2017年11月 5日 (日)

都市と野生の思考

著  者:鷲田清一、山極寿一
出版社:集英社インターナショナル
出版日:2017年8月12日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 京都市立芸術大学学長の鷲田清一さんと、京都大学総長の山極寿一さんの対談本。

 京都市の西と東に位置するそれぞれの大学のトップ、という現職の立場だけでなく、同年代(山極さんが2歳年下)で、京都大学の学生として過ごしたという青年時代、など、共通点の多いお二人。さらには、これまでにも多くの研究会で顔を合わせていたそうだ。

 しかし、鷲田さんは京都生まれで一旦京都を離れた人。山極さんは東京生まれで京都に来た人。もちろん専門も「哲学」と「ゴリラ研究」と、全く違う。この共通点と相違点の両方があることが、対談の話題に幅と面白さを与えている。山極さんから「ゴリラ」以外の深い話を伺うことができた。

 対談のテーマは「大学」「老いと成熟」「家と家族」「アートと言葉」「自由」「ファッション」「食」「教養」「AI時代の身体性」。このようにテーマは、とてもとても幅広いのだけれど、繰り返し言及される話題がいくつかある。一つは「多様性が安定性を担保する」ということだ。

 山極さんは、大学をジャングルに例える。ジャングルは陸上で生物の多様性が最も高い場所。その多様性が環境変化に対する安定性につながっている。大学も多彩な人材が集まって多様な研究を自由に行える場であるべき、という。多様性が安定性につながることは、もっと広く社会に対しても言える。

 また「自分の生活を自分で何とか築き上げる力」にも、繰り返し言及される。鷲田さんはこの力を「ブリコラージュ」という言葉で表現する。ありあわせのものを使って自分で何とかする、という意味の言葉。アーティストはそういうことをする、と鷲田さんは言う。ここでいう「アーティスト」の「アート」は「リベラル・アーツ」の「Arts」を含意して、「生きるための技術」を指すと考えていいだろう。

 実はこの「ブリコラージュ」という言葉は、文化人類学者のレヴィ=ストロースが、「野生の思考」という著書の中で使った言葉で、本書のタイトルは、この本のタイトルに「都市」をつけ足したもの。だから「ブリコラージュ」は本書のキーワードと言えるだろう。

 余談。帯にお二人の顔写真に重ねて「哲学者×ゴリラ」と書いてある。鷲田さんは「哲学者」だけれど、山極さんは「ゴリラ」ではない。でも違和感はない。

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2017年11月 1日 (水)

アキハバラ@DEEP

著  者:石田衣良
出版社:文藝春秋
出版日:2004年11月25日 第1刷 2006年6月15日 第7刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 友人が私のために選んでくれた本。感謝。

 著者は著名であるし多作でもあるのだけれど、これまであまり読んでいなかった。単行本では「愛がいない部屋」を初めて読んで、そのあと「親指の恋人」で、それで終わり。それから9年も経っている。私には「あまり合わない」、そう思っていた。

 主人公は、ページ、ボックス、タイコとお互いを呼び合う、秋葉原のオタク、いや「ギーク」たち。ページはライターとして、ボックスはグラフィックデザイン、タイコはデスクトップミュージックで、指名の仕事が入るほどの腕がある。ただ3人とも、ちょっとした困りごとを抱えている。ページは吃音、ボックスは強度の潔癖症・女性恐怖症、タイコは体が硬直する発作を起こすことがある。

 この3人に、天才ハッカーのイムズ、元引きこもり(今は家に帰れない「出っ放し」!?)のダルマと、紅一点の武闘派美少女のアキラを加えた6人で、「アキハバラ@DEEP」という会社を作る。物語は、彼らが開発した人工知能による検索エンジン「クルーク」を巡る攻防を描く。

 これは面白かった。前途に立ちはだかる強大な大企業に、一歩も引かない姿が危うくて痛快だった。物語終盤の予言的な言葉が本書をよく表している。「不適応者の群れが、新しい時代のチャンピオンになる。最弱の者が、次の世で最強に生まれ変わる」

 他の作品を「あまり合わない」と感じて、著者を敬遠していたのだけれど、本書はそんなことはなかった。友人が「私に合う」と思って薦めてくれたわけで、改めて感謝する。

 実は、主人公たちが開発した「クルーク」は、自己学習によってパーソナライズされ、まさにこの「私に合う」ものを(GoogleやAmazonのレコメンド機能なんかとは違う次元で)選んでくれる、良きパートナーのような検索エンジン。まぁ私には友人がいるのでいいのだけれど、ちょっと欲しい気もする。

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2017年10月29日 (日)

戦の国

著  者:冲方丁
出版社:講談社
出版日:2017年10月18日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は「決戦!」という競作のシリーズ6冊「桶狭間」「川中島」「本能寺」「関ヶ原」「関ヶ原2」「大坂城」から、著者が執筆した作品6編を取り出して、加筆修正の上、再結合したもの。信長の登場から家康の勝利まで、時代的に戦国時代をほぼカバーしている。

 収録された6編は「桶狭間」から「覇舞謡(織田信長)」、「川中島」から「五宝の矛(上杉謙信)」、「本能寺」から「純白き鬼札(明智光秀)」、「関ヶ原」から「真紅の米(小早川秀秋)」、「関ヶ原2」から「燃ゆる病葉(大谷吉継)」、「大坂城」から「黄金児(豊臣秀頼)」。( )内は主人公の名前。

 どれも戦国時代の有名な戦いで、主人公たちも信玄や秀吉、家康こそいないけれど、全員が有名な武将たち、物語の大筋はよく知られているものだ。ただし、フィクションであるので、著者は大胆な解釈を取り入れている。特に、主人公たちの内面にそれが現れる。

 例えば「覇舞謡(織田信長)」では、敵となる今川義元に深い敬意を感じていることになっている。お互いに深く理解し合っている、と思っている。だからこそ「勝つ」という苛烈極まる一念でもって攻める。義元の首に「これでようやく語り合えますな」と話しかけるのは、ここだけ取り出すと奇異に感じるけれど、物語の流れの中ではむしろ自然に感じる。

 この「敵との相互理解」は、他の物語にも継承される。そして継承されるものがもう一つある。それは、鉄砲、弓、槍、騎馬の四種からなる部隊編成による戦法だ。これは上杉謙信が村上義清の戦いぶりを聞いて編み出したもので、他の武将たちによって、戦国時代を通して洗練されていった、という解釈だ。

 戦国時代の出来事を、実際に見た人はもういないわけだし、人の心の中は覗けない。だから描き方にはかなり自由がある。それが「戦国もの」の物語が、尽きることない泉から湧くように生まれる所以なのだろう。

 その「戦国もの」の中で本書の特長は、桶狭間から大坂の陣までの「戦国時代」を、とてもコンパクトに描いたことだ。「戦の国」というタイトルを、大胆にもよくぞ付けたものだと思う。

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2017年10月25日 (水)

逆襲される文明 日本人へIV

著  者:塩野七生
出版社:文藝春秋
出版日:2017年9月20日 第1刷発行
評  価:☆☆(説明)

 著者のエッセイ集「日本人へ」シリーズの「リーダー篇」「国家と歴史篇」「危機からの脱出篇」に続く第4弾。雑誌「文藝春秋」の2013年11月〜2017年9月号までに掲載された、本書と同名のエッセイ47本を収録したもの。

 「逆襲される文明」というタイトルは、主に欧州諸国が抱える難民問題のことを指している。欧州という「文明」は人権尊重の理念を発達させてきた。それは難民にも国民にも同じ人権を保証する。ところが、例えば地中海に突き出たイタリアには、1日に千人もの難民が上陸するそうで、そんなことを言っていられなくなった。それを「逆襲」と表現しているわけだ。

 もともとが雑誌の月イチ連載のエッセイなので、様々な話題が取り上げられているが、本書に収録されたものは、これまでになく欧州の話題が多い。著者が住むイタリアのこと、EUのこと、EUのリーダー格であるドイツのこと、離脱を国民投票で決めたイギリスのこと。それだけ欧州が揺れているのだろう。

 気が付いたことが2つある。一つは、天邪鬼とは思うが、著者が書いたことではなく「書かなかったこと」。実は今回、著者としては奇妙なほど日本の政治について書いていない。この時期に「特定秘密保護法」「安保法制」「組織犯罪処罰法」が、成立しているのにも関わらず、その言及が一切ない。

 著者は安倍政権との親和性が高い。以前には、2010年の参院選の自民党の大勝を「良かった、と心の底から思った」と言っているし、本書でも最初の方で「自信を持って仕事している」と安倍首相のことを持ち上げている。だから安保法制などには賛辞を送るかと思えば、そうしない。そうしない理由を勘ぐってしまう。

 もうひとつ。著者は「軍事力」と「外交」を表裏のものとして捉え、核武装も辞さない。考え方が極めてマッチョだ。それに、カエサルに心酔していて「強い男がグイグイ引っ張っていく」式のことをよく言う。「時代錯誤なおっさんみたいだな」と以前から思っていたが、今回はそれが露骨に表れてしまった。

 例えば、待機児童問題に関して「幼稚園以前の子供を預かるのだから、保育士の資格などは不可欠ではない」「子供好きの女子学生でも、充分にできる」などと言う。福島からの避難児童へのいじめについては、その責任は「加害者児童の両親、それもとくに母親、にある」とも。

 私は、著者が描く歴史作品をほぼ全て読んでいる。そして大好きだ。その気持ちは変わらない。でも、御年80歳。年齢は理由にならないかもしれないけれど、著者の考えは時代からズレてしまっていると思う。

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2017年10月22日 (日)

AX(アックス)

著  者:伊坂幸太郎
出版社:KADOKAWA
出版日:2017年7月28日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 うれしいことに今年は伊坂幸太郎さんの新刊が3冊も出た。本書はその1冊目。

 各エピソードの初めに、主人公の名前のハンコのマーク。これで本書が「グラスホッパー」「マリアビートル」に連なる物語だと分かる。そう、殺し屋がたくさん登場する(人がたくさん死ぬ)「殺し屋業界」の物語。帯には「殺し屋シリーズ」と書いてあった。確かに3冊目もあれば「シリーズ」だ。

 主人公の名前は「兜」。もちろん「仕事」をするときの名前で、本名は「三宅」というらしい。家族は妻と高校三年生の息子がいる。殺し屋の物語に、家族とのエピソードがあるのは、ちょっと珍しいと思うが、さらに珍しいのは、「兜」が大変な恐妻家であることだ。(そういえば、必殺仕事人の中村主水も恐妻家だったか。意外とあるのかも、この設定)

 どのくらい恐妻家かと言うと、「仕事」を終えて帰って来て妻が寝ていたら、腹が減っていてもカップラーメンは食えない、ほどだ。ビニールを破る音、フタを開ける音で、妻を起こしてしまったらいけないからだ。もしそうなったら「大変なこと」になるらしい。

 まぁそんな具合で(ちょっと変わった形だけれど)「家族思いの殺し屋」である「兜」は、息子が生まれたころから「仕事を辞めたい」と思っている。簡単に抜けられる業界ではないので「上からの指示」のまま、ズルズル「仕事」を続けている。

 本書はそうして「辞めたい」と思いながら、家族のことを気にしながら、妻にビクビクしなが、それでも標的を確実に仕留める、兜の鮮やかな仕事ぶりを描く5つの物語を収録した連作集。

 やっぱり面白い。「恐妻家の殺し屋」という設定に、少し面食らったけれど、これが物語に何ともいい味を醸し出すのに役立っている。伊坂作品らしく、伏線としても最後に生きて来る。いつも通りの技ありの作品。

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2017年10月18日 (水)

新聞記者

著  者:望月衣塑子
出版社:KADOKAWA
出版日:2017年10月10日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は東京新聞の記者。彼女の名前はネットを中心にしてずい分と有名になった。通常は、新聞社の記者の名前が、そうそう人の口に上ることはない。新聞の記事に署名はついているけれど、よほど注目を集めた記事や関係者でもない限り、記者名を気にすることはあまりないからだ。

 また「望月衣塑子」という名前は覚えていない人でも、「官房長官の会見でしつこく質問を繰り返す女性記者」には、心当たりがある人が多いのではないかと思う。本書はその望月記者が自分の生い立ちも含めて、新聞記者の仕事、先輩や取材相手から教わってきたこと、などを記したもの。

 彼女は小学生のころは児童劇団、中学では芸能事務所にも所属して、演劇の道を志していたそうだ。中学2年生の時に、フォトジャーナリストの吉田ルイ子氏の「南ア・アパルトヘイト共和国」という本に出会ったことが、ジャーナリストを目指すきっかけとなった。

 そして、慶應義塾大学の法学部政治学科に進み、就職活動では新聞社や放送局を回って、最初に内定を手にした東京新聞に就職する。..と書けばあっさりしているが、大学時代のサークルやゼミ、留学先でのエピソード、就職活動で大手は軒並み落とされまくる経緯は、とても「あっさり」ではない。

 さらに、東京新聞の千葉支局に配属された駆け出し記者時代等々「なるほど、こうやってあの望月記者が出来上がったんだ」という内容だった。ただ、本書を読む人は「望月記者の人となり」だけでなく、「あの官房長官会見の周辺事情」も知りたいと思っているはずだ(少なくとも私はそうだ)。心配ない。著者はそれにもちゃんと応えている。

 安倍政権を「支持する人」と「支持しない人」との間の溝が深い。「支持しない」を「反安倍政権」と捉えるのは、根本的な誤りだけれど、その「誤り」が溝を深くしていると思う。そして、著者も「支持しない」けれど「反安倍政権」ではない。記者として当たり前のことをやっているだけだ。

 著者がジャーナリストとしてこれまでに得た情報や事実は、広く知らせる公益性があることが多い。本書を読めばそれが分かる。おそらく今後得るものもそうだろう。その「公益性」の対象には「支持する人」も入っているのだけれど、それを理解してもらうのが難しいほどに溝は深い。残念。

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2017年10月14日 (土)

機は熟せり(上)(下)

著  者:ジェフリー・アーチャー 訳:戸田裕之
出版社:新潮社
出版日:2017年1月1日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「剣より強し」に続く、超長編サーガ「クリフトン年代記」の第6部。

 このシリーズは、主人公のハリー・クリフトンの「クリフトン家」と、その妻であるエマや親友であるジャイルズが属する「バリントン家」の、「クリフトン-バリントン」一族と、それに敵対する人々、という構図を中心に物語が構成される。

 「敵対する人々」の代表格が、ヴァージニアという伯爵令嬢で、ことあるごとにハリーたちを窮地に陥れる。前作の終わりに、ヴァージニアがエマに対して名誉棄損裁判を起こし、エマの圧倒的不利な状況の中で、少しだけ含みを持たせた状態で終わっている。

 そして本書。冒頭、前作の終わりのシーンが3ページ繰り返されて始まる。裁判は、弁護士の機転によって、エマの勝利で終わるが、「クリフトン-バリントン」一族は大きな痛手を被ることになる。

 この後、相変わらず目障りなヴァージニアの言動の他、ジャイルズによる恋人の救出劇や、エマの政界への接近など、ハラハラドキドキのサスペンスが繰り広げられる。そして後半にはハリーにとっての大きな喜びに向けて盛り上がる。ほんとうに飽きない。

 このシリーズは、当初は「全五部」を予定していたものを、途中で「全七部」に構想が拡大された経緯がある。第6部の本書を読んで、さらに拡大されるのではないか?という感想を抱いた。しかし実は、第7部が既に発行されていて、出版社のサイトで「完結」が表明されている。

 あと一つか。感慨深い。

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2017年10月11日 (水)

こそあどの森の物語 はじまりの樹の神話

著  者:岡田淳
出版社:理論社
出版日:2001年4月 初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 久しぶりの児童文学。「こそあどの森の物語」というシリーズの中の1冊。シリーズは1994年の「ふしぎな木の実の料理法」から始まって、今年(2017年)2月に発行された12冊目の「水の森の秘密」で完結した。本書はその6番目の作品。

 息の長い人気シリーズだから知っている方もいると思うけれど、シリーズの説明を。舞台になるのは「こそあどの森」。「この森でもあの森でもその森でもどの森でもない森」。主人公はスキッパーという名の少年。スキッパーはバーバさんと住んでいる(バーバさんは旅に出ていてあまり家にいない)。

 他にはトワイエさん、ポットさんとトマトさんの夫婦、スミレさんとギーコさんの姉弟、ふたご(彼女たちはしゅっちゅう名前が変わる)、という風変わりな住人たちが、それぞれ風変わりな家に住んでいる。例えば、ポットさんたちは「湯わかし」の家、スミレさんたちは「ガラス瓶」の家に住んでいる。ここまではシリーズ全体の設定。

 本書では、この森にハシバミという少女がやってくる。ある夜にしゃべるキツネがスキッパーの家にやって来て「森のなかに、死にそうな子がいるんだ」と言う。それで、スキッパーとキツネで助け出したその「死にそうな子」がハシバミだ。

 ぜひ読んでもらいたいので詳しくは書かないけれど、ハシバミはずっと前の時代から来た少女で、スキッパーたちはその時代の出来事に深く関わることになる。この物語は、神話の時代と現代との間の、数千年の時間を越える壮大スケールの話なのだ。

 本書の特長はこのスケールの大きさだけではない。進歩発展してきた私たちに、少し立ち止まってこれでいいのか?と問いかけるメッセージが込められている。「依存」して生きてることについて、それに「無知」であることについて、「戦う」ということについて。

 児童文学に、圧倒されここまで深く考えさせられるとは思わなかった。実はシリーズの他の本も何冊か読んでいるのだけれど、本書は出色の作品だと思う。

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2017年10月 8日 (日)

居ごこちのよい旅

著  者:松浦弥太郎
出版社:筑摩書房
出版日:2016年4月10日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 古書販売の「バリューブックス」さんのクラウドファンディングの返礼としていただきました。感謝。返礼品は5冊の本で、いくつかある中からテーマを選べました。私が選んだテーマは「旅」。

 著者は「暮らしの手帖」の元編集長。クックパッドを経て、今は「くらしのきほん」というウェブメディアの主宰者。本書は、2005年からおよそ2年間、「暮らしの手帖」編集長の就任前後に雑誌「COYOTE」に連載した紀行エッセイをまとめたもの。副題が「地図は自分で歩いて作る」だったそうだ。

 「旅の情報をほとんど持たずにその街を訪れ、一時間も歩けばひと回りできるような狭いエリアを何日もかけて歩き」、見たこと感じたことなどを、地図に描き文章に残す。本書で著者が訪れた街は12か所。サンフランシスコ、ニューヨーク、パリ、ロンドン、バンクーバー、ハワイ島、台北、中目黒などなど。それぞれの場所の紹介が、10ページ余りの文章と著者の手書きの地図と写真でされている。

 大きな都市の名前が多いけれど、著者が訪れたのはその中の限られたエリアだ。例えばパリでは「オベルカンフ」という通りの周囲の数百メートル四方の範囲。1か所だけある日本の地名が「東京」でも「目黒区」でもなく「中目黒」。これで距離や広さの感覚を掴むとちょうどいいと思う。

 旅に出ると発見がある。自分の暮らしにはないもの。著者はニューヨークで「ハドソン川に浮かべた船からスーツ姿で出勤する人」に出会う。大きな邸宅がそのまま船になって浮かんでいたりする。初めての旅先でも、居心地のよい場所が見つかることもある。著者のように街を丹念に歩けば、たいていの場所には気持ちが落ち着くカフェが見つかるらしい。

 「世界ふれあい街歩き」という番組があった。旅先での出会いや発見に焦点を当てた構成が、私は好きだった。本書と共通する部分があると思う。もっとも、あの番組は偶然を演出しているけれど、周到な準備がされているそうだ。その準備はきっと本書のような「街歩き」によってなされていたのだろうな、と想像した。

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2017年10月 4日 (水)

木洩れ日に泳ぐ魚

著  者:恩田陸
出版社:文藝春秋
出版日:2010年11月10日 第1刷 2017年10月10日 第9刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は「蜜蜂と遠雷」で、2016年下半期の直木賞と2017年の本屋大賞を受賞した。帯に「祝本屋大賞&直木賞W受賞!」の文字が躍る。裏側には「恩田陸ミステリの隠れた傑作です!」と書いてある。2007年の作品。

 主人公はアパートの同じ部屋に暮らす一組の男女。今夜、最後の一晩をこの部屋で過ごし、明日にはめいめい別の場所へ出ていくことになっている。別れの夜というだけでも、晴れやかな雰囲気は期待できない。しかし、この物語を覆う「重苦しさと危うさ」は、もっと深く入り組んだ事情を、二人が抱えているためだ。

 男の方は「彼女があの男を殺した」と思っている。今夜中に彼女はそのことを白状するだろうか?自分はさせることができるだろうか?。女の方も「彼があの男を殺した」と思っている。今夜中に彼は自分を殺すつもりなのではないか?と疑っている。

 こんな感じで、お互いに相手を「殺人者」だと疑いながら、表面的には関係をきれいに解消するカップルを演じる。こんなヒリヒリするような心理戦を、章ごとに一人称を交互に彼と彼女に割り振って、心の中をえぐるように描くことで綴る。読者の特権で、互いの手の内が見える分、よけいにスリリングだ。

 物語で流れる時間はたった一晩で、場所はアパートの一室から出ない。本書は約300ページの長編なのだけれど、時間も場所も制限されたなかで、よくこれだけの起伏のある物語が描けるものだ。しかもちゃんと着地するし。「今さら」だけれど、著者の筆力には驚く。

 上に書いたように「深く入り組んだ事情」があり、それは何度も読者の想定を越え、時に禁忌に触れようとさえする。また「あの男を殺した」のは誰なのか?真実はどこにあるのか?「隠れた傑作」という評は当たっていた。W受賞がなければ、本書を手に取らなかっただろう。W受賞に感謝する。

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