」と言われて..。「遠くから来た手紙」は、夫婦の話。夫への不満を募らせた主人公が実家に帰って来て暮らす。「空は今日もスカイ」は、小学生の家出。神社で出会った風変わりな少年と海を目指す。

 「時のない時計」は、時計店の主人と、そこに父の形見の時計を修理に持って行った男性との会話。時計屋の主人は家族の思い出と暮らしていた。「成人式」は、娘を亡くした夫婦の話。二人の元に娘の成人式の案内が届く。

 冒頭に書いたように全て家族の物語。そこに大小の欠落がある。二十年以上も前に別れた妻子、理解し合えなかった母娘、引き裂かれた夫婦、愛が必要な子ども、子どもを亡くした親。その欠落は他のものでは埋められない。しかし「こんな風に少しは楽になることもある」。そんな物語だった。

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2016年8月14日 (日)

オールド・テロリスト

著  者:村上龍
出版社:文藝春秋
出版日:2015年6月30日第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 村上龍さんの昨年出版された最新長編。文芸誌の文藝春秋の2011年6月号から2014年9月号まで掲載された同名の作品に、単行本化にあたって加筆したもの。

 主人公はフリーの記者のセキグチ、54歳。「希望の国のエクソダス」に登場した記者の関口と同一人物で、本書の物語は「希望の国の~」から十数年後の出来事とされている。「中学生が集団不登校を起こした事件」として、本書の中で何回か回想される。

 仕事を失い、家族に出て行かれ、荒れた生活をしていたセキグチの元に、元上司から突然に仕事の依頼があった。NHKでのテロの予告があったから、行ってルポを書いて欲しい、という。「そんなバカな話があるか」と思いながらも、セキグチは取材費を欲しさにNHKに出向く。そして予告通りにテロが起きる..。

 「希望の国の~」が中学生による革命の物語であるのに対して、本書が描くのは老人による革命だ。この国の現状を憂い、危機感の醸成のために「日本全体を焼け野原にする」と言う、「怒れる老人たち」による革命。その主体は満州国の生き残りたちらしい。

 読んでいて「面白い」と「もうイヤだ」のせめぎ合いだった。テロの現場やアングラなグループなど、様々な場面の描き方が生々しい。私の心の許容度のギリギリか、時に少し超えてしまう。そこで「もうイヤだ」と感じる。それを苦いもののように飲込んでしまうと「面白い」

 「怒れる老人たち」の着想はとてもいいと思うのだけれど、この描き方では、私はセキグチのようには、老人たちに共感を感じられない。「希望の国の~」は「希望だけがない」というフレーズで有名になったけれど、実は希望を残して終わっている。それに対して本書は、物語の終わりに何か残ったの?と疑問に思ってしまう。

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2016年8月10日 (水)

政府は必ず嘘をつく 増補版

著  者:堤未果
出版社:KADOKAWA
出版日:2016年4月10日 初版 6月25日 4版 発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 本書は2012年に出版した同名の書籍に、その後の4年間に起きた出来事を踏まえた書下ろしを「袋とじ付録」として加えた増補版。読んでもまったく楽しくならないけれど、これはたくさんの人が知っておくべきだと思ったので☆5つ。

 本書のタイトルの元にもなった、米国の歴史学者ハワード・ジン氏の言葉が本書の主旨を端的に表している。「政府は嘘をつくものです。ですから歴史は、偽りを理解し、政府が言うことを鵜呑みにせず判断するためにあるのです

 著者は新書大賞を受賞した「ルポ貧困大国アメリカ」の他、「沈みゆく大国アメリカ」などで、米国の政治経済社会を精力的に取材している。その米国での取材の最中に何度も言われたことがあるという。それは「アメリカを見ろ、同じ過ちを犯すな」だ。

 例えば、9.11後の捜索やがれき除去の作業現場では、有毒ガスによる健康被害の不安の声が上がったが、「作業現場は安全、ただちに健康に被害はありません」とEPA(環境保護庁)は言い続けたそうだ。その後10年の間に5万人の作業員が呼吸器系のがんなどの健康被害を起こしている。EPAは今も、作業員が発症したがんとの因果関係は否定し続けている。

 例えば、2005年にハリケーンが襲ったニューオーリンズでは、復興事業費の8割以上を政府関係者と関係の深い大企業が受けた。また、復興特区として最低賃金法の撤廃という規制緩和を行って、労働力を安く雇えるようにして、大資本の利益を大幅に拡大させている。

 前者の健康被害の例が、日本の何に対応するかは明らかだから、敢えて言わない。後者の復興事業の例は少し説明した方がいいだろう。

 日本政府は、東日本大震災の被災地を復興特区に認定し、農地や漁業権や住宅などを、外資を含む大資本に開放する規制緩和を行っている。そして東京都が受け入れたがれき処理は、東電が95.5%出資している会社が請負い、被災地の除染を請け負うのは、原子炉建屋の建設実績トップ3の3社だ。

 このように、嘘と隠ぺいの例が多数紹介されている。これ以外にもTPPのISDS条項と医療・保険分野の危険、日本人が信頼を寄せるIAEAやWHOなどの国際機関の実情、アラブの「民主化」の裏に隠された強欲資本主義など、正直言って「知らなきゃよかった」と思ってしまうほど「怖い真実」が並んでいる。

 念のため。「必ず嘘をつく」政府は、安倍政権(だけ)を指しているのではない、そもそも「ただちに健康に被害はありません」は民主党政権の時の話だ。だから、政権交代では解決しない。アメリカが黒幕だという意見も正解ではない。政府に嘘をつかせるのは、もっと得体のしれないもので、敢えて名付けると「グローバル経済」。簡単には対抗できない。でも方法がないわけではない。

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「政府は必ず嘘をつく 増補版」 固定URL | 5.ノンフィクション | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年8月 7日 (日)

マイクロ・ライブラリー

編  者:まちライブラリー マイクロ・ライブラリーサミット実行委員会2014
出版社:学芸出版社
出版日:2015年5月1日 第1版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

  最初に、マイクロ・ライブラリーとは何か?から。日本語に訳せば「(すごく)小さな図書館」。個人(や小さなグループ)が運営する図書館のこと。私には具体的な心当たりが全くないのだけれど、本書の著者の一人である礒井純充さんによる「マイクロ・ライブラリー図鑑」には514のスポットが紹介されている。そして、礒井さんらによって、数年前から興味深い動きが起きているらしい。

 興味深い動きの一つが「マイクロ・ライブラリーサミット」。「小さな図書館」の応援と横の連携を目的として、2013年に始まって、2014年、2015年と3回開催されている。本書は2014年の「マイクロ・ライブラリーサミット」の講演録に、インタビュー記事を加えてまとめたもの。

 事例報告を中心としたサミットだったらしく、本書も多くを事例紹介に割いている。海外から「リトル・フリー・ライブラリー」という巣箱型の図書館を、国内からは13事例を紹介している。マイクロ・ライブラリーとひとくくりにはできないぐらい、様々な形態があることが分かる。

 病院の透析センターに併設されたところ、街のお店がそれぞれ本棚とお気に入りの本を置いているところ、元体育教師が在職中に集めた本や資料を公開しているところ、亡くなった奥さんが遺した2000冊の本を貸し出しているところ、子どもや若者が大人から干渉されない場所として開設したところ....。

 後述するけれど、私には個人的な想いがあって、本書からはとてもたくさんの刺激をもらった。欲を言えば「マイクロ・ライブラリーとは何か?」ということを、最初に書いておいて欲しかった。聴衆には共通理解がある講演録という性格上、仕方ない面はあるが、何の説明もなく話が進むので、テーマの輪郭がつかめなくて不安だった。

 巻末には300余りのマイクロ・ライブラリーの一覧が付いている。

 この後は書評ではなく、この本に関する私の想いを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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「マイクロ・ライブラリー」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年8月 3日 (水)

星やどりの声

著  者:朝井リョウ
出版社:角川書店
出版日:2011年10月31日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は2009年に「桐島、部活やめるってよ」で、小説すばる新人賞を受賞して翌年にデビュー。2013年に「何者」で直木賞受賞。駆け足でステップアップしている感じだ。本書は、この2つの受賞作の間に出した何作かのうちの1つ。

 舞台は連ヶ浜という海辺の街(鎌倉を想起する)の、駅前の商店街から少し離れたところにある喫茶店。お店の名前が「星やどり」。主人公は、このお店を切り盛りする早坂家の6人の子どもたちが順に務める。最初が長男の光彦、続いて三男の真歩、二女の小春、二男の凌馬、三女のるり、最後が長女の琴美。

 琴美は宝石店に勤める26歳、既婚、しっかり者。光彦は大学4年生、就活中、ちょっと頼りない。小春とるりは双子の姉妹、高校3年生。小春はメイクがバッチリのギャル風、るりは真面目な優等生、放課後はお店を手伝う。凌馬はおバカで明るい高校1年生。真歩は少し醒めた小学6年生、カメラを首から下げて登校。性格付けがはっきりしている。

 それぞれの日常の小さな物語を描きながら、その背景で大きな物語が進む。「星やどり」は、亡くなった建築家の父親が、早坂家の母子に遺したお店で、「大きな物語」はその父の想いを辿る。これはこれで「いい話」なのだけれど、私は「小さな物語」の方に魅かれた。

 読み進めていくと、それぞれの性格付けには、意味があることが分かってくる。父親が亡くなった時の年齢が関係していることもあるし、何かの出来事に起因していることもある。それを知ると切なくなってくる。著者は、6人に様々な性格を便宜的に割り振っているのではなくて、その性格にはその役割があってそうしているのだ。

 役割だから演じている部分もあって、表面に見える性格とは別の内面の性格も垣間見える。例えば、おバカキャラに見える小春や凌馬は、その内面に澄んだ感性を持っている。こうした人の内面を描くことについて、主人公を入れ替えて互いの視点で互いを描くという手法が、とても冴えを見せている。

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2016年7月31日 (日)

コンセプトのつくり方

著  者:山田壮夫
出版社:朝日新聞出版
出版日:2016年3月30日 第1刷発行 5月30日 第2刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は電通のクリエーティブ・ディレクター。広告キャンペーンのほか、テレビ番組や店舗の開発から経営戦略の策定まで手掛ける。その著者がイノベーションを起こす「コンセプト」のつくり方、方法論を説く。

 「はじめに」の冒頭がいい。

 「でさぁ..それってデータで証明されているの?」誰かが現状を打破するために頑張っている時、こんな正論ばかり振りかざす「批評家」ってホント腹が立ちますよね。過去の情報をどれだけ客観的にいじくりまわしたって「その手があったか!」という突破口なんて見つかるわけもないのに、なぜかきょうも彼らは大威張りです。

 何か議論をするとき、企画を考えるときに、「データ」をベースにすることの重要性は否定しない。ただ、最近はそれが行き過ぎているように思う。データが揃っていない主張を「感情的」と言って切り捨ててしまう。上に書いた「はじめに」は、そんな風潮に対するアンチテーゼになっている。

 データをベースにした「客観的・論理的思考」は、「正解」が用意されている課題の解決にはとても有効だろう。しかし、世の中の課題にそんな「正解」があることは稀だ。そうなると、論理的にどれだけ考えても「正解」に辿り着かない。

 そこで、著者が重視するのは、主観的な経験や直感までも駆使する、いわば「身体的思考」。本書にはその方法論が書かれている。例えば「感じる」「散らかす」「発見!」「磨く」の順番を繰り返す「ぐるぐる思考」

 もちろんこれで「身体的思考」が、一朝一夕にできるようにはならない。しかし、この方法論はトレーニング法でもあって、繰り返し使っていると「身体的思考」が身につく、そんな確信めいたものを感じる。

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「コンセプトのつくり方」 固定URL | 6.経済・実用書 | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年7月28日 (木)

烏に単は似合わない

著  者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2014年6月10日 第1刷 2016年6月5日 第14刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は著者のデビュー作にして、2012年の松本清張賞受賞作。その後、年に1作のペースで続編が出て、先日、5作目となる「玉依姫」が出版された。今や「八咫烏シリーズ」という、出版界やファンタジー、ミステリーファンが注目するシリーズとなっている。

 シリーズの世界観はこんな感じ。八咫烏の一族が支配する世界。一族は族長である「金烏(きんう)」を擁する「宗家」と、東西南北に分かれた貴族の四家に分かれている。その四家は覇権を争い、宗家との結びつきを強めることによって、勢力の拡大を狙う。

 本書の舞台は、平安京に似た宮廷。皇太子の若宮の后選びが行われることになり、貴族の四家それぞれの娘が、后候補として宮廷に登殿してくる。自らの家の将来を背にした「姫たちの女の戦い」を、煌びやかに描く。

 「烏」と「煌びやか」がアンマッチな感じがするけれど、彼らは普段は「人形(ひとがた)」という人間の姿をしていて、事があれば「鳥形」となって飛翔することができる。そして姫たちは美女揃いだ(皇太子の后候補になるぐらいだから、まぁ当然だけれど)。しかも、姉御肌、妖艶、清楚、無邪気と、キャラ設定が各種取り揃えてある。

 主人公は四家の一つの「東家」の二の姫の「あせび」。疱瘡を患った姉の代わりとして宮廷に登殿してきた。代役であるため、后候補としての教育をほとんど受けていない「世間知らずの姫」。読者は彼女の目を通して物語を見ることになり、その「世間知らず」加減が読者の目線と合っていて、ちょうどいい塩梅になっている。

 源氏物語の昔から最近の韓国ドラマまで、「宮廷」は「女の戦い」にうってつけの舞台。本書もすべり出しは、四家に宗家も加わって女ばかりの諍いやら友情やらが描かれる(彼女たちが住まう「桜花宮」は男子禁制)。ただし、それだけでは終わらない。

 本書は「松本清張賞受賞作」。表紙イラストはライトノベル・ファンタジー風で、実際そのように始まるのだけれど、その実はミステリーだ。出来事の裏側には秘められた真実があり、後半にそれが明らかになる様は、探偵小説のようだった。

 「解説」に次作のことが少しだけ紹介されていた。本書だけでもなかなか面白いのだけれど、次作のことを知って俄然期待が膨らんだ。これは金鉱脈のようなシリーズを掘り当てたかもしれない。

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2016年7月24日 (日)

太陽のパスタ、豆のスープ

著  者:宮下奈都
出版社:集英社
出版日:2013年1月25日 第1刷 2016年6月6日 第9刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「羊と鋼の森」で今年の本屋大賞を受賞した著者の2010年の作品。

 主人公はあすわ(「明日羽」と書く)。ベビー服の会社に勤める30歳手前の女性。婚約者と洋食屋で食事をしている途中で、婚約解消を言い渡された。聞けば、もっと前から、新居を捜したり一緒に家具を見に行ったりしている時には、そう思っていたらしい。

 そんな失意の底にいるあすわを見て、何ごとかを察した叔母のロッカ(「六花」と書く)は、「やりたいことリスト」を作るように言う。それを、ひとつづつ自分で実現していくのだ。

 それでできたリストは「一、食べたいものを好きなだけ食べる。二、髪を切る。三、ひっこし。四、おみこし。五、たまのこし。」まぁ、投げやりでヤル気があまり感じられない。でも、このリストからあすわの回復と成長が始まる。

 冒頭の「婚約解消」を除いては劇的なことは起きない。リストに沿って、引っ越しをして髪を切って。これまでとは少しだけ違うことをした。そうしたら、家族の、友人の、同僚の、これまで知らなかった面が見えて来た。そのことが、あすわを少しだけ変えていく。そういうお話。あすわの言葉「私が選ぶもので私はつくられる」がキーワード。

 ロッカさんをはじめとして、あすわの周囲の人がいい。けっこう普段はぶっきらぼうだったり、身勝手だったりする。でも、優しさを感じさせる言葉を、さらっとあすわにかけてくれる(あまり上手に言えないお父さんはアイスをたくさん買ってくる)。

 最後に。あすわの元婚約者について。そう重要でもないだけれど、印象に残ったシーンがあるので。婚約を解消した食事からの帰りに、あすわが、どうして謝らないのかと聞く。彼は「え、謝ったじゃない」と答える。重ねて問うても「謝ったよ」と繰り返す。それも2回も。

 彼はこの前に「ほんとうに悪いとは思ってるんだ」と言っている。だから「謝った」と思っている。「謝ってるじゃん」と彼に同意する人もいると思うけれど、あすわはそう捉えなかったのだ。私はあすわに同意する。そしてこれは「よくあるスレ違い」だと思う。

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