2016年11月23日 (水)

夜行

著  者:森見登美彦
出版社:小学館
出版日:2016年10月30日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 長編の小説としては、昨年出版された「有頂天家族 二代目の帰朝」から約1年半、著者の最新作。

 主人公は大橋君。10年前の大学二回生の頃に通っていた英会話スクールの仲間たちと5人で「鞍馬の火祭」の見物に来た。実は10年前にも、この仲間たちとこの祭に来たことがある。その時、仲間の一人の女性の長谷川さんが失踪した。今回こうして皆が集まったのは、彼女に呼ばれたからかもしれない...。

 大橋君は、昼間に京都の街を歩いていて、長谷川さんにそっくりな女性を見かけた。その後を追うように入った画廊で、「夜行」というタイトルが付いた銅版画の連作と出会う。ちなみに画廊には先に入ったはずの女性はいなかった。

 物語はこの後、貴船川沿いの宿に集まった仲間たちの語りが続く。どうした因果か、全員がその「夜行」という銅版画にまつわる不思議な体験をしていた。怪談めいた話を一人ずつ語る様は、5人しかいないけれど「百物語」の様相を示す。

 「今回はこっち系だ!」と一人目の語りの途中で思い、期待が膨らんだ。著者にはエンタテイメント作品や「腐れ大学生」のグダグダな生活を書いた作品が多い。でも、本書のような「妖しさ」を描いたものに「名作」がいくつかあるのだ。「きつねのはなし」「宵山万華鏡」..。

 私は著者と同じように学生時代を京都で過ごした。京都は人口の1割が大学生だと言われる「学生の街」。そこには多少汗臭い活気がある。しかし、1200年の「歴史の街」でもある。小路の向こうの暗がりに異界を感じることが何度かあった。著者の作品の多面性は、京都の街の多面性を映しているのかもしれない、と常々思っている。

 コンプリート継続中!(単行本として出版された作品)
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2016年11月20日 (日)

ジェリーフィッシュは凍らない

著  者:市川憂人
出版社:東京創元社
出版日:2016年10月14日 初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今年3月に発表された第26回鮎川哲也賞受賞作品。この賞は公募の新人文学賞で、私が好きな加納朋子さん近藤史恵さんは、この賞の初期のころに受賞してデビューを果たされた。

 物語の舞台は1983年のU国。米国のことだと強く示唆されているけれど、敢えてのイニシャルトーク。それはこの物語が、私たちの世界とは「少しだけ違う世界での出来事」だということを表しているのだと思う。

 事件はかつて「航空機の歴史を変えた」と言われた「真空の気嚢を持った飛行船」の航行試験で起きる。(この飛行船が「くらげ」のように見えるので「ジェリーフィッシュ」と名付けられている)山中に墜落したとみられるジェリーフィッシュの乗員の全員が死亡。それだけなら「事故」なのだけれど、なんと全員が他殺体で発見される。

 状況から「同士討ち」のセンもない。現場は深い山の中で当時は雪嵐だった。犯人が別にいるはずで、そいつはどこから来てどこへ消えたのか?というミステリーだ。本書の紹介に「21世紀の「そして誰もいなくなった」登場!」とあるが、まぁ上手いこと言ったと思う。

 物語は、今まさに事件が起きているジェリーフィッシュの中と、それから数日後に事件を捜査する刑事たちと、最初はどういう関係があるのか分からない「誰かの回想」の3つが並行して語られる。この構成が緊迫感を生み出すことに成功している。

 叙述トリックの部類に入ると思うが、なかなか精緻にできている。ただ、読んでいて微かな違和感を感じる部分があっった。すべてが明かされた後になって思えば、それは「正しい違和感」だったことが分かった。種明かしの後で「やっぱりあれが..」なんて言っても詮無いことだけれど。

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2016年11月17日 (木)

コンビニ人間

著  者:村田沙耶香
出版社:文藝春秋
出版日:2016年7月30日 第1刷 8月15日 第4刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 2016年上半期の(つまり直近の)芥川賞受賞作。私は直木賞の方が相性がいいらしくて、芥川賞の受賞作品はそんなに好んで読んでないのだけれど、本書はちょっと面白そうだったので読んでみた。

 主人公は古倉恵子、36歳。コンビニでバイトをしている。コンビニのバイトは大学1年生の時からずっとしている。だから今年で18年目になる。ついでに言うと、今のお店「スマイルマート日色駅前店」がオープンした時から、ずぅ~っとここでバイトとして働いている。

 古倉さんは幼い頃、少し奇妙がられる子供だった。公園で死んでいた小鳥を、「これ、食べよう」と言ってお母さんを慌てさせた。焼き鳥や唐揚げはいいのに、小鳥は「食べよう」なんて言っちゃ変に思われる、ということが、幼い古倉さんには分からなかった。今は分かっている、でもたぶんその理由は今も分かっていない。

 古倉さんは「自然と身につける」ことができないらしい。でも、教えられるとそれがすぐに身につく。コンビニは、何をどうすればいいか細々とマニュアルに定められている。だから古倉さんは、コンビニ店員でいる限りは、変に思われないで済むのだ。

 読んでいて少し居心地が悪い。少~しだけ気持ち悪い。その理由の1つは、私たちの「普通」が古倉さんにはないから。「普通」を共有できないと「異物」と感じてしまう。さらにはその「普通」の根拠が思ったより曖昧なことに気が付いて、さらに居心地の悪さを感じる。

 言葉で表すのが難しい、手が届きそうで届かない、私たちの「普通に潜む何か」、を示しかけている。そんな物語だった。

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バンビと小鳥

作  者:樋上公実子 
出版社:ポプラ社
出版日:2016年11月 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

  帯には「見る人の心をたちまち幻想の世界へといざなう 樋上公実子、はじめての自作絵本」とある。作者の樋上さんはこれまで絵本、書籍の装画、パッケージデザインなどを幅広く手掛けてこられたが、物語の文章もご自分で書かれた作品は本書が初めて。

 主人公はバンビと呼ばれている少女。いつも美しい鹿皮のスカートをはいていたから、そう呼ばれている。そのスカートは、バンビにぴったりで「どこからがスカートで、どこまでが自分なのか、わからないぐらい」だった。

 不思議なことにそのスカートをはくたびに、どこか遠くから、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえるような気がした。ある日、庭に来た小鳥に誘われて出かけて行くと...というお話。

 お話も絵も、私はこういうのは好きな方だ。作者の絵については、プロフィールで「幻想的で優美な独自の世界」と紹介されている。私は「おとぎ話の忘れ物」や「柘榴姫社交倶楽部」などの絵では、もう少し「妖しい」感じを受けた。辞書をひいてやっと見つけたちょうどいい言葉は「蠱惑的」。

 本書の絵は「妖しい」が抑え気味で、プロフィール通りの「幻想的で優美」な感じがする。もちろん「妖しい」も作者の絵の魅力だけれど、ドキドキしてしまうので、私としてはこのぐらいが安心して見ていられる。

 お話については..。これだけ短くてシンプルな物語の中に、わくわくする気持ちと不思議さと哀しみと切なさと..家族の暖かみまで。ずいぶんたくさん楽しませてもらった。

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2016年11月13日 (日)

君の名は。Another Side:Earthbound

著  者:加納新太 原作:新海誠
出版社:KADOKAWA
出版日:2016年8月1日 初版 2016年10月10日 7刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 大ヒット映画の「君の名は。」には、3つの作品がある。映画と、新海監督が書き下ろした原作の「小説 君の名は。」と、そして本書。映画を観て本書を読んだ人が口をそろえて言う「この本は読んだ方がいい」あるいは「読むべきだ」と。そう言われて読まない選択はないと思う。

 最初に言うと、本書は映画か小説かの、少なくともどちらかを読んだ人向けの作品だ。だから、ここでも登場人物やストーリーの紹介はしない。そういうことは既に知っている、という人でないと本書を読んでも分からない。

 映画と小説の違いは、小説が一人称で語られることで、映画では想像するしかなかった、主人公の三葉と瀧の心情が言葉で表されていることだ。ストーリーやエピソードに違いはない。本書は章ごとに(本書では第一話、第二話..となっている)、瀧、テッシー、四葉、三葉と四葉の父の俊樹、と主人公が変わる。そこには映画にも小説にもないエピソードが綴られている。

 読み終わって「これはやられたな」と思った。著者のというのか、映画のマーケティングのというのか、とにかく制作側の術中にはまってしまった。清々しいぐらいに。..皮肉な言い方になってしまったけれど、素直に言えば「とてもよかった」ということだ。

 第一話、第二話までは、「映画と同じストーリーを別の視点で」という、言ってしまえばそれだけなので、気軽に読んでいた。ところが、第三話の四葉の物語で趣が変わって、読者はちょっと遠いところに連れていかれる。

 そしておそらく本書のキモとなるのは、第四話の俊樹の物語。映画でも小説でも、その心情があまり描かれることなく、ネガティブな印象が残った俊樹、それ以上に描かれなかった、三葉と四葉の母の二葉のことが描かれる。私自身と一番近いのは俊樹だと気が付いた。

 私も「映画を観て本書を読んだ人」として、他の人たちの仲間入りをする。映画を観た人は、この本は読んだ方がいい。絶対。

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2016年11月 9日 (水)

スタンフォードの自分を変える教室

著  者:ケリー・マクゴニガル 訳:神崎朗子
出版社:大和書房
出版日:2012年10月31日 第1刷 2014年4月15日 第23刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2013年ビジネス部門年間ベストセラー第1位(日販/トーハン)など、その年のビジネス書のベストを総ナメにした感のある人気書籍。

 本書は、著者がスタンフォード大学で開講している公開講座「意志力の科学」を、書籍として再現したものだ。それは、大学の一番大きな講堂を受講生で埋め尽くすほどの人気講座だ。この講座では「意志力」を「注意力や感情や欲望をコントロールする能力」と定義している。

 できるだけ講座を再現する意図もあって、本書は、講座の回数と同じように10章からなり、講座と同じように、各章の最後に「意志力の実験」と称して、家でやってくる課題が書かれている。読者は、1週間に1章づつ読み進めて、その間に課題をこなしていけば、「注意力や感情や欲望をコントロール」できるようになるという寸法だ。

 ためになった。講座の修了生のように「人生を変える授業だった」とまでは思わなかったけれど、少し「意志力」が上がったと思う。

 本書の特長を一つ挙げると、「精神論」を極力排して、科学的知見を基に議論を進めたことだ。精神論で闇雲に頑張っても上手くいかないのは当然だ。それどころか、従来の常識を覆すようなことがたくさん分かった。例えば「意志力を強くするためには、もっと自分に厳しくする必要がある」というもの。これは数々の実験で、間違いであることが明らかになっているそうだ。

 それから「なるほど」と思ったのは「瞑想」。前頭前皮質という脳の意志力に関わる部分への血流を増す、という効果があるそうだ。ただし簡単にはできない。すぐ何かが頭に浮かんでしまって「これじゃダメだ」と打ち消して..となってしまう。でも、それでいいそうだ。目標から逸れた自分を引き戻す、との行い自体が、集中力を付けるトレーニングになるそうだ。

 最後にひとつ、5分でできる課題を。「これから5分間シロクマのことを考えないように集中してください」。

 すみません。実はこれは意地悪な課題です。ほとんどの人は、こう言われたらシロクマのことを考えずにはいられないそうです。

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2016年11月 6日 (日)

RDG レッドデータガール はじめてのお使い

著  者:荻原規子
出版社:角川書店
出版日:2008年7月5日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 もうかなり前に、本好きの知人から薦められていたのだけれど、「全6巻」ということに、ちょっと躊躇を感じて尻込みしていたら、読まずに随分経ってしまった。

 主人公は鈴原泉水子(いずみこ)。第一巻の本書では中学3年生。世界遺産に認定された熊野古道に接する神社「玉倉神社」の宮司の孫でその境内に住んでいる。神社と学校の往復以外寄り道ひとつしたことがない。用事があって遠出する時は、自家用ヘリ(!!)で出かける。いわば「お嬢様」で絶滅危惧種の少女(Red Data Girl)というわけだ。

 第一巻なので、登場人物と設定の紹介を兼ねて物語が進む。泉水子の家系を守る使命を持った、山伏の家系の相楽雪政と深行(みゆき)の父子や、同級生らが物語に絡んでくる。今回の最大のヤマ場は、泉水子の修学旅行。何と言ったって寄り道ひとつしたことがない泉水子が、遠路はるばる東京へ旅行するのだ。

 面白かった。上の説明と「はじめてのお使い」というサブタイトルからは、ボーイミーツガール(ガールミーツボーイか?)系の学園ドラマが想像される。それは間違いではないのだけれど、それだけではない。

 そもそも「それを守る使命を持った山伏の家系」なんてものが存在するのだから、言い換えればとても危険なのだ。泉水子の家系というのは。徐々に明らかにされるのだけれど、古来からの神憑りの血族らしい。だからオカルトの要素にも満ちている。

 こういうの好きだ。もっと早く読んでいれば良かった。そう言えば、上橋菜穂子さんも本書のことを好きだと、どこかでおっしゃっていたように思う。

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2016年11月 3日 (木)

不思議な羅針盤

著  者:梨木香歩
出版社:新潮社
出版日:2015年10月1日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 梨木香歩さんのエッセイ集。「あとがき」によると、2007年から2009年に雑誌「ミセス」に連載されたもの。それを2010年に単行本としてまとめ、さらに2015年に文庫化した。全部で28編を収録。

 日々の暮らしの中で目にしたこと、旅先で出会った物事、十年以上前の出来事、さらに遡って子どものころの話等々、テーマを特に設定せずに様々なことが、落ち着いた筆致で綴られる。テーマはない中で一つ全体の特長を挙げると、著者の作品の読者なら馴染みのことだけれど、動植物、特に植物の話題がとても多くて、とても細やかだということだ。

 例えばこんな感じ。「貝母という花には複雑な思いがある。一本であるときは真っ直ぐに誰にも何にも依りかからず生きているのだが、これが数本まとめて花瓶に挿そうものなら、みるみるうちにその巻きひげのような葉っぱがお互いに絡み合ってまつわり合って簡単には離せなくなる。

 貝母は別名をアミガサユリといい、取り立てて珍しい花ではないようだけれど、私はその名前を知らなかった。著者は、露地に咲くその花を見つけて、両手のひらで包むようにして「ようこそようこそ、永らえて、まあ」と話しかけた。こういう感性の持ち主なのだ。身の回りの小さなことを、ちゃんと受け取ることができる。

 さらに「絡み合って依存し合うのは莢が重いから」という説を引いて、「自分で何とかまかなえるだけの暮らしをすればいい話ではないか」と言う。これが「サスティナビリティ(持続可能性)」の話につながっていく。本書の特長をもう一つ挙げると、1つのエッセイの中に、こんな風にいくつかの話題があって、それが繋がって最初の話題に戻って円を成していることだ。読んでいてとても気持ちがいい。

 最後に。本書には著者の憂いも感じる。例えばこんな一文に。「たとえば国のリーダーが、どう考えてもばかばかしい政策を掲げたときにはどうしよう。従うのか、意見するのか、見限るのか。(中略)もっと他に何かあるだろうか」。念のため言うと、これは今のことを言っているのではない。このエッセイが始まったのは2007年で10年近くも前だ。..今と同じ人が首相だったけれど。

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2016年10月30日 (日)

オーダーメイド殺人クラブ

著  者:辻村深月
出版社:集英社
出版日:2015年5月25日 第1刷 2016年6月6日 第5刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は短編集「「鍵のない夢を見る」で2012年上半期の直木賞を受賞、本書はその同時期に書かれた長編。

 主人公は小林アン。中学校二年生の女子生徒。美人の母親ゆずりの顔立ちで、バスケット部に所属して、少し前までは彼氏もいて..と、クラスのヒエラルキー上位の「リア充」女子。

 アンは「リア充」だけど「中二病」でもある。本人に自覚があるのが救いだけれど、相当に重症であることは疑いがない。「これから、何かを(それが何かはまだわからないけど)成し遂げる私。人と違う、私」なんてことを思っている。だから「美人なだけ」の母親のことははっきりと、「平凡な」友達のこともは心の隅で見下している。

 もちろんそんなことは表に出さない。女子中学生が上手くやっていくための術は心得ている(その割には冒頭から友達に無視されているけど)。そしてアンには、もう一つ表に出さないことがある。「死」への興味がそれだ。物語は、このことが基になって抜き差しならないところまで転がって行く。

 読んでいて痛々しい気持ちがした。「女子中学生は大変だな」と思った。仲がいい友達とちょっとしたことで決裂し、どうしてそうなるのかクラスの女子全員を敵にしてしまう。「自分は特別」という抜きがたい思いが、破滅に向かわせる。

 私は子どもがつらい目に会う話は苦手で、この物語も私までつらくなった。それにも関わらず、ほとんど休まずに読み切ってしまった。その理由は簡単には言えないけれど「結末を知らないままではいられない」という表現が一番ぴったりくる。もちろん、物語の運びが上手いということもあるけれど。

 最後に。アンが持つ「死」への興味は、親なら誰でも心配でたまらない類のものだし、人によっては嫌悪感を催すかもしれない。ちょっと距離を空けて読まないと危険。くれぐれも近づきすぎないようにご注意を。

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2016年10月26日 (水)

大人の経済常識

著  者:トキオ・ナレッジ
出版社:宝島社
出版日:2015年10月24日 第1刷 2016年2月29日 第2刷発行
評  価:☆☆(説明)

 行動経済学を中心として、経済学の用語を多数、身近な例を使って紹介した本。「予想どおりに不合理」「経済は感情で動く はじめての行動経済学」と同じジャンル。

 伝統的な経済学は「人は常に合理的な行動をする」ことを前提にしている。それに対して行動経済学は「合理的な行動をしない」生身の人間の行動を研究対象にしている、比較的新しい(ここ20年ぐらい)学術分野だ。「人間の不合理な行動」の例が豊富だから「あるある感」があって、小ネタに重宝する。

 本書もその「重宝さ」を狙ったものだ。様々な例を、キーワードとして関係のある理論の名称とともに、短く2~4ページでまとめている。プロスペクト理論、ハロー効果、フレーミング効果、アンカリング効果、サンクコスト..。「誰かに話したくなる」ネタがたくさん身につく。

 それから「限定」とか「○○も認めた!」とかの広告に弱い人や、なぜか無駄なものを買ってしまう人がいたら、読んだらいいかもしれない。「これ、私のことだ!」という例を見つけて、お店にカモられていたことに気付くかもしれない。

 ちょっと気になったこともある。説明が不正確だったり、的外れだったりすると感じる部分がいくつかあった。例えば「フレーミング効果の好例」として、食品メーカーのキャッチコピーが挙げられていたけれど、例として適切ではない、もっと言えばほぼ関係ないと思う。もちろん私は、この分野の専門家ではないので判定はできないし、異論もあると思うけれど。

 それでさらに、著者はどんな人なのか気になった。プロフィールを見ると「...雑談ユニット。弁護士、放送作家、大手メーカー工場長...で構成される」ここに書かれている限りでは、行動経済学の専門家はいないらしい。そういうことか。ネタを仕入れたいだけの人はいいけれど、しっかり勉強したい人は違う本を選んだ方がいいと思う。

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